朗読劇 『天切り松 闇がたり』 第一夜 闇の花道 [講座・現代演劇]
2006年6月13日(火) ニッポン放送 イマジンスタジオ 19:00開演
お仕事の関係でご招待をいただき、朗読劇を観賞。
公演チラシを拝見するまで、「すまけい」と「ハナ肇」がごっちゃになっていた
自分に気が付くお茶目な私…(苦笑)。
「演劇」のカテゴリーを作っていませんでしたので、ここは尺八の演奏あり、
ということで「伝統芸能」カテゴリーに入れておきます。
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「天切り松 闇がたり」は、浅田次郎の原作で1999年に単行本が出版され、
現在は第3巻「初湯千両」までが揃っています。
時は現代。大正末期から昭和初期にかけて東京を席巻したスリの大親分、
安吉の門下であった松蔵という老人が夜な夜な語る、怪傑たちの小気味よい物語です。
予習を兼ねて文庫本で第1巻だけ読んでみたのですが、どれも温かいお話ばかりで、
しかも必ず1ヶ所や2ヶ所は泣き所があって、単純な私は毎回見事にそこにハマッて、
感動の涙を流しながらページをめくっていました(苦笑)。
今回は第1巻「闇の花道」より、第一夜「闇の花道」と、第ニ夜「槍の小輔」を上演。
すまけいの朗読、鷲尾真知子の演技に、藤原道山による尺八の音色が味わいを深めます。
【あらすじ】
ある晩の刑務所。
「松蔵」と名乗る1人の老人(すまけい)が、自分の身の上を語りはじめます。
東京中でその名を聞いて震え上がらない者はいないという怪盗一家のボス、
安吉に預けられる事となった松蔵は、兄さん姐さんたちにしごかれながらも、
当時は「芸術」「職人技」とまで言われていた怪盗稼業の修行を積むこととなります。
一家の紅一点、おこん姐さん(鷲尾)は、「ゲンノマエ」という技にかけちゃあ
超一級品の腕前。(あ、説明がやけに江戸っ子っぽくなってきましたね>笑)
「ゲンノマエ」と言うのは、正面切って相手の懐から貴重品を抜き取る技で、
玄人でも見抜くことができないから、「玄の前」と名付けられたそうな。
おこん姐さんの最近の大手柄(?)は、時に権勢を誇っていた山県有朋の
懐から頂戴した金時計。山県が天皇から直々に賜ったという一品です。
当時、怪盗一家と警察は仲良しだったので(苦笑)、この品物は話し合いの末、
密かに山県の元へ返されていました。(これを、「品上げ」と言うそうな)
ところが、安吉と警察側である交渉が決裂してしまった時、
警察側はその金時計をネタにして、陰謀をしかけたのです。
安吉一家は危機一髪で窮地を乗り越えますが、メンツを潰された
おこんは怒りがおさまりません。
自分のプライドにかけて、もう一度、山県有朋から金時計を頂戴する。
隅田川の川開きの夜、おこんは山県の懐から金時計を抜き取る事に成功します。
しかしこれは、おこんと山県の、淡雪のような物語の始まりに過ぎなかったのです。
【カンゲキレポ】
会場は「スタジオ」なので、客席も椅子を並べただけの質素な作り。
1,2列目はゴザが敷いてある上に座椅子と座布団が並べられていて、
雰囲気作りには一役買っていたものの、実際に座って観劇するお客さんに
とってはちょっと不便だなぁ、と。
舞台(フロアですが)にはあらかじめ木組みで障子ふすまのように作られた
ついたてが、これまた木造りの椅子と机を囲うようにして四方に立っています。
この木組みのついたてを色々な形に動かして、ある時は刑務所の一室、
ある時は隅田川の川岸、ある時は山県有朋の別荘と、場面の空間を作っていきます。
第一夜では、真ん中の椅子と机に座って、すまけいが訥々と身の上を語ります。
第二夜では真ん中より少し下手側に畳が敷かれ、その上で鷲尾真知子が演じます。
すまけいは上手側に移動した机と椅子で、続けて語りを始めます。
*
幕開きは、藤原道山の尺八ソロで始まります。
「イケメン尺八吹き」として、知る人ぞ知る若手邦楽演奏家。
人間国宝・山本邦山に師事したとあって、顔だけでなく演奏の腕もなかなか。
「鹿の遠音」のような尺八の古典曲をこなすには、まだ音に重みが足りないかな、
という気もしましたが、今回のようなBGM的な要素を持ち合わせた演奏では
緩急をつけた演奏が冴えます。
とか何とか言ってますが、実際はかなり一目惚れしてました(笑)。
