香り かぐわしき名宝展 [展覧会]
2011年4月7日(木)~5月29日(日) 東京藝術大学大学美術館
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チラシは、速水御舟「夜梅」一部(1930年、東京国立近代美術館蔵)。闇から少しずつほの白くなって見えてくる白梅。少しずつその姿を現すと同時に、花の香りも強く、濃くなっていくように感じられて、素敵です。
mamiさまのブログで紹介されていたこちらの展覧会。ちょっと珍しいコンセプトに心惹かれ、足を運びました。
「香り」にまつわる、あらゆる美術品を集めた展覧会。館内は「香」を想像させる様々な美術品や絵画が並べられているだけではなく、実際の白檀の木にふれたり匂いを楽しめたりできるコーナーや、王朝時代や植物をイメージさせる香を体験できるコーナーなども設置されています。展覧会全体が香のかおりに包まれているような空気で、とても気持ち良かったです。
「香」というと、平安王朝時代に衣服や髪に「香を焚きしめる」という風習があったことは知っていますが、6世紀の仏教伝来とともに中国からもたらされてきたものだとか。ですから当時の仏画などには、たいてい香炉が描かれているのですね。
衣装に香を焚きしめる道具やその様子なども再現されていて、とても興味深く見ました。
重要文化財 十一面観音立像
奈良~平安時代 8~9世紀 奈良国立博物館蔵
こちらは、白檀の木を使って彫られた仏像。香木で仏像を彫るという文化はインドで発生し、中国を経て、日本でも奈良時代から平安時代にかけて流行したそうです。
ちなみにこちらの仏像は、今でも台座の部分(だったかな?)に、わずかに香りが残っているそうですよ。1200年以上も香りがずっと残っているなんて、すごい・・・!
土佐光吉 源氏物語絵色紙帖 「眞木柱」
江戸時代 17世紀 京都国立博物館蔵
源氏物語には香りに関連するさまざまな描写があるそうですが、この「眞木柱」では、玉鬘(たまかずら:源氏の養女)に惹かれた髭黒大将に嫉妬した正妻が、夫に向かって香炉を投げつける、という場面が描かれています。
三組盤
1863年 松隠軒
「香」を使って遊ぶゲーム盤。「香木を聞き分けて、駒を進める競馬香、吉野の桜や 龍田の紅葉を立てる名所香、または矢を立てる矢数香の三種類の盤物の組香で使用する盤で、 すべての部品が箱状の盤に収まる」(ホームページより引用)そうです。
香道の展示もあったのですが、これほどまでに複雑で繊細なものだとは知らず、ビックリしました。いや、もうワタシには、説明文を読んでも何が何だか・・・?という感じで(苦笑)。実際にやってみる方が、わかりやすいのかな?
このゲーム盤は競馬を見立てたものですが、花見や歌舞伎の「吉野川」を見立てたもの等もあって、当時の日本人の美意識と教養の高さにあらためて感服しました。
写真はありませんが、野々村仁清による「色絵花笠香合」も、素敵でした~。内側にほどこされているブルーの彩色がぽわぽわとしていて、濃淡の具合が絶妙なんです。「色絵鶴香合」@サントリー美術館に続いて、ワタシの心をいつもわしづかみにしてくれるなぁ、仁清。さすが名人!
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いちばん最後の展示室は「絵画の香り」という名称がつけられています。その名の通り、「香り」を連想させる絵画が一堂に会して、それはまた優雅な気持ちにひたることができます。
いちばん興味深く拝見したのは、2人の画家による「楚蓮香(それんこう)」。
楚蓮香、というのは中国唐代の頃にいたとされる絶世の美女。彼女が外を歩くと、その香りに誘われて蝶や蜂がついてきた・・・という伝説が残っているそうです。
まずは江戸時代の日本画家・円山応挙の描いた楚蓮香。
円山応挙 楚蓮香図
1794年 白鶴美術館蔵
やわらかい物腰と馥郁たる風情が漂った、当世風の美女、といった印象です。
上村松園 楚蓮香之図
1924年頃 京都国立近代美術館蔵
こちらは大正時代に描かれたもの。怜悧な美貌と優美なたたずまいが際立ちます。
こうして見比べてみると、画家の作風だけでなく、その時代が求めていた空気やトレンドなども感じ取ることができますね。
ちなみに上村松園はもう1作、楚蓮香を描いていて、そちらも合わせて展示されています。ですから、ひとつの展覧会で3作の楚蓮香に出会う事ができます。
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こういった企画は、なかなかありそうでないと思うので、何だかいつもと違うワクワク感を胸に会場を後にすることができました。実際に白檀の香りをかいできましたが、すごく良い香りでした。周囲に人がたくさんいることを忘れて、思わずうっとり恍惚な気分に浸ってしまいました(笑)。
会場全体がかぐわしい香気に満ちているような、素敵な展覧会です。29日まで開催中ですので、興味のある方はぜひ、足をお運びください☆
とろりんさん、
リンクまで貼っていただき、ありがとうございました。
ありそうでなかった、「香り」がコンセプトの展覧会。
視覚と嗅覚の両方が刺激されて、とても素敵でしたね。
私も香道のお道具、どうやって遊ぶのかしら、と不思議に思いました。「吉野川」を模したもの、歌舞伎好きには興味津々でしたね~。
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by mami (2011-05-23 01:25)
mamiさま、
nice!とコメントとTB、ありがとうございます!!
そうですね、視覚も嗅覚も楽しめる、本当に贅沢な気持ちになれる展覧会でした。今でこそ、「香」に対する意識は薄れがちかも知れませんが、文学作品や歌舞伎、絵画にも取り入れられているのを見ると、やはり日本人の生活に欠かせないものだったんだな、と実感しました。
by ★とろりん★ (2011-05-23 09:43)