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新春浅草歌舞伎 夜の部 [歌舞伎]

◆◆◆ 新春浅草歌舞伎 夜の部 ◆◆◆

2006年1月14日(土) 浅草公会堂 15:30開演


雨に煙る浅草・雷門。

【演目】
・仮名手本忠臣蔵 五段目/六段目
・蜘蛛絲梓弦 (くものいとあずさのゆみはり)

【出演】
中村勘太郎、中村七之助、中村獅童、市川亀治郎 ほか 

*****

既に浅草のお正月の風物詩として定着した感のある、「新春浅草歌舞伎」。
若手の歌舞伎役者による興行ですが、勘太郎や獅童、七之助など、
テレビや映画でも人気のある若手が出演しているだけあって、
チケットは大変な売れ行きです。

このたび、4年ぶりに浅草歌舞伎を観ることにしました。
勘太郎と七之助、中村屋の若い世代が、昼夜役替わりで
『忠臣蔵』のおかる勘平を演じると聞いたからです。

このブログをごらんになった方はご存知ですね~。
今月、西の大阪・松竹座では当代きってのゴールデンコンビ、
仁左衛門と玉三郎がおかる勘平を演じております。

つまり、歌舞伎界随一の超花形ゴールデンコンビと、
伸び盛りの若手コンビが、東西で同じ演目をかけているのです!!
本興行でも、東西で同じ演目をかけることはほとんどありません。
松竹、何という英断をしてくれたのだ!!
どっちも見物に行かないとダメじゃないか!!(笑)

***

実は、浅草歌舞伎には格別の思い出があります。
これは、家族には内緒です。絶対に、口が裂けても言わないで下さい。

私が初めて新春浅草歌舞伎を観たのは、2002年の興行。
当時、私は修士論文提出を間近に控えた大学院生でした。

その前の年、スーパー歌舞伎で亀治郎に一目惚れした私は(恥)、
’02年の浅草歌舞伎で、亀治郎が『野崎村』のお光を演じると聞き、
どうしても観たい!!!という衝動を抑えることが出来ず、
修論を提出した直後のある日、日帰り上京カンゲキを決行したのです(爆笑)。

その日は朝5時に起き、伊丹発の飛行機で上京、まずは浅草歌舞伎を見物。
その後、歌舞伎座へ向かい、中村勘三郎(当時勘九郎)による『鏡獅子』を幕見。
歌舞伎座横に隣接する洋食屋さんで市川染五郎オススメのオムライスを食し、
最終の新幹線で大阪に帰る、というかなりの強行スケジュールでした。

ちなみに、この時の『野崎村』は、亀治郎のお光、勘太郎のお染、獅童の久松。
別の演目では、当時まだ辰之助だった松緑も出演していました。

「いやぁ、あの頃は若かったなぁ…」
としみじみ思いつつ、やがてとろりん、ある事実に気づいて驚きました。

今回、私の浅草見物日は、1月14日。
そして、4年前の浅草日帰り見物の日も、1月14日だったのです。
まさに4年前のその日、やっぱり私は浅草にいたのです。
この時も、結構すごい雨が降ってました(笑)
すごい偶然!!何だか不思議な縁を感じてしまいました。

さて、思い出にふけるのはこれくらいにして、さっそくレポに行きましょう。

●●● 仮名手本忠臣蔵 五段目・六段目 ●●●

勘平…勘太郎
おかる…七之助
千崎弥五郎…中村亀鶴(きかく)
原郷右衛門…市川男女蔵(おめぞう)
おかや…中村芝喜松
斧定九郎…獅童

【物語】は、コチラ↓でたっぷりとご堪能ください(笑)
http://blog.so-net.ne.jp/kangeki/2006-01-10

【カンゲキレポ】

「勘太郎、大熱演」。
もう、このひと言に尽きますね。

時々思うのですが、勘太郎ってスロースターターなのかな、と。
芝居の幕が開いて、登場しても、最初のうちは「気が入ってるの…?」
と思ってしまうくらい、淡々と舞台を勤めていく印象。

ところが、ある瞬間をきっかけに、まるで感情が暴発したかのように
激しさを増し、まるでバックドラフトのように、観客の心になだれ込んでくるのです。
観客は、不意をつかれて圧倒され、その激しい炎に飲み込まれるままです。