尺八の演奏は下手だったのですが、私の席も下手の端っこだったのです。
なので、約2メートルの至近距離で道山が演奏していたわけです。
ちょっと、「バキューンッ!!」てきてました(爆笑)。
*
さて、本日のメインキャスト、すまけいと鷲尾真知子。
登場人物のほとんどをすまけいが朗読し、おこん姐さんを鷲尾が演じます。
まずはすまさんから。
射すくめられたような鋭い眼光と、軽やかな台詞回しが
ベテランの味を醸し出していました。身の回りに気を配ってくれる
黒衣(増田英治)や下手に控えている藤原をちょっとからかってみたり、
良い意味でお芝居を「遊んでしまう」余裕が、とっても素敵ですね。
会場全体を自分の空気に染めてしまう、流石に大ベテランの役者さんです。
ただ、「朗読」という演劇の性質からか、ひとつひとつの役がどれも同じような
調子になってしまいます。複数の男性を演じ分ける場面では、
私は一度原作を読んでいるので「ああ、○○の台詞だな」と察しがつくのですが、
初見の方にはちょっと分かりづらかったかもしれませんね。
それにしても、完成された発声と言葉のあやつり方はお見事でした。
*
おこん姐さんを演じた鷲尾真知子。
フジテレビ「大奥」やNHK大河ドラマ「葵・徳川三代」などでの
軽妙な演技が持ち味の女優さんです。
この方も舞台出身の女優さんなので、発声が本当にしっかりしています。
街を歩けば振り向かぬ男はいない、と言うほどに粋の良い姐さんの役どころを
最初は少し意識されすぎたでしょうか、ドスをきかせた台詞回しがつまり気味に
聞こえてしまいました。しかし時間が移って山県有朋との軽妙な、お洒落な会話の
場面になると、持ち前の艶とハリを感じさせる声音で観客を魅了しました。
鷲尾さんの今回のベストアクトは、小説で言うと次の場面↓。
ここは、私も大好きな場面です。
状況説明をさせていただくと、おこん姐さんは金時計を再び奪うことに成功しますが、
その場で山県に呼び止められます。(そう、山県は実はお見通しだったのです)
「私は、銭金より大事なものに命をかける」と言い放つおこんに、
無益なものに命をかけてどうするのだ、と問う山県。
「無益なものの有り難みが、あんたに分かるはずがない」とおこんは答え、
「お江戸の流儀がどんなものか、見せてやるよ」と言うやいなや、
抜き取ったばかりの金時計を隅田川へと投げ捨ててしまいます。
以下、小説より引用。
~~~~~~
「見たか下衆野郎。銭金なんざたちまち消えてなくなるが、山県有朋の金時計が
ぽちゃんと大川に落ちたとあっちゃあ-」
呆然と立ちつくす人々をぐるりと眺め渡して、おこんは黒繻子の襟をぽんとひとつ叩いた。
「その音ぁ、一生この振り袖おこんの胸に残らあね」
~~~~~~
鷲尾さん、ここが本当に巧かった!!
「黒繻子の衿をぽんとひとつ叩」く仕草の、なんとも婀娜な事!
「その音ぁ、一生この振り袖おこんの胸に残らあね」
という台詞の、なんとも言えない粋の良さ!!
この瞬間だけで、鷲尾真知子という女優さんの記憶が、心に刻みつけられました。
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山県とおこんの、しみじみとした会話の数々も素敵でした。
贅沢を言えば、原作では名場面の1つとも言える、おこんが山県と
今生の別れを告げた後、雪が降りしきる停車場で1人泣き伏すシーンを、
ぜひ鷲尾さんの演技で拝見したかったですね。
(舞台ではカットされてしまって、とても残念でした)
*****
上演時間が1時間20分で、観劇前は「眠くなったりしないかな…」と
少々不安だったのですが、舞台にぐんぐん惹きつけられて、
気が付いたらもう終演、という感じでした。語り口や音楽は穏やかなのに、
とってもスピーディーな展開。面白い体験でした。
今日のお星さま…★★★★☆ (ええ男とイイ女に乾杯☆)
すまけいと鷲尾真知子…、うまい役者さんですよね。
どちらも好きです。
とろりんさんは「イケメン尺八吹き」の虜になったようです
が(笑)、劇と尺八のコラボって、おもしろいですよね。
by ラブ (2006-06-15 09:05)
ラブさん、こんにちは~☆
イケメン尺八、良かったですよ~~~☆
もう、1人でドキドキしてました(笑)。
朗読と尺八という、生の声と生の音の競演が
とても新鮮でしたね。
by ★とろりん★ (2006-06-15 10:43)