有川 浩 『図書館戦争』/『図書館内乱』 [Books]
- 作者: 有川 浩
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2011/04/23
- メディア: 文庫
- 作者: 有川 浩
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2011/04/23
- メディア: 文庫
最近、我が家には「有川文庫」なるものが開設されつつあります。テレビラックの下のスペースに有川浩さんの作品だけを並べて、読みたい時にすぐ取り出せるようにしています。
このシリーズは、『阪急電車』レビュー(→コチラ)や『海の底』レビュー(→コチラ)のコメントでご紹介いただいたのですが、今回、2冊が同時に文庫化されたとのことで、一緒に購入~。今後、8月までに全シリーズを文庫化していくそうです。5ヶ月連続リリースか!うわ、じたばたする!(笑)
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時は正化31年(西暦2019年)、公序良俗を乱し人権を侵害する表現を取り締まる法律「メディア良化法」が施行された社会。強権的な検閲も容認されたこの法律を運用する「メディア良化委員会」と実行組織「良化特務機関(メディア良化隊)」によって、表現の自由・言論の自由に対する弾圧が激化する中、図書館はそれらの自由を遵守する唯一の機関でした。
メディア良化隊による容赦ない検閲や手段を選ばない武力行使に対抗して、図書館は自己防衛組織「図書隊」を設立。ここに、メディア良化隊と図書隊の間で、表現の自由をめぐる抗争が展開されることになります。
物語は、図書隊に防衛員(いわゆる戦闘要員)として採用された女性、笠原郁がその天性を見込まれて「図書特殊部隊(ライブラリー・タスクフォース)」に入隊するところから始まります。上司である堂上篤といがみ合いつつ、人並みはずれた運動能力とまっすぐな性格で、図書館を、表現の自由を守るべく、そして自分の恋も成就させるべく(?)奔走します。
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実はこの2冊、先日の姫路~神戸出張に携行したのですが、行きの新幹線の中で『戦争』を、帰りの新幹線で『内乱』を読了してしまいました。とにかく続きが気になってどんどん読み進んでしまうというか、読み終わるまで止められないというか。相変わらず、有川さんの作品は読ませますね~。
『戦争』では、図書隊設立の背景や組織体制、メディア良化法成立やメディア良化隊と図書館による対立の歴史などがエピソードごとに説明されていきます。『内乱』では、主要キャラをよりフォーカスしたエピソードになるのと同時に、図書館自体が内部に抱える微妙な問題-派閥争いや権力争い、組織としての軋轢やしがらみ-などを浮き彫りにしていきます。
もともとこの小説は、有川さんが旦那様と図書館に行った時、旦那様が発見した「図書館の自由に関する宣言」にインスパイアされ、書き始めたのだそうです。
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「図書館の自由に関する宣言」
日本図書館協会
1954年採択
1979年改訂
図書館は、基本的人権のひとつとして知る自由をもつ国民に、資料と施設を提供することをもっとも重要な任務とする。
この任務を果たすため、図書館は次のことを確認し実践する。
第1 図書館は資料収集の自由を有する
第2 図書館は資料提供の自由を有する
第3 図書館は利用者の秘密を守る
第4 図書館はすべての検閲に反対する
図書館の自由が侵されるとき、われわれは団結して、あくまで自由を守る。
詳しくはコチラ
→日本図書館協会「図書館の自由に関する宣言」
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架空の法律によって言論と表現の自由が抑圧される、という架空の世界観の中で展開する物語ですが、有川作品の特徴でもある綿密な取材に裏打ちされた背景設定や組織設定(国家組織であるメディア良化隊に対抗するため、図書館は広域地方行政組織としての性質を維持している、等)がその対立構図や図書隊の組織体制にリアリティを生み出していて、「ありえなくはないかも」という感じで読むことができます。
もちろん、こんな世界、実際にあるわけないでしょー、と思いつつ読むのが楽しいわけですが、そういう歴史が実際に存在したことを思い出し、そして社会全体が「寛容ではない」方向に流れている今、あながちフィクションと言い切る事もできないな、とふと思った時、ちょっと背筋が冷たくなりました。
軽妙な語り口の中にも、社会が背負う「影」や「闇」の部分をちくりと暗示させるところ、やっぱり有川さんはさすがなぁと思います。
有川作品いちばんの魅力は、やっぱり人物設定!
本作品でも、ヒロイン・郁や堂上をはじめ、図書特殊部隊の隊長である玄田、堂上の同期である小牧、郁の同期である手塚や柴崎、雑誌記者で玄田と親しい折口、そして図書隊設立に尽力した関東図書基地司令の稲嶺・・・どの登場人物も、ひとクセもふたクセもありながら、親しみやすくて憎めないキャラクターばかり。
有川作品の人物設定は、どの作品にも共通して言えますが、「男は男らしく、女は女らしくあってほしい」、そして「大人は、大人としての役割をしっかり果たしてほしい」というメッセージが一貫しているのが素敵だと思います。
個別に性格の違いや難点はあるものの(笑)、男性キャラはカッコ良く、女性キャラは可愛らしく、大人としての役割をしっかり考えて行動している。そして、それがとても自然なのです。
特に男性キャラに関しては、それぞれの性格にきちっと合わせた上で、読者の願望を裏切ることなく、「この場面なら、小牧にはこう言って欲しい、堂上にはこう行動して欲しい」という言動をサラリとやってのけるんですよ。いや~、たまりません(笑)。
もちろん、ヒロイン・郁の愚直なまでのまっすぐさや素直さ、柴崎の冷静さや回転の速さは、女性としてとても憧れるところです。「あんたたちあたしの逆鱗に触れたのよ」(『内乱』より)という柴崎の台詞、カッコイイ!!
そして、激闘や抗争の合間にしっかり繰り広げられる、チョコレートよりも甘い恋模様。作者いわく「ベタ甘」なんですけれども、もう劇的に甘いです(笑)。甘いというか恥ずかしいというか赤面というか。
これが地雷のように突然やってくるもんだから、大変です。緊迫感あふれる場面にハラハラしながら読み進んでいたら、突然ベタ甘な会話が投下されて、「うぉっ、そうきたかっ!!」と、ひとりのけぞっては悶絶することもしばしば(笑)。
特に、それを無自覚・無意識にやってしまっている堂上教官!めちゃくちゃ恥ずかしいです!!でもそんな堂上教官が大好きです!!(笑)
そんなわけで、8月まで毎月、文庫化が予定されている本シリーズ。次作がすっかり待ち遠しい今日この頃です。
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↓コチラは、『図書館内乱』のエピソードから執筆されたスピンアウト作品。恋する甘さと苦さが、絶妙にブレンドされています。
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