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歌舞伎座七月大歌舞伎 『NINAGAWA 十二夜』再演 [歌舞伎]

 

2007年7月23日(月) 歌舞伎座 16:30開演

【出 演】※()内は原作の役名
琵琶姫(ヴァイオラ)/獅子丸(シザーリオ): 尾上菊之助
斯馬主膳之助(セバスチャン): 尾上菊之助
織笛姫(オリヴィア): 中村時蔵
大篠左大臣(オーシーノー侯爵): 中村錦之助
安藤英竹(サー・アンドルー・エーギュチーク): 中村翫雀
洞院鐘道(サー・トービー): 市川左團次
麻阿(マライア): 市川亀治郎
丸尾坊太夫(マルヴォーリオ)/捨助(フェステ): 尾上菊五郎

大変遅くなって恐縮ですが、7月に観劇した『NINAGAWA 十二夜』の感想をアップさせて下さい…。

この作品は2005年に歌舞伎座で初演され、今回が再演。シェイクスピア原作の『十二夜』のあらすじはそのままに、時代設定や舞台を歌舞伎の手法になぞらえて制作された新作歌舞伎。演出を蜷川幸雄が担当したことで大きな話題になりました。

登場人物の役名が歌舞伎風にアレンジされていたり、マジックミラーを全面にほどこした舞台装置など、これまでの歌舞伎の世界では考えられなかった斬新な演出が話題を呼びました。

2年を経て、修正を加えての再演。さて、どのような世界が待ち受けているのでしょうか〜。

今回は再演ですので、心に残ったこと、気がついたことを思いつくままに書き留めておきたいと思います。詳細なあらすじについては前回の記事をご覧ください。

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【カンゲキレポ】

パワーアップ、スピードダウン。

2度目の「十二夜」の感想を一言で表すとすると、こんな言葉が浮かびました。ひとつひとつの場面を見ると、さらに趣向を凝らしたものに仕上がっているのですが、初演の時に感じたスピード感というか、勢いが落ちていたように思います。

それがよくない、ということではありません。筋書のインタビューで、蜷川さんが「今回の上演では、少しっ”ふっくら”したらいいなぁ、と思っています」と話されています。きっと、その「ふっくら感」が舞台に満ちていたのでしょう。

再演にあたって、ひとつひとつの場面が再検討され、練り上げられ、そぎ落とされ、磨きあげられていく、その課程の中で役者にも制作サイドにも「自信」と「落ち着き」が出てきたのだと思います。そしてその結果が、良い方向で舞台に反映されていました。

***

幕が上がると、舞台全面を覆うばかりのマジックミラー。1階席から3階席までを映し出す瞬間は、圧巻の一言です。そして、どこからともなく聞こえてくるのは、チェンバロが奏でるもの悲しげな旋律..。大げさですが、西洋の文化が東洋の文化に見事に溶け合った、すばらしい演出ですね。

初演と比べて大きな変更点と言えば、まずは序幕の嵐の場面。主膳之助と琵琶姫の乗った船が遭難するシーンですが、盆セリをフル活用で想像を絶する一大スペクタクルな演出。この中で、一瞬にして主膳之助と琵琶姫を交互に演じる菊ちゃん、初っ端から大奮闘です(笑)。まさにイリュージョン。

2点目は、獅子丸(男装した琵琶姫の名前)に一目惚れした織笛姫が、獅子丸に渡す贈り物。初演では歌を書きつけた扇でしたが、今回は鏡に変更。元来、鏡は女性にとって大切な花嫁道具のひとつですから、織笛姫の恋がより象徴的になったと思います。

3つ目は、第2幕冒頭の獅子丸(琵琶姫)が少し勇壮なものになていたかな?初演では大小を携えて踊っていましたが、今回はポンポンのついた柄を小道具にしていました。その踊りにうっとりと見とれる大篠左大臣(錦之助)が個人的にはツボでした(笑)。

***

では、出演者について…。

まずは、初演も再演も大奮闘の菊之助。文句なしです。琵琶姫は美しく、獅子丸はしなやかで、主膳之助は凛々しくて…。発声や仕草も、その時の役に合わせてきっちりと演じ分けています。

初演に比べて、役の差がより明確になったような印象を受けました。それにしても、獅子丸として控えながら、ついつい大篠左大臣に見とれて琵琶姫の仕草が出てくるところなど、見ていて飽きません。

大詰の安藤英竹との決闘に巻き込まれてしまうところなど、庵五郎(片岡市蔵)に指南を受けつつもついつい女性の動きになってしまって四苦八苦している姿が可愛い~~(^^)とにかく、菊之助が舞台に出ている時は、一瞬たりとも彼から目を離せませんでした。

それにしても、毎回感心させられるのは最後の場面。「琵琶姫」と「主膳之助」が同じ舞台に並ぶんですよ。もちろん、どちらかを吹き替えの方がなさっているのでしょうが、3階席からですとどちらがどちらなのか、オペラグラスでガン見しないと分からないほど。お化粧も仕草も本当によく似ています。楽屋内で「菊ちゃん選手権」とか開催されているのでしょうか…(笑)。

