SSブログ

サントリー美術館 「沖縄復帰40周年記念 紅型 BINGATA 琉球王朝のいろとかたち」 [展覧会]

紅型チラシ.jpg
2012年6月13日(水)~7月22日(日) サントリー美術館
展覧会情報は、コチラから


サントリー美術館で22日まで開催していた「紅型」の展覧会に行ってきました。

「沖縄復帰40周年記念」と銘打たれた本展覧会ですが、サントリー美術館は沖縄が本土復帰する以前から、沖縄の伝統工芸品を集めた展覧会などを開催していました。1979年には、同じ染織でありながら技法や表現手法がまったく違う「津軽こぎん」とのコラボ展なども開催したそうです。

全国各地で生まれ育まれてきた、日本独特の「美」と「技」をとことん追求するサントリー美術館の姿勢には、毎回感心します。

紅型は、第二尚氏王統が琉球全土を統一した15世紀頃から生産が行われるようになり、18世紀半ばにはその技法が確立して、琉球王国の代表的な献上物のひとつとして知られるようになりました。

しかし、明治維新後に王府の後ろ盾を失ったその技術は衰退し、さらに沖縄戦により壊滅的な打撃を受けます。その後、沖縄の人々のたゆみない努力のおかげで、紅型工芸の技術は受け継がれ、現在では城間栄順先生をはじめとして、多くの紅型を目にすることができます。

今回の紅型展は、戦前に本土に渡ってきた紅型の作品を集めた展覧会。国宝や松坂屋コレクションなど、なかなか見られない作品が一堂に会しました。

1カ月あまりの会期中に3度も展示替えがあったそうな。会場に目にも華やかな紅型装束がずらりと並ぶ様子は、圧巻でした。ダイナミックにして繊細、大胆にして緻密、華やかでありながら優美。中国や日本など、外国からありとあらゆる「藝」と「美」を吸収し、独自のものに創り上げていった琉球王国。紅型はその真髄と言えるかも知れません。

展示構成は、以下の通り。

特別展示 琉球国王尚家に伝わる紅型衣裳
第1章 紅型の「いろ」と「かたち」
第2章 もうひとつの紅型―筒描
第3章 初公開 松坂屋コレクションの紅型衣裳

紅型というと、鮮やかな黄色地に赤や緑のビビッドな色彩で描かれたダイナミックな模様・・・というイメージがありますね。南国の強い日光に耐えうる顔料を使用するため、そのような色彩のものが多くなったようですが、やはり華やかでパッと目を惹きつけられます。

水色地菱繋ぎに松梅楓鳥模様衣裳.jpg
国宝 水色地菱繋ぎに松梅楓鳥模様衣裳(18-19世紀)

渋みの色地が落ち着きを醸し出していて、素敵。菱繋ぎの文様は、能装束を彷彿とさせます。裏地も凝っていて、桜や楓、扇模様などが無数に散りばめられています。こういったところにも、能楽の影響が繁栄されているのですね。

もうひとつ展示されていた「国宝 黄色地松皮菱に菊藤流水菖蒲模様衣裳」は、惚れ惚れするほどの鮮やかさ。

肩から袖にかけて菊と藤が、裾には菖蒲と菊、流水の文様がダイナミックに配置されていて、目が覚めるような華やかさです。キャプションには踊り装束として用いられたと書かれていました。南国の風にこの袖がふわりと翻り、優雅にターンする際に裾がひらめく様子は、得も言われぬ美しさだったことだろうな・・・と想像するだけでうっとりしました。

ここで気付かれた方も多いと思うのですが、実は菊や藤、菖蒲といった花は、もともと沖縄地域に咲くことはありません。そう、この装束の文様は、日本(当時は薩摩)から来る使者をもてなすために描かれたものなのです。

チラシ表に使用されている(↑トップの画像です)、「国宝 黄色地鳳凰蝙蝠宝尽くし青海立波模様衣裳」は、中国で幸福の象徴とされている鳳凰と蝙蝠が絶妙なバランスで配置されています。こちらはおそらく、中国からの使者を招いた宴で御披露目されたのでしょうね。

これまでの沖縄旅行でも感じましたけれども、琉球王国の外交手腕と言いますか、こういった「ソフト面」でのホスピタリティが究極まで突き詰められています。こういった心憎い演出が濃やかに考えられていると、ちょっと便宜をはかってやろうかな、とか思っちゃいますよねえ(笑)。


黄色地牡丹雲に菊尾長鳥模様衣裳.jpg
黄色地牡丹雲に菊尾長鳥模様衣裳(19世紀)

鮮やかな黄色に大胆な配置で菊と尾長鳥が描かれています。この黄色を見ると、やはり琉球を感じますね。

松坂屋コレクションは、戦後では初めての公開になるそうです。1611年に名古屋に誕生した松坂屋は、自社製品の新たなデザインの研究史料として、1931年頃から染織史料の収集を開始。その中に沖縄の染織も多数含まれていました。沖縄が戦禍に巻き込まれる約15年前のこと。非常に貴重なコレクションですね。


水色地菱草花に熨斗模様衣裳.jpg
水色地菱草花に熨斗模様衣裳(19世紀)

沖縄の青空を思わせる、爽やかな青い地に草花や熨斗模様が細かく描かれています。表は爽やかで涼やかな印象ですが、裏地は水色ながら、梅の花や楓の葉?がところせましとビッシリ描き込まれていて、賑やかな感じ。表と裏で季節感も空気感も全く異なるものなんだなぁと感心しました。


東京・沖縄での会期は終了してしまいましたが、秋には大阪・名古屋に巡回予定です。大阪・名古屋会場でしか見られない展示品もあるそうな。お近くにお住まいの皆様、ぜひ足を運んでみてください☆


【巡回日程】

大阪市立美術館:2012年9月11日(火)-10月21日(日)
松坂屋美術館:2012年11月3日(土・祝)-11月25日(日)


nice!(5)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:アート

静岡県立美術館収蔵名品展 「カラーリミックス―若冲も現代アートも―」 [展覧会]

110.JPG
2012年4月14日(土)~5月27日(日) 静岡県立美術館


「若冲ミラクルワールド」でも熱く語った通り、伊藤若冲が好きです。

若冲が、「桝目描き」という日本絵画史上でも稀に見る特異な技法で描いたのが、「樹花鳥獣図屏風(じゅかちょうじゅうずびょうぶ)」です。

桝目描きの技法で描かれた若冲の作品で、現存が確認されているのは3点のみ。うち1点は海外に、もう1点は個人所蔵となっており、定期的にその作品を観ることができるのは静岡県立美術館だけです。

