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仲道郁代 ピアノ・リサイタル ― ロマンティック 極まる。 ― [クラシック]

2014年2月16日(日) サントリーホール 14:00開演

3年越しに、仲道郁代のピアノ・リサイタルを聴きに行きました。

サントリーホールで開催されているこのピアノ・リサイタルには毎回テーマが設定され、それに基づいたプログラムで構成されます。


ロマンとは、生きざまだと思う。


公演のチラシに書かれた仲道の言葉に、思わず見入ってしまいました。そしてその続きは、公演当日に配布されたプログラムの、本人によるメッセージの中に。


人生は探求のかたまりです。
赤ん坊は母の乳を探し、生きる力を見出す。若者は人生とは何かと、生きる意味を探し、熟年は人生を振り返り、自分の生きざまの意味を探す。
どこにも答えなどなく、誰も答えを見つけられないのに。。。そんな探究こそが、ロマンだと思うのです。夢、渇望、自己との対話、果てしない"もがき"。



奇しくもこの日の未明、スキージャンプ・個人ラージヒルで葛西紀明選手が銀メダルを獲得。その時の感動を思い出しながら、仲道のピアノの音色に耳を傾けました。彼の生き方は、まさに「ロマンティック」だな、と。

この日は、1曲ごとに作曲家に関する豆知識や簡単な生涯、作曲の際のエピソードなども詳しく解説。

プログラムには、作曲時の本人の年齢も記載されていました。曲そのものの美しさに浸るだけではなく、作曲当時、彼らがどんな境遇にあったのかを知りながら、作曲家たちの生きざま-ロマン-を深く深く感じるひとときでした。

個人的に興味深かったのが、第一部、ブラームスからシューマンの流れ。

現在、宝塚歌劇団宙組にて『翼ある人びと-ブラームスとクララ・シューマン』を公演中(大阪公演は終了。東京公演は2月26日~3月3日、日本青年館にて)。このタイミングでこの2人の曲を同時に聴くことが出来るのは、とても不思議な巡り合わせのように感じました。(しかしながら、「らんとむ節約」のため、チケットは取っておらず・・・す、すみません・・・)

「3つの間奏曲」は1892年、ブラームスがクララのために作曲されたと言われています。

クララは1896年に死去。クララ危篤の報を旅先で受け取ったブラームスは急いで駆け付けようと汽車に飛び乗りますが、あまりにも気が動転していたのか、なんと汽車を乗り間違えてしまいます。結局、ブラームスはクララの葬儀にも間に合わず、その棺が埋葬される直前にようやくたどり着くことができたのだそうです。そしてその1年後、ブラームスもこの世を去ります。

ブラームスの最晩年に作られたこれらの曲は、限りなく優しくて、限りなく柔らかくて・・・まるで、極上の肌触りの衣にふわりと包まれているようです。

なのに、どこか切なくて、どこか胸がきゅっと締め付けられるようで。幸福の光に満ちあふれた静かな生活の中にも、悲しみや苦しみは潜んでいる・・・。この上もない幸福感の中で、でも心のどこかで、この幸せがいつまでも続かない、と悟っているような。だからこそ、この瞬間の幸福をじっと噛み締めよう・・・そんな気持ちになりました。

正反対に、1834年に作曲されたというシューマンの曲は、明るくて軽やか。シューマンにとってこの年は、「新音楽雑誌」という新しい雑誌を創刊したり、エルネスティーネ・フォン・フリッケン嬢との恋愛を経てクララと出逢うことになったり、その生涯でも大切な時期だったようです。若きシューマンの、青春の輝きと躍動感が生き生きと息づいているように感じました。

ショパンのバラードでも、1番から4番まで、1曲ごとに丁寧な解説がありました。これらの曲は、ショパンの祖国ポーランドの詩人による詩から着想を得て作曲されたのだそうです。

