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第12回ハゲマス会 狂言の会 [伝統芸能]

2010年1月24日(日) 麻生文化センター 14:00開演

【番組】

狂言
『佐渡狐』
(山本泰太郎)
『樋の酒』
(山本東次郎)
『唐相撲』
(山本則俊)

素囃子 『神舞』
(大倉栄太郎、梶谷英樹、住駒充彦、八反田智子)


昨年は足を運べなかったハゲマス会。今年は「唐相撲」がかかると聞いて、これはどうしても!と、勇んで観て参りました。



『佐渡狐』
佐渡の百姓/山本泰太郎
奏者/山本則重
越後の百姓/山本則孝


あらすじは、コチラをご覧下さい(すみません、手抜きで・・・)→第44回青青会(この時のシテは若松隆)

【カンゲキレポ】

離島であるというコンプレックスから、ないものを「ある」と言ってしまったが為に起こる顛末を、明るい笑いに包んだ曲です。

泰太郎は、本当に厚みが出てきました。どの役を演じても、不安定なところが全くないし、安心して観ていられます。

印象的だったのは、越後のお百姓に「佐渡に狐はあるか」と問われて一瞬ひるんだ後に「ある!」と主張してしまう場面。泰太郎は足を一歩引いて少しの間うつむいた後、「ある!」と言い切ります。

泰太郎には、一瞬本当の事を言おうかどうしようか迷いながらも「御館の奏者を説得すれば何とかなるかもしれない」という事にピンときて「・・・ある!」と言い切る、機転がきくような印象。

若松のシテの時は、越後のお百姓との丁々発止のやり合いの末に思わず「ある!」とムキになって言い返してしまい、「しまった」という感じで口裏合わせに奔走する、という印象でした。同じ演目でも、演者が違うと一瞬の呼吸のとり方やしぐさで、こちらの受け止め方や印象も変わってくるものなのですね。

則孝演じる越後のお百姓は、余裕のある出来。何て言うんでしょう、「いや~、この人、(佐渡に狐はいないと)絶対に知ってて問いただしてるよね~」という感じ(笑)。確信があるからこそあれだけ問いつめて、最後の最後にあの質問を繰り出せると思うんですよね~。

則重の奏者も、いかにも小役人といった風情で「こういうヒト、きっとたくさんいただろうな~」と思わせられて、クスリ。

この奏者、佐渡の百姓から心付けを渡されて、狐の特徴を色々と教えてあげるのですが、越後のお百姓が佐渡のお百姓を質問攻めにしている時も、越後のお百姓にバレないように、コソコソと手振り身振りでヒントを出してあげています。で、何となく異変を察した越後のお百姓がふと奏者の方を振り返ると、そのたびにピョンと跳んで90度向きを変えて、そっぽを向いて知らんぷり。

その様子が何度も繰り返されるたび、可笑しくて可笑しくて。越後のお百姓がバッと振り返った瞬間に、座ったままピョン!と跳んで90度横を向く姿は、マゼール跳びに優るとも劣らない可笑しさでした。

前回に続き、今回も生着替え(というか早替わり?)がありました~。お百姓たちが奏者に目通りするために、肩衣から素袍に着替えるのを、そのまま舞台上で行います。

今回は、お百姓とも奏者ともに素袍を身につけています。前回拝見したときは、奏者は長裃を着けていました。ただし、奏者が素袍を上下で身につけているのに対して、お百姓たちは上衣のみ素袍を身につけています。

終演後、東次郎師による解説がありましたが、師曰く、「奏者はスーツ、お百姓はブレザーといったところでしょうか」。同じ装束でも、着付けを工夫することによって、身分や立場を表現できるのですね。

ちなみに泰太郎は裾に波模様が入った千鳥柄、則孝は深緑に蝶が飛び交う柄の素袍、則重は、濃い紺地に赤紫っぽい色で瓢箪のつなぎ柄。ああ、オペラグラスを持ってくればもっとじっくり柄や文様を観察できたのに・・・ちょっと反省。