今週、静岡県を旅していおた折り、ふいに耳に入ってきたのが「いま、静岡県美で『樹花鳥獣図屏風』が展示中らしい」という風の便り。もう、いても立ってもいられず、素早く用事を済ませて静岡県立美術館へダッシュ!!(←このあたりの決断力と瞬発力と行動力、日常生活でも活かしたいところです)

静岡鉄道「県立美術館前駅」から真っ直ぐ伸びる少し急な坂を、てくてく上っていきます。やがてその道は、緑と樹木に覆われて行き、ぽつん、ぽつんとアートなオブジェが点在するように。それらを眺めながら小高いの丘陵を上りきると、静岡県立美術館が出迎えてくれます。

現在、静岡県美では、収蔵作品の名品を集めた展覧会を開催中。そのタイトルは「カラーリミックス」。

展示のテーマは「カラー」。極彩色の絵画がならぶ「色の競演」から始まり、「モノクロームのリズム」、「闇から光へ―黒・紺・グレー―」、「自然の恵み―緑×青―」、「アースエモーション―情熱の赤・大地の黄」、「ゆらめく金」と、作品の持つ色彩に合わせて作品が展示されています。

「若冲[るんるん] 若冲[るんるん]」と小躍りしながら2階のチケット売場へ向かうと・・・


いきなり若冲キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!!

077.JPG
「樹花鳥獣図屏風」(伊藤若冲、18世紀)

の、高精度複製画です!!

うわ~、感激!!

スタッフさんに確認したところ、こちらはレプリカなので撮影OK(フラッシュ禁止)との事。さっそく激写大会に突入。

063.JPG
まずは右隻。

こちらは通称「獣尽くし」と呼ばれていて、23種類の動物が描かれています。麒麟など、空想上の生き物もいますよ~。

067.JPG
吉祥のシンボル、白象が中心に描かれています。

「桝目描き」というのは、ひとつひとつ桝目を描いた上から色を乗せて絵を完成させていく技法。

まず、淡い墨で約1センチ四方の桝目を作ります。その上から、絵柄に合わせてごく淡い色を薄くぬり、下地を作ります。次に、やや濃い色で桝目ひとつひとつを正方形に塗り込めます。正方形の隅にいちばん濃い色を重ねて、ようやく桝目ひとつが完成します。さらに必要なところに色を重ねたり陰影をつけて、ようやく作品全体が完成します。

「若冲ミラクルワールド」で紹介されていた「鳥獣花木図屏風(ちょうじゅうかぼくずびょうぶ)」(ジョー・プライス氏所蔵)では、作品が完成するまでに描かれた桝目は約8万6千個と言いますから、ほぼ同サイズの「樹花鳥獣図屏風」もおそらく同じくらいの枡目が描かれていると思われます。

ひとつひとつの桝目に色を付けて、それを8万6千個も重ねていく・・・想像するだけで気が遠くなるような作業です。しかも若冲はそんな作品を2点も創り上げているとは!本当に、この方の飽くなき挑戦心と探究心には脱帽です・・・。

066.JPG
鹿が不思議そうに見つめているのは・・・ラッコ???まるっこい感じが、とってもラブリー☆


068.JPG
テナガザル。かーわいい☆


062.JPG
続いて、こちらは屏風の右隻。

通称「鳥尽くし」と呼ばれているこちらの屏風には、32種類の鳥たちが描かれています。


108.JPG
若冲が生涯愛したモチーフ、鶏さんです。


070.JPG
高精度複製とは言え、鼻の頭がふれそうになるほど近づいて作品を見られるのは、嬉しい!!

よ~く顔を近づけて見ると、本当に細かい陰影やでこぼこの部分を表現するために、1センチ四方の桝目に細かく色が重ねられています。

そして何と言っても目を惹くのが、右隻の中心に大きく描かれている鳳凰。

075.JPG
力強く風にたゆたう尾羽のダイナミックなこと!!


072.JPG
鳳凰の胴をクローズアップ。

こうしてみると、陰影や羽毛の柔らかさを表現するために、若冲が多くの色を重ねていることがよくわかりますね。深緑や黄色、濃いめのピンクで塗られた部分は、屏風全体を観るようにして眺めてみると、ちょうど羽根のつけねや羽毛の陰影の部分として浮かび上がってくるのが本当に不思議。若冲マジックは、醒めることのない夢のようです。

個人的にいちばんのお気に入りは、コチラ。

107.JPG
鳳凰の尾羽の下にこっそり飛んできた、キュートなカワセミさんです☆

もちろん、会場内では本物の「樹花鳥獣図屏風」に出会えました!

なんかもう・・・感動というよりは、「やっと会えた」という思いで胸がいっぱいでした。

上で紹介してきた複製画もさすがの精密さですが、やはり本物の極彩色のきらびやかさ、発色の鮮やかさは及びませんね。見れば見るほど鮮明で、ダイナミックで、緻密で、圧倒的。

若冲の絵は、本当に魔術のようです。何度見ても、見返すたびに、新しい発見がある。

ガラスぎりぎりまで寄って細かい部分をじっくり観察しても、一度離れて全体を見ると、「あ、あんなところに○○がいる」。そしてもう一度間近に寄って見ると、「あ、○○の近くに▽▽がいる」。一度、絵の前から離れて、他の作品を見てからもう一度戻って見てみると、「え、そんなところに■■なんていたっけ?」とビックリして、またまたガラス際まで寄ってしまう・・・の繰り返し。1時間近く、その前から離れることができませんでした。

* * *

今回の展覧会では、日本に残っているもうひとつの桝目描きの作品も見ることができました!

白像群獣図.jpg
「白象群獣図」(伊藤若冲、18世紀)

こちらは個人所蔵なので、特別展などでないとなかなか見られないのです。「樹花~」と同じ技法でありながらモノクロームの濃淡だけで表現されたこちらの作品は、シックで風雅な空気を漂わせています。

白象を中心に、麒麟やイタチ、鹿、栗鼠などがぎゅっと集まっています。白象のまどろむような瞳とその様子を見守るイタチ、周囲を駆け回る栗鼠、白象の影でちょこんと休憩している鹿(←角しか描かれていない)。

白象のダイナミックな配置とは逆に、周囲に集まる動物たちはさりげなく寄り添うように描かれていて、若冲の遊び心を存分に楽しめる作品です。


* * *


この2点を見ることができただけで、既にテンション上りきって満足感&達成感MAXの私でしたが(笑)、もうひとつ、大好きな作品にも再会できました。

群青富士.jpg
「群青富士」(横山大観、1917‐18頃)