今回も、五段目は特に印象に残る好演ではなく、サラリとした印象。
五段目の勘平は舞台上の約束事が多く、それをこなすのに手一杯だったのかも。

しかし六段目。
ここから勘太郎の才気が一気に目覚めました。

きっかけは、一文字屋お才が指し示した財布。
それを見て、勘平は自分が義父を殺したものと動転します。

ここから切腹し息を引き取るまで、まさに疾走でした。
勘太郎の激情と勘平の血を吐くような絶望が見事な相乗効果を生み出し、
観客もひきずられるかのように、ひたすらに勘太郎の一挙手一投足を
見入っていました。

力一杯、感情一杯の大熱演で、見ているこちらも肩に力が入って、
幕間はかなり疲れました(苦笑)でもそれも、若さの持ち味。
舞台で腕を磨く内に、力の入れ加減、抜き加減を体得していくものでしょう。

松竹座のおかる勘平は、いわば「極附(きわめつけ)」ですし、
ここで浅草の舞台と松竹座の舞台を比べようとは思いません。

ただ1つ、考えさせられたのは
「勘平は、いつ死を決意したのだろう」と言うこと。
ここのつかみ方が、勘太郎と仁左衛門は異なっていたように思います。

仁左衛門の勘平は、おかやに責められたあげく、
訪れた同僚2人から、「このお金は受け取れない」と千崎に渡してあった
資金を突き返された時だったのではないか、と。

義母に罵られるうちは、ただ絶えるだけであった勘平が
侍としての道を絶たれてしまった時、自分の生きてきた道へ
戻る事すらも否定されて、そこで死を決意したのではないでしょうか。
勘平が「武士」であることを強調したとらえ方ですね。

勘太郎の勘平は、「人間」としての勘平をとらえていたと思います。
おかやが号泣しながら勘平を責めている時に激しく咳き込み、
その背中を勘平はさすってやります。しかしおかやはその手を振り払い、
勘平に背中を向けてしまいます。

この時、「…死ぬしかない。」という勘平の声が聞こえてきたように思いました。

家族を殺すという、人間として許されない事をしてしまった。
その事実を目の当たりにした時、「人間」としての彼の心が、
もはや生きる事を否定したのではないでしょうか。

実際に、私の目には、この場面以降の
勘平の表情と演技が、ガラリと変わったように思います。

他の出演者も、大熱演でした。

斧定九郎を演じた獅童。
口から流した血が裾を端折っている太股にポトッ、ポトッと落ちる、
という、定九郎一番の見せ場でちょっと失敗してしまい(血が太股に落ちなかった)、
かえってその演出が、定九郎という人物を象徴しているんだなーということを
納得させられました。
ちなみに、奥様はいらっしゃってませんでしたー。

おかるの七之助。
勘平の邪魔にならず、でもしっかりと見せるところは見せて、
きっちりとした芝居でした。

祇園へ向かおうといったん駕籠に乗り込みますが、
ちょうど帰ってきた勘平と行き会います。その時にふと駕籠から顔をのぞかせて、
「こちの人」
と呼びかける場面、新妻らしい愛らしさと嬉しさが、
一瞬で全身からパァーッとあふれ出て、とてもキュートでかわゆらしいおかるでした。

お才を演じたのは、この一座、一番の先輩格でもある門之助。
松竹座の笑三郎が花街の中で生き抜いてきた女の意気地を見せれば、
こちらは女主人らしいきっちりさの中にも情に厚い温かみを見せ、
さすがの安定感でした。

***

若手の熱気と情熱で劇場が燃えそうな、浅草のおかる勘平でした。

●●● 蜘蛛絲梓弦 ●●●

女郎蜘蛛の精 …亀治郎
碓井貞光 …獅童
坂田金時 …七之助
源頼光 …勘太郎

【カンゲキレポ】

歌舞伎の作品の中で、源頼光という人のところには、
実に様々な人というか、妖怪がやってきます(笑)。

ある時は彼に片腕を切り落とされた鬼女が復讐にやってきます。、
病気で寝込んでいたら、土蜘蛛が襲ってくるし(笑)。

今回の頼光さんの受難は、女郎蜘蛛の襲撃です。
しかし、ただ襲撃してくるわけではなく、女童や薬売り、
番頭新造(ばんとうしんぞ…傾城のお付きをする女性)、
浄瑠璃をうなる座頭、そして頼光と深く馴染んでいる傾城など、
様々に変身をしては頼光やその家来をを惑わせます。
しかし最後は正体を顕し、激しい戦いの末、頼光に倒されるという、
いわゆる変化舞踊(へんげぶよう)の一種です。

