ひょうご舞台芸術公演 『ブルックリン・ボーイ』 [講座・現代演劇]
2006年12月19日(火) 紀伊國屋サザン・シアター 14:00開演
【原 作】 ドナルド・マーグリーズ 【翻 訳】 平川大作
【演 出】 グレッグ・デール
【出 演】 浅野和之、今拓哉、石田圭祐、阿知波悟美、神野三鈴、月影瞳、織本順吉
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久々に現代演劇を観賞。
三谷幸喜さんの作品で活躍されている浅野和之さんの主演、
そして元・宝塚歌劇雪組トップ娘役の月影瞳さんも出演されるというのに惹かれて、
新宿にあります紀伊國屋サザンシアターへ足を運びました。
この日は千秋楽で、三谷幸喜さんや大地真央さんなどから送られたお花がずらり。
私の席のすぐ前の列には、演出家のグレッグ・デール氏がいらっしゃいました。
古き佳きアメリカにいたような、ちょっとインテリっぽい人の好いおじさん、という感じ(?)。
(誰かに似ているような気もしたのですが、現在の時点で思い出せません。)
ではでは、早速まいりましょう~。
【物 語】
エリック・ワイス、40代。(浅野和之)
大きなユダヤ人コミュニティーがあることで有名なブルックリン出身。
ユダヤの習慣や儀礼に反発した彼は家を飛び出し、大学で学びます。
作家を目指して長い下積み生活を経て、彼はついに「ブルックリン・ボーイズ」
という作品でベストセラー作家の仲間入りを果たします。
しかし実生活では和解できないままにいる病床の父親(織本順吉)、
すっかり忘れていた幼なじみ(石田圭祐)との再会、
そして妻(神野三鈴)との離婚問題など、問題は山積み。
全てを振り切るかのように旅立ったカリフォルニアではイマドキの
女子大生(月影瞳)や敏腕映画プロデューサー(阿知波悟美)と
オレ様全開の映画スター(今拓哉)に振り回される始末。
さてさて…。
【カンゲキレポ】
まずは全体的な感想を。
良い舞台でした。
…と、一言で言ってしまうとレポになりませんので(苦笑)。
正直言って、第1幕は乗り切れなかったというか。
おそらく日本人には馴染みの浅い「ユダヤ・コミュニティ」が
背景に描かれているため、そのコミュニティの歴史というか
知識を頭に入れておけば良かったな、と思います。
でも、出演者の好演が光って、気がつけばじわじわと舞台に惹きこまれていきました。
*
この舞台の根幹に流れるメッセージは、「生きるよりどころ」だと思います。
この芝居はエリックの身に起こる数日間の出来事を描きます。
一度の場面でエリックと1人、もしくは2人の人物が対話するという、
ちょっとオムニバス形式。エリック以外の登場人物は、彼と同じ
ユダヤ人である父と幼なじみを除いては、それぞれひと場面だけの登場。
そしてエリック以外の登場人物が他の人物と交わることもありません。
長子が父親の職業を受け継ぐ、子どもは親のために働く…といった
風習が今でも根強い(らしい)ユダヤ・コミュニティー。
エリックはそのような風習に反発し、作家になるという夢を目指してブルックリンを出ます。
しかし、自分をベストセラー作家に押し上げたのは自分の故郷である
ブルックリンでの生活を描いた半自伝的小説。
しかし、エリックが生まれ育ったユダヤ・コミュニティの人間は、彼の小説を
「反ユダヤ的だ」と批判し、小説を映画化したいと申し出た映画プロデューサーは、
反対に「この作品はユダヤ的過ぎる」と、構成を変えるように迫ります。
お芝居のラスト、彼は自らの苛立ちを幼なじみにぶつけます。(意訳)
「ようやく自分の求めていた生活が手に入ったと思った…。でも、何か違う。
この数日間は、高価なスーツを片っ端から買ったのにどれもしっくりこない、
そんな感じなんだ」
エリックの苛立ちを受け止め、不器用ながらも励まそうとする幼なじみ。
この友人にも夢はありました。しかし、不慮の事故で失った父親の後を継いで、
今では敬虔なユダヤ教徒です。信仰に基づく生活を「生きるよりどころ」として
受け容れた友人と、それに反発したエリックの対比が浮かび上がる、秀逸な場面です。
そういった彼らとの「対話」を通じて、エリックは自分の「生きるよりどころ」が
何だったのかを実感し、そっと父親の魂に寄り添うのです。
*
自分のバックグラウンドこそが原点であり、「生きるよりどころ」なのではないでしょうか。
それは人にとって様々です。ある人にとっては「信仰」であったり、「夢」であったり、
「家族」であったり…。
当たり前かも知れないその大切さに気づいてこそ、人は初めて
しっかりと足を地に着けて、生きる道を進めるのかもしれない…と考えました。
***
またもやまとめきれていない全体感想…(苦笑)。
ここからは演出と出演者のお話へ移ります(強引)。
*
開演前からずーっと流れていたのが、サイモン&ガーファンクル。
幕が開いてからも暗転→舞台転換のたびに曲が使用されていたので、
何か関係があるのかしら、と家に帰って調べてみましたら、
彼らもユダヤ人だったのですね。初めて知りました。
S&Gは、舞台が暗転するたびに違った曲が流れます。
芝居が始まると曲はフェイドアウトしていくのですが、
その場面にぴったりとはまった心情を歌い上げているナンバーを
うまく採り入れていました。
『マンマ・ミーア!』方式ですね。
例えば、妻との場面が始まる前には、かつての恋人の事を歌った
「スカボロー・フェア」が物寂しげにしっとりと。
これから始めるであろう別れの予感を強く、切なく感じさせます。
女子大生との場面の前には、「いとしのセシリア」がポップに、軽妙に。
生まれて初めて、若い女性をホテルに「お持ち帰り」しちゃったエリックの
狼狽ぶり、ドギマギぶりが伝わってきます。
***
出演者は全部で7人。皆さん、名演でした!