2008年に国立新美術館で開催された横山大観没後50年記念展で見た時以来だから、約4年ぶりです(その時の記事は、コチラ)。

金色に染まる空、それともむくむくとわきたつ白雲の中に悠然と突き出る、富士の頂。青々とした稜線と、頂にわずかに残る雪の白。シンプルかつダイナミックな構成と鮮やかな配色の妙に、何度見ても心を奪われます。


* * *


最後の会場「ゆらめく金」の部屋では、定期的に会場内の照明が消えていき、また点灯していくという仕掛けがされています。朝→昼→夕方→夜という時間の移り変わりによって、絵画に描かれた「金」がどのように表情を変えていくのかを体感できる仕組みです。

群鶴図屏風1.jpg
「群鶴図屏風」(石田幽汀、18世紀)

若冲とはまた違った、生き物の躍動感と生命力が凝縮された一作。見ているだけでエネルギーが湧いてくるような気持ちになります。


* * *


今回の企画展に合わせて、草間彌生さんの作品も期間展示されていました。


水上の蛍.jpg
「水上の蛍」(草間彌生、2000年)

草間彌生さんの作品にふれたのは、おそらくこれが初めて。「奇抜な色彩感覚と大胆すぎる構図」というイメージだったのですが、そのイメージが見事なまでに覆されました。

本当に美しい世界!コンテナくらいの大きさの箱全体が作品になっていて、鑑賞するにはその箱の中に入ります。扉が閉じられると広がるのは、蛍の光にあふれた無限の世界。自分の周囲の世界がこんなにも美しく見えるなんて・・・!

構造と素材は実はかなりシンプルなのですが、まるで夢の世界のよう。いつまでも、この世界に浸っていたくなります。

扉の開閉はスタッフさんがされていて、一定時間が過ぎると扉が空いて退室を促されるのですが、あまりにも離れがたくて、いったん部屋を出るや否や「すみません、もう1回入らせてもらって良いですか」とお願いして、再度入室させていただきました(笑)。


* * * * * 


閉館時間ぎりぎりまで粘って、たくさんの作品からたくさんの世界を感じることができました。

ああ、幸せな1日でした。

111.JPG

展覧会情報はコチラから


nice!(7)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:アート

未来への教科書 「写真展」 in 羽田空港 [展覧会]

001.JPG

12月26日まで、羽田空港で「未来への教科書 写真展」が開催されています。

詳しくはコチラのプレスリリースへ(pdf)

東日本大震災で被災した小中学校、避難施設と連携し、プロカメラマンの協力・指導を受けた被災地の小中学生自身が撮影した作品、約300点が空港第1ターミナル・第2ターミナル内で展示されています。

3月11日当日、津波から必死で逃げる小中学生たち。全壊した自宅の前に立ちすくみながら、それでも復興への静かな決意をにじませる教諭。体育館内を薄い板で仕切って作られた即席教室の中で勉強する生徒たち。がれきの中、部活の朝練に向かう男子学生・・・。あの未曾有の大震災の記憶の一瞬、一瞬が、子どもらしい真っ直ぐな視線で切り取られています。

とりわけ私が胸を打たれたのは、がれきが山のように積み上げられた港の堤防に残されたペイント。水色に塗られた壁面に「美しい海を輝く未来へ」(だったかな?)と大きな文字が鮮やかに浮かび上がっています。

このペイント、以前ひとりの中学生がこの堤防にいたずら書きし、地元の人の激怒をかってしまったため、生徒と先生でお詫びの意味を込めてきれいに塗り直したものなのだそうです。今、この言葉がこれほど胸に沁みることはありません。

あまり時間がなくて駆け足で見て回ったのですが、みるみるうちに涙があふれてきてしまって困りました。子どもたちの屈託のない明るさ、ひたむきさ、前を向くチカラ・・・たった15分間のなかで、たくさんのことを教えられました。

言葉では表現できないほどの思いが詰まった写真展です。できるだけ、できるだけ多くの人に見ていただきたいと思います。

しかし、第1ターミナル、第2ターミナルともに、手荷物受取場内や出発ゲート内など、セキュリティエリア内(←保安検査場を通過した人しか見られない)での展示。限られた人しか目にすることができないのが、何とも歯がゆいです。

私もこれだけ飛行機を利用していながら、先日ゲート前を偶然通りかかって、初めて知ったくらいです。もっと早く知っていれば、もっとゆっくりと見ることができたのに・・・。

次回はぜひ、一般の人も自由に行き来できるエリアでの展示を希望します。そして、これから羽田空港を利用する方には、ぜひとも御覧いただきたい写真展です。

【開催期間】

10月17日(月)~12月26日(日)

【展示エリア】

羽田空港国内線

*第1ターミナル(JAL) 
1階到着ロビー 手荷物受取場内
 

*第2ターミナル(ANA)
1階到着ロビー 手荷物受取場内
2階出発ゲートラウンジ内 65番搭乗口前


nice!(5)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:日記・雑感

香り かぐわしき名宝展 [展覧会]

香り かぐわしき名宝.jpg
2011年4月7日(木)~5月29日(日) 東京藝術大学大学美術館
展覧会情報はコチラ

チラシは、速水御舟「夜梅」一部(1930年、東京国立近代美術館蔵)。闇から少しずつほの白くなって見えてくる白梅。少しずつその姿を現すと同時に、花の香りも強く、濃くなっていくように感じられて、素敵です。

mamiさまのブログで紹介されていたこちらの展覧会。ちょっと珍しいコンセプトに心惹かれ、足を運びました。

「香り」にまつわる、あらゆる美術品を集めた展覧会。館内は「香」を想像させる様々な美術品や絵画が並べられているだけではなく、実際の白檀の木にふれたり匂いを楽しめたりできるコーナーや、王朝時代や植物をイメージさせる香を体験できるコーナーなども設置されています。展覧会全体が香のかおりに包まれているような空気で、とても気持ち良かったです。

「香」というと、平安王朝時代に衣服や髪に「香を焚きしめる」という風習があったことは知っていますが、6世紀の仏教伝来とともに中国からもたらされてきたものだとか。ですから当時の仏画などには、たいてい香炉が描かれているのですね。

衣装に香を焚きしめる道具やその様子なども再現されていて、とても興味深く見ました。


十一面観音立像.jpg
重要文化財 十一面観音立像
奈良~平安時代 8~9世紀 奈良国立博物館蔵

こちらは、白檀の木を使って彫られた仏像。香木で仏像を彫るという文化はインドで発生し、中国を経て、日本でも奈良時代から平安時代にかけて流行したそうです。

ちなみにこちらの仏像は、今でも台座の部分(だったかな?)に、わずかに香りが残っているそうですよ。1200年以上も香りがずっと残っているなんて、すごい・・・!


