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ダモイ ~収容所(ラーゲリ)から来た遺書~ [講座・現代演劇]

2006年7月26日(水) シアター・χ(カイ) 19:00開演

【原作】 辺見じゅん 『ラーゲリから来た遺書』
【演出】 ふたくちつよし
【出演】 平田満 新納敏正 荒谷清水

「地面の底が抜けたんです」に続いて、7月2回目のシアター・χ。
今回はシベリア抑留の中で生まれた実話をベースにしたお芝居です。

【物語】

敗戦から12年目、ある遺族が手にした4通の遺書。
それは、敗戦直後にソ連軍に捕われ、極寒と飢餓と重労働の
シベリア抑留中に死んだ山本幡男氏によってしたためられたものでした。
文書を手に持つことはスパイ行為としてソ連兵より処罰を受ける
抑留生活の中、その遺書は、彼を慕う仲間たちの驚くべき方法により
厳しいソ連監視網をかいくぐり、遺族の手へと届けられたのです。

【カンゲキレポ】

第21回大宅壮一ノンフィクション賞、第11回講談社ノンフィクション賞を
受賞した辺見じゅん著『収容所(ラーゲリ)からきた遺書』をベースに
書かれた作品です。

シベリア抑留については、コチラをご参照ください。 → ウィキペディア

シベリアに抑留された日本兵が最初に覚えるロシア語が、
「ダモイ」だったと言います。

これは「家へ」という意味を表すロシア語「домой」という言葉で、
「帰ろう」と言う意味で使用されることもあります。
転じて、「帰郷」とか「帰国」という意味でも使われます。
この言葉こそ、過酷な状況に身を置かざるをえなかった抑留兵が
心に抱いた、ただ1つの希望の言葉でもあったのです。

冬はマイナス40度、夏は38度という過酷な気候、ソ連兵の監視下に行われる重労働、
仲間同士での密告やつるし上げも起き、疑心暗鬼になっていく日本兵俘虜たち。
安息のない収容所の日々の中で、山本氏は常に「ダモイ」を信じ、
仲間達に対して陽気に、誠実に向かい合います。

その彼の人間性にふれて徐々に心を開いていく俘虜達。
しかし、運命はあまりにも理不尽な形で彼の希望を、そして命を奪い去ります。

俳句を好み、文芸作品を創作する事を密かな楽しみとしていた山本氏は
(これも、文字に残すことは厳禁でしたので、色々な工夫をしていました)
最期にのぞんで、家族宛の遺書を書きます。

しかし当時、シベリア抑留の実態が記録となって公開されることを
ソ連当局が恐れたため、俘虜達は日本への帰国が許されても、
収容所内で入手された文書類を持参することは固く禁じられていました。

そこで、山本氏を慕う有志の俘虜数人がその遺書を預かり、
何年も時間をかけて、その遺書の中身を一字一句暗誦したのです。
その後、ダモイを果たしたある俘虜が真っ先に山本氏の遺族のもとを訪れ、
暗誦しておいた遺書の内容を伝えたのでした。

*****

当たり前の事なのですが、「生きる」って何て難しく、何て尊いんだろう…。
そう、しみじみ思いました。

「命さえあれば何とかなる」って言いますけれど、もし、生きている方が
困難な状況になってしまったら、それでも私はそう言えるだろうか…と
考えると、自信がありません。

山本氏は、自分に課された過酷な状況を受け止めつつ、帰郷の日を信じて
収容所の仲間を励ましながら、日夜の労働に耐え、趣味を細々と続けます。
その温かさ、優しさは、逆に全ての辛苦を突き抜けた人に与えられる強靱さを
感じさせます。

山本氏を演じた平田満は、始終にこやかな表情で、明るく仲間に声をかけます。
ひとつひとつの台詞の言葉が真摯で、心に温かいものが残り、秀逸でした。

お芝居の最期に、山本氏が残した遺書が読み上げられます。
これがまた、的確な言葉が選ばれていて、深く心に響きました。

一番印象に残ったのは、子どもたちへ宛てた遺書の、ある一文。
(うろ覚えですので、実際の文章とは異なることをご容赦ください)

「友人と交わる時も、社会生活に参加する時も、責務と誠を尽くしてこれを行うように」。

生きていく以上、全ての人に対して、全ての事に対して、
責任感をもって、誠実に向き合いなさい。
そういった意味が込められているのだと思います。
当たり前の事ですが、あらためて言葉として伝えられて、
心が引き締まる思いがしました。

*****

先月、シアター・χで観劇した2作品は、いずれもいわゆる
「社会派」と呼ばれる演劇ジャンルなのかな…と思います。
(現代演劇はほとんど初心者ですので、どなたかご教示ください)

ハンセン病やシベリア抑留など、シリアスなテーマを扱っているので、
観劇となると少し戸惑う部分もあったのですが、
逆に舞台を見つめる事で、スッとその世界に入っていけますし、
それらのテーマがかえって心の中に深く響いてきたように思います。
観劇後は、心が重くなるどころか、清々しい感動で胸がいっぱいでした。

明日を生きる勇気を与えてくれるような、心に浸みるお芝居でした。

ついでにコチラも、ぽちっとな。

収容所(ラーゲリ)から来た遺書  文春文庫

収容所(ラーゲリ)から来た遺書 文春文庫

  • 作者: 辺見 じゅん
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 1992/06
  • メディア: 文庫


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コメント 2

ラブ

重いテーマですね。
冬はマイナス40度、夏は38度…ってことだけで
びっくりですが、本当にあったことですもんね。
大阪の夏は暑い…なんて、贅沢言っていられま
せん。平田満さん、淡々とした演技が好きな、
役者さんです。
by ラブ (2006-08-03 08:58) 

★とろりん★

シリアスなテーマほど、演劇作品となることで
深く受け止めることが出来るものもありますよね。
シベリア抑留をテーマにした舞台は、他に劇団四季の
「異国の丘」等もあります。
平田さんの演技をナマで観るのは初めてでしたが、
本当に良い役者さんですよね。
by ★とろりん★ (2006-08-03 11:47) 

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