***

今回は、この女郎蜘蛛の精および6役早替わりを、
踊りの名手でもあり、アイディアマンでもある亀治郎が魅せました。

踊りの巧さはもちろんのこと、今回はお客さんもあっと驚く早さでの
早替わりを披露しなくてはいけません。しかもひと役ごとに、
全く違う人格を演じ分けなくてはいけないのですから、大変です。

また、歌舞伎座や松竹座などの本劇場には必ずある「スッポン」
(花道にあるセリ。ここから上がってくる役は妖怪など、人間でない役に限られている)
が、浅草公会堂にはありません。その他の舞台機構もいろいろと制約があります。

最初の登場はどうするのかな…、1つ1つの変身も、どんな風にするのかな…、
と期待半分、不安半分、という心持ちだったのですが、これはもう、アイディアの勝利!!

清元さんの座る山台から下手の黒御簾、そして「四ノ切」のカラクリなんかも採り入れて、
限られた舞台装置を使って、よくもまぁこれだけの工夫をしたものだ…と本当に感心しました。

もちろん、踊りはパーフェクト♪
薬売りや座頭など、立役の時はキレが良く、新造や傾城ではしっとりと叙情的に舞い、
本業(笑)でも、これでもかと言わんばかりに実力を見せつけます。

対する頼光&家来コンビも、しっかりと亀治郎を盛り上げてくれます。
クライマックス、4人で一斉に所作板を踏み鳴らす場面では、
浅草らしい、フレッシュで熱気がこもった空気が劇場に満ちて、客席は拍手喝采。
色んな意味で、亀治郎の持ち味が生かされた素晴らしい舞台でした。

1つ思ったのは、「この舞踊、後見さん泣かせだわ…」。
今回、後見を勤めたのは市川段之(だんし)さんと市川澤五郎さん。

とにかく女童や薬売りや、一役勤め終わるたびにビャーッと蜘蛛の糸が
ばらまかれるのですが、これを回収するのが大変。
床に散らばったのを回収するだけでなく、役者さんの衣裳や足に絡みついた糸も
さりげなく、素早くほどいて回収。これがまた、せわしないこと。

そして、本性を顕した女郎蜘蛛@亀治郎、とにかく蜘蛛糸を
ばらまくばらまく(笑)。蜘蛛糸、床に散らばる、役者さんに絡みつく(笑)。
その、一本一本を限られた時間で素早く回収していく後見さん…。
本当に大変そうでした。
そんな苦労をみじんも感じさせずに勤めあげた2人の後見さん、素晴らしかったです。

段之さんは、亀治郎の後見を勤める事が多いのですが、
非常に落ち着いていて、それでいて空気のような動きをされるので、すごく素敵です。
私は密かに、後見をしている段之さんのファンです。
亀治郎の踊りで後見に段之さんが付いている時は、前も後ろも見なくてはいけないので、
とっても大変です(笑)。

*****

そんな感じで、久々の浅草での歌舞伎見物、大いに満喫しました☆
ついでに浅草の街も堪能しましょう♪という事で、夕食にうかがったのは
お蕎麦屋さん「尾張屋」。

4年前に日帰り上京した時、、亀治郎が
「浅草出演中はいつもここの天麩羅蕎麦を出前する」
と聞いて探したのですが見つける事ができず、
やむなく裏の細い道にあった怪しげなもんじゃ焼き屋さんで
お昼ご飯を食べた記憶があります(笑)。

さて、尾張屋でまずいただいたのが、「そばずし」。

ちょっと写真では見づらいかもしれませんが…。
普通のお寿司だと、お米の部分が、なんとお蕎麦を使っているのです。
お蕎麦の中に具材を混ぜて、海苔を巻いてある感じ。
もちろん、そばつゆを使っていただきます。
初めての食感で、お米のお寿司よりはさっぱりした味わいでした☆

