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中川右介 『坂東玉三郎-歌舞伎座立女形への道』 [Books]

坂東玉三郎―歌舞伎座立女形(たておやま)への道 (幻冬舎新書)

坂東玉三郎―歌舞伎座立女形(たておやま)への道 (幻冬舎新書)

  • 作者: 中川 右介
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2010/05
  • メディア: 新書




新しく生まれ変わるために、今年4月の興行で約50年の歴史に幕を下ろした歌舞伎座。その最後の演目『助六』で揚巻を演じ、名実ともにあの歌舞伎座最後の立女形としての務めを果たしたのは、坂東玉三郎丈でした。

生粋の梨園の御曹司ではなく、芸養子から歌舞伎の道に入った一人の役者が、今や誰もが認める立女方として頂点に輝く……。それを著者は「未曾有の奇跡」と言います。何が「奇跡」なのか。そしてその「奇跡」はいかにして導かれたのか……。

膨大な文献と資料を比較対照するという作業から事実を掘り下げていくという新しいスタイルで、芸術文化のヴェールの向こうを垣間見せる中川右介の新刊です。彼の前著『十一代目團十郎と六代目歌右衛門』と合わせて読むと、かなり読み応えがあります。(レビューは
コチラ

歌舞伎を本格的に観る前、私にとって玉三郎丈に対する印象は「映画の人」。『外科室』や『天守物語』などの映画が公開された頃で、歌舞伎役者でありながら映画の世界でも活躍する人、というイメージでした。

この本を読むと、当時の玉三郎丈を取り巻く状況、そして歌舞伎座の状況が記載されており、玉三郎が歌舞伎以外の道を開拓せざるをえなかった背景が浮き彫りになり、納得できます。名門の御曹司ではない彼が、どのように歌舞伎界においてスターダムを駆けあがっていったのか……それは想像もできないくらい厳しく孤独な道のりだったことでしょう。

玉三郎丈は今でも歌舞伎座での興行以外に舞踊公演や特別公演を多く上演し、自分の相手役に若手の役者を共演させますが(本興行でも若い世代の役者と共演することが多いですよね)、それもやはり、若い時になかなか役をもらえなかったもどかしさやはがゆさを充分に理解しているからなんだろうなぁ、と。

役者というのは、やはりたくさんの数の舞台をこなしてこそ、実力がついていくものですからね。もちろん、ベテランに比べれば未熟なところは目立つかも知れませんが、それでもその時にしかない輝きを感じることができるのも、舞台の醍醐味ですし。それがなかなか出来なかった経験があるからこそ、今の若手にはそういう思いをさせないように…という玉三郎丈の思いを感じることができます。

歌舞伎への愛を胸に、ひたすら己の道を歩み続ける玉三郎丈。ひとりの観客として彼の舞台を観られること、彼が輝く時代に共にあることができる「奇跡」にあらためて感謝し、幸せを感じさせてくれる1冊です。


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夜野愉美

こんばんは。
私、つい先日までこの方の本を2冊連続で読みました。一冊は、6代目歌右衛門さんのお話でしたが、玉三郎さんのことも書いているんですね。私も読んでみようと思います!
by 夜野愉美 (2010-07-09 22:56) 

★とろりん★

夜野さま、

nice!とコメント、ありがとうございます!!

おお!『十一代目團十郎と六代目歌右衛門』をお読みになったのですね。『十一代目~』は歌右衛門丈がいかにして歌舞伎座の「女帝ー立女形」へ上り詰めていったのかが書かれていましたが、『坂東玉三郎』では歌右衛門丈の死までが書かれています。

彗星のように出現した美貌の若女方に、老いの陰りが見え始めた歌舞伎座の立女形はどう立ち向かったのか。この2冊を読むと、ある視点ら見た戦後歌舞伎の歴史が見えてきます。
by ★とろりん★ (2010-07-10 10:04) 

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