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新国立劇場 バレエ入門講座 最終回 [講座・現代演劇]

新国立劇場情報センターの入口。劇場5階にあります。

*****

今年1月からのんびりと始まったバレエ入門講座も、今日が最終回。
素敵なおぢさま、森龍朗先生とお別れするのは寂しいですね…。

***

さて、今日も前回のおさらいから。
新国立劇場の公演ビデオ「白鳥の湖」のハイライトを鑑賞しながら
森先生のお話を伺います。

今回は第3幕と第4幕を少しずつ鑑賞。

まずは第3幕。魔王の娘オディール(黒鳥)に
誘惑された王子が、オデットとの愛の誓いを破ってしまいます。
オデットの清楚で優しげな美しさとは対照的な、
蠱惑的な魅力を持つオディールを踊るのは酒井はなさんです。

オデットとオディールは、同一のダンサーによって
踊られる事が多いのですが、その事も議論の対象になっているとか。
「オデットとオディールは実は同一の人格なのか、全く異なる人格なのか、
それともオデットの不安を具現化したものか」というような。

何だか「娘道成寺」で「花子はひとりの女性を描いたものか、
それとも様々な個性を持つ女性の恋を1人に集約させたものか」
というお話にそっくりだなぁ、と思いました。

森先生は、VTRの流れやダンサーの動きや仕草に沿って
様々な解釈や解説を入れて下さるので、こちらも楽しみながら
勉強をさせてもらっている感じです。

「あ、ほらここ、この人魔王なんですけど、魔王がオディールに
『うまくやれよ』って言ってるんですね。で、オディールは
『わかったわかった』って言って、王子の方にまたやってくるんですねー」

「わかったわかった」って、先生…(微笑)。

王子とオディールが劇的な出会うシーンで、
本舞台の照明が落ちて、スポットライトが2人を照らします。
先生によると、この照明の使い方はテレビで言うところの
「クローズアップ」を意味しているのだとか。

この場面だけは、他の人物など目に入れず、ただ、この2人の動きに注目!
という時に使われる手法なのだそうです。

何となく感じてはいても、「スポット=クローズアップ」と明快に解釈してもらうと、
こちらもクリアな感覚で舞台を捉えられるようになります。

ハイライトシーンのかけらを見ていくようなビデオ鑑賞だけですが、それだけでも
バレエの舞台は「グラン・フィナーレ(形式的な踊り)」と「アントレ(物語的な踊り)」の
繰り返しなのだなあ、など、バレエという芸術の構成が全体的に見えてきます。

***

続いて、第4幕を鑑賞。
白鳥の王子の悲しみのパ・ド・ドゥからフィナーレまで。

様々な解釈と演出が残る「白鳥の湖」ですが、今回は王子とオデットが
愛の力で魔王ロットバルトを打ち破る、というロマンチックなラストを採用。

ここでまたもや森先生、貴重なお話を。

第2幕で密かに王子の裏切りを予感していたオデットですが、
その予感が的中したことを嘆き悲しみます。
しかし、湖に駆けつけた王子の必死の懇願に、その裏切りを許すオデット。
2人が手を取り合った瞬間、魔王・ロットバルトが再び登場します。

「では、魔王ロットバルトとは何者なのでしょう?」
先生がふと口にされた質問に、思わず目が点になってしまう受講者の皆さん。

「ロットバルトは、愛し合う男女の間に潜む、愛の怯えや不安が姿を変えたものなのです」。

…な、なるほどーーーーっっ!!!深いっっっ!!!
とすると、先ほどの「オディール=オデットの不安の化身」説も納得です。

その瞬間、受講者の目からウロコがバリバリはがれ落ちる音が
講義室を埋め尽くしました(笑)。

魔王ロットバルトはいつも、王子とオデットが恋に落ち、
幸せに包まれる時を見計らうかのように姿を現し、2人を引き裂きます。

愛する人と幸せな時間を過ごしているのにふとよぎる、
「この幸せは、いつまで続くのだろう…この幸せが壊れたら、どうなるのだろう…」
というような、漠然とした不安。
そんな経験をされた方はいらっしゃると思います。

幸福な中に潜む言いしれない不安、幸せに対する怯えのような、一瞬の心の翳り。
そのような、人の心に密かに棲みついてしまう翳りが姿を変えた者として、
魔王ロットバルトは描かれているのです。

