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青山円形劇場 『シラノ・ド・ベルジュラック』 [講座・現代演劇]

2007年9月7日(金) 青山円形劇場 19:00開演

【原 作】 エドモン・ロスタン
【翻 訳】 辰野隆/鈴木信太郎
【演 出】 栗田芳宏
【振 付】 藤間紫之弥
【美 術】 朝倉摂
【音 楽】 宮川彬良
【衣 装】 友好まり子
【出 演】 市川右近、安寿ミラ、加納幸和、坂部文昭、たかお鷹、桂憲一、市川猿弥
【演 奏】 太田智美(アコーディオン)、廣川抄子(ヴァイオリン)

初めて青山円形劇場へ。『シラノ・ド・ベルジュラック』を観劇しました。

『シラノ』と言えば、色々な舞台で上演されてきた名作。私が初めて観たストレートプレイも、無名塾による『シラノ』でした。仲代達矢さんのシラノに若村麻由美さんのロクサアヌが印象的だったなぁ~。

さて、今回の『シラノ』は…配役と言い、舞台と言い、ひとクセもふたクセもある、楽しい舞台でした。
 
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【物 語】

17世紀のフランス。詩人にして剣客、劇作家にして理学家のシラノ(右近)は、親類の娘ロクサアヌ(安寿)に恋をしています。剣を持たせてもロマンスを語らせても超一流ののシラノですが、形の悪い鼻のおかげで、ロクサアヌに愛を打ち明けることができません。

そのロクサアヌは、時の権力者ド・ギッシュ伯爵(加納)の好意を跳ね退け、クリスチャン(桂)という青年に恋をします。クリスチャンもロクサアヌに一目惚れ。しかし、単純な性格の彼は、女性に愛を語る術を知りません。クリスチャンの悩みを知ったシラノは、2人の恋を成就させるべく、クリスチャンに愛を語る術を教え、彼の代わりにロクサアヌへの恋文を代筆してやります。ロクサアヌを想って綴る言葉-それはクリスチャンを装いながらも、シラノがひそかに抱くロクサアヌへの想いそのものでした。

シラノの協力とロクサアヌの機転により、クリスチャンはついに彼女と結婚。ところがこのことを知ったド・ギッシュ伯爵は嫉妬し、シラノとクリスチャンの所属している連隊を戦線へと送り込みます。

悲嘆にくれるロクサアヌのため、シラノは毎日、戦線をかいくぐって恋文を届けます。もちろん、クリスチャンからの恋文だと伝えて…。

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【カンゲキレポ】

お隣りの青山劇場ではTHE CONVOY×DA PUMP主演の『RATS』が上演中。(うあ、これも観たい…舘形さん出てるし…)

非常に華やかな青山劇場入口付近の雰囲気に比べ、円形劇場はお着物を召した方なども見受けられ、落ち着いた雰囲気…。

それもそのはず、このお芝居の出演者は、歌舞伎、(元)宝塚、花組芝居、そして文学座と、4つの分野から集結した、かなりユニークな配役陣。ファン層も、かなり独特な感じでしたね(笑)。

「円形劇場」なので、もちろん、舞台は円形。真ん中にパフォーマンスエリアがあり、そこをぐるりと取り囲むようにして客席が作られています。出入口は4つありますが、観客の出入りはこのうち2つから行います。

客席に入ると、歌舞伎の代名詞とも言える定色幕が、劇場の壁をぐるりと覆っています。おお、微妙に歌舞伎ちっくだなぁ…。後から考えると、この演出、意図は汲めるものの効果があったのか、ちょっと不明…(苦笑)。でも、歌舞伎のお芝居以外の場所で定色幕を見る、というのは新鮮ですね。

パフォーマンスエリアの中央には、2段重ねのケーキのような台があり、その周りに通路があり、そして客席、という感じ。つまり、どんなに遠いお席でも3メートル以内の場所で役者さんが演技を行うという、ものすごい距離感。