文句なし、一瞬たりとも目を離せなかった方が、もうひとり。初演に続いて麻阿を演じた亀治郎。大河ドラマ出演で久々の歌舞伎座登場ですが、本人がそのことを誰よりも喜んでいるのでは?と思われるほどのはじけっぷり。喜々として歌舞伎座の舞台を飛び回っておいででした(笑)。

織笛姫に仕える麻阿は、きとんとお仕事もしながら職場恋愛もしっかり楽しんでいるしっかり者。亀治郎のきびきびした動きが麻阿の人柄にもぴったりと合い、もうこの役はこの人でなければ、と思わせる快演でした。

菊之助と同じく、亀治郎も舞台に出ている間は絶えず何かをしています。お芝居を追わなくちゃいけないし、亀治郎の動きもチェックしなきゃいけないし、とえらいジレンマでした(笑)。

個人的にツボなのは、酒盛りで大騒ぎしているところを坊大夫に見咎められて、ねちねちと嫌みを言われる場面。

ひたすら頭を下げてかしこまっている、と見せかけて坊大夫が立ち去った後に「ええい、いつもながらに憎らしいお方っ!」と悔しがる時、ついつい足が出ちゃうんですよね。ここが可愛い~☆亀ファンで話題になっていた匍匐(ほふく)前進も好きですけれども、この足を思いっきり蹴り上げる姿に、麻阿という女性のイキの良さ、可愛らしさが端的に表れていると思います。

それにしても、この年齢で左團次の愛人役を勤めることができるのは、亀ちゃんくらいじゃないですかね(笑)。

初演からほぼ変更のないメンバーの中、ガラリと変わったのが安藤英竹。初演では尾上松緑が演じていましたが、今回は翫雀が好演。おつむの弱い役作りだった松緑と比較すると、「勘違い度100%」が光る役作りでした。決してイケてないのに、「んあっ、ぼくぅ~~~ん☆」といちいち”しな”をつくるのがツボ(笑)。自意識過剰なキャラぶりがナイスでした。ほとんどオリジナルキャストが揃う中で、ひとり新規加入というのはいろいろと大変でしたでしょうが、とても楽しませてもらいました。さすが、芸達者ですね~☆

錦之助、時蔵の美しさは言うまでもなし。権十郎・市蔵は舞台にメリハリをつけ、菊五郎・左團次・段四郎はさすがに舞台を引き締めます。まさに「チーム音羽屋」の力を結集させた最高の舞台でした。

***

もうひとつ、やはりこの作品はシェイクスピア原作ということで、とても素敵なセリフが多いですよ~。「ああ、胸のうちの小鳥が騒ぐ」(By織笛姫)、「わたくしの中にもただひとつの真実がございます、ただそれは誰かに捧げるものではなく、わたくしのみが保つもの」(By獅子丸=琵琶姫)とか。中でも個人的にヒットだったのが、麻阿や洞院たちに痛めつけられた坊太夫に、織笛姫が言い放ったこの言葉。「これ坊太夫、そなた不憫に思えども、笑うて許しゃ」。姫、サバサバしてて好き(笑)。

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いや~、まさに作品違いですが、「夏の夜の夢」のような舞台。隙のない美術デザイン、新鮮な演出、そして和洋の古楽器による絶妙の共演、そして躍動感あふれる役者たち。美しさ、夢々しさに時を忘れてしまうほどでした。

余談ですが、7月のことを「愛逢月(めであいづき)」と言ったりもします。それぞれがそれぞれの愛に出逢った、夏の歌舞伎座でした。

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コメント 4

カオリ

今回もすてきでしたよね〜。ワタシも感想のみですがアップしましたのでトラバさせていただきますね。
by カオリ (2007-08-08 01:15) 

★とろりん★

カオリさま、
TBありがとうございます。こちらからもTBさせていただきました。再演もパワーアップしていて、本当に夢のような時間でしたよね~。ご多忙の頃と思いますが、またお時間ありましたらお越しくださいね。
by ★とろりん★ (2007-08-09 09:04) 

夜野愉美

とろりんさま
感想読んで、すごくすごく観たくなりました。
そんなに素晴らしかったのですか~。
99年に宝塚でもシェイクスピアをやって、十二夜は2回上演されたので、すごく親しみのある作品です。とろりん様の観た気にさせるレポで、なんだかものすご~くもったいないことをした気になりました。
ちなみに祐飛さんは、サー・トービーをやってました。(笑)
by 夜野愉美 (2007-08-13 21:38) 

★とろりん★

夜野さま、
そうそう、99年は宝塚85周年で、バウホールではシェイクスピアシリーズを上演したんでしたよね。花組ロミジュリのビデオ、持ってます~(笑)。十二夜やタニさん主演でしたよね。タニさんを中心に、祐飛さんと花瀬みずかちゃんが並んでましたよね~。

>>ちなみに祐飛さんは、サー・トービーをやってました。(笑)

おお、左團次さんの役どころ!すごい祐飛さん、元締めの役だー!(笑)次回、NINAGAWA十二夜が再演されるあかつきには、ぜひぜひ歌舞伎座へ足をお運びくださいね。一緒に「夏の夜の夢」に浸りましょう~~☆☆☆
by ★とろりん★ (2007-08-14 10:38) 

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