真木柱.jpg
土佐光吉 源氏物語絵色紙帖 「眞木柱」
江戸時代 17世紀 京都国立博物館蔵

源氏物語には香りに関連するさまざまな描写があるそうですが、この「眞木柱」では、玉鬘(たまかずら:源氏の養女)に惹かれた髭黒大将に嫉妬した正妻が、夫に向かって香炉を投げつける、という場面が描かれています。


三組盤.jpg
三組盤
1863年 松隠軒

「香」を使って遊ぶゲーム盤。「香木を聞き分けて、駒を進める競馬香、吉野の桜や 龍田の紅葉を立てる名所香、または矢を立てる矢数香の三種類の盤物の組香で使用する盤で、 すべての部品が箱状の盤に収まる」(ホームページより引用)そうです。

香道の展示もあったのですが、これほどまでに複雑で繊細なものだとは知らず、ビックリしました。いや、もうワタシには、説明文を読んでも何が何だか・・・?という感じで(苦笑)。実際にやってみる方が、わかりやすいのかな?

このゲーム盤は競馬を見立てたものですが、花見や歌舞伎の「吉野川」を見立てたもの等もあって、当時の日本人の美意識と教養の高さにあらためて感服しました。

写真はありませんが、野々村仁清による「色絵花笠香合」も、素敵でした~。内側にほどこされているブルーの彩色がぽわぽわとしていて、濃淡の具合が絶妙なんです。「色絵鶴香合」@サントリー美術館に続いて、ワタシの心をいつもわしづかみにしてくれるなぁ、仁清。さすが名人!

* * *

いちばん最後の展示室は「絵画の香り」という名称がつけられています。その名の通り、「香り」を連想させる絵画が一堂に会して、それはまた優雅な気持ちにひたることができます。

いちばん興味深く拝見したのは、2人の画家による「楚蓮香(それんこう)」。

楚蓮香、というのは中国唐代の頃にいたとされる絶世の美女。彼女が外を歩くと、その香りに誘われて蝶や蜂がついてきた・・・という伝説が残っているそうです。

まずは江戸時代の日本画家・円山応挙の描いた楚蓮香。

応挙楚蓮香 (1).jpg
円山応挙 楚蓮香図
1794年 白鶴美術館蔵

やわらかい物腰と馥郁たる風情が漂った、当世風の美女、といった印象です。


楚蓮香之図.jpg
上村松園 楚蓮香之図
1924年頃 京都国立近代美術館蔵

こちらは大正時代に描かれたもの。怜悧な美貌と優美なたたずまいが際立ちます。

こうして見比べてみると、画家の作風だけでなく、その時代が求めていた空気やトレンドなども感じ取ることができますね。

ちなみに上村松園はもう1作、楚蓮香を描いていて、そちらも合わせて展示されています。ですから、ひとつの展覧会で3作の楚蓮香に出会う事ができます。

* * *

こういった企画は、なかなかありそうでないと思うので、何だかいつもと違うワクワク感を胸に会場を後にすることができました。実際に白檀の香りをかいできましたが、すごく良い香りでした。周囲に人がたくさんいることを忘れて、思わずうっとり恍惚な気分に浸ってしまいました(笑)。

会場全体がかぐわしい香気に満ちているような、素敵な展覧会です。29日まで開催中ですので、興味のある方はぜひ、足をお運びください☆


開館50周年記念「美を結ぶ。美をひらく。」Ⅰ 夢に挑む コレクションの軌跡―新収蔵品初公開と名品勢揃い [展覧会]

夢に挑む.jpg
2011年3月26日(土)~5月22日(日) サントリー美術館
展覧会情報はコチラ

今年、開館50周年を迎えるサントリー美術館の記念展。

開館以来、「生活の中の美」をコンセプトを数多の美術品を収集してきたサントリー美術館。今年は第Ⅰ期から第Ⅳ期に分けて、収蔵品のみを展示する展覧館を開催。約1年をかけてサントリー美術館の歴史と将来を見つめていく企画です。今回は第Ⅰ期。

まず入場すると、これまで開催された中でも代表的な展覧会ポスターがズラリと貼られています。

沖縄県が日本に復帰した1972年5月15日前後の日程をまたいで開催された展覧会「特別展観50年前の沖縄-写真で見る失われた文化財-」のポスターには「琉球政府」という文字が。新しい時代に先駆けたタイムリーな企画性と、それを実現させる意欲的な姿勢に関心しました。

もうひとつ驚いたのは、1984年に「異色の江戸絵画 -アメリカ・プライスコレクション」を開催し、伊藤若冲の作品を中心としたジョー・プライス氏のコレクションを、いち早く日本に紹介していたこと。

日本国内で若冲の知名度と評価が高まったのは、ここ10年ほどの事。さらにそれよりも20年近く前に、すでにプライスコレクションの価値を見いだしていたというのは、すごい先見性だと思います。

ちなみに、この時のポスターに使われたのは、おそらく「紫陽花双鶏図」の雄鶏の部分。最近、「若冲ミラクルワールド」で若冲の描いた鶏を見まくっていたので、「あら、こんなところで久しぶり~」みたいな親近感を感じちゃいました(笑)。

* * *

今期の展覧会は、サントリー美術館の収蔵品でも代表的なものを展観するとともに、新たにその仲間入りをしたものを初公開。

「生活の中の美」をコンセプトにしているだけあって、そのレパートリーは絵画から屏風、器など多種多彩。その中でもやはり、茶器や陶磁器など、「器」と屏風のコレクションは素晴らしいものがあります。

薩摩切子藍色被船形鉢.jpg
薩摩切子 藍色被船形鉢
19世紀中頃

透明感のある深い藍の中に浮かび上がる蝙蝠(こうもり)と巴の文様。ユーモラスな中にも職人の煌めくような技を感じる逸品です。


段流水海松貝模様縫箔.jpg
能装束 段流水海松貝模様縫箔
江戸時代 18~19世紀

こちらはね、5~6種類くらいの貝が集まってひとつの模様になっているのですが、よ~く見ると、それぞれの貝の配置や種類などが少しずつ入れ替わっていて、どれひとつとして同じ模様がないんですよ!芸が細かい~!!(←出た職人芸ラブ)


色絵鶴香合.jpg
野々村仁清 色絵鶴香合
江戸時代 17世紀後半

これ、大好き!いつ見ても本当に大好き!もう、色々な角度から見まくってきました(笑)。

何かの気配に、ついと首をのばして一点を凝視する鶴の一瞬の表情と動きを、鮮やかに切り取った名品。

全体のたたずまいの品の良さと言い、小首を傾げるようにしながらしなやかに伸びる細い首と言い、わずかにふくらみを感じさせるのど元のフォルムと言い、完璧。

幅3.4センチ、奥行7.7センチ、高さ9.7センチという小さな世界に、これだけイキイキとした命の息吹を感じさせるなんて・・・。ため息しか出てきません。ほんま、めっちゃええ仕事してはるわ・・・(感涙)。


* * *

そして、今回いちばん楽しみにしていたのは・・・新しく仲間入りしたという、若冲の作品!

