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歌舞伎座さよなら公演 五月大歌舞伎千穐樂 夜の部 [歌舞伎]

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2009年5月26日(火) 歌舞伎座 16:30開演

・「恋湊博多諷(こいみなとはかたのひとふし) -毛剃(けぞり)-」
・「小猿七之助 御殿殿お滝  夕立」
・「神田ばやし」
・「鴛鴦襖恋睦(おしのふすまこいのむつごと) -おしどりー」



今更で恐縮ですが、五月大歌舞伎@歌舞伎座の感想をアップしておきます。今回は【あらすじ】を省略しますこと、ご容赦下さい。

・「恋湊博多諷(こいみなとはかたのひとふし) -毛剃(けぞり)-」

市川團十郎丈坂田藤十郎丈の共演。團十郎丈の大きさ・荒々しさと藤十郎丈の和事味・やわらかさが見事に融合した舞台でした。どちらの個性も際立ちながら、決して相手の個性を殺すことなく両建てとなっていたのはさすが。

物語の舞台が江戸でも上方でもなく、多くの国の人が行き交う船上、そしてその人々を受け入れる港町・博多であったというのも大きな要素かもしれませんね。

船上のシーンは、舞台一面に敷き詰められた波布で、夜の海の不気味さ、湿った香りを表現しつつ、船は360度回転できる大きな装置。船首で大きくにらみをきかせる團十郎丈@九右衛門の迫力といったら!

対する藤十郎丈は、いかにも上方のええとこのぼんさん、という感じ。出てくるだけでおっとりとなよやかな風情は絶品。悪事を目撃しても抗えず(まぁ、多勢に無勢でしたし…)、博多に流れ着いて、恋人のいる廓を頼って来る場面などは、みずぼらしい身なりになっても気品が失われず、山城屋だからこその舞台、という感じでした。

その廓で恋人・小女郎役として藤十郎丈@宗七を迎え入れるのが、尾上菊之助丈。におい立つような美しさです。それよりも何よりも、しっとりとした色気が備わってきましたね~。廓の2階にある自室で、宗七の髪を櫛ですいてやるシーンでは、一言の科白もないのに、櫛を動かすしぐさ、肩越しに宗七の顔を覗き込むまなざしに、愛情の深さを充分に表現。

何よりも驚いたのが、團十郎丈と藤十郎丈という東西歌舞伎の大看板の間に立つ役どころながら、その存在感がまったく薄くならなかったこと。後半、廓の中で鉢合わせした九右衛門と宗七の合間に入って2人を留める場面があるのですが、その中に入っても、必要以上に控えめになることもなく、それでいて鮮烈な輝きに満ちていました。

菊之助丈…この方は、どこまで輝きを極めていくのでしょうか。



・「小猿七之助 御殿殿お滝  夕立」

「小猿七之助」は、「網模様灯籠菊桐(あみもようとうろのきくきり)」の通称。巾着切り(今で言うスリ)の七之助が御殿女中のお熊(御殿での名前は、滝川)を強引に自分のものにしたことによって起こる事件を描いた作品です。

この作品のクライマックスのひとつ、雷鳴のとどろく洲崎(現在の江東区東陽町付近)の土手で、七之助が滝川を我が物にしてしまう場面を取り出し、舞踊仕立てにしたもの。ドラマのワンシーンを再現したような形式ですね。

いや~…ここは、音羽屋・尾上菊五郎丈中村時蔵丈による、男と女の色気炸裂のひと時でした(爆)。めっちゃくちゃ悪い男なのに、なぜか目をそらすことができない・・・。本物のワルですよ、ヤツは!!(笑)

そんな男を色気たっぷりに演じてしまえるのは、天下広しと言えども菊五郎丈だけですっ!!いやもう、久々に、歌舞伎見物中に鼻血が出ました(爆)。今でも、からげた着物の裾からのぞく菊五郎丈のたくましい足を思い出すと、身体が火照ってきます(自爆)。

対する時蔵丈も、目の見張るような美しさ。この方は感情の変化によってかもし出す「女」の部分も変化していくのが見せ所だと思いますが、前半の御殿女中らしい楚々とした雰囲気から一転、七之助もちょっと戸惑うほどになまめかしくなる様子は、もう~、眼福ですっっ(爆)。

