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シネマ歌舞伎特別篇 『牡丹亭』 [映画]

(画像は、クリックすると拡大表示されます)
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2009年5月30日(土) 東劇 12:55上映

第1部 ドキュメンタリー篇 『玉三郎16days in蘇州』
第2部 舞台篇 『牡丹亭』
(2009年3月13~15日 蘇州科学技術文化芸術センター)



京劇史上最大の名優の1人として知られる梅蘭芳(1894-1961)。2009年は、彼が京劇史上初の海外公演の為に来日して80年という節目の年でもあります。(京劇初の海外公演は、日本だったのですよ~)

梅蘭芳をはじめ、京劇全体に多大な影響を与えたとされているのが、中国の古典芸能・昆劇。日本の能楽と同じく600年以上の歴史を持ち、ユネスコの世界文化遺産にも指定されています。

その昆劇の本拠地とされている中国・蘇州で、坂東玉三郎丈が昆劇の名作『牡丹亭』に主演。その舞台がシネマ歌舞伎(特別篇)として日本のファンにも届けられました。"シネマ歌舞伎"ですので、カテゴリーは「映画」にしました。

この日は友人の尽力のおかげで、玉三郎状が舞台挨拶にいらっしゃる初日の回を拝見することができました。友人殿、大感謝です!!(生キャラメルもありがとうございましたっ[黒ハート]



劇場に入ると、スクリーン前には『牡丹亭』ポスターと、目にも鮮やかな美しい牡丹の花(トップ画像)。

こちらは牡丹の花の名産地、島根県松江市から贈られたもので、この初日に花が開くように育てられたのだそうです。

まずは上映前に、玉三郎丈よりご挨拶。

ふわっとそよ風のように会場内に足を踏み入れられて、とても自然体なのに、すんごいオーラです~~。カジュアルなスーツで、パンツはなんとカーゴスタイル。そんなラフな装いの玉三郎丈を拝見できるとは思っておりませんでしたので、ちょっと嬉しい驚き。

玉三郎丈は短い時間の中で、自分と昆劇の出会いや『牡丹亭』上演までの道のりなどをご自分の言葉で語って下さいました。

「言葉の壁はどうやっても乗り越えられるものではない」「ハードルがあると、僕は乗り越えたくなっちゃう」と、自然に微笑みながらおっしゃっていましたが、その後に上映された「ドキュメンタリー篇」、そして「舞台篇」を見ると、その言葉の深さというか、そんな言葉をごく自然にさらっとおっしゃってしまう丈の凄さに、あらためて感嘆しました。



では、ここからは『牡丹亭』の感想を書き留めておきますね。

【物 語】

深窓の令嬢、杜麗娘(と れいじょう:玉三郎)は、春の浅い眠りの中で見た夢の中で、柳夢梅(りゅう むばい)という美しい生年と出会い、一目で恋に落ちます。柳夢梅も麗娘に心惹かれ、2人は結ばれます。しかし、麗娘が目を覚ますと誰もいません。それはすべて夢の中でした。

麗娘は夢の中で結ばれた青年の面影が忘れられず、日に日に思いは募るばかり。侍女の春香や母が必死に看病をしますが、麗娘は青年を思いながら病に倒れ、はかなくこの世を去るのでした。

魂となってもなお、柳夢梅の事を忘れられぬ麗娘はこの世を彷徨い、ついに柳夢梅とめぐり逢います…。

【カンゲキレポ】

玉三郎丈の美貌際立つ圧倒的な舞台姿はもちろんですが、それ以上に丈の飽くなき挑戦心、探求心に心の底から感嘆し、あらためて尊敬の念を強くしました。

中国の古典芸能と言うと「京劇」が代表的ですが、これは18~19世紀にかけて中国全土から演劇集団が首都・北京に集結し、融合した結果に確立したものとされています。その中に昆劇も含まれていました。(当時の清国皇帝・乾隆帝の80歳のお誕生祝いの為に集められたとされています。さすが皇帝、お祝いのスケールが違います…)

昆劇は、今回初めて拝見しましたが、京劇の基本的な構造は昆劇をルーツにしていたのだな、と実感しました。

「牡丹亭」の舞台装置はきわめてシンプルで、背景には紗幕のようなカーテン、床にはじゅうたんが敷いてあるだけ。大道具も、テーブルが1つと椅子が1脚(場合にはよっては2脚)だけ、という、本当に簡潔な舞台です。