・・・だったのですが、若冲の作品は会期前半のみの期間展示だったようです。ゴールデンウィーク中に行った時には観られなかったので、後半にもう1度行ってみたのですが、この時も見ることはできませんでした。

でも・・・、これはちょっと不誠実だなぁ、って思いました。

展覧会公式サイトの展示構成には「新収蔵品初公開 《雪舟から若冲まで》」と明記されていて、館内の展示スペースの看板や配布されている展示替リストにも、そうはっきり書いてあるのですよ。彼らの作品を、看板にするほど目玉としているのであれば、全期間、きちんとその作品を展示するべきだと思います。(ちなみに雪舟の作品も、後半は見られませんでした)

・・・と憤っても、見られないものはどうしたって見られないので、ショップでポストカードを購入。

墨梅図.jpg
伊藤若冲 棲鸞園画帖「墨梅図」
江戸時代 18世紀

水墨画です。墨の濃淡だけで示される雄弁な表現力と、と迷いのない力強い筆の動きが冴えます。

若冲ミラクルワールド」で、「水墨画」という新しい若冲の魅力を発見したので、まさにこれを見てみたかったのですが・・・。ちょっとがっくり、でした。

同じく「棲鸞園画帖(せいらんえんがちょう)」におさめられている円山応挙「酔李白図」は、会期後半のみの展示。

こちらは応挙らしい、優しくまろやかな線と着衣に色付けされた淡い色合いが、ふわふわと夢に遊ぶ李白の様子を表現していて、思わず笑みがこぼれてしまいます。こういう時のうとうとって、最高に気持ち良いんですよね~☆

酔李白図.jpg
円山応挙 棲鸞園画帖「酔李白図」
江戸時代 18世紀


もうひとつ、尾形光琳作と伝えられる「秋草図屏風」(重要美術品)も素晴らしかったです。萩や桔梗など秋の草花が描かれている中、白い菊の花だけは胡粉を盛り上げて白く浮き上がるような立体感を見せています。純白の花弁
1枚1枚が、まるで活きているようでした。

* * *

私自身が、サントリー美術館が素敵だな、好きだなと感じる理由は、きっと「日本のもの」をすごく大切にしているからだと思います。こちらの展覧会を見に行くたびに、「日本に生まれて良かったな、日本人で良かったなぁ」としみじみ思えるんですよね。

「日本の美」を再確認し、日本という国が生み出した美しい文化を、ありとあらゆる側面から、あらためて感じることのできる展覧会です。


マリー=アントワネットの画家 ヴィジェ・ルブラン展 -華麗なる宮廷を描いた女性画家たち- [展覧会]

vigee le brun.jpg
2011年3月1日(火)~5月8日(日) 三菱一号館美術館
展覧会情報はコチラ

マリー=アントワネットの肖像画を数多く描いた画家として名高いエリザベト・ルイーズ・ヴィジェ・ルブラン(1755~1842)を中心に、15世紀~18世紀に活躍した女性画家の作品を一堂に会した展覧会です。

アントワネットの肖像画にピンクとパールをあしらったラブリーなチラシには、“18世紀の「カワイイ」を描いた女たち。”というキュートなコピーが印刷されていて、これだけでも心がウキウキします。

現在、私たちが認識しているマリー=アントワネット像は、このヴィジェ・ルブランによる肖像画からイメージされることが多いのではないでしょうか。それだけ、マリー=アントワネットが信頼し、心を許していた画家とも言えるのですね。その結果、フランス革命直前のロココ文化の最高潮の時代を写し取ることのできた画家とも言えます。

展示されている作品はすべて、女性画家たちによるもの。ルイ15世の時代から、女性のたしなみのひとつとして絵画を学ぶことが広まったそうです。本展ではルイ15世の妃であるマリー・レクジンスカによる作品群も見ることができます。

18世紀に入ると、女性の社会進出が本格化するとともに、女性画家の活躍の場も徐々に広がっていったそうです。ヴィジェ・ルブランがマリー=アントワネットの肖像画家として重用されるようになったのも、この時期からです。

展覧会は、たしなみのひとつからプロの女性画家が台頭するまでの歴史と、ヴィジェ・ルブランの画家としての生涯を追いながら、それぞれの時代の作品を楽しみことができます。

モデルは女性が多いのですが(勿論、男性の肖像画もありましたが、本当に数えるほど)、華やかな宮廷衣裳がとても華やかですし、やはり同性に描いてもらっているという安心感でしょうか、表情もふんわりと柔らかい感じがします。何よりも会場全体が優美で夢々しい空気に包まれていました。

クリュソル男爵夫人.jpg
ヴィジェ・ルブラン、
『クリュソル男爵夫人、アンヌ=マリー・ジョゼフィーヌ・ガブリエル・ベルナール』
1785年、オーギュスタン美術館蔵


ハッとするような赤のドレスや黒の帽子の質感、毛皮の手触りが丁寧に描き出されています。キュッとしまった美しい身体のラインが印象的で、何だかすごく心に残った絵でした。

個人的にいちばんテンションが上がったのは、マリー=アントワネット肖像画の斜めに展示されていた、ポリニャック公爵夫人肖像画。迷わず『ベルサイユのばら』を思い出して、「おおっ、ポリニャック夫人や!」と一人でウハウハしてました(笑)。

ポリニャック公爵夫人.jpg
ヴィジェ・ルブラン、
『ポリニャック公爵夫人、ガブリエル=ヨランド・クロード・マルティヌ・ド・ポラストロン』
1782年、ヴェルサイユ宮殿美術館蔵


思わず肖像画の前で、「もんくがあったらいつでもベルサイユへいらっしゃい!」と言い放ちそうになりました(笑)。
(※マンガ『ベルサイユのばら』より)

ちなみに、ヴィジェ・ルブランも『ベルばら』にこっそり登場しているのですよ~。マンガをお持ちの方は、ぜひ探してみてください(笑)。

どの作品も砂糖菓子のように優しくて甘くて、夢見心地になれる展覧会です。来館者はやっぱり女性の比率が高かったです。ちなみにイヤホンガイドのナビゲーターは、大地真央さんでした。

小学生くらいの女の子の美術館初体験にも最適かも、と思いました。お姫様に憧れる年頃でしょうし、ちょっと大人っぽい体験もできるし。

鑑賞後も、ウキウキと華やかな気分になれる展覧会でした☆


没後25年 有元利夫展 天空の音楽 [展覧会]

