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タンゴ・ミュージカル 『ロコへのバラード』 [講座・現代演劇]

2013年9月20日(金) 東京グローブ座 19:00開演

【キャスト】

彩吹真央

Claudio Villagra

Chizuko

石井一彰
大月さゆ
進藤学
Andres Gonzalez

西島千博(特別出演)

石井一孝


【スタッフ】

作・演出/小林香
音楽監督/小松亮太

振付/Claudio Villagra、Mario Morares、西島千博、港ゆりか、Andres Gonzalez

歌唱アレンジ/前嶋康明
美術/島川とおる
照明/中川隆一
音響/山本浩一
衣裳/屋島裕樹
ヘアメイク/宮内宏明
歌唱指導/船橋研二
演出助手/渡邉さつき
舞台監督/酒井健

プロデューサー/池田道彦


* * *


2011年11月に上演された『ロコへのバラード』の新バージョン。

4月に開催された『彩吹真央 20周年記念コンサート』で、彩吹が歌った「Yo soy Maria」がもう、衝撃的に素晴らしくて!!これが『ロコへのバラード』という舞台で歌われた楽曲だと知り、機会があればぜひ一度、観てみたいと思っていたのです。再演されると聞いて、喜び勇んでグローブ座へ駆けつけました。


【あらすじ】

アルゼンチンの首都、ブエノスアイレス。書店に勤めるマリア(彩吹)は姉を亡くし、天涯孤独の身となります。そんなマリアにとって唯一の心のよりどころは、勤務先の書店で毎週金曜日の夜に開催される朗読会で、本の朗読を行うこと。

店主のオラシオ(石井一孝)の呼びかけで始まった大人の朗読会。会場に集まった参加者-ハビエル(Claudio Villagra)とロミーナ(Chizuko)夫妻、ミゲル(石井一彰)とアメリータ(大月さゆ)のカップル、椅子職人のラロ(西島千博)-の前で、今夜もマリアは本を開き、朗読を始めます・・・。

ひとたび朗読を始めると、ふだん控え目なマリアは人が変わったように時に情熱的に、時に静謐に様々な登場人物を演じ分けていきます。マリアの朗読に耳を傾ける人々もまた、思い思いに本の世界と自分の抱える悩みを重ね合わせていき・・・。

現実と想像の世界が交錯し、アルゼンチン・タンゴのリズムとともに夜のブエノスアイレスの闇に絡まっていきます・・・。



【カンゲキレポ】

まず劇場に入ったら、舞台の真ん中に多数の本が高く積み上げられたオブジェの美しさに目を奪われます。

細く、高く積み上げられた本は枝のように分かれていき、よく見ると大樹のような形をなしているのが自ずとわかってきます。舞台の冒頭で明かされるのですが、それは連綿と繋がってきた「家」の歴史-家系樹を表わしています。そして上下の両袖にも本棚。舞台中が、本であふれかえっています。

朗読会でマリアが取り上げるのは、『コレラの時代の愛』、『存在の耐えられない軽さ』、『ブエノスアイレスの熱情』、『PEANUTS』、『シラノ・ド・ベルジュラック』など、多様なジャンルにわたります。

現実世界では穏やかに、平凡に日常を過ごしているかに見える登場人物たち。それがマリアの朗読会が始まると、それぞれが内面に抱える苦悩や葛藤がくっきりと浮き彫りになります。その、各々が秘めている熱情を表現し、発散するのが、タンゴ。

「リベルタンゴ」や「ラ・クンパルシータ」、「ママ恋人が欲しいの」など、タンゴの名曲に乗って、キャストたちが舞台狭しと踊りぬける圧巻のステージでした。

第1部は、朗読会の参加者であるハビエル&ロミーナと、ミゲル&アメリータという2組のカップルがメイン。

ハビエルとロミーナは一見落ち着いた夫婦に見えますが、ロミーナは夫の浮気を疑い、夢遊病を患っています。ハビエルは妻の病気が自分への疑惑が原因と気付いていますが、あえて何も言う事はしません。そんな夫妻のためにマリアが選んだのは、『存在の耐えられない軽さ』。

ロミーナを演じたChizukoは日本人として初めてアルゼンチンタンゴ世界チャンピオンの座に輝いた一流のタンゴダンサー。ハビエル役のClaudio Villagraも、『フォーエバー・タンゴ』オリジナルキャストを勤めるなど国際的に活躍しているタンゴダンサー。この2人のタンゴは、圧巻の一言に尽きます。

夢遊病の世界で、ロミーナはハビエルを含めて数人の男性と情熱的なタンゴを踊ります。そこに赤いドレスの女(彩吹)が登場した瞬間、一変するロミーナの表情。彼女の心に潜む疑惑-ハビエルの陰に見え隠れする女-が目の前に出現した時、ロミーナのタンゴはより攻撃的に、煽情的になります。

