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Departure ~彩吹真央 卒業に寄せて~ [宝塚歌劇]

彩吹真央スペシャルブック Departure

彩吹真央スペシャルブック Departure

  • 作者: 宝塚ムック
  • 出版社/メーカー: 阪急コミュニケーションズ
  • 発売日: 2010/03/05
  • メディア: ムック



もう、こんなことは許されない。

雪組東京公演を観劇しながら、そう思いました。

2番手、そしてトップコンビが相次いで退団を発表するという雪組のことについては
コチラの記事でもお伝えしましたが、やっぱり、「夢を売る」のがいちばんの売りである宝塚が、顧客であるファンの夢を裏切るようなことを行ってはならない、少なくとも私はそう思います。

雪組2番手男役、彩吹真央が、本日、宝塚歌劇団を卒業しました。

彼女の「Departure」を笑顔で見送りたい、そう考えるのですが…心は理性に追いつかないな、というのが正直な本音です。

最後の公演では、立ち位置や振付などに様々な配慮がされていて、センターに立つ演出もありました。そこに立つ彩吹の笑顔も、本当にキラキラで、澄み切っていて。

でも、この笑顔を見るたびに、「なぜ、しかるべき立場でこの位置に立つことを許されなかったのか?」という疑問が心の中に小波をたてるのです。いつトップになってもおかしくなかった人なのに、なぜ、それが許されなかったのか?と。

今さら言っても仕方のない事だとは重々承知の上です。けれど、彼女の卒業を納得できるまでには、しばらく時間がかかりそうです。



私にとって彩吹真央の印象は…「よく泣かされた」ですね。

繊細ゆえに自滅していく『エリザベート』のルドルフ。
死を目前にしてもなお、人への思いやりを忘れない『野風の笛』の秀頼。
ユダヤ人の恋人を真っ直ぐに愛し抜く『落陽のパレルモ』のヴィットリオ・F。
春野寿美礼演じるエリックとの会話があまりにも切なすぎた『ファントム』のキャリエール。
自分の命に代えても親友を守り抜こうとする『マリポーサの花』のエスコバル…。

すべて、涙なしには見られませんでした。それだけ、人の心に深く染みいるお芝居をする人でした。

けれども、いちばんの思い出は、2002年の花組バウホール公演『月の燈影(ほかげ)』です。当時、花組の若手男役だった彩吹と、2学年下の蘭寿とむによるダブル主演作。彩吹は暗い過去を背負って両国で生きる幸蔵、蘭寿は幸蔵を兄のように慕う次郎吉を演じました。

このブログでも折に触れて紹介してまいりましたが、本当に大好きな作品です。宝塚の舞台で慟哭するほど泣いた作品は、後にも先にもこれだけです(照)。

彩吹と蘭寿にとっても非常に思い出深い公演であるようで、対談などでは必ず話題に上ります。

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    当時、当然ながらこのブログは存在しておりませんでしたが、メール配信方式で一部の友人達に「カンゲキ通信」として観劇の感想を書き送ったりしていました。

    この公演についてのレポは残念ながら存在しないのですが、私は「彩吹と蘭寿、どちらが欠けてもこの公演は成功しなかった」と書き留めたことを覚えています。

    あの時の花組で、彩吹と蘭寿のダブル主演で、相手役が沢樹くるみで、そして全ての出演者がいるべき配役に入っていたからこそ、『月の燈影』という舞台は私にとって忘れられない、大切な思い出となりました。今でも夏が来ると、この舞台のことを思い出します。

    この作品で、私は蘭寿の太陽のように屈託のない明るさと爽やかさに心を奪われ、以来、ファンとなって今でも彼女を応援しています。

    でも、この蘭寿の天性の魅力である「くもりのない
    、どこまでも澄み切ったまっすぐな笑顔」がいかんなく発揮されたのは、彩吹の存在あればこそ、なのです。

    彩吹演じる幸蔵の闇が深ければ深いほど、蘭寿演じる次郎吉の明るさ、素直さが際立ち、次郎吉の笑顔がまっすぐであればあるほど、幸蔵の抱えるものも重く、深くなっていく…。それが、舞台全体に色濃く陰影をつけていく…。

    両者の役の生き方のコントラストと、それぞれの持ち味が、最大限に活かされた作品でした。彩吹と蘭寿という、2人のスターの天性が、見事な相乗効果と素晴らしい化学反応を生み出していたと思います。