特に主演の浅野和之。
最初に登場したときは華と押し出しが弱いかな…と思いましたが
(後に、今さんとの絡みでその思いは確信に変わります ^_^;)
舞台を観ているうちに、すっかりその姿釘付けになってしまいました。
ただ、腕組みをしてじっと相手の話を聞いているだけなのに、
舞台に確かな存在感を残す役者さんです。
ただ、「立っている」。
それだけで、役の全てを表現できる役者さんというのは、そういません。
言い換えれば、「立つ」という動作ほど難しい演技はないと思います。
それを、特に身構える風でもなく、サラリと自然にこなしてしまう浅野さん。
派手な動きもほとんどないのに、静かな余韻を観客に与えていく…。
素敵な役者さんですねぇ…(おっさんに弱いワタシ)。
*
どの役者さんも、もう、この役はこの人しか考えられない!
と思わせるほどに好演でした。
エリックの妻を演じる神野三鈴。
憂いを含んだ艶のあるしっとりとした声の持ち主です。
心を残しながらも、夫の元を去る決意をする妻の
やるせない思いが伝わってきました。
「いつだって、終わるときはこういうものよ。」
…名言です…(個人的に)。
*
エリックに部屋まで誘われて、好奇心とファン心から思わず
ついてきてしまうイマドキの女子大生に、月影瞳。
宝塚在団中から品のある硬質な芝居に定評のあった彼女。
ちょっとエッチで蓮っ葉を気取っている女子大生を演じても、
品があるので生々しくなく、必要以上にいやらしくならないのが良いですね。
かなりマニアックファン的視点ですが、月影さんの二の腕って、
ちょっと特徴があるんですね。(マニアック過ぎる…>笑)
細いけれどちょうど良いくらいにお肉がついていて健康的、というか。
今回の衣裳は淡いオレンジとクリーム色をマーブルにしたような
ノースリーブのワンピース。もちろん、二の腕はしっかり見えます。
「あー、ぐんちゃん(月影の愛称)の二の腕だ~」
と、思わず懐かしい気持ちに…(笑)。
ぐんちゃん、これからも舞台でがんばってください!
(またまたファンレター化)
*
そして、テレビでも存在感抜群の女優、阿知波悟美。
NHK朝の連ドラ「純情きらり」にも出演されていた女優さんです。
敏腕映画プロデューサーらしく、キリリとした黒いスーツで登場。
びっくりするほどの美脚の持ち主です(笑)。いやホントに。
テキパキと無駄のない動きとドスの利いた迫力と相手によって使い分ける声音。
「きっとこういう人、業界に多いんだろうなぁ…」と思わせる、リアルな存在感でした。
*
続いては男性陣。
今拓哉さん。
ひと昔前(?)のレオ様を彷彿とさせる映画スター、タイラー役です。
モトシキ(元四季。文字通り、劇団四季在籍経験者のこと)らしい、
はっきりとした発音と大げさなリアクションで、一部観客を昇天させておりました(笑)。
たしかに、いちいちキメるポーズがしっかりときまっていて、カッコイイ!!
年齢的な部分は、ちょっと無理しているような気もしましたけれども。
*
エリックの幼なじみ役の石田圭祐。
とてもインパクトのある顔をされています。それだけでスゴい存在感。
30年ぶりに再会できた幼なじみ・エリックに対して素直に喜びを表現しますが、
なぜか自分を邪険にするエリックに戸惑いを隠せません。
それでも、エリックの気持ちを彼なりに考えながら、邪魔にならぬように
そっと、そっと幼なじみの心に寄り添っていく姿が印象的でした。
*
エリックの父を演じた、織本順吉さん。
お芝居の最初と最後に登場します。
最初の登場の時は、息子の言葉にいちいち文句を付ける
ちょっとうっとうしい親父さんなのですが、実はその言葉ひとつひとつの
裏には家を出て行く息子への寂しさ、愛おしさが込められていたのだと
気がつかされるラストシーンへとつながるのですね。
う~ん…やはりその年齢にならないと、分からないものってあるのでしょうね。
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「くすっ」と笑えて、ちょっと切なくて。
胸がキュッと締め付けられて、でも温かくて。
冬の日の暖炉の穏やかな炎のような、ほのかな温もりをたたえた舞台でした。
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