2010年7月3日(日)~9月5日(日) 東京都庭園美術館
ホームページはコチラ


いつも読ませていただいてる
mamiさまのブログで開催されているのを知り、これは絶対に行きたい!行かねば!と思っていた有元利夫(1946~1985)の展覧会。

好きな画家を挙げよと言われたら、東山魁夷と有元の名前を必ず出すと思います。未来を嘱望されなから、38歳の若さで夭折した有元。不思議な静けさと穏やかさに包まれた彼の作品は、見る者の心を鎮め、内面を映し出すかのようです。

有元の絵を初めて見たのは、中学生の時。母に連れられて奈良そごうで開かれた展覧会でした。おそらく母が好きだったのだと思いますが、その時の第一印象は、「不思議だけど、なぜか心惹かれる絵」。そしてそれは、約20年ぶりに再会した今回もまったく変わっていませんでした。

(mamiさまへ:mamiさまの記事へのコメントには「小学校6年のとき」と書いたのですが、図録で展覧会歴を確認したところ、もう中学生になってました>汗。でも、場所は奈良のそごうで合ってました。記憶違いとは言え、サバ読んですみませんm(_ _;)m)

目黒駅から徒歩5分。都心とは思えない広大な敷地には、自然のままの森が広がり、夏の青空と鮮やかなコントラストを見せていました。

CA393964.JPG
毎日本当に暑いけれど、やっぱり夏の空の青さは格別ですね。

アール・デコ様式で彩られた館内には、有元の静謐な空気を漂わせる作品たちがしっくりと馴染みます。普通の美術館とは違い、もともとは貴人の住まいとして建てられた庭園美術館。柔らかで穏やかな空気が、並べられた作品により一層の温もりを与えているように感じます。

有元の作品は、モチーフとなるような主題がほとんどありません。どこか、見る者の心象に委ねられているようなところがあります。今回は作品タイトルとともに有元が生前残した言葉や文章の数々も紹介されており、より彼の作品の深いところを探っていく手助けになりました。

最初に出迎えてくれるのは、有元の代表作でもある「ロンド」(1982)と、「花降る日」(1977)。

※作品はすべて美術館ホームページより引用
ロンド1982.jpg
「ロンド」(1982)

この不思議な浮遊感は、彼の作品の大きな特徴です。

花降る日.jpg
「花降る日」(1977)

螺旋状の坂道を静かに上っていく、女性と思しき人物。直線的な金色の光線と、浮遊する花弁。どこの世界のどんな人物なのか、説明はまったくありません。

この「説明がない」というのが、私には心地良いのかも。思う存分、その作品の世界について想像を張りめぐらせることができますからね。

有元の作品はフレスコ画の技法を応用したような作品がとても多いのですが、この作品もそう。顔を近づけてよく見ると、ひび割れや剥離した部分がいくつもあります。

フレスコ画には欠損がいっぱいあって、そこが白い漆喰で埋めてあったり、剥離したのがその辺にボロボロ落ちていたり、時間の経った色の上にさらに埃がかかっていたり、いかにも時間そのものが食い込んでいる感じがして気持が安らぐ。
(有元利夫:展覧会図録より)


欠損・欠落というのも有元の作品にとって重要なキーワード。彼の作品では、人物の手と足が細かに描かれていません。また、腕や身体の一部が物体によって隠されていたり覆われていたりするのがほとんどです。

厳格なカノン.jpg
「厳格なカノン」(1980)

有元の言葉によると、手は顔の次に感情が豊かであること、そして足を書くとその絵が説明を帯びてしまう-歩く、座る、走る、など、「何をしているのか」が明確になってしまうから、だそうです。描かれるモチーフを暗示や象徴にとどめることによって、描き手の一方的な発信を抑えているところに、彼の作品の最大の魅力があります。

もうひとつの重要なキーワードは、作品に描かれる人物はほとんどが「ひとり」であるということ。いちばん最初にご紹介した「ロンド」は本当に珍しいくらいの人数構成で、後はほとんどと言って良いほど、登場人物は「ひとり」です。

大学の卒業制作の頃は1枚の絵に複数の人物を登場させていますが、それ以降はほぼ
全ての作品において、登場人物はひとりになっていきます。

テアトルの道.jpg
「テアトルの道」(1980)

なぜひとりなのか。簡単に言えば、関係が出てくるからです。

関係というのはその「場」とそこの居る人とのものだけでいいんじゃないか。居る者同志の関係はもういらないという気がします。
(有元)


ああ、だから私は有元の絵が好きなんだなぁと納得。聖書や歴史の出来事を主題にした絵画など、複数の登場人物が描かれる作品ですと、「この人物とこの人物の関係は…この人物が手にしている道具が意味するものは…」と、「絵」以外のことに頭を働かせがちですが、「ひとり」が描かれている作品だと、よりじっくり、その絵「自身」と対峙できます。

今回、私がとても心惹かれたのは「音楽」という作品(1982)。

ホームページやネット上では画像を見つけることができませんでしたので、図録に掲載されているものを撮影。うう~む、ちょっと暗くなっちゃった…。やっぱり、繊細な色合いが、まったくキャッチできていないなぁ…。

全体的には、もっと明るくて、空の青がやわらかく広がっています。

CA393975.JPG
(クリックで拡大表示されます)

作品の寸法は130.3×162.1センチ。今回ご紹介した作品の中では、いちばん大きなサイズです。

キャンバスの中央には、女性とおぼしき人物が何も身につけない姿で大きく描かれています。テーブルの上に腕を置き、顔だけを自分の右方向(鑑賞者から見ると絵の左側)に向けて何かを見つめ、その口元には淡い笑みをたたえています。背景には緑がところどころ生えたなだらかな丘陵と遠くにかすむ山々の稜線。そしてそれらすべてを覆い包むように広がるのは、霞がかったように淡く、透明な空。

とてもシンプルな構造、とてもシンプルな色合いなのに、その絵を押し包んでいる大らかさ、自然さに惹きつけられました。

むき出しの肌は一見柔らかくか弱そうに見えるのに、その身に受ける全ての出来事を受け止めることを恐れないしなやかさ、強さを感じます。そのことを気負うわけでもなく、ただ「それ」を受け止める。そして通り過ぎていくのを見つめている。

ただ、そこに居る。

あるがままでいるということ。自然のままでいるということ。ただ「居る」ということ。人間のあり方として、究極の理想かもしれません。

この作品は本当に心惹かれてしまって、何度も何度も展示されているお部屋に戻っては、ひたすら食い入るように見つめていました。

有元はバロックを音楽をとりわけ愛していて、アトリエにはいつもバロック音楽が流れていたそうです。自身もリコーダーを演奏したり作曲を行ったりしたそうですが(展覧会ホームページで彼の作曲した「RONDO」を聴くことができます)、彼の作品は、古楽の音色がとても似合う雰囲気ですよね。

有元の作品をこれだけしっかりと見ることができたのは、上述の中学生の時以来。彼の作品を、もう一度きちんと見たいなぁとずっと思っていたので、本当に嬉しい展覧会でした。知らない作品にも出会うことができましたし。あまりの嬉しさに、順路を2往復してしまいました(笑)。

ブログを通じて展覧会をご紹介くださったmamiさま、本当にありがとうございます!!

