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『秘密はうたう』 [講座・現代演劇]

2011年7月20日(水) 紀伊國屋サザンシアター 14:00開演

【出演】
サー・ヒューゴ・ラティマー/村井国夫
ヒルダ/三田和代
カルロッタ・グレイ/保坂知寿
フェリックス/神農直隆

【作】 ノエル・カワード
【翻訳】 高橋知伽江
【演出】 マキノノゾミ

【企画・制作・主催】 兵庫県 兵庫県立芸術文化センター

文化庁による「優れた劇場・音楽堂からの発信事業」のひとつ。

最近では、地方の文化施設の発展と活性化を目指して、こういった地方都市の芸術制作団体がミュージカルや演劇公演などを制作する動きが出てきています。ただ、地方で制作・上演された舞台を東京に持ってきて公演するというのは、まだまだ大変なこと。そういった意味で、この舞台は画期的です。


【あらすじ】

高名な英国人作家ヒューゴ・ラティマーは、病後の療養を兼ねて、スイスにある高級ホテルのスイートルームにドイツ人の妻ヒルダと滞在しています。

ある夜、ヒューゴは若い頃の恋人であったカルロッタと食事をすることになります。長年音信不通だったカルロッタが、なぜ今更自分に会いに来たのか、不安といら立ちが募るヒューゴ。

カルロッタが、ヒューゴとヒルダの暮らすスイートルームに現れます。ヒルダが外出した後、カルロッタと食事をしながら、ヒューゴは彼女の目的を探ります。

やがて、カルロッタはあることを切り出します。自分の自叙伝を出版することになり、その中で彼女がのつてヒューゴから送られたラブレターの内容を掲載する許可が欲しいというのです。しかし、ヒューゴはその申し出を切り捨てるように拒否します。

ヒューゴのかたくなな態度に、カルロッタはいったん申し出を取り下げます。ところが帰り際、カルロッタは、ヒューゴがかつて「ある人」に送ったラブレターも持っていることを打ち明けます。サーの称号を授かり、今や文学界の重鎮となっているヒューゴにとって、それはどうしても明かされてはならない秘密でした・・・。


【カンゲキレポ】

名優・村井国夫に不思議な透明感をもつ三田和代、変幻自在な表現力の底に芯の強さを感じさせる保坂知寿という、3人の俳優がそれぞれトライアングルの頂点となって、時に引き合い、時に交差しあう、緻密な台詞劇。

腹の探り合いのように微妙な空気の中で始まる会話は、やがてそれぞれが20年もの間、抱え続けていた傷や秘密をあらわにしていきます。

20年という長い長い年月をかけて封印してきたヒューゴの秘密。その秘密ゆえに、長い年月を経ても癒えることのなかったカルロッタの傷。

カルロッタが自分の傷を癒すために決意したのは、ヒューゴの秘密を明らかにして、彼自身を傷つけること。けれど、誰かの秘密を暴くということ、そして誰かを傷つけるということは、むしろ自分の抱える秘密と向き合うことになり、そして結局は自分自身を傷つくことになります。

2人が傷つけあい、傷つきあい、もう取り返しのつかないところまできてしまう、というところに飛び込んでくるのが、外出から戻ったヒルダ。彼女もまた、かつて癒えることのない傷を心に抱えていました。

けれど、ヒルダの「傷」は、ヒューゴに関わることではありません。むしろその傷を癒してくれたヒューゴのために、ヒルダは20年の間、彼に尽くし続けてきたのです。そこが、カルロッタとの決定的な違いでしょうか。

終幕、カルロッタが帰った後、ヒューゴとヒルダが交わす短い会話は、あまりにも意外で、それでいてあまりにも自然で、あまりにも深くて。「これが・・・夫婦というものなんだ・・・」と思いました。

膨大な量の台詞が激しく衝突しあい、とても集中力の必要な舞台でしたが、終演後は心地よい疲れに包まれていました。

登場人物同士が話をするちょっとした言葉の端々で、その人物たちの性格や人間関係を垣間見せる手腕もすごいな~と感心しました。

例えば、ヒルダが席を外した合間にヒューゴがホテルの給仕フェリックスに休日の過ごし方を訊ねるシーンでは、その何気ない会話の中で、ヒューゴがフェリックスをとても信頼していることがうかがえて、良い場面でした。

そうそう、個人的にはこのフェリックスを演じていた神農さんが、素晴らしい存在感でした。

3人の芝居の決して邪魔することなく、ホテルマンらしい微笑みを浮かべたまま食事やシャンパンの用意、コーヒーの給仕などを淡々こなしていくのですが、その姿勢や手つきなどまさに完璧なホテルマンぶり!よく響く張りのある声も素敵で、フェリックスが出てきたらちょっとドキドキしてました☆特に、舞台中央に設置されているスイートルームのドア(←観音開きになっている)を閉める時の手つきが、超ツボでした(笑)。

元劇団四季の保坂知寿さん。在団時から彼女のファンでしたが、四季退団後の彼女の舞台を観るのはこれが初めて。ちょっと鼻にかかるような声が懐かしかったです。

見ごたえのある、密度の濃い時間でした。


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