お百姓の着替えを手伝う後見は東次郎師と則秀。手際よくキビキビと着替えを済ませていく姿は、美しい所作を見ているようです。

舞台上での着替えは、時間的なものや演出的なものもあって、今ではあまりしないのだそうです。「でもうちでは、本来の姿を残してやっていきたいと思っておりまして・・・」と東次郎師。

「(舞台上で着替えをすることによって)場が切れましたでしょ」とおっしゃっていましたが、私は素敵な演出だと思います。



『樋の酒』
太郎冠者/山本東次郎
主人/山本則直
次郎冠者/山本則俊


【あらすじ】

留守にするたびに酒蔵で酒を飲む太郎冠者をこらしめようと、主人は太郎冠者を軽物蔵(反物等を保管する蔵)へ、次郎冠者を酒蔵へ閉じこめてから出かけます。下戸の振りをしていますが、実は大の酒好きの次郎冠者はこれ幸いとばかりに酒を飲み始めます。美味そうな酒の匂いが隣の軽物蔵まで流れてきて、太郎冠者はたまりません。

そこで太郎冠者が見つけたのが、雨樋の木材(樋)。これを隣の酒蔵へかけて、次郎冠者に酒を流してもらおうというのです。雨樋を通して酒を酌み交わし、すっかり良い気分になった太郎冠者と次郎冠者は歌を謡い、踊り出す始末。そこへ主人が帰ってきて・・・!?

【カンゲキレポ】

太郎冠者と次郎冠者のはちゃめちゃに主人が振り回されるという、狂言らしい小品ですが、東次郎、則直、則俊と、山本家をまとめる3人がそろった大舞台です。・・・私の中で、今回最大のクライマックスでした(早)。

主人が太郎冠者と次郎冠者を呼びつける冒頭のシーンから萌え。(爆)

則直@主人が「太郎冠者、おるかやい」と呼びかけると、まず東次郎@太郎冠者が「はぁーっ」と控えます。この「はぁーっ」が、何とも言えない艶とハリがあって、素敵なテノール・・・[黒ハート]

そして、次に「次郎冠者、おるかやい」と呼ばれて同じく「はぁーっ」と控える則俊@次郎冠者。こちらは気持ちの良い低音が響いて、ナイスバリトン・・・[黒ハート]

その2人を蔵に押し込める則直@主人はちょうど中間の音域で、バスバリトンといったところ[黒ハート]

この3人の声が、ほんっとうに素敵でうっとりと聞き惚れてしまいます。ちょっと本気で「山本家男声リサイタル」とか夢想してしまいました(笑)。お三方が、謡とか素語りとか小舞とか、思う存分披露して下さるの~[ぴかぴか(新しい)] もちろん若手の皆さんも総出演なの~[ハートたち(複数ハート)] きゃあぁぁ~[グッド(上向き矢印)](しばし妄想におつき合いください)

さてさて、東次郎は若草に鬼瓦の意匠が入った肩衣、則俊は黄色に鬼瓦の肩衣と、お揃い。鮮やかで若々しくて、元気いっぱいの召使い2人組といった風情です。やんちゃすぎて、主人はさぞかし手を焼いているんだろうな~と思いました(笑)。

そんなこんなで軽物蔵に閉じこめられた太郎冠者と、酒蔵に閉じこめられた次郎冠者。舞台の上で、少しだけ距離を置いて隣り合って建っているのに、その間にはきちんと「壁」が感じられるのがさすがです。

東次郎@太郎冠者が、「いつもの留守も2人では寂しいのに、今日はこんな暗いところに閉じこめられて、いちだんと寂しいものじゃ」と言いつつ、身体の向きを変えながらぐるりと四方を見渡すのですが、この科白とこのしぐさだけで、蔵のちょっとよどんだ、しっとりとしたほの暗い空気が伝わってきました。