いや~・・・歌舞伎座であんなに興奮するとは、思いもよりませんでした(自爆だらけ)。



・「神田ばやし」

実は私、この話をまったく違う風に想像していたんですよね…。

最初、チラシをざっとチェックしたとき、坂東三津五郎丈市川海老蔵丈をはじめ、山崎権十郎丈片岡市蔵丈坂東亀三郎丈亀寿丈など、イキの良い立方衆が配役されていたので、「これは、絶対に下町風情あふれる粋でいなせな話にちげえねぇ!(←すでに江戸っ子)」と、すっかり早合点。

(とろりんさんの、脳内「神田ばやし」)
  • 三津五郎丈も海老蔵丈も、他の立方衆は、火消しか大工。みなさん必要以上にイキが良い。
  • 衣装は立方全員、法被にさらし、そして半股引(はんだこ:短パンの長さくらいの股引)。もちろん、たくましい太ももがチラ見え。きゃ~[黒ハート] (/▽゚\)チラッ
  • 「神田ばやし」だけに、神田祭の御神輿が登場する。お祭特有のの躍動感と熱気炸裂~!!(5月はちょうど、神田祭の季節です)
  • みっちゃん(三津五郎丈)とえび様(海老蔵丈)の間で、おみつ(中村梅枝丈)をめぐって淡い恋の鞘当なんかが展開。結局、どちらもあいまいなまま。
  • 最後は、客席に背を向けて、沈みゆく夕日を見つめるみっちゃん(仁王立ち)とエビ様(片膝つき)で不器用な男同士の会話で終幕。(例:海老「兄貴ィ、終わっちまいましたね…」三津「ああ・・・」みたいなみたいな。きゃぴ [揺れるハート] ←?)

…ぜんっぜん、違う話でした(笑)。つーか、みっちゃんの役名が「家主彦兵衛」となっている時点で「こりゃ、なんか違うな」って気づこうよ、とろりん(笑)がっかり

実は、先に観劇なさっていたはなみずきさまのブログでレポを拝見するまでは、本当にこういう話なのだと思い込んでいました(苦笑)。はなみずきさまのレポを読んで、初めて「あれ、思ってた話と違う・・・?」と思って、あらためてチラシを読み返したのでした(汗)。

なんでもかんでも、思い込みはよくないという、良い教訓ですな。(そうか?)

さて、本来のあらすじ(汗)は、ある念仏講の晩に長屋の者たちが集まっていたところ、講中の掛金がなくなってしまい、家主の彦兵衛(三津五郎丈)は、変なタイミングでそそくさと立ち去った桶屋の留吉(海老蔵)が掛金を盗んだものと思い込んで・・・というお話。

ラストはいわば「結果オーライ」で、掛金の紛失は留吉のせいではないということが判明し、明るい雰囲気で幕となるのですが…。全体的に、これは好みが別れるお話かもしれませんね。

良い意味でも悪い意味でも「歌舞伎らしくない」お話ですから、「こういう作品を歌舞伎でも上演するんだ~」という意見もあるでしょうし、「う~ん、歌舞伎と言うには物足りない・・・」という感想をお持ちになる方もいらっしゃるかな、と。

個人的には、三津五郎丈がおじいちゃんという配役が判明した時点で、ちょっとテンションが下がっていたのは事実です(苦笑)。

物語自体はもっともっと練り上げる必要があるのでは…?と思いつつも、江戸の生活や風俗がふんだんに取り入れられているので、それはすごく興味深かったですね。長屋の間取りとか、昔の人の生活とか。

「(講中の掛金がだいぶ貯まったから)長屋の連中でどこか遊山に出かけよう」「そりゃぁ良いねぇ」みたいな会話もあり、昔から、町内会の旅行みたいなのがあったんだなぁ~と思って感心しました。

終幕は、やはり神田祭の季節。「神田ばやし」に乗って、失われた掛金の行方がわかったところで大団円。

この場面でも、江戸の長屋の日常的な生活が何気ない会話や人物の動きの中で巧みに表現されていて、面白かったです。梅枝丈@おみつが、汚れてしまった留吉の浴衣を洗って干す場面は、まさに江戸時代の長屋の日常生活のひとコマを見ているようでした。



