山本周五郎 『扇野』 [Books]
山本周五郎による小品の中から、夫婦愛や男女の機微をテーマにした作品を集めた短編集です。「夫婦の朝」、「合歓木の蔭」、「おれの女房」、「めおと蝶」、「つばくろ」、「扇野」、「三十ふり袖」、「滝口」、「超過勤務」の9篇が所収されています。
このうち5編(↑ピンクの太字)が夫婦もの、3編(↑オレンジの太字)が男女の機微を描いた作品、1編(↑青の太字)が、ちょっと異色な感じのする現代ものです。「愛情もの」と呼ばれる作品を集めただけあって、ほぼ全てが男女の間に流れる情愛を多彩に、そして穏やかに描いています。
一時期、私には「周・周ブーム」で盛り上がっていた時期がありまして。山本周五郎と藤沢周平の作品ばかり読んでいた時期を勝手にこう読んでいるだけなのですが。
最初に読んだのは、文庫本『花匂う』。この中に所収されている「蘭」は、潔くて瑞々しくて美しくて、本当に素敵な作品です。
- 作者: 山本 周五郎
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1983/01
- メディア: 文庫
久しぶりに読んだ周五郎作品は、やっぱりじんわりときますね~。夫婦の間には、他人には分からない絆、情愛が流れているものなんですね。どれもこれも、「こんな夫婦でありたいなぁ」「こんな家庭を築けると良いなぁ」「こんな素敵な旦那様が良いなあ」(←笑)とか、素直に思えてしまうものばかり。
特に、表題作でもある「扇野」は、何回でも読み直したい作品です。大作に挑む流れの絵師を軸に、彼と惹かれ合う芸妓おつる、そし陰から絵師を慕う娘おけい…この三者三様の心のありようが、とても人間的。おけいの最後の言葉には、ハッとして思わず熱いものがこみ上げました。
周五郎作品に登場する芸妓は、良い意味で勇ましくて可憐で情が深くて、好きですね~。芸妓さんがヒロインの「山茶花帖」(『雨の山吹』所収)も、すごく良いお話です。
周五郎作品の醍醐味は、鮮やかな空気の変化にあると思います。日常の風景が淡々と描かれているかと思えば、たった一文や、登場人物のたった一言で、それまで物語に漂っていた空気がガラッと変わってしまい、読者を清々しい、優しい気持へと引き込んでしまいます。
『扇野』も、珠玉の言葉がたくさん詰まっています。
表題作「扇野」で、おけいが主人公に話しかける最後の言葉。「めおと蝶」で、妻が共に旅立つ夫に微笑みながら口にするひと言。「つばくろ」で、母の不在に黙って耐え続け、とうとう病に倒れた幼い子供が、苦しい息の中で繰り返す言葉。「夫婦の朝」での、窮地に追い込まれた妻を救った後、夫が朝の光の中で妻にさりげなくかける言葉…。そのひと言ひと言、心の中に光が差し込んでくるような、そんな温かさ、優しさを感じることが出来ます。
ほんのひと言、でも相手を思って大切に伝えられる言葉は、その人の心を動かすことも出来るし、あたたかく照らす事もできる…「言葉の力」とは、まさにこの事ですね。
「人として、こう生きていきたい」と、周五郎作品を読むたびに思います。
それにしても、周五郎作品に登場する男性陣は揃いもそろって、どうしてあんなに爽やかで凛々しくてカッコイイんでしょうね~男気と優しさあふれる言動に毎回、「くおぉぉぉ、めっちゃかっこええっっ 」(←興奮のあまり関西弁)と、読みながら悶絶しまくりです(笑)。
お〜〜〜〜、わかります。
私も、周&周さん、大好き。
今、こういう男性が、おらんなぁw
by ラブ (2009-06-20 10:59)
ラブさま、
nice!とコメント、ありがとうございます!!
いや~、どこかにいると信じて頑張ります(笑)。今日も短編集を2冊、買って来ちゃいました(^_^)
by ★とろりん★ (2009-06-20 21:08)