役者さんも、360度から観客の視線を、しかも間近で感じながら演技を続けるというのは、すごくプレッシャーでしょうね。観客も役者もドキドキせずにはおれない空間です(笑)。

上演時間は、休憩15分込みで2時間40分。円形劇場の椅子はパイプ椅子に近く、他の劇場のようなシートがしっかりしたものではありませんので、若干お尻の痛みが気になりますが(笑)、役者さんそれぞれの一挙手一投足が面白くて、耐え抜くことができました。

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お芝居は、ほぼ原作の設定通り(だと思います)の台詞で、衣装も中世フランスを思わせるクラシカルなデザイン。

変わっているところと言えば、ところどころにツケ打ちや御簾内の太鼓などが入り、やや歌舞伎味を感じさせる事でしょうか。

ツケは猿弥が担当したのですが、これがまた、何ともタイミングの合ったツケでお見事!ただ、惜しむらくは肝心の「ツケ」が、本来の素材で作られた物ではなかったようで…音がすぬけていて…。ツケって、もっと迫力のある音がするはずなのに、物足りなかったです…猿弥の打ちがびっくりするほど良かっただけに、がっかりだよ!(Byなぜか桜塚やっくん)

全体としては、すごくカラリとしていて、スピーディーで爽やかな舞台。シラノを「恋とコンプレックスの板挟みに悩める男」としてではなく、「友情と心意気を大切にする男」として描いていたのが良かったですね。また、シラノを演じた市川右近が、そういった演出の意図をしっかりとらえていて、好演。
 
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右近の口跡の良さには定評がありますが、今回のお芝居でも活かされています。前半の立ち回りでは長大な台詞を、流れるようなリズムでうたい上げ、まるで弁天小僧を見ているかのような気持ち良さ。
 
ライバルを威勢の良い言葉で跳ね返す一方で、ロクサアヌとの会話ではさりげない優しさを、クリスチャンとのやりとりでは、まるで聞かん坊のような彼を包み込むような温かさが込められていて、じんわり胸が熱くなります。それでいて友情にもあつく、「男が惚れる男」。まさに「江戸前なシラノ」(公演チラシより)でした。

その分、ロクサアヌに対する愛情が、少し薄くなってしまったかな…というきらいはありましたが、最後のシーンは、抑えがちだった彼女への想いが穏やかに、あふれるように伝わってきて、感動的でした。
 
右近さん、ええ役者になりはったわぁ~~~☆☆☆



相手役のロクサアヌには、安寿ミラ。元宝塚花組トップスターとして活躍後、現在は女優兼振付家として活動中です。

在団中からクールな容姿としなやかなダンスで人気を集めた安寿ですが、男役の経験を活かしてロクサアヌ以外の役にも挑戦しています。これが文字通り「神出鬼没」(チラシより)で、ファンには嬉しいサプライズです。

最初に観た無名塾の公演では、「恋を夢見る純粋無垢な乙女」の印象が強かったロクサアヌ。しかし安寿が演じると、女性としての強さ、したたかさ、そして思い込みの激しさを感じさせる、ちょっと強気なロクサアヌでした。

安寿の華奢な身体を包むのは、縫い取りの刺繍が豪華なシェルピンクの中世風のドレス。その乙女ちっくな外見に似合わず、非常に頭の回転が早く、勝ち気な女性。そして、自分の恋に夢中になってしまい、自分をひそかに愛してくれる、いちばん近くにいる男性の気持ちには気付かない愚かさ…。ちょっと小悪魔的な要素を持ちながらも、真実の愛に気付いた時のあまりにももろい表情は、胸に迫るものがありました。
 
ラストシーン、全てを悟った時のロクサアヌの表情が何とも言えず、哀しく切なかったですね。そして、このシーンで身を包んでいる喪服の寂しげな風情が見事に相乗効果を生んで、とても美しかったです。

安寿の舞台を観るのは、宝塚時代の『メランコリック・ジゴロ』以来、15年ぶり。当時は既にトップスターとして輝いていた安寿は、遠く離れた客席から観ることしかできない、憧れの人でした。今、彼女が2メートルくらいの至近距離にいる…なんだか、ものすごーく感無量でした(笑)。

来年は新国立劇場で、謝玉栄先生が演出される舞台に出演されるようです。これからも頑張ってください、ヤンさん(安寿)!
 
