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南部峯希 『花ぞしるべなる~伝統文化を子どもたちへ~』 [Books]

花ぞしるべなる.jpg

一般書店では取り扱っていないらしいのですが、とても心に浸みる素晴らしい本です。

本のタイトルは、能『鞍馬天狗』の詞章の一節。「この深い山中では花こそが道しるべであるよ」という意味があるそうです。(本書もくじより)

約30年以上にわたって「能楽教室」「子どものための日本文化教室」を主催し、能楽を通じた伝統文化を子どもたちに伝える活動を続け、平成18年に卵巣癌によってこの世を去った伝統芸術振興会設立者、南部峯希(なんぶみき)さんが生前に遺した原稿を再構成して出版された本です。

「とろりんさんのお仕事の参考になるかも知れないから・・・」といただき、読み始めたのですが、この本はむしろ、小さい子どもをもつ全てのお母さんに、ぜひとも読んで欲しいと思いました。

前半は南部さんの半生がまとめられ、後半では南部さんがその生涯を賭けた「日本文化教室」の内容やエピソードを、実際に講師を勤められた伝統芸能の職人や専門家が語っています。

とても感銘を受けたのは、南部さん自身の成長の過程が綴られた前半。主に母親と祖母が自分に為してくれたことについて語られているのですが、それが、今の教育の問題点や課題へ直結しているように思えるのです。

近年、教室に来る子どもたちを見ていて感じるのは、子どもの育て方に自信を持てない母親が増えているのではないかということです。どのお母さんも教育に熱心で、子どもの将来についても高い理想を持っています。しかし、実際には学校だのみ、塾だのみで、いい学校に子どもを入れるために連れ回すだけ、自分できちんと育てようという努力の足りない母親が増えているように思えます。
(はじめに)


伝統文化を子どもたちへ伝えたい、という思いで活動を始めた著者。しかし、本を読み進めていくと、「伝統文化」というのは古典芸能だけではなく、かつての日本人が当たり前にそなえていて、そして実践していた「毎日の教え」の中にも息づいてきたのだという事に気付かされます。

自身の子ども時代の思い出や母親・祖母との
エピソードを織り交ぜながら書かれている事は、人として当たり前だと、基本的だと感じること。

「なんでもありがたいという気持ちをもつこと」
「あいさつはきちんと」
「他者との関わりの中で辛抱を覚えていく」
「相手への思いやり、礼節をもつこと
」・・・・・・。

これらのことは、学校に上がる前に、家庭で親が子どもたちに伝えていくものだと著者は言います。

・「学校に入る前に、他人の手に委ねる前に、人間として生きていくための基本的なことを身につけてあげられるのは、子どものいちばん近くにいる人しかいません。
(第5章「子どもの育て方に自信を持てない母親たち」)


・幼稚園や学校で、何でも教えてくれると思い込んでいるお母さんが多いようです。(中略)しかし親がいちばんやらなくてはいけないのは、子どもの一生が幸せであるように、「自分の手で子どもに伝える」ことだと思います。
(第5章「自分の手で育てて欲しい」)

・読み聞かせというのがいまははやっていますが、本の読み聞かせはお母さん以外でもできます。けれども、言い聞かせは親にしかできません。子どもの幸せを、いちばん願っているのは親だからです。
(同上)


現代はインターネットやマスメディアの普及で情報があふれすぎていて、逆に何を信じたら良いのか判断に迷うことが多いのかもしれません。その結果、自分の行為が正しいのかどうか、自信が持てないお母さんたちが増えているのかもしれませんね。

後半の能楽教室や日本文化教室のレポートでは、いかに講師と子どもたちが真剣勝負で古典芸術に向き合うのか、そのための南部さんのこだわり、準備がどれだけ周到なものであるかが伝わってきます。

能楽堂で子どもたちに能を鑑賞してもらう「能楽教室」では、保護者が同席することなく、子どもが一人で能を鑑賞。そのために、事前に行われる学習では、能楽への興味や好奇心をふくらませる説明だけではなく、能楽堂でのマナーなどもきちんと教えているのだそうです。

伝統に触れるのは、あらゆる感覚の成長期にあたる幼児のうちから始めるのはいちばんです。小さな時に本物の芸術に触れた記憶は、大人になってもどこかに残っているはずです。理解できるかできないかは問題ではありません。
(第6章「伝統の文化を教えるということ」)


子どもと「一人前の人間」として向き合うこと。『狂言を継ぐ 山本東次郎家の教え』でも感じましたが、伝統の世界ではこの意識が当たり前のものとして一貫して存在していて、だからこそ崩れず、あるべき姿で現代に伝わってきているのだと実感しました。


未来の宝である子どもたちに、日本人として、何を、どう伝えていくのか…すべての大人に読んでほしい一冊です。

この本は、(財)伝統芸術振興会のみの取扱いです。興味のある方は、ぜひコチラから。
伝統芸術振興会ホームページ


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