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宝塚歌劇花組東京公演 『明智小五郎の事件簿-黒蜥蜴(トカゲ)』 [宝塚歌劇]

2007年5月3日(憲法記念日) 東京宝塚劇場 11:00開演

宝塚Stage Album 2006年 (2006)

宝塚Stage Album 2006年 (2006)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 阪急コミュニケーションズ
  • 発売日: 2007/03
  • メディア: ムック
『宝塚Stage Album  2006年』、好評発売中。表紙は春野さん@『ファントム』です。
 
【出演】(花組) 春野寿美礼、桜乃彩音、真飛 聖、壮 一帆、愛音羽麗(あいね はれい)、未涼亜希、桜一花、野々すみ花、ほか
 
連休のカンゲキ第一弾は、宝塚歌劇。歌舞伎よりも先に観劇していたのですが、逆転してしまいました。
 
今回観劇したのは、春野寿美礼率いる花組。主演男役就任から5年。華も円熟も超越し「孤高の道」を極めたトップスター・春野が立ってしまった「領域」を目撃した…と感じた舞台でした。90余年の間、誕生を繰り返してきた宝塚のトップスターの中でも、選ばれた人しか立つことが許されない位置、のような…。ただ、彼女の放つ光芒に圧倒された3時間でした。
 
ではまず、お芝居のレポから。今回は本当に、ものすごく抽象的でまとまりがなく、しかも長文なので、実際に舞台をご覧になった方のみ、お読みになることをオススメします。
 
********************************

グランド・ロマンス 『明智小五郎の事件簿-黒蜥蜴(トカゲ)』 (脚本・演出:木村信司)

【物 語】
終戦後、数年が過ぎた東京の街。名探偵としてその名を世間にとどろかせていた明智小五郎(春野)は友人の波越警部(壮一帆)とともに富豪・岩瀬家の令嬢、早苗(野々)の身辺警護を任されることになります。当時、世をにぎわせていた怪盗「黒蜥蜴(トカゲ)」(以下、脚本に従って「黒トカゲ」と表記します)が、早苗を誘拐すると脅迫状をたたきつけてきたのです。

その場に居合わせたのは、岩瀬家と交際があるという、美貌の女性-緑川夫人(桜乃)。不思議な魅力をたたえる夫人は、明智にある賭けを提案します。それは、もし早苗が誘拐されれば明智は探偵を辞める、もし明智が誘拐を阻止できれば、緑川夫人の所有する宝石の全てを差し出すと…。
 
やがて緊迫の瞬間が訪れます。しかし、全てを見抜いていた明智は、緑川夫人こそが真犯人、つまり「黒トカゲ」だと突き止めます。緑川夫人-黒トカゲは不敵な笑みを浮かべて立ち去ります。 自分が支配する男、雨宮(真飛)の協力を得て逃げる黒トカゲ。追跡する明智。いつしか明智は、彼女を追いつめようとする自分の思いが、恋の感情に似ていることに気付きます。そして黒蜥蜴も…。
 
探偵と怪盗の頭脳戦が、男女の愛のかけひきへと変わったとき…悲劇が始まります。
 
【カンゲキレポ】
春野寿美礼なくして、この舞台はありえない。いや、春野でなければこの作品は成立すらしなかっただろう。そこまで思わせるほどに、彼女の圧倒的存在感が光る作品です。言いかえれば、勘違いこの上ないどうしようもない作品を、春野はその実力と存在感だけで凌駕し、演出家が到達できなかった地点まで役の本質を引き上げた、ということです。ま、一言で言えば、春野さんがいなかったらこの作品は崩壊してたよね、ということです(バッサリ)。
 
