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韓国インチョン市立合唱団 日本公演 [ワールドミュージック]

2007年4月7日(土) 東京オペラシティ コンサートホール 14:00開演

【指 揮】
ユン・ハクウォン

【出 演】
インチョン市立合唱団  ファン・ソウン/チェ・ジヒョン(伴奏)

【曲 目】
・パク・ジフン:ミサ・ブレヴィス 「キリエ/グローリア/サンクトゥス/アニュス・デイ」
・J.S.バッハ:モテット「主に向かって新しき歌をうたえ」BWV225
・日本のメロディー:ホームソングメドレー
 花~荒城の月~浜辺の歌/ずいずいずっころばし/さくら

***

・ウ・ヒョウォン:空間音楽「メナリ」
・ウ・ヒョウォン:ハレルヤ
・韓国民謡(編曲:キム・ヒジョ/振付:ク・キョンスク)
 農夫歌/漢江水打令/ハン五百年/麦打作

【アンコール】 
・ナムルを採る娘
・○△□(まるさんかくしかく)のうた
・アリラン

 韓国には、「宣明会児童合唱団」という、世界的に有名な合唱団があります。アマチュア合唱団にとっては最難関の大会とされる「世界アマチュア合唱コンクール」で1986年にグランプリを受賞した児童合唱団で、現在も世界各地でその歌声を披露しています。この宣明会児童合唱団を世界トップレベルの実力に押し上げたのが、韓国の指揮者ユン・ハクウォン氏。韓国合唱界の実力を世界に知らしめた人物として、知る人ぞ知る重鎮です。

そのユン氏が現在、芸術監督と指揮を務めているのがインチョン(仁川)市立合唱団です。この団体は1995年からユン氏の指導による活動をスタートさせました。以後、ニューヨーク・カーネギーホールなど欧米各地でコンサートを開催し、数々の賞賛を受けてきました。今回は、ユン氏自らが率いて初めての日本公演。合唱団のステージを鑑賞するのは初めてでしたので、ワクワクしながら聴いてまいりました。

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では早速、感想を…。

一緒に鑑賞した友人が終演後、放心状態で「昇天した…」と、ひと言(笑)。あられもない感想ですが、冗談ではなさそうで、席を立っても腰に力が入らずヨロヨロしていたので、初台の駅でしばらく休憩させました。文字通り、腰砕け(笑)。

しかし、この感想はある意味で的確です。すごい迫力で、言葉では言い尽くせない感動がありました。

加えて、この合唱団のステージを、「東京オペラシティ コンサートホール」で聴くことができた、ということに感謝したいと思いました。今回の感動の一部は、オペラシティの建築構造もひと役買っていると思います。

職業柄、こういう音楽会や演奏会を鑑賞する時は、仕事につながる様々なことを思い描きながら席についている事が多いのですが、ホールにのびやかな歌声が響きわたった瞬間、そういった雑念や邪念がかき消されて、ひたすら食い入るようにステージを見つめ、耳の感覚を研ぎ澄まそうとしている自分がいました。

身体の感覚、心の感覚が「無」に帰っていく、そういう感覚をステージから受けることは、ごくまれです。友人ではありませんが、自分の心が浄化されたような、頭の中が真っ白になってしまうような瞬間が、何度かありました。「惹き込まれる」というのは、こういうことを言うんだなぁ、としみじみ思いました。

「市立合唱団」とは言え、専属の指揮者や作曲家を擁し、国際大会や海外公演の豊富な団体ですから、その完成度はプロも真っ青です。鍛え抜かれた重唱がふくよかにホールを包み込んだかと思うと、そのゆったりとした波を切りさくように真っ直ぐな高音が響き、そして深い海の底へと誘われていくような低音の感覚を受け…、本当に多彩な表現力を持つ合唱団でした。

曲のレパートリーは、バッハに加えて、韓国の合唱作曲家による作品が登場。古典だけにとらわれず、自国の現代作曲家による作品を発表するというのも、その国の音楽文化を育てていく上で重要なことですよね。また日本の歌曲や韓国の民謡も披露されました。特に第2部ラストの「韓国民謡」では、韓国の音楽文化には欠かせない純朴な農楽の様子も表現され、その上に扇の舞も加わり、合唱だけに終わらない躍動感あふれる華やかなステージに仕上がっています。

今回、非常に印象に残ったのは、幕開きに歌われた「ミサ・プレヴィス」と第2部冒頭の「空間音楽:メナリ」

まずは「ミサ・プレヴィス」

演奏中、舞台を暗転して蛍火をイメージさせる照明を用いることから「蛍火ミサ」とも呼ばれているこの曲は、韓国の女流作曲家、ウ・ヒョウォンによる作品です。この後演奏された晴れやかなバッハの曲に比べると、もの悲しさが漂う作品なのですが、どこかひそかに光明を感じさせる部分もあり、作曲家の信仰観を垣間見ることができます。

さて、今回、初めて午後の明るい時間帯に東京オペラシティを訪れて、発見がありました。オペラシティコンサートホールは、天井が切妻(本を開いて伏せたような、2枚の屋根が山の型に合わさった形)を形成しています。そして、いわゆる屋根裏の部分にあたるステージ真上の天頂には三角形の天窓が取り付けてあり、その上を同じく三角形の天幕が覆っています。つまり、天窓から自然採光を取り入れつつも、過度に陽光が差し込まないように天幕が覆うようにして張られてあります。その隙間からもれるわずかな光は分散して客席の上へと落ちてきます。この光が、何とも言えずひそやかに淡く、まるで月光を思わせるほの明るさなのです。