京劇の基本的な舞台装置も、「一卓一椅」と言って室内の場面では1つのテーブルと1脚の椅子だけで表現することがほとんどです。最近の舞台では背景に書割などを多用するケースも目立ちますが、基本的には京劇も、背景はカーテンだけで後は演者の動きや唄だけで情景や場面を表現します。

世界各国で受け継がれている古典芸能では、今と違って大がかりな装置や仕掛けを準備できなかった為に、「演者の実力がすべて」という状況で行われる形態が多いですが、昆劇もやはりその形態を受け継いでいて、それが京劇に伝わっていったのですね。

今は、昆劇や京劇にも現代風の演出も加わるようになっているので、玉三郎丈が必要だと感じれば、背景などに手を加えたり、大道具を使用することも可能であったはずです。しかし、玉三郎丈はあくまでも昆劇本来の姿にこだわった舞台の創出を試みられていた様子で、感服しました。

侍女とともに春の花園を訪れるシーン。カーテンの前で、侍女・春香役の沈国芳(←好演!!)と呼吸を合わせて、わずかな目の動きや指の動きだけで、花園に足を踏み入れた瞬間の驚きや浮き立つ心を表現。目の前に咲き乱れる春の花々を観客にも連想させ、この方が持つ「藝の力」を、いかんなく発揮。

本当に、玉三郎丈の眩しそうな瞳の揺らぎ、沈国芳のパッと華やいだ明るい笑顔がスクリーンに映し出されたとき、私の周囲に、花々の甘い香りと軽やかに飛び交う蝶、温かく降り注ぐ春の陽差しが一気に広がったような錯覚を受けました。

言葉のハードルも、異国の芸術文化の壁も、軽やかに駆け抜けてしまって、そこでもきちんと「坂東玉三郎」として存在できてしまう玉三郎丈。いやぁ…凄いです。「凄い」という他に、ちょっと言葉が見つかりません(汗)。

物語としては、「えええっ、そんな展開ですかっ」的な結末なのですが(汗)、春の夜に見るような、ちょっとファンタジックでミステリアスなお話です。ま、ハッピーエンドでめでたし、めでたし(笑)。



一口に「古典芸能」と言っても、様々なジャンルがあります。日本では能楽や歌舞伎、人形浄瑠璃、神楽、各地の民俗行事がお互いに影響を受け合いながらもそれぞれのルーツを確立してきたように、中国でも数多くの古典芸能が融合し、影響しあって受け継がれてきたのだな…と実感しました。

そして今度は、2つの国の古典芸能が、坂東玉三郎丈という肉体を架け橋として、海を超えて結び合った…。この出来事は、日本と中国の演劇の歴史に少なからず刺激を与えるのではないかという思いがいたします。

蘇州駅


公演が行われた「蘇州科学技術文化芸術センター」の最寄り駅…?

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コメント 4

ラブ

蘇州って、ちょっと観光化されてはいますが、水があってよい街ですよね。玉三郎さんだったら、似合うだろうなぁ。
by ラブ (2009-06-02 18:47) 

★友人★

お付き合いくださり、こちらこそありがとうございました!
とろりんさんの、こちらの「解説」を拝読して、感動を新たにしております。
文化に関しては、安易に「言葉の壁は乗り越えられる」と言ってしまいがちですが、それを敢えて、「言葉の壁は乗り越えられない」と述べられる玉三郎丈。言葉への「こだわり」も強く感じましたよね。「役」で乗り越えられたからこその、国を越えたあの絶賛なのでしょうね~。あ~、本当に「凄い」ですね!
by ★友人★ (2009-06-03 06:29) 

★とろりん★

ラブさま、

nice!とコメント、ありがとうございます!!

「ドキュメンタリー篇」では、素顔の玉三郎丈が蘇州の街を散策するシーンもありました。車の往来が激しい道路を何食わぬ顔で横断されたり、舞台とはまた違う表情の玉三郎丈を拝見できて、楽しかったですよ~。
by ★とろりん★ (2009-06-03 07:54) 

★とろりん★

★友人★ さま、

コメント、ありがとうございます!!

本当にお世話になりました!いや~、本当に凄かったですよね~。「歌舞伎役者」として裏打ちされた技量をベースにしながらも、あくまでも昆劇の舞台では「昆劇役者」として舞台に立とうする意欲と姿勢には本当に頭が下がる思いでした。衣装も、本当に目の覚めるような鮮やかさと美しさでしたね。「アジアの名優」としての、丈のこれからにも注目ですね。
by ★とろりん★ (2009-06-03 08:02) 

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