1830年に発生した動乱(ワルシャワ蜂起)の影響で、20歳の時に旅立ったきり、二度と祖国の土を踏むことは叶わなかったショパン。バラード4曲は、その直後から作曲が開始され、約10年の歳月をかけて完成されました。

西洋クラシック音楽には本当に疎いものでして、見当違いな感想だと自覚していますが、ショパンは最初の一音がすごく特徴的で、印象的だな・・・と。

さらさらと美しく流れる清流のような流暢な演奏と言うよりは、風ひとつたたない、鏡のように静かな湖面に一滴の雫がポツー・・・ンと落ち、そこから小さく広がり始めた波紋がやがて大きなうねりとなっていくような・・・そんな印象を覚えました。

アンコールの最後は、恒例でもある「愛のあいさつ」。客席に漲っていた、静かで緊迫した空気は、この曲でふわっとほどけて、柔らかく穏やかになりました。

とても寒く、風も冷たい冬の日曜日でしたが、心は温かく豊かに満たされた1日でした。


【プログラム】


モーツァルト ピアノ・ソナタ第3番 変ロ長調 K.281 (1774年作曲 18歳)
第1楽章 アレグロ
第2楽章 アンダンテ・アモローソ
第3楽章 ロンド・アレグロ

ブラームス 3つの間奏曲 Op.117 (1892年作曲 59歳)
第1曲 アンダンテ・モデラート 変ホ長調
第2曲 アンダンテ・ノン・トロッポ・エ・コン・モルタ・エスプレッシオーネ 変ロ短調
第3曲 アンダンテ・コン・モート 嬰ハ短調

シューマン 交響的練習曲 Op.13 (1834年作曲 24歳)
第1練習曲 ウン・ポコ・ピゥ・ヴィーヴォ
第2練習曲
第3練習曲 ヴィヴァーチェ
第4練習曲
第5練習曲 スケルツァンド
第6練習曲 アジタート
第7練習曲 アレグロ・モルト
第8練習曲 
第9練習曲 プレスト・ポッシービレ
第10練習曲
第11練習曲 コン・エスプレッシオーネ
第12練習曲(終曲) アレグロ・ブリランテ



ショパン
バラード第1番 ト短調 Op.23 (1831-35年作曲 21-25歳)
バラード第2番 ヘ長調 Op.38 (1836-39年作曲 26-29歳)
バラード第3番 変イ長調 Op.47 (1840-41年作曲 30-31歳)
バラード第4番 ヘ短調 Op.52 (1842年作曲 32歳)

【アンコール】  

ショパン ノクターン第20番嬰ハ短調 レント・コン・グラン・エスプレッシオーネ
エルガー 愛の挨拶


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コメント 2

でるふぃ

とろりんさま、こんにちは。
素敵な記事をありがとうございます。

>ロマンとは、生きざまだと思う。
ほんとに・・ロマンを『音楽』や、『舞台』などという大きな括りで
言い切ることもできると思います。

仲道さんのお話は深くて、わかりやすくて、魅力的。
奏者の考え方、生き方がそのまま演奏に現れるのですよね。

ニュースで見ただけですが、宙組「翼ある人々・・」の、うららちゃんクララ、
私が思い描いていたクララ・シューマンのイメージにとっても近くて、
私、観たくてたまりませんが、我慢です。
by でるふぃ (2014-02-23 11:27) 

★とろりん★

でるふぃさま、

こんにちは、コメントありがとうございます。

本当に、音楽や舞台だけでなく、スポーツや仕事など、人が人として生きるあらゆる物事に「ロマン」は潜んでいるんだなぁと思いました。

仲道さんは数年に一度、タイミングが合えば聴きに行くのですが、年を重ねるごとにますます魅力的になられていく気がします。

うららちゃんクララ、イメージぴったりですよね。ポスターを拝見した時から素敵だな~、観に行きたいな~と思っていたのですが…が、私も我慢、我慢です(-_-;)。

by ★とろりん★ (2014-02-24 09:26) 

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