図録もしっかりと購入。単行本サイズをちょっとだけ大きくした感じで、ソフトカバーで軽いので迷わず購入しました。家に保管しがちになっちゃう図録ですが、このサイズでこの仕様だと、外出時のパートナーとして連れていけるのが良いです。しばらくは、バッグの中に入れておきそう。いつも有元の絵と一緒にお出かけできます♪

有元利夫の作品は「小川美術館」というところがたくさん所蔵しているようだったのでちょっと調べてみましたところ、何と半蔵門駅が最寄り駅だということが判明しました(ホームページはコチラ)。とろりんの出没エリアに肉薄しているじゃないですか!と、灯台もと暗し過ぎる…。

常設展示はないそうですが、毎年2月に有元の展覧会を開催しているとのこと。また有元の世界にふれる機会ができそうです。

懐かしい知人に出会ってたくさんおしゃべりを楽しんだような、そんな幸せなひとときでした。

東京都庭園美術館では、8月14日(土)~20日(金)にかけて夜間開館を実施するそうです(20:00まで延長。ただし、入館は19:30まで)

夏の夜の少し落ち着いた時間、そんな時間に鑑賞すると、また作品の新しい魅力を発見できそうですね。


サントリー美術館 「能の雅(エレガンス)、狂言の妙(エスプリ)」 [展覧会]

CA393873.JPG

2010年6月12日(土)~7月25日(日) サントリー美術館
展覧会情報はコチラ

情報が出た時から、これだけは絶対に見たい!!と思っていた展覧会。金曜の夜に行きましたが、予想を裏切ることなく、見事に暴風雨に見舞われました(笑)。乃木坂駅から東京ミッドタウンへ、ものの数分歩いただけでずぶ濡れ~[霧][雨][霧] 

仕事帰りに立ち寄ったのですが、この日はミニレクチャーも開催されたので、夜の時間帯でも結構多くの方が来られていました。

2008年に開場25周年を迎えた国立能楽堂が所蔵している能装束や面、資料などの展示。場内には簡易的な能舞台も設営され(橋がかりなし)、期間中に何度かミニレクチャーが開かれていた様子。背景にはちゃんと鏡板の幕もありましたよ。「あの松、どこかで見たことあるなぁ…」と思っていたら、国立能楽堂の鏡板の松を複写したものでした。そうか、だから見覚えあったのか…(笑)。

入場してすぐにミニレクチャーが始まるというので、展示を見る前に、先に能舞台へ。この日は観世流梅若会の若手能楽師、松山隆之師ら3名による能装束と面についての解説でした。

しかし、能楽師の方はね、ほんっと~~~~に皆さんお声が良い!!心地よい低音と落ち着いたお話し方で、さすが、能楽にはアルファ波が出ていると言いますが、本当ですねっ☆(要は、たった20分のレクチャーですっかり熟睡してしまったというまさかの失態)

レクチャーは、舞台に出るための装束の着付と、鬘をつけて面をつけるまでを実演しながら解説していく、という流れ。最後は仕舞(『熊野』)も舞ってくださいました。

能装束は、錦で作られていることが多いそうのですが、これは昔、まだ能舞台が野外にあった頃からだそうです。というのも、錦は自然の光を浴びた時のきらめき方、光の反射の仕方が非常に美しいのだとか。上流階級のたしなみだったから自然な流れで豪華な素材になっていったのかな、と思っておりましたが、それだけではないのですね。

能舞台が設営されていた第2展示場は、吹き抜けスペースで片側は全面ガラス張りになっているので(直射日光は入らない建築デザインになっています)、午後の部のレクチャーの時などは、きっとまた装束の見え方も違うのでしょうね~。

自然の光をも装飾にしてしまう能装束…薪能や野外能、機会があればぜひ行ってみたいと強く思いました。(←過去3回、行く予定にしていた野外能を荒天のため中止に追い込んでいるヒト)

レクチャーの後に、展示を鑑賞。4階は能装束と面、3階は狂言装束と能楽について中世に記された資料などが並んでいます。

舞台と客席の距離が比較的近い能楽ですが、これだけ間近で装束や面を見ることができないので、本当に貴重な時間でした。1領の装束に、本当に気の遠くなるような細かい作業が幾重にも施されていて、注文した人のみならず、制作者の熱意や誇りがひしひしと伝わってきます。

中でもいちばん素敵だな~と思ったのは、桃山時代に制作された「白地草花禽獣模様肩裾縫箔」。白地の装束の裾と背中の部分に山里の草花と鹿や鶏などの動物が縫いこまれています。

レクチャーをしてくださった能楽師の方が教えてくださったのですが、鶏さんは親子なのですが、その傍らには卵が…。そしてよく見ると、その卵の中からひな鳥が、ぴょこんと頭を出しているのです!!うわぁ、こういう遊び心があるなんて!素敵だなぁ。

優美で典雅なイメージのある能装束ですが、こういう素朴で力強い意匠もあるのですね。

もうひとつ、シテ方宝生流が『道成寺』を舞う際に必ず着用するとされている雪持椿の意匠をあしらった「紅地雪持椿模様唐織」も、華やかさの中にも柔らかさ、優しさのある装束です。

「道成寺」を勤める時だけに着用する装束の柄は各流派によって決まりがあるのですが、やはり江戸時代にはそれが確立していたのですね。

特別展示は、加賀藩前田家伝来の能装束。

能装束は、製作時期などの詳細な記録が残されていないので、制作時期も曖昧なのですが、前田家伝来のものは、いつ、誰が、何のために(どのような場で舞うために)、誰に制作を依頼したのか、という記録が装束ひとつひとつにきちんと残されているのだそうです。

確かに、展示替えリストを見てみると、他の展示品の制作年代が「○○時代 ○○世紀」と記載されているのに対して、前田家伝来の所蔵品については、「文化5年」や「文化5年 閏2月」など、かなり詳しく記載されています。こういうのは本当に貴重ですね。