 
右近以外の俳優陣は、主要人物の他にも複数の役を演じて大活躍。しかも、男性も女性も関係なくこなすので、まさに八面六臂の活躍ぶり。ほとんどの方が歌舞伎や花組芝居など、性別を超えた演技が必要とされる世界にいらっしゃるので、違和感なくそれぞれの役を楽しんでいらっしゃいました。
 
先ほど少しお話に出た市川猿弥。大根役者から寝取られ亭主、修道女まで、どの役もとても魅力的です。嫌みな役、滑稽な役をなさっても嫌みがなくて、むしろ憎めない親しみやすさがありますね。
 
ド・ギッシュ伯爵を演じた加納幸和は、浮気女(寝取られ亭主の妻)も演じていて、これがまたものすごい怪演。一度観たら忘れられない、強烈なインパクトでした…。夢に出てきそうです(笑)。
 
 
今回の舞台では、ところどころ効果音の要素としてツケや御簾内の太鼓などが取り入れられていますが、テーマミュージックはアコーディオンとヴァイオリンの生演奏。ちゃんとクロマティック(ボタン式)アコーディオンが使用されていました。
 
日本では「アコーディオン」というと鍵盤式をイメージする方が多いと想われますが、世界ではクロマティックアコーディオンが主流で、鍵盤式アコーディオンを使用しているのは、世界でも日本とドイツだけなのですよ。しっかり考証がされているなあと感心しました。
 
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いつの時代も繰り返される男と女の愛の物語。見る者のとらえ方によって、悲劇にも喜劇にも仕立てられるのですね。これまで観たイメージとは違って、哀愁の中にも爽やかさと清々しさが胸に残った『シラノ』でした。
 
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はなみずき

この舞台、見たかったんですぅ~。特に、右近シラノと、猿弥修道女が…! シラノといえば、ファニーフェイス、というイメージなのですが、右近さんがなさると、色気が出すぎるんじゃない?!と、変な心配をしてしまいました。右近さんに恋の文句を語られちゃぁ、イチコロでしょ、みたいな(照)。
「シラノ」といえば、大きな鼻をつけないシラノという演出だった、宝塚の舞台を思い出します。「ナントカとナントカとナントカ」…「剣と恋と虹と」…でしたっけ? 
来月は澤瀉屋さん、三越歌舞伎ですからね。皆さん、ご活躍、何よりです。
by はなみずき (2007-09-10 22:10) 

★とろりん★

はなみずきさま、
右近さん、大きなお鼻なんかコンプレックスに入らない!ってくらいのいい男ぶりでしたよ~♪

>>「シラノ」といえば、大きな鼻をつけないシラノという演出だった、宝塚の舞台を思い出します。「ナントカとナントカとナントカ」…「剣と恋と虹と」…でしたっけ? 

(笑)。心の呟きをそのまま書き留めてしまうはなみずきさま、ラブリー♪『剣と恋と虹と』で大当たりです!麻路さきさん主演でしたね。この時は外見のコンプレックスではなく、過去のトラウマが原因、とかいう設定でしたよね(実はこの時期、完全に「カンゲキ空白期間」なのでうろ覚えなのです>汗)。

中世フランスと関ヶ原に分かれて戦って(?)おられた澤瀉屋の皆さん、来月は三越に集結されるわけですね。こちらも歌舞伎ファンとしては楽しみですね~☆
by ★とろりん★ (2007-09-11 14:58) 

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