いや~、バレエ通の方には周知の事かもしれませんけれど、
初心者にはものすごい大発見でした…。

さて、上述しましたように今回鑑賞した酒井さんの「白鳥の湖」は、
王子とオデットが愛の力で魔王を打ち破るというラストの演出。

ここは王子がオデットをリフトして魔王に立ち向かう、という振付なのですが、
この作品に限らず、男性ダンサーが女性ダンサーをリフトするという形は、
男性が女性を支える事で、2人の愛の強さ、確かさを強調しているのだそうです。

いや~、「白鳥の湖」が実はここまで深い意味合いを潜ませた物語だったとは…。
すごく勉強になりました。

***

さて、ここまでが前回の補足(笑)。
続いて今回のメイン、「身体と技法」について、そして
劇場芸術として不可欠の要素である照明や舞台装置、衣裳などについて
駆け足で講義を受けました。

身体と技法については、プリエやタンデュなど基本的な用語を学びました。
こういう言葉も、初心者にとってはこんがらがってわかりづらいもの。
ジュテ(跳躍)とグラン・ジュテ(大跳躍)の違いなども教えていただき、
きちんと整理ができました。

舞台機構のお話では、照明のライトは太陽の通り道(天道)に合わせて設置されている
(上手フロントサイド=朝日、正面=南中、下手フロントサイド=夕日)
というお話が印象に残りました。もともと舞台芸術は野外で行われていたという事が、
形を変えて現代まで受け継がれているのですね。

***

さて、ここまで駆け足にお話を聞き、今回のバレエ入門講座も
ついに大団円を迎えました。ここで森先生からちょっとしたプレゼント。
新国立劇場の公演で、実際に使用されたバレエの衣裳を持ってきて下さったのです!

もちろん着るわけにはいきませんが(笑)、バレエの衣裳を間近に見て、
しかも直に触れる事なんてめったにできませんので、一同、興奮して触りまくり(笑)。

この日持って来て下さったのは、「ラ・バヤデール」(だったと思います…)の
男女ソリストの衣裳、そして「レ・シルフィード」のロングチュチュ(と言うのですか?)。

「ラ・バヤデール」の衣裳はとにかく装飾が凝っていて、結構重い!!
バレエって軽やかなイメージがありますが、これを着てジャンプしたり
回ったりしているのか…、と思うとその大変さが少し伝わる様な気がします。

男性ソリストには孔雀の羽を使った冠のようなターバンのような被り物もついており、
1人、大はしゃぎで被り物を頭に乗せて喜んでいたとろりんさん(笑)。
そんな暴挙に出るとろりんさんを、微笑みをたたえた優しい眼差しで見守る森先生。
これ以上にないくらい、和やかな光景じゃありませんか(笑)。

さらに驚いたことには、「ラ・バヤデール」女性ソリストのチュチュの
胴の部分は、鯨の骨を使って固定しているとか。
歌舞伎でも、裃で、肩の張り出している部分(何て言う出したっけ…)
は、鯨の骨を使用しているのですよね。
こんな所にも世界共通の工夫がなされているのか…と、とっても感慨深い思いでした。

「レ・シルフィード」の衣裳は、とにかく軽くてフワフワで、女性陣憧れの的。
あのような衣裳、着るだけでウキウキしちゃうでしょうね~。
私は、肩のストラップの部分を持って受講者の皆さんにチュチュを見せる役目を
仰せつかりましたが、思わず身体を入れたくなる衝動にかられました(笑)。

森先生は、他にも新品のトウシューズと、新国立劇場バレエ団の団員の方が
実際に使用されて履きつぶしてしまったトウシューズを持ってきて下さり、
その2つをじっくり観察することもできました。
つちふまずのサイドの部分から、つま先にかけて、想像以上の硬さで覆ってありました。
これが、女性ダンサーの美しいつま先の動きの秘訣なのですね。

*****

最後に、舞踊家でもある森先生の言葉で一番印象に残った言葉を…。

「舞台など、時間が過ぎれば消えてしまう芸術を言葉で伝える事は困難です。
けれど、その瞬間、その舞台で表現された思い、心情、情感などを記憶に残すためにも、
言葉で伝えることは不可欠です。表現できない思いだからこそ、
その思いを伝えるために、もっともっと言葉は磨かれていくべきなのです」。

第1回で、バレエが驚くべき早さで世界共通の舞台芸術に育った理由として、
言葉に頼らず、身体と記号(音符=音楽)だけによる表現であったからだ、という
お話をされましたが、その時におっしゃった言葉です。