『黒蜥蜴』と言えば三島由紀夫による戯曲が有名ですが、今回は江戸川乱歩の原作をモチーフに、演出家の木村信司が新たに書き下ろした作品です。私は原作も戯曲も読んだことも観たこともないので、最初から宝塚歌劇オリジナル作品として観劇しました。 原作や映画をモチーフにして演出家自身のテイストを加える手法は、歌劇では珍しいことではありません。要は登場人物に共感し、感動を与えてくれるような作品として完成されているかどうか。求めるのはやっぱりそこですね。
 
木村先生(愛称:キムシン)は、オペラやシェイクスピアなどの文芸作品を、歌劇の世界でどう表現していくのか、という主題のもと、作品づくりを目指しているように思われます。しかし自己主張が激しく、作品を通じて執拗なほどに社会的な意味を持たせた彼自身のメッセージを発信してくるので、評価が両極端でもあります。
 
「この作品を宝塚で上演するとおもしろいだろうな」と思わせる大胆な企画力と発想力、驚きを通り越して感動すらおぼえる鮮やかな演出力は評価すべき点が多々ありますが、惜しむらくはその力を発揮するだけの「表現力」を全くともなっていないこと。これが彼に対する評価を滅裂にしてしまういちばんの原因であり、唯一にして最大の欠点でしょう。
 
今回も無意味な人海戦術、不必要に悪趣味で不気味な装置など、これはもう、「キムラワールド」の典型ですね。セリを活用したホテルの部屋とエスカレーターのセットはとても効果的でしたが。 そして、相変わらず言葉が美しくありません。
 
突然ですが、宝塚ファンのみなさんは、歌劇の世界に何を求めていらっしゃいますか?私はここでしか観られない空間を味わえるから、というのがいちばんの理由です。 しかし、木村先生の作品を観ていると、その世界に「酔う」ことができないのです。なぜかというと、言葉があまりに直接的で、ひとつも練られていないから。
 
コーラスで「♪仕事は 退屈だ。♪」「どんな名声も、たった一度の失敗で 落ちるところまで落ちる♪」って何度も聴かされたら、いやでも気持ちがげんなりしてきます…。 せっかく宝塚の舞台を観に来たのに、こんな気分にさせられなきゃいけないんだろう…と。
 
もちろん、舞台を観ていて「あるある、そういうこと」と我が身に置き換えることはよくありますよね。歌舞伎でもたとえば『加見山旧錦絵』などは宿下がり中の奥女中が見えることの多い弥生(3月ごろ)にかけられることが多かったと聞きますし。 でも、あまりに言葉が直線的で挑戦的なものだと、観客は不必要なところで微妙な緊張感が生じて、舞台そのものを楽しめなくなってしまいます。
 
一度木村先生には、自己主張よりも観客の気持ちの流れを考えた作品を作ってもらいたいものです。そしてオリジナルの、ね。
 
 
…と、ここまでけちょんけちょんに書いたものの、それでもなお、感動に近い感情で心を包んだのは、やはり春野でした。
 
この作品は、明智と黒トカゲは惹かれあうようになりますが、やがて「ある事実」(←思わず「んなアホな」と突っ込みたくなるオリジナル展開)によって2人は永遠に引き裂かれます。その結末へ行き着く明智の気持ちが無理なく、手に取るように観客へ伝わり、「んなアホな」と思ってしまう展開なのに、明智の悲しみと胸の痛みが、劇場中に響いてくるのです。その明智のたたずむ姿だけで、観客はさっきの演出家への暴言も忘れて舞台に惹き込まれていくのです。
 
作品の足りないところを役者の魅力でカバーする、というのはほかの演劇作品でも多く見受けられます。でも、それも限界があります。今回の作品、はっきり言ってその限界をはるかに超えた作品だったのですが、ひとり春野だけがその限界までたどりついた上に、演出家すらもたどりつけなかった境地に行き着いた、という印象です。
 
もちろん、ほかの生徒も大健闘していました。しかし、いかんせん役も出番が少なく、その少ない出番も「その他大勢」での出演になってしまうため、演りようがなく、彼女たちの魅力や個性が埋没してしまっています。4番手のはずの愛音なんか、終盤のシーン以外はドアマンのごとく、岩瀬邸のドアを開け閉めしてるだけやし(涙)。 
 