Chizukoのタンゴは、絶品です。どんなに激しく踊っても、相手の男性との距離が常に一定間隔を保っていて、絶対に崩れません。手や足のさばき、目線の配り方、振りや動作のひとつひとつがもうずば抜けて他者を圧倒しています。技量だけではない、他の追随を許さない官能と凄みと迫力。この場面はChizukoから一瞬たりとも目が離せませんでした。

対する赤いドレスの女、彩吹は、冷徹とも言えるクールな表情が魅力的。この場面の彩吹はロミーナの胸に巣食っている疑惑が表象化した存在なので、表情を少しも変えません。その無表情とは裏腹に、タンゴはシャープでキレがあって、流石です。しかしユミコさん(彩吹)、ほっそいわぁ・・・。

結果的に、ロミーナとハビエルはそれぞれの気持ちに折り合いをつけて、存在の耐えられない軽さ、そして耐えられる重さを推し量りながら、夫婦として歩んでいくのかな・・・という終わり方。呼吸をするのも忘れるほど、緊迫感と濃密な空気が充満した場面でした。

* * *

続いては、甲斐性のない恋人ミゲルと、彼の気持ちが見えずに密かにやきもきするアメリータの物語。マリアが取り上げるのは、ある男女の50年に及ぶ愛の行方を描いた『コレラの時代の愛』。

時おり『PEANUTS』の有名な言葉も交えながら、マリアは恋人たちに語りかけます。「2人は、どんな物語を書きたいの?」

ここからは再び想像の世界へ。ミゲルとアメリータが思い描く将来が、タンゴに乗せて表現されます。

幼馴染の2人の無邪気な両想いから始まり、結ばれ、子供ができて幸せあふれる日々。時間が流れるうちにやがて暗い影が射し、すれ違いと衝突の日々、お互いの存在を気にしながらも、無視する日々。そして時間が流れ、人生の終わりの時間を、穏やかに、共に過ごす2人・・・。

ここのポイントは何と言っても、ツインテールのユミコさんでしょう(爆)。夫婦の子供役として登場するのですが、めっちゃ可愛くて思わず萌えました(笑)。シリアスな場面だったのに・・・すみません・・・。

想像の時間が過ぎて元の世界に戻ると、ミゲルとアメリータが静かに微笑んでたたずんでいます。お互いに未来を考えたからこそ、今すべきことを考えられた・・・という結末で良いのかな?

「大好きって、手をつないで歩くこと」。シンプルだけど深いこの言葉が、柔かく胸に響きます。

* * *

第2幕は、マリアとラロを巡る物語。互いに好意を寄せながらもなかなかきっかけを見いだせないマリアとラロ、そして陰ながらマリアに淡い想いを寄せる店主・オラシオ。3人の思いが交錯します・・・。

ラロを演じる西島さんは、タンゴとは違ったバレエ的な踊りだけれども、静謐の中に潜む熱くて確かな想いが月光に浮かび上がるような美しいダンスでした。

この場面では、マリアは自分の存在意義、そして自分のルーツを探し求めるかのようにタンゴの曲をたて続けに歌います。そして、ついに「Yo soy Maria」が!!

黒のドレスで妖艶に、そして力強く歌い上げる彩吹の姿は神々しいまでの美しさ。本当に良い舞台女優になったと胸が熱くなりました。

最後は、マリアとラロの心が少し近づいて、密かにオラシオが肩を落とす・・・という場面で一区切り。天涯孤独のマリアが「最後の一葉になった」と思っていた家系樹は、また新たな枝が伸びていく・・・という未来を示唆するように終わります。

オラシオを演じた石井一孝も、素晴らしかった!!現実の世界では温かい人柄がにじみ出るオラシオ役、想像の世界ではストーリーテラー(というよりは、ストーリーシンガー)として、豊かな表現力と絶大な存在感で舞台を掌握していました。

* * *

ステージのラストは、フィナーレのような感覚でショーも少しだけつきました。もちろん、最後の最後までタンゴ、タンゴ、タンゴ!!

この時、彩吹はシニヨンで女性らしい髪形をしていたのに対して、大月はショートボブをオールバックにキメていました!!宝塚時代とは正反対の2人のヘアスタイルの対比がちょっと微笑ましかったです。大月のオールバック、めっちゃカッコ良かった~!

* * *

ダンスショーとは一味違う、物語の中にタンゴがあり、タンゴの中に物語がある・・・そんな不思議な感覚のステージでした。

物語=本が積み重なっていくたびに、人の愛や思いもひとつずつ、積み重なっていく。その愛の積み重ねが、その人の、その家の歴史になっていく・・・そんなことを思った夜でした。


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