    あの頃から、彩吹は端正な顔立ちにどこか翳(かげ)を潜めているような、そんな繊細な存在感が印象的でした。


    彼女の持つ独特の「翳」を、どう表現すべきか…と考えていたところ、これ以上にない的確な言葉を、「歌劇」4月号”彩吹真央サヨナラ特集”に掲載された「送る言葉」の中に発見しました。


「魅力的な不幸」。

この言葉を読んだ時、息が詰まりました。書かれたのは、『月の燈影』を演出した大野拓史先生。その絶妙な表現、その言葉の意味の深さ…まさに、彩吹のためにある言葉としか思えません。

もう、宝塚で「彩吹真央」の舞台を観ることはできません。あまりにも歯がゆく、やりきれない思いだけが残った彩吹のラストステージ。でも、私は彼女の歌声も、彼女のダンスも大好きです。いつか、彼女のDepartureを心から祝福し、応援できる時が来ますように。

ユミコさん、お疲れさまでした。

そして、また、どこかで、あなたの歌声に出逢えますように…。


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ラブ

いろいろなとろりんさんの思いが、交錯しているのですね。
何だかすごく、伝わって来ました。
知っていればこその、悔しさが。
by ラブ (2010-04-27 13:15) 

★とろりん★

ラブさま、

nice!とコメント、ありがとうございます!!

何だか気持ちの整理がつかなくて思いのままに
書きなぐってしまった文章なのですが、
汲んでいただいて嬉しいです。
時間とともに、受け容れられる日も来るだろう…
と思うのですけれどね。
by ★とろりん★ (2010-04-28 11:20) 

こゆき

はじめまして。
ひょんなことから、こちらに辿り着いた
彩吹ファンです。

ゆみこさんが女優となってから出演した作品に
「COCO」というミュージカルがありました。

この作品の主人公、ココ・シャネルを取り巻く
男性の一人に、ポール・ヴァレリーという
フランス人の詩人がいました。

彼の言葉に、こんなものがあります。
「愛しいココよ、影が光の最も美しい宝石箱で
あることを君は知らない。
僕が君のために、最も優しい友情を
絶えず育んできたのは、この影の中でなのだ。」

あなた様のこの記事を拝見して、
何故だかふいとこの言葉を思い出しました。


この舞台に出演することが発表された頃から、
ファン仲間が「COCO通信」というメールを毎日
私たち友人に宛てて送ってくれました。

シャネルの数多くの名言を紹介してくれるもので、
作品への理解を皆で一緒に深めてまいりました。

この通信が結構好評で、なんとファン仲間
50人ほどが転送し合ったりしながら
愛読していたのです(笑)

その中の一通に、上記の言葉があり、
私も知ることができました。

時間が忘れさせてくれるような悲しみなど
ひとつもありませんが、女優3年生の新学期に
この作品を観て、ゆみこさんを思い出して
下さる宝塚ファンの方がいるんだなぁと思うと
とても嬉しく思います。

長々と失礼いたしました。
by こゆき (2012-05-03 23:03) 

★とろりん★

こゆきさま、

はじめまして。コメント、ありがとうございます!!

蘭寿とむのファンとして、『月の燈影』のファンとして、ユミコさんは絶対に忘れられない男役さんです。いつでも心の深いところに、ユミコさんと『月の燈影』の思い出はずっと存在しています。

「影がもっとも美しい光の宝石箱」・・・深い言葉ですね。

『道化の瞳』を観劇前、朝日新聞デジタルで配信されたユミコさんのインタビューを拝見しました。あのような形で宝塚を卒業されたことについても自分の思いをきちんとお話されていて、涙が出そうになりました。変わらず、控え目で、謙虚で、ファン想いで、それでいて内面に揺るぎない意志の強さを感じるインタビューでした。

この記事を書いた当時、ユミコさんの「Departure」を心から応援できる日は来るのだろうか・・・と思っていました。けれど今年、女優生活3年目を迎えたユミコさんの舞台を見て、ようやく彼女の「Departure」を受け止められたというか、気持ちの切り替えが出来たように思います。

2年前の記事を見つけてくださり、ありがとうございました。
by ★とろりん★ (2012-05-04 14:23) 

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