 
ヒロイン、黒トカゲを演じた主演娘役の桜乃は、作品のレベルを引き上げたという点で、春野にもっとも近い位置にいるかも知れません。若さと艶やかさ、計算高さと無邪気さ、大胆と繊細を合わせ持複雑な内面を抱える美貌の女性の役を好演。しっとりとした潤い感じさせる声音と軽やかな身体の動きで観客を魅了しました。 真っ白な肌に浮かぶ「ブラック・リザード(クロトカゲ)」のタトゥーが鮮やかでしたね。
 
黒トカゲの台詞は(キムシン脚本には珍しく)けっこう素敵な台詞が多く、これも黒蜥蜴の不思議な魅力をアップさせる要因になっています。明智と初対面するときの「あら、いかす。」には1人客席で爆笑してしまいましたが。観劇後、友人との間でしばらくこのセリフが流行していました。立ち寄ったカフェでメニューを見つつ、「あら、このケーキいかす。」とか(笑)。
 
【黒トカゲプレゼンツ男を惹きつけるいかすセリフ講座】
 
①仕事上のミスや矛盾を指摘されて…「○○さん、さすがね。思わず恋してしまいそう。」
②ライバルから宣戦布告を受けて…「ふ。その時までに女(男)を磨いておくわ。」
③そして必殺…「皆さん、劇場を出たらぼうっと歩いていてはだめ。初恋の人とすれちがっても、気がつかないかもしれないでしょう。」
 
いかすじゃないか、黒トカゲ先生。
 
他に注目ポイント(作品について語る元気がなくなってきました…苦笑)としては、
 
① 三つ編み姿の鈴懸三由岐さん
 
② 早苗に新婚だと知られた上、「プロポーズの言葉を教えろ」と詰め寄られ、「♪たくさん苦労をかけると思うけど、精一杯働いて君を幸せにするから、どうか僕と結婚してください♪」と素直に真面目に歌ってしまう壮一帆さん@波越警部。そ、そんな普通のプロポーズやったんかい……(肩の震えが止まらないとろりんさん)。いいのか波越警部、「歌で告白」は「あいのり」(フジテレビ)では成功した試しがないんだぞっ。しかしその後、主要人物(明智、雨宮)も「♪僕と結婚してください♪」と歌でプロポーズ連発。
 
③ あまりにもキャラにハマり過ぎている桜一花ちゃんの小林少年。彼女なら実写コナンも夢ではない。
 
④ トップスター・春野寿美礼サマによる変装姿。特に船乗り姿は…「漫画かこれは」と突っ込みたくる「まんま」の扮装。
 
⑤ 「その他大勢」的な役どころで気の毒なのに、どの場面でも、どこにいてもきちんと心を配った演技をしている書生役の未涼亜希『ファントム』でも感じましたが、娘役(相手役)を気遣う演技をさせたら、あたたかい空気を出せる人です。まっつ(未涼の愛称)、がんばれ!!(意味もなくエール)
 
木村先生の作品を拝見するたびに、「自分が宝塚歌劇に求めているもの」が自ずから見えてきます。それはそれで、貴重な時間だと思っています。
 
コチラもどうぞ☆
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夜野愉美

とろりんさま
まさに!まさに!おっしゃる通りの公演でした。
そして、あれだけの公演をこなして、颯爽と現れ、ニコニコと出をこなす春野さまは、もう、神!でいらっしゃいます。
作品がどーの、とか、ファンはついつい言ってしまいますが、スターは作品を凌駕できるのですね。ひとつ勉強になりました。
by 夜野愉美 (2007-05-12 21:55) 

