SSブログ

東京バレエ団 『ロミオとジュリエット』 [クラシック]

019.JPG
2014年2月8日(土) 東京文化会館 14:00開演

『ロミオとジュリエット』
ジョン・ノイマイヤーの振付による全3幕のバレエ
ウィリアム・シェイクスピアの戯曲に基づく

振付:ジョン・ノイマイヤー
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
装置・衣裳:ユルゲン・ローゼ
振付指導:ケヴィン・ヘイゲン、エドゥアルト・ベルティーニ、大石裕香
世界初演:1971年2月14日、フランクフルト・バレエ


【主なキャスト】

モンタギュー家

モンタギュー夫人:山岸ゆかり
モンタギュー公:森田雅順
その息子、ロミオ:柄本弾

ベンヴォーリオ、ロミオのいとこ:杉山優一
マキューシオ、ロミオの友人:木村和夫
パリス伯爵:梅澤紘貴
僧ローレンス:岸本秀雄

キャピュレット家

キャピュレット夫人:奈良春夏
キャピュレット公:高岸直樹
その娘、ジュリエット:沖香菜子

ロザリンデ:渡辺理恵
ジュリエットの乳母:坂井直子
ティボルト、ジュリエットのいとこ:森川茉央

ほか

指揮:ベンジャミン・ホープ
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団


* * * * *


45年ぶりという記録的な大雪の日、バレエ公演を観劇しました。

今年50周年を迎えた東京バレエ団による『ロミオとジュリエット』。ジョン・ノイマイヤー振付による物語バレエの上演は、今回が初演だそうです。

バレエの全幕物を観劇するのは、おそらく新国立劇場バレエ『くるみ割り人形』以来、実に9年ぶりのこと(→その時の記事は、コチラから)。

振付のジョン・ノイマイヤーがハンブルク・バレエの芸術監督でもある縁から、昨秋の花組公演『愛と革命の詩』で振付を行った大石裕香が振付指導として参加しています。芸術の世界でこのような幸せなめぐり会いに遭遇すると、それだけで心が温かくなりますね。


【あらすじ】

イタリアの街、ヴェローナ。この街の名家であるモンタギュー家とキャピュレット家は互いに反目し、ヴェローナの守護聖人、聖ゼーノの祝祭日の前日も、剣を交えるほどの諍いが起こっていました。

モンタギュー家の息子ロミオは、キャピュレット家のいとこであるロザリンデに恋をしています。その日の夜、キャピュレット家で開催される舞踏会にロザリンデが出席すると知ったロミオは、いとこのベンヴォーリオや友人のマキューシオと共に、キャピュレット家に潜入します。そこで彼を待っていたのは、ロザリンデとの恋の進展ではなく、キャピュレット家の娘ジュリエットとの運命的な出逢いでした。

一目見てお互いに離れがたいものを感じたロミオとジュリエット。ロミオは舞踏会が終わった後もキャピュレット家に忍び込み、ジュリエットと愛を交わします。

聖ゼーノの祭りの日。ロミオとジュリエットは僧ローレンスのもとでひそかに結婚式を挙げ、永遠の愛を誓います。ところが同日、ジュリエットのいとこ・ティボルトとマキューシオが口論となり、決闘の末マキューシオがティボルトに刺殺されるという事件が起こります。その場に居合わせたロミオは逆上し、友の死の仇を討つべくティボルトと決闘、彼を殺害します。

ヴェローナから追放の身となったロミオは、一夜だけジュリエットのもとを訪れます。夜明けが来てロミオが去り、悲しみにくれるジュリエットに、両親であるキャピュレット夫妻はパリス伯爵との結婚を言い渡します。絶望の淵に追い込まれたジュリエットはローレンスのもとを訪れ、そこで一定時間仮死状態になる薬を授けられます。

パリス伯爵との婚礼の朝、ロザリンデやキャピュレット夫妻が見つけたのは、ベッドの上で深く眠りこんでいるジュリエット。彼女が死んだと思いこんだキャピュレット家の人々は悲嘆にくれ、その悲報はロミオの耳にも届きます。ローレンスが真相を打ち明けるべくロミオを探して追放先にやってきますが、すでにロミオはヴェローナへと戻った後でした。

キャピュレット家の墓所で眠るジュリエットと再会するロミオ。彼もまた、ジュリエットが死んだと思い込み、自ら命を絶ちます。しばらくして目覚めたジュリエットは、変わり果てたロミオの姿を見て全てを理解し、愛する人のもとへ旅立つのでした。


【カンゲキレポ】

いや~・・・感動しました。感動したと言うか、心を揺さぶられましたね。今でも、あの有名な旋律が頭の中によみがえっては余韻に浸ってしまいます。

肉体があれほどまでに雄弁な表現力を持っているなんて!人間だけが持ちうる肉体表現の素晴らしさ、身体能力の高さに圧倒されました。

「ロミオとジュリエット」の話は、戯曲ではきちんと読んだことがなくて、大まかな知識は1999年花組公演『ロミオとジュリエット'99』(←しかもビデオ観賞)がベース。対立する両家に生まれながら許されざる恋に生きた若者たちの悲恋、というくらいの認識しかなかったのですが・・・。

