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エンバース~燃え尽きぬものら~ [講座・現代演劇]

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2009年11月13日(金) 俳優座劇場 19:00開演

原作: シャーンドル・マーライ
脚本: クリストファー・ハンプトン
翻訳: 長塚京三
演出: 板垣恭一
出演: 長塚京三、鷲尾真知子、益岡徹

六本木にある俳優座劇場に久しぶりに足を運びました。長塚京三さんと益岡徹さん、そして鷲尾真知子さんによる芝居、『エンバース』を観劇。

【あらすじ】

オーストリア・ハンガリー帝国が滅亡して間もない1940年。ヘンリック(長塚)はかつての親友、コンラッド(益岡)との41年ぶりの再会を待ちわびていました。ヘンリックの妻は既に亡く、乳母のニーニ(鷲尾)が彼の身の回りの世話をしています。

ヘンリックがコンラッドを招いたのには、理由がありました。41年前の真相を、どうしてもコンラッドに確かめたかったのです。

19世紀最後の夏。まだ若い2人は親友で、ヘンリックの妻クリスチナはコンラッドの幼なじみでした。ある時、ふとした事でヘンリックはクリスチナとコンラッドの親密さに疑いを抱き始めます。そしてある事件が、ヘンリックとコンラッド、そしてクリスチナとの関係を決定的に変えてしまうことになります。

あの時の真相は、彼女の心の真実は・・・。2人の男の胸に、エンバース-「埋み火」が広がります・・・。

【カンゲキレポ】

2008年に初演された作品の再演。全体的に、非常に洗練された大人の芝居、という印象でした。登場人物はたった3人だけなのですが、とにかくこの3人の演技対決が見ものです。

ほぼ独白に近い長塚さん演じるヘンリックの言葉を、淡々とした表情で聞き続けるコンラッド。冒頭と最後の場面だけに現れるニーニ。この構図だけで、観客は2時間もの間、舞台の世界に惹きつけられていました。

時には相手をぐいぐいと引っ張り、時には押しやったり、感情のままに言葉をぶちまけたと思ったら全てをのみこんでぐっと口を結ぶ、ある意味自由奔放な長塚さんの芝居。舞台真ん中の椅子に深く腰掛けたまま、視線とわずかな表情の動きで感情をわずかに映し出す益岡さんの「受け」の芝居。全てを押し包むかのような、鷲尾さんのたたずまい。3人の役者の個性が静かに火花を散らすような舞台でした。

特に、鷲尾さんの存在感!90歳を越えた老婦人という設定の鷲尾さん、それらしい仕草と表情で、舞台に登場するだけで場をさらっていました。立っているだけでその役の空気を醸し出せるのって、本当に凄いことだと思います。カーテンコールではふだんのキュートな鷲尾さんにシュルッと戻られるのですが、さっきまでおばあさんを演じておられたとは思えません。

益岡さんの「無表情の中の表情」にも、非常に惹かれました。軍人らしく、理論武装したかのように理詰めでたたみかけてくる長塚さん@ヘンリックのひとつひとつの言葉に、前を見据えたまま、きちんきちんと反応されているのです。ヘンリックにクリスチナとの事を問いつめられ、わずかにたじろぐ瞳の揺らぎ、そして長い沈黙の果てに、押し殺していた息を吐き出すようにして口を開く「…答えたくない。」というたった一言に、クリスチナへの思い、ヘンリックへの友情と嫉妬、羨望を感じさせ、素晴らしかったです。

長塚さんのお芝居を拝見するのは、2004年に観劇した『偶然の男』以来。相手と常に対峙するような、突っかかっていくような鋭敏さは、軍人という役どころであるヘンリックによくはまっていました。それにしても、2時間近くの間、出ずっぱりでしゃべり続けるのは本当に大変な事だと思います。ましてや、そこに感情の波を乗せていかなくてはいけないのですから…。それでも長塚さんの言葉に、どんどん引きこまれていきました。

人生の渋み、翳りのある大人のビターなお芝居も、たまには良いものですね。人生のほろ苦さ、甘さを感じた六本木の夜でした。

俳優座劇場


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