・「鴛鴦襖恋睦(おしのふすまこいのむつごと) -おしどりー」


かつて「平成の三之助」と呼ばれた、海老蔵丈(新之助)尾上松緑丈(辰之助)菊之助丈の三名によるファンタジックで美しい舞踊。

いやいや、幸せなひと幕でしたよ~[ぴかぴか(新しい)] 舞台中央のセリから、ポーズを決めた三人がせり上がってきた時の劇場中のどよめきと言ったら、すごいものでした。美しくて若々しい三人の花形役者が織り成す舞踊に、客席中うっとり。

この舞踊は前半と後半に見せ場が分かれていて、前半は遊女喜瀬川(菊之助丈)の行司で河津三郎(海老蔵丈)と股野五郎(松緑丈)が相撲をとる様子を見せ、後半では股野によって殺されたオスの鴛鴦の精(海老蔵丈)とメスの鴛鴦の精(菊之助丈)が股野を苦しませる、という展開になります。

「毛剃」に続いて太夫の装束で登場する菊之助丈は、ここでも清澄な美しさで場を引っ張ります。想い人に河野に対するしぐさと、嫌っている股野に対するしぐさが露骨に違うのですが(苦笑)、まったく下品にならず、愛嬌すら感じさせたのはさすがです。

場面変わって鴛鴦の精となって登場してからは、理不尽にも引き裂かれた夫を思う様子が、羽ばたくような振りの合間に見え隠れして、前場とは違った風情を見せました。

海老蔵上は美丈夫の姿がすっきりと麗しく、松緑丈(三人がそろうと、いつも敵役っぽくなってしまうのが気の毒ですが・・・)は力強く安定感のある踊り、そしてコミカルなしぐさで場を盛り上げました。



いや~、歌舞伎座で歌舞伎を見るのは、実は今年初めてです(汗)。(前回は、俳優祭で、本興行ではなかったので…)

あらためて、歌舞伎ってやっぱり良いなぁ、と思いました。

宝塚歌劇ですと、最初から最後まで意味不明に興奮しまくっているのですが(笑)、歌舞伎はしみじみと「あ~、アタシ、日本人だなぁ~」という気分に浸りながら、役者さんのカッコ良さや美しさをゆっくり堪能できます。(「小猿七之助 夕立」は、歌劇並みにアドレナリン噴出しっぱなしでしたが>笑)

う~ん、心から幸せな夜でした[ぴかぴか(新しい)]

歌舞伎座



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コメント 4

カオリ

いかがでしたか? 歌舞伎座。
今月も行きそびれてしまいました。いつでも行けるし、と思っていたら1ヶ月が過ぎるのってあっという間です。
by カオリ (2009-05-28 15:23) 

★とろりん★

カオリさま、

コメント、ありがとうございます!

久しぶりに観た、歌舞伎座でのお芝居…。やっぱり、最高に楽しかったです!!心が喜んでいるのが分かるというか。

菊之助丈の女方に、清新な美しさだけでなく包み込むような温かさ、慈悲深さがそなわりつつあります。特に『毛剃』では、團十郎丈と藤十郎丈の間に立っても存在感が希薄になることなく、堂々とした舞台でしたよ~。
by ★とろりん★ (2009-05-28 21:57) 

mami

とろりんさん版「神田ばやし」面白すぎです!誰かこの筋で作ってくれませんかね~。だってこちらの方が三津五郎さん格好良さそうですもんね!
by mami (2009-06-23 23:26) 

★とろりん★

mamiさま、

コメント、ありがとうございます!!

私にとっては、「あらがいがたい魅力」(by『武士の一分』ご本人インタビュー)№1の三津五郎丈が、おじいちゃん役…というのがどうしても想像できず、あのような思いこみが発生したのかと思います(笑)。お祭をテーマにした作品、きっと素敵な舞台になりますよねっ(←自画自賛)。お願いします、松竹さんっ!!
by ★とろりん★ (2009-06-24 07:28) 

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