これは当時の「家」制度への鋭い視線、そして、成熟し自立する女性を描いた作品なのだな、と感じ、新鮮な感動を覚えました。新しい発見もいくつかありました。

そのシンボルとして君臨するのが、ヒロインであるジュリエット。素髪にバスタオル、裸足という洗いざらしの姿で登場する彼女は、ロミオと出逢い、恋をし、愛することによってどんどん自我が目覚め、強くなり、積極的に生まれ変わっていきます。

ジョン・ノイマイヤーの振付は手の動きがとても特徴的。思えば『愛と革命の詩』で蘭寿とむと蘭乃はなが踊ったデュエットダンスも手首から指先の動きがとても印象的でしたが、ノイマイヤーのもとで踊り続けている大石さんならではの発想だったのかな、と思いました。

愛を誓ったふたりが、お互いの手をそっと合わせる振りが多く、それを観るたびに胸がキューンとしました。良いなぁ、恋って良いなぁ・・・[黒ハート] (←突如としてほとばしる本音)

そして、彼の振付はとてもシンプルで、とても明確です。例えばジュリエットが、キャピュレット夫妻によってパリス伯爵に引き合わされる場面など、ジュリエットが「自分の意志で動かない」場面では、彼女の踊りはまるで操り人形のようにぎこちなく、硬い動きをします。

しかし、ロミオと恋をし、人を愛することを知ったジュリエットが「自分の意志で動く」場面=バルコニーや結婚の場面、ローレンスに助けを求める場面などでは、両手両足が空間いっぱいに伸びやかに動き回るのです。

印象的だったのは、やはりロミオと出逢う舞踏会の場面。ジュリエットはロザリンデら従姉妹たちと、聖ゼーノに捧げる踊りを披露します。優雅に舞うロザリンデ―彼女は、この舞台では「完璧で気品ある、理想的な娘」として描かれています―とは対照的には、戸惑いを隠せぬまま、ぎこちなく、おぼつかないステップしか踏めず、途方にくれるジュリエット。

その彼女が、ふとした拍子にロミオと見つめ合った瞬間。彼女は一瞬、棒立ちになりますが、やがて一歩ずつ、ステップを踏み始めます。ロミオの視線を感じるたびに、彼女の心のときめきは大きくなっていき、やがてその心の高揚は縮んでいた指先を滑らかに伸び始め、委縮していた足はたおやかに、軽やかにステップを踏み始めるのです。「恋」にめぐり逢った本能の喜びが、そのまま身体表現に繋がっていく。

しかし、ジュリエットはやがてキャピュレット夫妻に両手を取られ、パリス伯爵のもとへと連れて行かれます。この瞬間、ジュリエットの足は再び息吹を失ったかのようにぎくしゃくとした動きになります。ノイマイヤーの振付は、ジュリエットの心の動きを繊細に、丁寧に表現しています。

ジュリエットを踊った沖香菜子。素晴らしかったです!素髪に裸足で、バスタオル1枚を身にまとって登場した時は、文字通り無垢で世間知らずであどけない「少女」。それが、ロミオと出逢い恋に落ち、愛を知ることによって「女」となり、自分の意志を貫いていく・・・。そのひとりの女性の「一生」を、瑞々しさを失わずに踊りきりました。

沖はまさしく、舞台上でジュリエットを「生きて」いました。ヒロインにこんなに感情移入して観劇したのは、久しぶりかも。

ジュリエットが自分の意志を無意識に封じられる場面(舞踏会やパリスとの結婚を強いられる場面など)では、あるひとつの重々しい、そしてどこか抑圧的なフレーズが必ず演奏されます。

ジュリエットにあまりにも感情移入しすぎたからでしょう、観劇から数日を経た今でも、そのフレーズをふと思い出したり聞いたりするたびに、自動的に感情がブルーになってしまう自分がいます(笑)。


「恋をしなければ、愛を知ることは出来ない」。


そんなことを思ったのは、奈良春夏のキャピュレット夫人を観て。

本作のキャピュレット夫人は、ジュリエットのいとこにあたるティボルトと普通の親戚を超えた関係にあることを示唆する場面が幾度も、しかも思ったよりも露骨に描かれています。(←その関係を、どうやら夫であるキャピュレット公も知っているようです)

花組公演『ロミジュリ'99』でも、キャピュレット夫人とティボルトはそういう関係として描かれていました(←貴柳みどりさんのキャピュレット夫人、ビデオでもにじみ出る色香が凄かった・・・)。まだまだ未熟な私は、年頃の娘もいてご主人もきちんといるのに、親戚の男となんて・・・と、嫌悪感が抑えられませんでした。(←若かったなぁ・・・)