その前田家伝来の装束のひとつ、「紫地霞鉄線模様舞衣」は、深みのある紫地に、金糸で鉄線の意匠が施されています。とても豪華なのに、色合いに深みがあるので華美なイメージにはならず、むしろ深みと静けさを感じさせます。時の経過とともに、良い感じで「さび」の風情がにじみ出ていて…心が落ち着きます。

3階は狂言装束と面、謡本や能楽図などの資料の展示。実は、狂言装束も楽しみにして来たのですが…展示してある肩衣の数が、少なすぎるーーっっ!!!8点だけなんて、ひどいっ!!(涙)

もちろん、他に素襖や袴なども展示されていますし、展示替えもあるのですが、やっぱり肩衣フェチとしてはですね、1ケース分くらいは肩衣の展示をしてほしかったなぁ。(肩衣フェチについての記述はコチラ→大蔵流山本会 第44回青青会

狂言面は、武悪や『釣狐』の狐の面など、見ごたえがありました。面の縁を少し削ってあったりと、演者のやりやすいように工夫がされている様子などがうかがうことができます。

少し話がさかのぼりますが、3階には能面の展示がありまして、裏側もしっかり観察できるようになっています。裏からのぞくと、演者の視界の小ささなどがよくわかります。

松山師は「(能面から見える)視界は非常に狭いので、目の部分からはほとんど何かをとらえるということはない。足の裏から伝わってくる(能舞台の)板目などを感じながら舞台の寸法を想像して動いている」とのお話でした。おおお~、なるほど…。

狂言装束についてはちょっと注文があるものの(苦笑)、これだけの数の能装束を間近で見ることができる貴重な機会です。ここ最近、能楽堂から少し足が遠ざかっていたので、こういう形で能楽の空気を感じることができて、とても嬉しかったです。


nice!(1)  コメント(2)  トラックバック(0) 
共通テーマ:演劇

「japan 蒔絵 -宮殿を飾る 東洋の燦めき-」展 [展覧会]

09 japan.jpg

2008年12月23日(火)~2009年1月26日(月) 
サントリー美術館 



近年、初売りがどんどん早くなっているように、美術館も年が明けて早くからオープンしています。サントリー美術館も、お正月2日からオープンしているとの事で、さっそく現在開催中の「japan 蒔絵」展を見てまいりました。

美術館は、通常通り午前10:00開場。先着100名にオリジナルポストカードを配布する、との事で、開館10分前に行ってみました。

時間になってゲートが開くと…幸運なことに今年1人目の入場者として入ることができました♪2009年のサントリー美術館、一番乗り~♪



さて、今回の企画展。会場は7つに分けられ、蒔絵の華やかな作品を満喫しながら、日本の漆工芸の成立、その技術と作品がどのようにしてヨーロッパへ伝わり、愛好されるようになったのか、そして日本の歴史と世界の歴史が蒔絵を通じてどのように交差したのかを知る事ができます。

当時、同じようにもてはやされた中国製の陶磁器が「china」と呼ばれたのに対して、日本が生んだ蒔絵の工芸品は、「japan」と呼ばれたのだそうです。まさに、日本文化を象徴する工芸技術だったのですね。

日本の漆工芸は長い歴史と日本独自の伝統を誇り、16世紀には既に国内でも高級工芸として認められていました。南蛮貿易が盛んになった17世紀から蒔絵の技法を使った品物はヨーロッパに向けて輸出されます。ヨーロッパの王侯貴族は競って蒔絵を集めるようになり、一大コレクションが形成されました。

この展覧会では、蒔絵工芸の誕生から南蛮貿易を通じた蒔絵と世界の出会い、そしてヨーロッパの貴族たちに愛された品々を展示しています。

蒔絵人気がいちばん高まったのは、17~18世紀頃。「東洋趣味(シノワズリ)」と呼ばれる東洋的な文化が珍重された時代です。蒔絵は高級品としてとても人気が高かったそうです。蒔絵の熱烈なファンだったとされているのが、「ロココの女王」として有名なポンパドゥール侯爵夫人や、ルイ16世の妃、マリー・アントワネットでした。当時の流行の最先端をゆく王侯貴族に愛されたことが、蒔絵の爆発的な人気を生んだのでしょうね。

会場には、マリー・アントワネットのコレクションも展示されています。母マリア・テレジアが漆器の愛好者だったそうで、彼女の死後、マリー・アントワネットがその品々を譲り受けたことから、自らも好んで収集するようになったそうです。

マリー・アントワネットのコレクションは、日本の古典作品や扇子を題材にしたものがとても多く見受けられました。彼女のコレクションの一部を少し紹介しますと…

◆黒主蒔絵香合 = 大伴黒主(六歌仙)
◆井筒蒔絵小箱 = 能「井筒」
◆古今集蒔絵小箱 = 古今集
◆源氏蒔絵硯箱 = 源氏物語
◆小督(こごう)蒔絵小厨子棚 = 平家物語

…と、箇条書きにしてみただけでもこれだけあります。

マリー・アントワネットは、小さくて可愛らしい、しかもきめ細やかな技を感じさせる作品が好きだったようです。例えば「小箱」でも、六角形の小箱を開けると、さらに小さな菱形の小箱が見事に組み合わさって入っていたり、扇形の小箱を開けると、さらに小さな扇形の小箱が入っていたり。

上述の「古今集蒔絵小箱」は、綴り本のデザインがほどこされた小箱を開けると、さらに小さな綴り本形の小箱が4つ、きちんとおさまって入っているのです。思わず、小さな歓声を上げてしまいました。

展示を拝見して実感したのが、「日本って、すごいっ!!」ということ。(おおざっぱな感想ですみません)

華やかで美しいデザインと知的好奇心をくすぐるデザインの緻密で豊かな想像力や構成力は言うまでもなく、それを完璧なまでに表現してしまう高度な技術ときめ細やかな観察眼は、素晴らしい!!決して主張はしていないのに、圧倒的に優美な存在感。これぞニッポンの美学!!と快哉を叫びたくなります。

日本の近代化を支えてきたのは、手から手へと伝わり、受け継がれてきた「人の力」なのだと、しみじみ感じました。

サントリー美術館

展覧会の概要については、コチラ → サントリー美術館 開催中の展覧会


nice!(4)  コメント(2)  トラックバック(1) 
共通テーマ:アート

国立新美術館「モディリアーニ展」 [展覧会]

先日、とろりんさんのうっかり勘違いで果たせなかった「モディリアーニ展」@国立新美術館。金曜日の夜は20時まで開館しているとの事で、無理やり定時退社して乃木坂まで行ってまいりました。

CA390310.JPG
まるで宇宙船の中にいるかのような、館内。

続きを読む


nice!(7)  コメント(8)  トラックバック(1) 
共通テーマ:アート

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。