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平成22年秋 山本会 [伝統芸能]

2010年11月3日(水・祝) 杉並能楽堂 13:30開演

【番組】
狂言
『萩大名
(山本泰太郎

『月見座頭(つきみざとう)(山本東次郎)
『木六駄』(山本則重)

小舞
『貝尽くし』
(山本則秀)
『名取川』(山本凛太郎)


毎年この季節に開催される山本会。体調がすぐれず、また次の週から出張が続くので、今回は『萩大名』と、どうしても見たかった『月見座頭』だけを拝見しました。



『萩大名』
大名/山本泰太郎
太郎冠者/山本則孝
庭主/山本則俊


【あらすじ】

下京のあたりに住む人の庭がが萩の盛りと聞いて、遠国の大名は太郎冠者を連れて見物に出かけます。庭主から歌を所望されると知った大名ですが、和歌に興味がないため、すぐには思いつきません。そこで太郎冠者が「七重八重 九重とこそ思いしに 十重咲きいずる 萩の花なり」という簡単な和歌をあらかじめ教えておきます。さて、萩見物にやってきた大名ですが、いざとなると和歌を思い出すことができません。太郎冠者の必死の身ぶりにも関わらず…?

【カンゲキレポ】

とても生意気な感想になってしまいますが、泰太郎さん、きっちり立っていらっしゃるな、と思いました。

この春に父であり師である山本則直師を亡くされた泰太郎・則孝兄弟。気を落とす時間もないまま、多くの舞台を務めてきた半年間だったと思います。

泰太郎さんの、持ち味であるきっちりと堅実な動きの中に、時々、則直先生を思わせるようなふくよかな空気が醸し出されてきたような気がします。特に、科白を言う声音に泰太郎さんのかっきりとした発声の中に、ふくらみが出てきたような。それが、大名らしい鷹揚さとおっとりさに合っていて、とても良い舞台でした。

則孝さん@太郎冠者の使われていた扇がとても鮮烈でした。表は金地に野に咲く桔梗、裏には銀地に満月が描かれていて、その存在感と美しさは思わず息をのむほどでした。


『月見座頭』

座頭/山本東次郎
上京の者/山本則俊

【あらすじ】

十五夜の日。月は見えなくとも、虫の声が美しく響き渡る秋の夜の風情を楽しもうと、ひとりの座頭がやってきます。そこへひとりの男が来合わせ、意気投合。酒を酌み交わして楽しいひとときを過ごします。ところが別れ際、上京の男はふと悪心を抱き、座頭に喧嘩を仕掛け、引き倒します。同じ男がしたこととは露ほども思わない座頭は、自分の甘さを食いながら、寂しく去っていくのでした。

【カンゲキレポ】

いつか東次郎師の『月見座頭』を観たい、と思っていたのですが、長年の悲願がついに実現しました!曲自体はとても重く深いのですが、真摯に狂言の道を歩まれてきた東次郎師の心映えが見えるようで、心から感動いたしました。

月の光を感じられずとも、せめて爽やかな夜風の中で秋の虫の涼やかな声を聴いて秋を感じたい。閉じたままのまぶたの裏に、少しだけでも月光の気配を感じられるとかも知れない…。そう思って不自由な体でやってきた秋の野辺。そこでひととき楽しい時間を過ごしたと思ったら、最後に心の冷えるような出来事を体験し、寂しく去っていく座頭。倒されてうずくまる東次郎師の姿に、これまでも理不尽な扱いを受けてきたであろう盲人の哀しさが映り、涙が出そうでした。

狂言が成立した時代では、障がいを持つ人にとって本当に生き抜くことが厳しい時代であったことだろうな、この座頭のように、謂れのない仕打を受けることも少なくなかったことでしょう。そんなことすら感じさせる舞台でした。

人間として豊かな心の持ち主はどちらなのか。本当の意味で欠陥があるのはどちらなのか。「人間らしさ」とは何なのか。この曲は、狂言の本質を鋭く突いていると思います。そして、あまりに鋭くまっすぐに突いているからこそ、この曲は難しいのだろうと思いました。

曲中、すっかり仲良くなった座頭と上京の男が酒を酌み交わし、謡や舞を繰り出して楽しく過ごす場面があります。艶やかな東次郎師のお声と深くお腹に響く則俊師の声の掛け合いに、すっかり心を奪われながら耳を傾けておりました。その中でふと則直先生を思い出し、「ああ、もう御兄弟3人での『呼声』を拝見することは叶わないんだ」という思い、とても淋しくなりました。

秋の青空のように、深く優しく心に染み入る2つの狂言でした。

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コメント 2

もも

身体は大事にすべし<( ̄^ ̄)>
by もも (2010-11-07 02:56) 

★とろりん★

ももさま、

コメント、ありがとうございます!!

健康な身体あってこそのカンゲキ生活ですものね。体調に気をつけつつ、また旅立ちます(^-^)/
by ★とろりん★ (2010-11-07 12:33) 

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