およばずながら舞台レポも書いたりする者として、心に留めておくべき言葉だと思います。

レポを書いている中で、「あ~、何て表現したら良いの、あの場面…」
と言うことは本当に多くあります。そのたびに自分の表現力、文章力、
語彙力の貧相さが情けなくなるのですが、諦めずに伝える事の難しさを
実感しながら、これからも「伝える力」を磨いていこうと思います。

最後は決意表明のようになってしまいました(笑)。
計3回という少ない講義でしたが、得られたものは数倍にもなったような気がします、
充実度も満足度も高い講義でした。
また開講してもらえるよう、アンケート用紙に熱い思いをつづって、係の方に渡してきました(笑)。

***

このような講座の他にも、オペラ劇場のバックステージツアーなど、
新国立劇場では舞台芸術に親しむための様々な企画を準備しているようです。

バックステージツアーというと、終演後などに続けて行われる事が多いため、
その公演のチケットを持っていないと参加できない、というイメージがありますよね。
しかし、新国立劇場では、公演とは別に単独でバックステージツアーを行うので、
ツアー専用のチケット(500円!!)だけで参加出来るのです。
ちなみに、ツアー時間は約1時間30分。これは行く価値がありそうです。

受講会場となった新国立劇場情報センターでは、過去の新国立劇場の公演の
関係資料(シナリオやプログラム)等の他、世界各国の舞台関連の雑誌や書籍を所蔵しています。
また、新国立劇場で上演された公演ビデオも収蔵してあり、隣接する視聴ブースやシアターで
閲覧する事も可能です。(注:ビデオ視聴は少し有料)
舞台好き、カンゲキ好きとしては、通わない手はありませんね~。

*****

カンゲキだらけだったこの講義、また受けたいなぁ~!
新国立劇場さん、よろしくお願いします!!(あ、出来れば土日にお願いします…)

新国立劇場公式サイト
情報センターや講座、バックステージツアーの情報も載っています。
http://www.nntt.jac.go.jp/


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コメント 4

ゆうき

こんにちは。とっても興味深く読ませていただきました。オデットとオディールが同じダンサーだなんて、知りませんでした。。でもそういえば、山岸涼子さんの「テレプシコーラ」というバレエ漫画に載っている、バレリーナと山岸さんの対談によれば、どうも同じ人がやってるようなニュアンスだったです。(ほんと初心者です、ハイ(^^;) それから、ふだんはあまり解説や注釈を気にせずに、感じたまま舞台の空気にひたってるだけなのですが、とくにバレエや歌舞伎などは、長い歴史の中でいろんな人が練り上げてきた形とか解釈、そういうのを知った上で、今の舞台の新しさを感じたりできたら、なおいっそう面白いでしょうね。ほんとに、とろりんさんの記事を楽しく読ませていただきました。私もこういう講座に行ってみたいなと思いました。
by ゆうき (2006-03-16 12:32) 

★とろりん★

ゆうきさん、コメントをありがとうございます☆
私もまだまだ初心者ですので、このような講座は
本当に勉強になりますね。
大好評だったようなので、近々また開講されると嬉しいですね。

歌舞伎やバレエなどの歴史のある舞台芸術は、
長い間に培われてきた決まり事や振りなどがあって、
それを知っていると舞台への視点もひと味違うものにりますが、
一番大切なことは自分の感性で、舞台の空気、物語の世界を
心のまま感じる事だと思います。知識はそのスパイスといった
ところでしょうか。

またのお越しをお待ちしております!これからもよろしくお願いします♪
by ★とろりん★ (2006-03-16 17:11) 

櫻

こんばんは。最終だったのですね。
とろりんさんのレポート、とっても面白かったです。
私もいつか受けてみようかな(実は友達が劇場スタッフで仕事をしているのだけど、講座のこと知らなかったの・・・)
また楽しい舞台の話を聞かせてくださいね。
by (2006-03-16 21:27) 

★とろりん★

櫻さま、nice!とコメントをありがとうございます☆
私も年末にバレエを観に行かなければ、出逢うことがなかった講座でした。
これからもちょくちょく新国立劇場のHPをチェックして、面白そうな講座や
イベントがあれば参加したいと思っています。
またお越し下さいね!
by ★とろりん★ (2006-03-17 10:42) 

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