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貴志祐介 『青の炎』 [Books]

青の炎 (角川文庫)

青の炎 (角川文庫)

  • 作者: 貴志 祐介
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2002/10
  • メディア: 文庫
発見!角川文庫2010」(外部リンク※カワイイ音が出ます♪)の対象作品の1冊にもなっているこの本。嵐の二宮和也と松浦亜弥の主演、蜷川幸雄の演出で2003年に映画化された小説です。(最近、そんなチョイスが多いですね>苦笑)

実はワタシ…。本屋さんで、最後の20ページだけを先に読んでしまったんですよ(笑)。いっちばん良いところを、先に読んでしまったんですよ!

とある本屋さんの店頭で、この作品が平積みされているの発見したワタシ。「あ、これニノくんが出てた映画の原作だよね~」と手にとってペラペラと見ていたところ、ラスト20ページのところで思わず手が止まってしまいました。あまりにも真っ直ぐ過ぎて哀しい展開に、「このままいったら結末を読んでしまう~!ダメだ、ダメだ」と思いながらも、ひとつひとつの文章から、言葉から目が離せなくなって…読み切ってしまいました。

結末を読んでしまった後は、人目をはばからず嗚咽(恥)。「このラストは、何度も読みたい!」と思って、購入することにしました。

その気持ちの通り、読書中はきりの良いところまでひと段落つけると、ラストへワープして読み直すということを繰り返していました。(←のめりこみやすいタイプ)

この小説は、「倒叙推理小説」と呼ばれる手法を使っています。

たいていの推理小説は、まず事件が起きる→捜査が始まる→犯人が浮上する→動機と犯罪の手口が明らかになる→結末、という流れで進みますよね。これに対して「倒叙推理小説」は、最初から読者には犯人がわかっているところが特徴です。

まず犯人が登場する→ある人物に殺意を持つ→犯罪の手法を考える→実行する(犯罪を起こす)、と。もちろん、完全犯罪が成立することはありませんから、ここからいかに犯罪の手法に綻びが見つかるか、そしてどのように犯人が追い詰められていくのかも描かれていきます。

この物語の主人公=犯罪者は、櫛森秀一という17歳の少年
。鵠沼に住み、鎌倉の高校に通う、運動神経抜群、学力も成績トップの秀才です。

母と妹3人で平和に暮らしていた櫛森家に、ある日、母の元の再婚相手であった曾根が突然居座ります。酒乱でギャンブル狂いの曾根の傍若無人な振る舞いに、秀一は怒りと苛立ちを募らせていきます。そしてある出来事をきっかけに、秀一はついに、自分の手で曾根を殺害することを決意します。完全犯罪は成功したかに見えましたが、思いもよらぬところからその計画は破たんを見せ始めます……。

作品をきちんと読んでみると、ここまで頭脳的で計画的で行動力のある高校生って、そういるかなぁとか、「母と妹、そして平和な3人での生活を守るために」殺害を計画するとは言え、深層心理的には、自らの頭脳と力がどこまで社会に通用するのかを試してみたかったのではないかな、とか色々と思うところは出てきます。

けれど、この作品の真骨頂は、秀一が曾根殺害に成功したときから始まります。警察による追及だけではなく、「人を殺めた」という事実に秀一自身がえたいの知れない闇にさいなまれ、追い詰められていく様子は痛々しくて、彼が犯罪者でありながら思わず感情移入してしまいます。

この小説のもっとも(文芸作品として)楽しいところは、秀一が殺害計画を立てて行動する場面と、彼が日常生活の大半を送っている高校や同級生との時間を過ごす場面のカラーの切り替えが、とても鮮やかなところ。

前者の場面では、タイトル通り青白い炎が背後にゆらめくような、不気味で仄暗い空気が行間から漂います。しかし、秀一の高校生活を描く後者の場面では、カラリと晴れ上がった青空のような爽やかさ。その部分だけ拾い読みしていくと、青春小説のようにしか思えません。

特に、同級生の福原紀子と秀一のやり取りは、本当にイマドキの高校生男女のように、ライトでピュアで、清々しい空気感にあふれています。(秀一が犯罪の為に紀子の気持ちを利用したことで、その空気感は悲しく澱んでいくのですが…)

また、高校での国語の授業の題材という設定で、梶井基次郎の『檸檬』、中島敦の『山月記』、夏目漱石の『こころ』などがさりげなく文中に織り込まれているのですが、これが物語の展開と秀一のその時の心情とも重なっていき、思わずうなってしまいます。特に『山月記』の引用は、お見事だと感じました。

物語のラスト。秀一が紀子に「お別れ」を言うシーンは、読みたびに涙があふれそうになって困りました(少なくとも私は)。

本当の思いに気付いたのに、本当の思いを伝えたいのに、もう伝えることすらできない状況。そんなギリギリのところでお互いに自制しながら、淡々と言葉を重ねていく2人。短い言葉の中に、思いが詰まっていて……。それが、高校生らしいぎこちなさと真摯さ、ひたむきさにあふれていて……。会話のひとつひとつを読むたびに、胸がギュッと掴まれるようでした。

読むのが辛いのに、何度も読み返したくなる…そんなラスト20ページ
です。

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