おそばはかしわなんばんを注文。
尾張屋さんは、つゆにごま油を少し加えていらっしゃるのでしょうか、
独特の香りがしました。麺は細めで、食べやすかったです。

ついでに、浅草の和菓子も堪能☆
「亀十」のどら焼きと、「にしむら」のカステラを買いました♪
どら焼きは、こちらも初めての味わい!!新世界への扉…(笑)。
カステラも昔ながらの素朴で優しい味わいで、満足満足☆

今日のお星さま…★★★★☆
           (勘太郎の熱演、亀治郎のアイディア、そして後見さんに乾杯☆)

今日のオマケ☆

亀十のどら焼きと、知人よりいただいたお年玉☆
右は浅草歌舞伎オリジナルポストカードセット。
そして左側は、「ちらシール」。…ベタなネーミングです(笑)。
浅草歌舞伎のチラシの、役者さん達のスナップがそのままシールになっているのです♪


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あいり

* ゚ー゚)オジャマデス
ブログ読ませてもらったので
記念“〆(^∇゜*)カキコ♪残していきま~す♪
良かったら私のブログも
遊びに来てね(*´▽`)人
来てくれたらお茶でも ( ^-^)o旦~~ どぞ ♪ します(笑)
また遊びに来ますね♪
http://loveypopangel.blog2.petitmall.jp/
by あいり (2006-01-16 18:48) 

★とろりん★

このたびはコメントありがとうございます☆
また遊びにお越し下さいね♪
by ★とろりん★ (2006-01-16 19:07) 

TBありがとうございます。
今週末には大阪松竹座に遠征してきます。
by (2006-01-17 01:20) 

★とろりん★

ハンナ様、コメントをありがとうございました!
松竹座、思いっきりご堪能くださいね。
by ★とろりん★ (2006-01-17 10:33) 

ShyBoar

とろりんさん、こちらにもお邪魔いたします。
熱のこもった盛り沢山の内容で、楽しく読ませていただきました。
私は初日の帰りに「亀十」に行ったら、どら焼きは売り切れで、残念な思いをしました。
あれ、ふんわりして美味しいですよね。
by ShyBoar (2006-01-17 23:44) 

★とろりん★

ShyBoar 様、お越しいただきまして嬉しいです!
コメントもいただきまして、ありがとうございます。
経験不足を情熱でカバーしているのが、当ブログの売りなんです(笑)。
「亀十」のどら焼き、実は初体験だったのですが、
もう、あのふわふわの食感の虜です☆
他にも浅草の美味しい和菓子屋さんをご存知でしたら、
ぜひお教えくださいね。
by ★とろりん★ (2006-01-18 10:41) 

ラブ

へぇー、勘太郎さん、頑張っているのですね。
浅草は何回か行っているのに、浅草でものを食べたことが
ありません。おいしそうだなぁ。
人力車には、乗りましたよ(超ミーハー)。ものすごくスピード
が速いので、びっくりしました。
by ラブ (2006-01-20 08:40) 

★とろりん★

ラブ様、コメント&nice!をありがとうございます!
浅草は和菓子とお蕎麦とすき焼きの宝庫です!!
今度はぜひぜひ浅草で食をご堪能して、記事に
してくださいね☆
by ★とろりん★ (2006-01-20 13:35) 

愛染かつら

こんにちは、早速遊びに参りました。
★とろりん★さんのレポ、とても楽しかったです。
勘太郎丈がスロースターターなのは激しく同意でした。
六段目になってからグッと良くなってましたよね。
仁左衛門丈と勘太郎丈の「死」を意識した場面での解釈もとても興味深かったです。
by 愛染かつら (2006-02-01 14:49) 

★とろりん★

愛染かつら様、お越しいただきまして
ありがとうございます!コメントも嬉しいです。
勘太郎くんはある一瞬をきっかけに
ぐーっと役にのめりこんでいきますよね。
その一瞬を観るのが、とても好きです。
またお越し下さい☆
by ★とろりん★ (2006-02-02 11:17) 

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