はなみずき

とろりんさん、こんばんは。
ショーの記事へのコメントなんですが…、とろりんさん、Aラインのミニスカート、持ってらっしゃるんですか? 今度そのお姿を拝見したい!
“セリフ集”は、テイクノートさせていただきまっす。使える場面はなかなかやってこなそうですが…(苦)。
いつもながら、詳細レポ、お疲れさまでした! 楽しませて頂きました。宝塚の現状もあわせて(笑)。
by はなみずき (2007-05-12 22:44) 

★とろりん★

夜野さま
nice!もいただきありがとうございます。今の春野さん、まさに「神の領域」を極めてしまいましたよね…。どんな作品であれ、役者は舞台を作り上げなくてはいけないものですが、それでも作品の破綻をカバーしきれない時があります。春野さんは、たったひとりでそれをカバーするどころか、感動すら与えてくれましたものね…。「花組を観に行った」というよりも「春野さんを観に行った」という感覚が強く残っています。
by ★とろりん★ (2007-05-13 00:22) 

★とろりん★

はなみずきさま
いけません、そこはさりげなく通り過ぎていただかなくてはっっ(笑)「あら、いかす。」はぜひぜひ日常会話にお使いください。直前に軽く腰を使ってセクシーなダンスを披露すれば、男性のハートわしづかみ間違いなし!(のはず>笑)
by ★とろりん★ (2007-05-13 00:30) 

sumire

とろりんさま。
見事な解説ですね。さすがです。
ヅカ暦の浅い私には作家さんの特徴までは、さっぱり分かりませんが。。なるほどと。。参考になりました。
「黒蜥蜴」を対象にした「演劇フォーラム」も拝見しましたが、
ファンの間で予想されていた 黒蜥蜴=春野 明智=真飛 早苗=桜乃というキャスティングについて、木村さんは「全く考えつかなかった」と、なんともお間抜けな(失礼!)発言をされていて驚きました。

それから、彩音ちゃん頑張ってますよね。
彩音ちゃんに対しては辛口の評価が多いので、気の毒に思ってました。私は前任者の方は好みではなかったので(失礼!)
彩音ちゃんとおささんは、とってもお似合いだと思います。デュエットダンスなどは「幸せ♪」が伝わってくるようです。

「いかすセリフ講座」最高です(*^_^*)
by sumire (2007-05-17 23:51) 

★とろりん★

sumireさま
はじめまして!ようこそおいでくださいました。
少しだけブログを拝見しましたが、双子ちゃんの
お母様なのですか?ママさんヅカファン、いろいろと
大変なことも多いでしょうががんばってくださいね!

>黒蜥蜴=春野 明智=真飛 早苗=桜乃という
>キャスティングについて、木村さんは「全く考えつかなかった」
>と、なんともお間抜けな(失礼!)発言をされていて驚きました。

……………………………。

すみません、早苗(葉子)に告白された明智さんのごとく、
思わず絶句してしまいました。失礼ではありません、
文字通り、「お間抜け」過ぎる発言です、キムシン!!
(いったいどんな配役を想定していたのか聞きたいところ)
いや~、これで、キムシンの「オレ様ぶり」がまたひとつ
発揮されてしまいましたね~…とほほ…。

>「いかすセリフ講座」最高です(*^_^*)

ありがとうございます。こちらのセリフ集、方々で
ご好評いただき嬉しい限りです。
また次回もやってみようかな?(予定は未定)

よろしければまたお越しくださいね。お待ちしております☆
by ★とろりん★ (2007-05-18 18:18) 

しぃぷぅ

文章に出来ない私の思いをすべて書いていただいていて「その通り!」と観劇しています。
ありがとうございます~。
by しぃぷぅ (2007-05-18 23:20) 

★とろりん★

しぃぷぅさま
はじめまして!ようこそおいでくださいました。
レポでは、作品の良いところを取り上げたいと
いつも心がけているのですが、今回限りは…
難しかったですっ…(苦笑)
ま、VIVA!春野さん!!ってことで(笑)
またよろしければお越しくださいね。
by ★とろりん★ (2007-05-19 08:37) 

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