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第二十二回 続・志らく百席 [伝統芸能]

2013年9月5日(木) 横浜にぎわい座 19:00開演

【番組】

志獅丸 『ぞろぞろ』
志らく 『松竹梅』/『崇徳院』/『与話情浮名横櫛 黒澤明バージョン』



関ジャニ∞の横山裕・渋谷すばる君・村上信五の3名がナビゲーターを勤めるNHK総合テレビで放映中の「応援ドキュメント 明日はどっちだ」

まさに「崖っぷち人生」を歩む人々を取材する応援ドキュメンタリーで、ハラハラ・ドキドキすると同時に、三馬鹿トリオ(←関ジャニ∞の年上3人組をまとめて呼ぶときの愛称)の息のあったトークにほっこりする番組です。(←ひいき目)

8~9月に番組で取り上げられているのが、30代後半にして落語家になろうと決心した女性。7月に「立川志ら鈴」という名前で初高座を迎えました。

そして志ら鈴が弟子入りしたのが、立川志らく。

以前は年に数回、寄席に行ったり、どなたかの高座を聞きに行っていたものでしたが(主に桂歌丸師匠)、最近はずいぶんとご無沙汰しています。「懐かしいなぁ~、やっぱり落語って良いなぁ~」と思いながらテレビを見ているうちに、「そう言えば、志らく師匠の落語ってちゃんと聴いたことがないな」という気付いた私。

思い立ったが吉日~☆と言うことで、さっそく高座を聴いてまいりました。

平成16年~22年にかけて、志らくが横浜にぎわい座にて挑んだ「志らく百席」の続編にあたる企画。数年かけて落語を100席、高座に乗せるという試みで、現在は奇数月に開催されているようです。


開口一番 志獅丸 「ぞろぞろ」

前座は志獅丸。さっそく、「明日はどっちだ」をネタにマクラを披露。取り上げられた志ら鈴への差し入れが激増しているらしく、「お前は神様かぁ、なんて言ってるんですけど、こっちは神様が出てくる話でしてね」と噺へさらり。

とある稲荷さんの前で茶店を細々と営む老夫婦。信心深い夫婦は貧しくてもお詣りを欠かしません。そんなある日、夕立があり、道行く人が雨宿りをする傍ら、老夫婦が生活の足しにと編んでいた草鞋も買っていきます。ところがこの草鞋、天井から1足抜くとまた1足、さらに1足引き抜くとまた1足と、ぞろぞろと新しい草鞋が出てきます。これが稲荷の霊験だということで、茶店はあっという間に人気店に。

その噂を聴いた床屋さん、自分の店も閑古鳥だからどうにかして稲荷のご利益にあやかりたいとご祈願へ。数日後、床屋にも人がわんさか押し寄せます。床屋さん、ほくほくしながら1人の客の髭を剃ると、新しい髭が「ぞろぞろ」。

・・・という、不思議でバカバカしい噺。志獅丸はテンポ良く聴かせました。ただ、上下のメリハリがちょっとついていないので、時々「今、誰がしゃべっているのかな?」と一瞬わからなくことがありました。でも、これは高座を聴く事からずいぶん離れていて、自分の感覚がまだ取り戻せていなかったからかも知れません。


志らく 「松竹梅」「崇徳院」「与話情浮名横櫛 黒澤明バージョン」

志らくの高座は、「松竹梅」「崇徳院」を続けてかけ、仲入り後に「与話情浮名横櫛」。

「松竹梅」は、長屋に住む3人の職人の名前に松・竹・梅がついてめでたいと言うことで出入り先の婚礼に招かれた事から起こるドタバタ劇。

志らくはきちんと、松さん、竹さん、梅さんのキャラクターや性格もかいま見えるように噺を進めて、流石です!


続く「崇徳院」は、タイトル通り、百人一首におさめられている崇徳院の歌「瀬を早み岩にせかるる滝川の われても末に逢はむとぞ思ふ」をキーワードに、若旦那の恋を成就させるべく、熊さんが東奔西走する噺。

「急流の水は滝となって岩に当たり、二つに割れるが、またひとつの流れに戻っていく。同じように、貴女との仲が離ればなれになろうとも、いつかまた2人は結ばれ添い遂げる事ができるはずだ」という、ロマンチックで風雅なこの歌が噺のネタになるとは意外ですが、オチも意外です。まぁ、いつの時代にも恋煩いというのはあったのでしょうねえ・・・(微笑)。


そして今回の注目、「与話情浮名横櫛 黒澤明バージョン」

今は歌舞伎の人気演目のひとつである「お富与三郎」。最初にかけられたのは歌舞伎ではなく高座(講談)だと初めて知って、まず目からウロコ。

現在は十代目金春亭馬生師匠「与話情浮名横櫛」がベースとなっているようですが、「源氏店」以降の展開が歌舞伎で上演されるバージョンとは全く違い、これまた目からウロコ。

落語と歌舞伎の違いについては、下記のHPにて詳しく解説されています。写真もたくさんあって、勉強になるページです。
落語の舞台を歩く 第173話「お富与三郎」

そして今回は、「黒澤明バージョン」でかけるというものだから、みたび目からウロコ。

もとからある噺に、「黒澤明が『与話情浮名横櫛』を映画に撮っていたら」という想像上の設定を設けて、配役もそれぞれきちんと考えて、高座の途中で折々に黒澤らしいカメラアングルや演出手法も解説しながら、一気に駆け抜けた50分でした。

噺に登場した人物は全て実在した俳優・女優さんによるキャスティングがされております。お富=原節子、与三郎=森雅之、赤間源左衛門=三船敏郎・・・だったかな?あとは忘れてしまいました(汗)。

歌舞伎とは違い、恋模様のシーンはあっさり。それよりも、「源氏店」以降の展開に、人間の因果と業の深さ、絡み合う男と女の情念の行き着く果てが強烈にえぐり出されていて、その世界観に圧倒されました。

何度か繰り返される凄惨な殺しのシーンなどは、思わず息を殺してしまうほどの緊迫感。特に、お富と与三郎の最期のシーンなどは、恐ろしいほど静かな表情をした後、ハッと我にかえって半狂乱になるお富の一瞬の心情の変化が激流のように会場を満たし、終わった後はしばらく席を立てないほどの衝撃と余韻でした。

志らくの高座を一言で表現するならば、「気鋭」。全身にみなぎる鋭さと貪欲さは人並み外れています。マクラの端々に師匠である7代目立川談志のことが出てきて、深い敬慕の念が伝わってきました。


* * * * *


久しぶりにどっぷり落語を聴きましたが、すごく楽しいし、耳と頭をすごく使うので心地よい疲労感。集中と緩和のバランスが本当に絶妙ですよね、落語って。

本当は終演後、野毛あたりの蕎麦屋で一杯やりたいところでしたが、翌日も仕事だったのでそそくさと帰りました。なんとも野暮なオチですなぁ(笑)。


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