石田衣良 『空は、今日も、青いか?』 [Books]
- 作者: 石田 衣良
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2009/03/19
- メディア: 文庫
「現代感覚の妙手」と称される作家、石田衣良によるエッセイ集。
石田衣良さんの著書を手に取るのは、初めてです。小説は読んだことがありません。2003年~2005年にかけてフリーペーパー「R25」に掲載されたエッセイを中心に、新聞・雑誌に掲載された文章をひとまとめにしてあります。
単行本は2006年に出版されているのですが、今回は新しく出た文庫本を買いました。表紙カバーの、何とも言えない、透き通るような青がとても印象的だったからです。
そして、買おうと思ったきっかけがもうひとつ。
いつか、テレビのドキュメンタリーで石田衣良さんに密着する番組を偶然見たことがあります。(ちなみに、コチラです→NHK番組たまご『ドキュメント"考える"』)
その時のイメージは、「おっしゃれ~な人」。だって、仕事場所がめっちゃくちゃお洒落なんですよ。「作家」という言葉から想像されるイメージとはかなり違って、白を基調とした本棚とデスクからして、既にお洒落上級者。
たぶんね、現代的で都会的で、そしておしゃれな人に対して私が勝手に気後れしてるんですよ、この第一印象の理由は(笑)。羨望みたいなものがあるかもしれませんね。それで素直に見られない、みたいな(←なんじゃそりゃ)。
もうひとつ、今年に入って、ある情報番組でコメンテーターとして出演されている石田さんを拝見しました。
「若者と日本の政治を考える」というのが番組のコンセプトだったようなのですが、最後のコメントを求められて、「政治は人に希望を与えるもの」という趣旨の発言がずっと心に残っていました。
石田衣良さんの作品に対する私のこれまでのイメージは…「甘ったるい、すかしてる」。…どんだけ悪評なんですか(苦笑)。
作品は、書店でペラペラと立ち読みした程度の印象なのですが、なんとも甘~い恋愛小説を書く方だなぁ、と。(彼が文壇に躍り出るきっかけとなった『池袋ウエストゲートパーク』はまた違った作風なのでしょうが)
甘すぎて苦い、というイメージ。(甘すぎて、アゴの奥が痛~くなることって、ありますでしょ?そんな感じ>苦笑)
でも、サイダーのようにスキッと爽やかにコメントしているテレビの石田さんを見て、ちょっと興味がわいてきました。それで、まず石田さんの小説を読む前にエッセイを読んでみようと思い、手に取ってみた次第。
さて、ざっと読んでの感想は…すっきり軽やかな読後感。「R25」に掲載されていたエッセイは、いくつか読んだ記憶があるな~、と懐かしく思いながら読みました。
「勝ち組負け組と簡単に人をふたつに分けて、浅いところでわかった顔をする時代になってしまった」(『組に分かれず』)という文章から、このエッセイ集はスタートします。このエッセイ達が書かれたのは今から5年前。この時期に何があったっけ、と想像しながら読み進めると、かなり面白いかも。
例えば2004年ですと、ライブドアが近鉄バッファローズの買収を提案。後に楽天も参入してプロ野球の新球団設立へと話が展開しました。そして2005年は、同じくライブドアによるニッポン放送買収騒動、村上ファンドが阪神電鉄の株を大量に買い占めてタイガースの行方が取り沙汰されました。はたまた郵政民営化をめぐる総選挙で小泉首相(当時)率いる自民党が圧勝し、「小泉劇場」と呼ばれました。この数年は、社会の面でも政治の面でも、変な熱にうかされたような時代だったように思います。
その時代にあって書かれた石田さんの文章は、まるで鼻歌でも歌っているかのように、良い意味で軽やか。エッセイが掲載された紙面が「日経新聞」「R25」「anan」と多彩なように、取り上げるジャンルも政治から経済、社会、恋愛、自分の職業、そして自己実現…と、実に豊富。それらのテーマを、まるでスキップでもするかのように軽いテイストで、決して真面目すぎることもなく、悲観することなく、決して攻撃することなく、そして過剰に楽観的になることもなく、実にストレートに書き留められています。
また、ほとんどの文章が「あなた」-つまり、今、この文章を読んでいる人たちへ向けて綴られているのも印象的です。「ですが、ご同輩、ここであきらめてはいけません」(「世界の半分は心でできている」)など、絶えず読者へ意識が向けられています。
ご自分の仕事や家族の事も時々書かれているのですが、これがまた力が抜けていて良い感じ。石田さん、お子様には「チッチ」と呼ばれているそうなのですが、それを目にするたびに、ついつい「サリー」を思い浮かべてしまうのは…年齢がバレバレですかね(汗)。もとネタ→小さな恋のものがたり 第41集 (41)
中には、4月に新スタートを切る新社会人へ向けたメッセージもありました。この季節に読むと、とても心にまっすぐ響いてきます。
「ぼくからの忠告はひとつだ。なにか勉強をひとつ、遊びをひとつ見つけてください。(中略)その遊と学は、その後のあなたの数十年を照らす光になる。迷ったときやつらいときに、どう生きていけばいいのか方向を示してくれる夜の海の灯台になるのだ。」
( 「春一番を吹かせよう」)
けれど、「夢」に対する考え方にはとても現実的な部分も見せ、説得力があります。
「夢は人を勇気づけるものであって、傷つけるものではない。自分を不幸にする夢なら、捨てることで前進できるのだ。」
(「夢を捨てる勇気」)
男性の視線から、女性に対するエールや注文(?)も、一風変わっているのに思わず納得。
「すべての化粧水は肌に水分を補給するためにあり、すべての文化は心にうるおいをもたらすためにある。化粧水と同じように、自分にあう作品を気軽にどんどん試してください。」
(『「大人の格好いい女性」の条件』)
色々と為に(?)なることや、「うんうん」と思わずうなずいてしまう事がたくさん書かれているのですが、全体を通じて「誰のものでもない、自分だけの居場所を探すこと」「"自分"を理解し、受け容れること」というメッセージを静かに、けれど強く感じます。
「最後にひとつ。きみはあまり無理をして、ひとと同じようにしないほうがいい。きみはきみらしく、ゆっくりとすすむ。ただし、ひとりぼっちだと嘆きながらではなく、自分の速度で。」
(「ひとりぼっちのきみへ」)
ほかにも、心に残る言葉がたくさんあります。
長所でも、特技でも、趣味でも、「自分にはこれがある」と気付いたときの心強さ、その気持ちが与えてくれる勇気、力…きっ と皆さんにも体験があると思います。そのことにどれだけ早く、多く気付けるか。
生きていくことの充実感は、そういったものから生まれるのかもしれません。
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