川端康成 『千羽鶴』 [Books]
神保町の古書店で、ふと目について購入してみました。続編『波千鳥』と同時収録。
20代後半の青年、菊治はある日、亡き父のかつての情人である太田夫人と出会い、一夜を共にしてしまう事から物語は始まり、やがてその娘の文子、後の結婚相手、ゆき子や亡き父と関係があったちか子、それぞれの女性の思いや感情が、菊治にからんでいく様を描いた小説。
実はこの作品、『波千鳥』で完結するようだったのですが、明らかに「…え、ここから何か始まるよね!?」という箇所で突然終わってしまいます。
後ろの解説を読んで納得したのですが、実は川端康成は、まだ執筆中の時にこの作品の取材ノートを紛失しており、その事を亡くなって後も公にはしなかったそうなのです。その理由も解説に書いてあり、ここでは省きますが、川端らしい几帳面さと誠実さが伝わってくる理由です。
菊治さんは、客観的に見ると結構どうしようもない人なのですが(苦笑)、菊治に関係していく2人の若い女性-文子とゆき子が抱く感情の揺れやぶれは、女性としてはかなり共感できると思います。
「でも、女にはもしもという、おそれともよろこびとも知れぬ胸のおののきのあることを、あなたはお考えになってみて下さいましたでしょうか。」(本文より)
この言葉、「わかるっ!!すっごいわかるっ!!」と思ってしまった私(苦笑)。そんな事を感じる文子は、本当に辛い思いを抱えているのですけれど…。(そんな思いをさせる菊治さん、罪な男ですな…)
また、これは読み進めていくうちに判明してびっくりしたのですが、大分県の竹田や九重山地について、かなり詳細な描写がされているのです。大分県に旅することが多い者としては、嬉しく読みました。
菊治を思い、その思いに別れを告げるため、亡き父の故郷、大分県竹田市へ向かう文子。彼女は大阪からフェリーに乗って別府港へ到着し、その後の旅の行程を、菊治に送った手紙で詳しく書き留めています。
「別府から大分を通って汽車で竹田に行けば早いのですけど、久重の山々に「近づいて」見たいと思いますから、別府の裏の由布岳の麓を越えて、由布院から豊後中村まで汽車、そこから飯田高原にはいり、山を南へ越えて、久住町から竹田へというコオスを選びました。 筋湯、九酔渓、城島(きじま)高原、法華院温泉、諏峨守越(すがもりごえ)、岡城址…」
おおお、文子さん、かなり通な巡り方をしていますよ!(そんな感想を述べる私もどうでしょう)。というか、川端は当時の交通事情も含めてかなり綿密に調査取材を行ったのだな~と、ひたすらに感心してしまいました。
個人的には、「豊後中村」という駅名が出てきただけで、かなりテンション高くなりました(笑)。ちなみに豊後中村駅は、特急「ゆふ」停車駅です。「ゆふいんの森」は、一部停車します。(かなりマニアックな情報)
竹田駅前の描写などもあり、「駅舎のすぐ前を川が流れている」という文章があるのですが、現在もその描写と変わらず、川のすぐ前に駅舎が現存します。以前、竹田に行った時の事を思いだして、懐かしく読みました。
と言うことで、今日から大分に旅立ちまーす
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