SSブログ

新橋演舞場 七月大歌舞伎 昼の部 [歌舞伎]

二代目市川猿翁 四代目市川猿之助 九代目市川中車 襲名披露
五代目市川團子 初舞台
七月大歌舞伎 昼の部

2012年7月15日(日) 新橋演舞場 11:00開演
    
スーパー歌舞伎 『ヤマトタケル』 


作:梅原猛
監修:奈河彰輔
脚本・演出:市川猿翁

小碓命 後にヤマトタケル/大碓命:亀治郎改め 市川猿之助
帝:市川中車
タケヒコ:市川右近
ワカタケル:團子
兄橘姫/みやず姫:市川笑也
弟橘姫:市川春猿
老大臣:市川寿猿
ヘタルベ:市川弘太郎
帝の使者:市川月乃助
倭姫:市川笑三郎
熊襲弟タケル/ヤイラム:市川猿弥
尾張の国造:坂東竹三郎
皇后/姥神:市川門之助
熊襲兄タケル/山神:坂東彌十郎


6月・7月と2カ月続けて上演中の四代目市川猿之助はじめ3名の同時襲名興行。友人からお声がけいただいて、幸運にもその舞台を観ることができました!(機会を譲ってくださったT様、本当にありがとうございました!!)

観劇したのは昼の部、『ヤマトタケル』。

先月より二代目猿翁を名乗る三代目猿之助が初演し、歌舞伎界のみならず伝統芸能の世界に一石を投じた「スーパー歌舞伎」第一作目。その後、何度も繰り返して上演され、もはや澤瀉屋の「家の藝」といっても過言ではありません。

新・猿之助も「この名跡を受け継ぐからには避けては通れない」と、襲名興行でスーパー歌舞伎を上演。

すでに2ヶ月目に入った公演ですから、舞台全体に良い意味で落ち着きがあって、それでいて確かな熱意を感じさせる、良い舞台でした。


【あらすじ】

時は日本が国歌として成立する以前、小碓命は、双子の兄である大碓命が父帝へ叛逆の意思を抱いているのを見抜きますが、諭し諌めようと兄ともみ合いになり、謝って手にかけてしまいます。それがきっかけで帝に疎まれるようになった小碓命は九州の熊襲(クマソ)討伐の命を受けます。美女に変装して熊襲兄弟の隙を突き、彼らを倒した小碓命は、熊襲弟より「ヤマトタケル」を名を与えられます。

無事に熊襲討伐を果たしたヤマトタケルですが、父帝から許されることはなく、さらに困難な任務を次々と与えられます。自らの立場を嘆きながらも、ただ父に認めてもらいたい一心で戦いに出かけるヤマトタケル。

やがてタケルは、伊吹山の山神を退治することを命じられます。山神を倒しながら、自らも重傷を負ったタケル。やがて歩くこともままならなくなったタケルは、父を、子を、妻を、そして戻ることのできなかった故郷を夢見ながら、道半ばで力尽きてしまいます。しかし、彼の魂は尽きることなく、やがて真っ白な大きな鳥に姿を変えて、天高く羽ばたいていくのでした。

【カンゲキレポ】

・・・・・・どぼーっ。(←しょっぱなから手放しで号泣)

亀ちゃん・・・あっ違う、猿之助さん・・・本当に素敵でした・・・。

何ていうんでしょう。初めて、彼の舞台で「熱」を感じました。

これまでも何度も言っているのですが、亀治郎(あえて、ここでは「亀治郎」と書きます)の舞台は、踊りや身のこなしの完成度が高くて、技術力は満点に近い出来。ですがそこには役の熱、のようなものがなかなか感じられなかったのですね。いわば「研究論文」のような舞台。「感心はできても、感動はできない」舞台が続きました。

それでも、どうしても私は亀治郎から目を離すことはできませんでした。・・・今となっては、どうしてかな?と思うのですが。彼のとことん突き詰めていく姿とか、こだわり抜く姿に惹かれていたのかな?

それが近年、しばらくの間、猿之助(現・猿翁)一座を離れて、様々な劇団の役者さんと共演し、また映像や外部の舞台など、本人にとっては「異質の世界」に身を投じることで、ずいぶんと変わってきたように思います。型だけではなく、その役がまとう「生身の感情」が伝わってくるようになった、というか。

そして、四代目猿之助を継いだ今。明らかに彼の舞台にはこれまでとは違う「熱」を帯びていました。これが、芯を張る役者のオーラというものなのかしら。

それをいちばんに感じたのが、第二幕「走水(はしりみず)」の場面。

古事記など神話には必ず書かれている場面ですが、海路で東国へ向かっていたヤマトタケルの船は、走水(現在の神奈川県横須賀沖の付近、とされています)で嵐に巻き込まれ、進退きわまります。この時、タケルに同行していた弟橘姫(オトタチバナヒメ)が、タケルの身代わりとなって海に身を投じ、そのおかげで嵐はおさまり、タケルの乗った船は難を逃れる-という場面。