けれど今回、キャピュレット夫人を見て、考えを改めました。

第1幕、舞踏会に登場するキャピュレット夫人は、美しく化粧をして、妖艶とも思える色香を放っています。

ところが、ティボルトが殺された直後、正気とは思えぬ沙汰で変わり果てた姿の彼にすがりつき、気も狂わんばかりに嘆き悲しむキャピュレット夫人は、まるで色をつける前のお面のように、口紅もシャドウもチークもない、眉毛すらない真っ白なメーク。まるで、あらゆる感情が死んでしまったかのようです。

真っ白な顔=無表情のキャピュレット夫人は、感情を失くしたまま、ジュリエットにパリス伯爵との結婚を強行します。

その時、ふと思ったのです。「キャピュレット夫人は、パリス伯爵と結婚したジュリエットの、未来の姿を示唆しているのだ」と。

舞台では、パリス伯爵は理想的な結婚相手として登場します。地位も名誉も経済力も申し分なく、おまけに容姿端麗。その当時としては最高の縁談。

それは、キャピュレット夫人にとってのキャピュレット公も同じだったのです。

今のジュリエットのように、夫人もわずか13~14歳の時に、「最高の結婚相手だから」と親に説得され、キャピュレット家に嫁いだのでしょう。そしてジュリエットを生み、ヴェローナで双璧をなす名家のファーストレディーとして君臨している。

けれども、ひとつだけ、キャピュレット夫人とジュリエットには決定的な違いがあります。そう、「恋」をしたか。しなかったか。

キャピュレット夫人は、恋をする経験がないまま、キャピュレット公に嫁いだのではないか・・・と思ったのです。あるいは当時の良家の娘なら、それが当たり前だったのかもしれません。

きっと、キャピュレット夫人は「恋」をすることなく、「愛」を知ることなく、キャピュレット公に嫁ぎ、子をなしたのでしょう。だからこそ、夫人にとって、ティボルトとの「恋」は、初めて知った「愛」の喜びだったのかも知れません。それを感じていたからこそ、夫であるキャピュレット公も、全てを察しながらも、何も言わなかったのではないか・・・。

そんな風に考えると、婚姻によって家を強化する当時の風潮や、その中で自らの意志を持つことすら許されなかった女性の哀しさが、キャピュレット夫人を通じてぐわーっと迫ってきて、胸が苦しくなりました。

でも、その制度に封じ込まれる前に恋をして、愛を知ったジュリエットは、自らの意志で「生きる」ことを選択し、その意志を貫きます。彼女にとっての「生きる」ことは、結果的に「死」だったわけですが・・・。

全てを察していながら、それでも妻を受け止め、包容するキャピュレット公の大きさにも感動しました。ある意味、舞台上でいちばん大変な立場にあったのが彼ではないかと思います。モンタギュー家との対立に神経をとがらせ、ジュリエットの縁談に頭を悩ませ、妻とティボルトの関係を知りながら胸の奥に閉じ込め・・・。お、お父さん、辛い立場・・・。高岸さん、巧かった・・・!


* * *


うわあー!ジュリエット母娘について、語り過ぎてしまった!(-_-;)

ここから駆け足ですが、男性ダンサーについても感想を。

ロミオを演じた柄本弾。東京バレエ団の若きプリンシパル。あの躍動感、力強さ、流石です!

第1幕のロミオは若さを持て余すかのように、力強い跳躍力を生かした弾けるような、かつ若干ひとりよがりな踊りですが、ジュリエットと出逢い、恋に落ち、愛し合う過程の中で、彼女とまるで同化するかのように寄り添い、受け止め、支えていくような踊りになっていきます。その強さから優しさ、柔らかさの変化がとても素晴らしかったです。

個人的には、パリス伯爵を演じた梅澤紘貴がちょっと気になりました。踊る場面はそれほどないのですが、えーと、容姿が個人的に「理想的」でした(笑)。上述した通り、本作では非常に紳士的な人間として描かれていたのが新鮮でした。


* * * * *


よく知っている物語でも、表現や解釈が違うだけでこんなにもたくさんの発見があるのですね。視覚と聴覚をフル稼働したからでしょうか、自分の中にある感情をいっぱいいっぱい動かしたような、心地よい疲れとともに、豊かな気持ちになって会館を後にすることが出来ました。

またいつか機会があれば、バレエの公演を観に行きたいと思います。


★おまけ★

9年前のバレエ記事の前後をブラブラしていたら、バレエ関連の記事で面白いのを見つけました。

2006年1~3月にかけて、新国立劇場で開催された「バレエ入門講座」に参加した時の記事です。「舞踊」や「舞台構図」について興味深いお話を聞くことができました。特に最終回、講師の先生のお言葉には、いま読み返してもハッとさせられます。

リンクを貼っておきますので、興味のある方はご覧ください。今とは記事の書き方も全然違っていて、なんだか気恥ずかしいです(笑)。


新国立劇場 バレエ入門講座第1回 (バレエの歴史と構造)

入門講座第2回 (構図)

入門講座最終回 (身体と技法)

番外編 (定冠詞で解釈が変わる)


nice!(7)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:演劇

nice! 7

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。