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有川浩 『海の底』 [Books]

海の底 (角川文庫)

海の底 (角川文庫)

  • 作者: 有川 浩
  • 出版社/メーカー: 角川グループパブリッシング
  • 発売日: 2009/04/25
  • メディア: 文庫
航空自衛隊の美しく負けず嫌いの女性パイロットが登場する『空の中』(記事はコチラ)に続いて読んだのは、海上自衛隊の若き幹部候補コンビが活躍する『海の底』。

こちらも、一気に読み切ってしまいました。



うららかな春の日、桜祭りでにぎわう米軍横須賀基地。ところが突然、一帯は悲鳴と混乱の極致に陥ります。突然、海中から人間よりも遥かに大きな巨大甲殻類(ザリガニ系)の大群が上陸し、人々を捕食しはじめたのです。基地内の湾に停泊中の潜水艦「きりしお」に乗艦していた冬原と夏木は惨事に巻き込まれた子どもたち13名を救出し、「きりしお」艦内に立てこもります―。



・・・怖い、怖すぎる・・・(涙目)。でも、読み物としてはとても面白いです。

自衛隊や国防関係で働く人々やその周囲の恋模様を描いた『クジラの彼』を読み終えた後、「自衛隊三部作」も俄然読みたくなりました。

で、本屋さんで『海の底』と『空の中』を見つけて、どちらを買おうかと最初にパラパラと『海の底』を読んだ後、「こ、これ、無理っす…」と戻して『空の中』を選んだのでした(苦笑)。でも『空の中』を読んだら、やっぱり『海の底』も読みたくなってしまったという…(術中にハマりやすい)。

だってだって、ただでさえ設定が恐ろしすぎるじゃありませんか!最大3メートルにもなろうかという巨大ザリガニが湾内も横須賀沿岸も真っ赤に染めるほどの勢いで襲来して、ヒトを、人間を生きたまま捕まえては「食べる」んですよ。ものすごい恐怖です。

けれど、この小説の本質はそこにあるんではなく、その非常事態に関わることにならざらるをえなくなった人々の心情を丁寧に書き込んだところにあります。

巨大ザリガニが取り囲む潜水艦という極限の事態に追い込まれた大人と子ども、そして子ども同士のぶつかり合い、警察庁と防衛省の上層部内での駆け引き(そこには、防衛省と在日米軍の攻防も潜んでいます)、状況を打破するために現場を指揮する現地対策本部、おびただしい数の巨大ザリガニと壮絶な戦いを強いられる現地機動隊、その任務を見守ることしかできない自衛隊員…「未曾有の危機」を核として、様々な人間が様々な立場から立ち向かう様子にあります。

特に、「自衛隊を出動させる」という目的のために、警察庁が決定した作戦を機動隊が遂行するくだりは心を揺り動かされます。

対策本部から機動隊へ出された指令は、かなり屈辱的なもの。しかし、「自衛隊に繋げる」ために決死の覚悟で甲殻類に立ち向かう機動隊。任務の結果が屈辱的、かつ絶望的なものであっても、与えられた任務を全うすることにプライドをかけます。そのプライドを尊重し、自らの出番が呼ばれるまで見守り続ける自衛隊員。

それぞれの思いを抱いて、それぞれの責任で任務を果たす大人たち。有川浩の描く「大人」たちは、どこまでもカッコよくて、どこまでも潔くて、どこまでも「大人」です。

『海の底』と『空の中』には未成年の少年少女が物語の一翼を担っていきます。

未曾有の非常事態が発生する→鼻持ちならない子ども(苦笑)が登場して引っかき回す→でも、そんな子どもにも事情はある→「大人たち」の言動をきっかけに、少しずつ心の変化が現れる、というお決まりパターンの中で、その子ども特有の危うさと痛さが、大人たちの深い味わいと絶妙のバランスを醸し出します。

そんな複雑な子どもたち13人を引き受けるのが、海上自衛隊若手幹部の冬原と夏木。それぞれ持ち前の非常毒舌(冬)と直情言動(夏)で子どもたちを黙らせていきます。このコンビ、最強ですよ~!

最初こそ不満を募らせていた子どもたちにも、やがて心情の変化が現れます。それもやはり冬原と夏木が子どもたちに必要以上に迎合せず、馴れ合わず、それでいてきちんと子どもたち1人1人に正面から向き合い、目と心を配っているからこそだと思います。

こんな大人になりたい!と心から思わせる魅力的な登場人物が数多く登場する一冊です。

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コメント 2

ゆり

はじめまして(^-^)
私も自衛隊三部作大好きです


有川さんの作品は、魅力のありすぎる登場人物が多いですよね。
私は、特に夏木が好きです。


図書館戦争を読んでいらしたらわかると思うんですけど
夏木と冬原の関係ってドウジョウ(←すみません漢字を忘れてしまいました)と小牧の関係に似てるんですよね!(^^)!
私は、図書館戦争シリーズも大好きなのでこの二人の関係が
読んでいてとても面白かったです(^^)v


すみませんグダグダな文章で

返信?くれるとうれしいです☆彡
by ゆり (2010-12-12 09:24) 

★とろりん★

ゆりさま、

はじめまして!コメント、ありがとうございます!!

記事でもふれましたが、有川さんの描く「大人」は誰もが魅力的ですよね。仕事や自分に対して責任感と信念を持っていて、芯がぶれなくて。だからこそ、子どもも納得して信頼するようになるのですよね。

「子どもにとって都合の良い大人」ではなく、「子どもに信頼される大人」になりえているか?と、この小説を読んですごく考えさせられました。

残念ながら、まだ『図書館戦争』シリーズは読んでいないのです。ゆりさまのオススメと聞いて、読んでみたくなりました!
by ★とろりん★ (2010-12-12 16:45) 

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