自らの命を差し出すことを既に決意している弟橘姫とは逆に、タケルは驚くほどに取り乱し、絶対に姫を手放すことはしないと固くその手を握りしめます。しかし、姫の告白を聞いて、初めて彼女の深い胸の内を知るタケル。

その時の、弟橘姫を見つめるヤマトタケルの瞳が、爛れるような熱と苦悶と哀しみに染まり切っていて・・・観ているこちらが狼狽してしまいました。

そして・・・

「あの瞳に、見つめられたい・・・」って思っている自分がいました(爆)。

亀治郎時代を含めても、新・猿之助に対して私がそんな風な思いを抱いたのは、実は初めて。これまではどちらかと言うと、指先のなめらかな動きとか、美しい身のこなしとか、絶対にブレない回転技(?)とか、「技量」の部分にうっとりしていましたから。まさかそんな風に思うとは自分でも予想外だったので、第二幕終了後は、ちょっと茫然自失でした(苦笑)。

すごくおこがましい言い方ですけれども、新・猿之助が「役の感情に染まる」という事ができるようになった証拠なのかな、と思います。

・・・どうしよう、惚れ直してしまいました(爆)。

あとは、折々の立ち廻りで見せるどや顔とか、美女に扮した時の踊りの美しさは必見!どや顔してる時とか、本当に楽しそうですからお見逃しなく。

***

ヤマトタケルを見守り、愛する女性陣についても。

いちばん好きだったのは、ヤマトタケルの伯母・倭姫を演じた笑三郎。

たおやかで慈しみ深くて、穏やかで。落ち着いた声音を聞いているだけでも心が安らぎました。笑三郎さんの舞台は、立居振舞と言い、せりふ回しと言い、空気感と言い、女方としてのアベレージが非常に高いと思います。もっともっと、いろんなお役がつけば良いのにな。

兄橘姫(エタチバナヒメ)とみやず姫を演じた笑也。

個人的には、兄橘姫を演じている時の方が好きだったなぁ~(夫の仇であるヤマトタケルにコロッと恋してしまう流れが急激過ぎると思いますが、まぁ置いておいて)。

タケルが死んで後の独白とか、ワカタケル(團子くん。超かわいかった!)に未来の日本について話して聞かせるところなど、落ち着きと風格があって素晴らしかったです。やはり笑也は「スーパー歌舞伎の申し子」ですね。スーパー歌舞伎という舞台での見せ方、立ち方をいちばん掌握しているように感じました。

弟橘姫を演じた春猿。

走水の場面では渾身の演技でしたが、感情が高ぶると声が甲高くなってしまって、科白が少し聞き取りにくくなったのが残念でした。けれども、いつもタケルの身を案じている様子が伝わってきて、可愛らしかったです。

***

父帝を演じた、新・中車。

喉を痛めているのでしょうか、発声がざらついていて、科白もくぐもって聞こえにくかったような。けれど、舞台に登場するだけで観客の注目を集める存在感はさすがでした。

先月の舞台や夜の部は観ておりませんし、『ヤマトタケル』では出番も少ないので、新・中車の歌舞伎役者としての舞台については、まだ何も言えないな~というのが正直なところ。今月の舞台の筋書に文章を寄せられている蜷川幸雄さんが、「ぼくはただ、香川さんが歌舞伎をどのようにして自分のものにするのか息を詰めて見守るばかりである」と書き留めておられる通りだと思います。


他にも、きっぱりとした科白回しが相変わらず素敵だった右近、たった一場面の登場だけで観客の心を惹きつけた月乃助、豪快な舞台で楽しませくれた彌十郎&猿弥、「侵略する者と侵略される者」について考えるきっかけを作ってくれた猿四郎、国家権力乗っ取りを狙う皇后と伊吹山の姥神、いずれも素晴らしい怪演を見せた門之助などなど、久々に観劇した澤瀉屋一門総出の舞台は、隅から隅まで熱い思いを感じるものでした。

*****


「このひとは、どこまで翔んでいってしまうんだろう。」

クライマックス、白い鳥となり、劇場を宙乗りで飛び去っていく新・猿之助の姿を目で追いながら、ふとそんなことを思いました。このひとが翔んでいく未来には、どんな景色が見えているんだろう。・・・とか。まぁ、このひとの事ですから、「器が変わっただけで中身は変わらずやっていきます」とか言うのでしょうけれど(笑)。

それでも、あえてこの時に、あえて「猿之助」の名を継ぐことを決めた彼の決意や覚悟は、並々ならぬものがあると思います。

新・猿之助が、これからどのような「歌舞伎の未来」を見せてくれるのか。ワクワクしながら待っていようと思います。


nice!(3)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:演劇

nice! 3

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。