↑参考画像 :2006年3月25日 狂言風オペラ『フィガロの結婚』より。三角形の頂点の部分が天窓になっていて、天幕で覆われています。

「キリエ」のラスト。歌声が消えていくのと同時に、スーッと照明も落ちていき、場内は真っ暗になりました。と、思った次の瞬間、天幕の隙間からわずかにこぼれ落ちた光が、ぼんやりと客席を浮かび上がらせました。その静謐な光と柔らかくかき消えていく歌声とがフィットしていて、とても幻想的で、神秘的で…。こういう効果は他のホールでは体験したことがなかったので、本当に感動しました。うーん…うまく表現できない…。言葉で伝えることのなんという難しさよ…。

劇場って、積み重なってきた歴史とか立地条件や音響効果など、それぞれにいろいろな特徴があるんですよね。それは人間で言うところの「性格」や「実力」「能力」に似ています。今回の現象は、劇場の持つ「実力」と、そこでパフォーマンスを行う人間の「実力」が最高の形でジャストミートした瞬間だったのではないでしょうか。

つづいて、第2幕冒頭の「空間音楽:メナリ」。友人は、「メナリ」を聴いて号泣したと言っていましたが、その気持ち、なんだか分かるような気がします。

曲のタイトル通り、劇場の空間すべてが「声」 という音楽に満たされたような感動を受けました。もともと韓国に伝わる「山岳の歌(メアリ)」をイメージしたそうで、「山鳴り」を表現する音も入っています。ステージには勿論、客席最後列の上手・下手にも韓国の民族衣装チマ・チョゴリに身を包んだ団員がズラリと並びます。ここから、まさに山鳴りをイメージするような歌のかけ合いが連続していきます。

この曲で、ソプラノのソロパートを担当したベク・ヘスクさんは、まさに圧巻!!のひと言です。こんなに素晴らしい歌い手さんに出逢えた事に、心から感謝したい気分です。

彼女は客席後方から登場します。美声を響かせてゆっくりと客席通路に沿って歩き、ステージへと昇っていくのですが、この歌声が、「完璧」。甘美な柔らかさと突き抜けるような鋭さを合わせ持つ高音が、劇場の空気を、そして聴衆の心を揺さぶり、震わせます。彼女が歌っている間、まるで客席の時間が止まったかのような錯覚を受けました。その場にいる聴衆全員が呼吸を忘れたかのように息を詰めて身じろぎもせず、ただひたすらに彼女の声だけを追い求め、心の中に彼女の歌声を刻みつけようとしているのが空気を通じて伝わってきました。

観客と出演者、そして劇場の空気までが一体化してしまう。そういう瞬間を感じられる場に居合わせるという事は、舞台を愛する者にとっては本当に幸福な事です。

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いやぁ~、こういう本当に感動的な舞台に出逢うたびに、自分の貧相な表現力や浅はかな文章力に落ち込みます…。でも、こういった時間が過ぎれば消えてしまう舞台芸術だからこそ、言葉で、文字で表現していかなくては伝わらないのですよね。

私も、もっともっと皆さんの心を惹きつけてやまないようなカンゲキレポを書いていこう!!と、感動とともに新たな決意もした、春の日の午後でした。幸福と感動でみたされた時間を与えてくれた素晴らしい出演者たちに、心から拍手を贈りました。

まさしく、至福のひとときでした。

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室井黒船堂

今夜、正確な日付では昨夜、ミューザ川崎でインチョン合唱団を聴いてきました。本音ではあまり期待していませんでした。前半は、まあ上手な合唱、くらいに思っていたのですが,二部からはまさに圧巻! 「空間音楽」の世界はミューザ川崎ならでは、と思いますよ。で、最高なのは韓国民謡の数々、コーラス(当たり前)をふまえて、群舞・アリア(あ、ソロです)あり、伝統舞踊あり、オペラを観ているよう。サムスルノリ(でしたっけ?)のような太鼓の響き。いやあ満喫。アンコールラストの「アリラン」ではなぜか知らないうちに涙が……。韓流ドラマも見たくないし、隣国に対していわれのない偏見を抱いていた(どこかの都知事とは別の意味での)私にとって感動のひと時でした!
by 室井黒船堂 (2007-04-10 01:30) 

★とろりん★

室井黒船堂さま
はじめまして、ようこそお越しくださいました。室井黒船堂さまはミューザ川崎でお聴きになったのですね。ミューザ川崎も「力」を発揮したようで、とても素敵な会になったことが、室井黒船堂さまからのコメントからも伝わってきて、また感動がよみがえってきました。私も同様、友人に誘われたし、まぁ行ってみようかな…くらいの軽い気持ちで行ったのですが、ホールを出る時には「ミューザにも行きたい!」とまで思っていました(仕事のため、残念ながら無理でしたが…)。素晴らしい!!と心から思えるものに、国境はありませんね。よろしければまたお立ち寄りくださいませ。
by ★とろりん★ (2007-04-10 10:45) 

ラブ

圧巻ですか…。
韓国の方って、声量ありますよね。私も、聞いてみたいなぁ…と言いながら、芸術鑑賞はなかなか。また宝塚、はずれましたし…涙。
by ラブ (2007-04-10 17:10) 

★とろりん★

ラブさま
いや~、本当に豊かな声量でしたね。機会があればぜひ行ってみてくださいね。韓国に行くことがあれば、飛行機はインチョン(仁川)国際空港を経由するはずですので、ぜひ…(笑)。宝塚、なかなか当たりませんねぇ…。やはり当日券並びでしょうか(執拗に当日並びを薦めるワタシ>笑)
by ★とろりん★ (2007-04-10 17:28) 

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