東次郎師はよくお話の中で、「狂言は想像しながらご覧いただくもの」とおっしゃるのですが、見所(観客)がその場面の空間や状況に想像するには、やはり演者の科白と型がきっちりと決まっていなくては伝わらないものだと思うのです。

運良く(?)雨樋を見つけて、それを酒蔵に立てかける太郎冠者と、嬉々として酒を流し込む次郎冠者のやりとりは、本当に楽しくて可笑しくて、ニヤニヤしちゃいます。

そして再び、リサイタル開始(?)。2つの蔵を隔てて、太郎冠者と次郎冠者の酒盛りが始まります。すっかり良い心持ちで謡や小舞を繰り出す2人。ならび合って舞ったり、謡をうたったりしているのに、わずかな目線の動きやしぐさで、きちんと2人の間には蔵の「壁」が見えるのです。す・・・すごいっっ!!

太郎冠者と次郎冠者による小舞と謡はいろいろとあったのですが、「七つになる子」はあったんじゃないかなぁと思います(自信ありません)。それにしても、毎回同じ事しか申しておりませんけど、東次郎師の小舞のふくよかな事!則俊師のお声のキレのあること!今回は小舞が番組に入っておりませんでしたので、その分、この曲で存分に楽しませていただきました。

それにしても、お三方のそろった舞台は、色々な意味で迫力があります。スピード感、千鳥足のリズム感、キレの鋭さ、芳醇な空気。ものすごいスピードでさーっと登場してピタッと止まる時の、ブレのない静止は、誰にも出来るものではないと思います。



素囃子『神舞』

大鼓/大倉栄太郎
小鼓/住駒充彦
太鼓/梶谷英樹
笛/八反田智子


三兄弟『樋の酒』での興奮を、心洗われるような清冽な響きのお囃子でクールダウン。しかし・・・大倉栄太郎さんの、端正な大鼓の響きを聴くと、大倉慶乃助さんの大鼓は、やっぱりすんごい激しいんだなぁ~と、しみじみと再確認・・・。



『唐相撲』

帝王/山本則俊
日本人/山本則秀
通辞/山本則重

唐人/山本凛太郎、荒井豪、渡邊直人、大高靖慈、齋藤宇宏、江橋翔太、水木武郎、深松尚文、山本泰太郎、山本則孝、若松隆、平澤亮太、内田尚登、内田敦士、平田悦生、得居泰司、鍋田和宣、山本修三郎、梓岳夫、内海周一郎、石井信也、鈴木茂正、大音智海、ラファエロ、遠藤博義

【あらすじ】

唐の国に仕える日本人の相撲取りは故郷が恋しくなってきたので、帝王に暇を下すようにお願いします。通辞(通訳)が申すには、名残にもう一度、相撲を見たいとの帝王のご所望。そこで、お仕えする唐人たちを相手に取り組みが始まりますが、誰も叶いません。ついに、帝王自らが相撲をとると言いだして・・・?

【カンゲキレポ】

唐の国が舞台の、珍しい狂言。しかも、囃子方と狂言方合わせて30人近くが登場し、装束も日本人以外は異国風の中国風のもの。作り物の天蓋もものすごく立派で高さがあって、何から何まで大がかりできらびやかな豪華。

まず、橋がかりからとても壮麗な天蓋が運ばれてきて、ビックリ。運ぶときは折りたたんで、本舞台に到着してから脚を組み立てます。

そして、厳かな空気の中、通辞を先頭にそろりそろりと目にも鮮やかな装束を着けた従者たちが登場し、きらびやかな出で立ちで登場するのが、則俊@帝王。や、山本家とは思えないはでやかさ・・・(笑)。

で、その従者達が、ぞろぞろ・・・ぞろぞろ・・・と橋がかりから本舞台をまわってくるのですが、その数、25名!大人から子ども、そして外国人まで(!)、ズラーッと立ち並ぶ姿は圧巻です。後見から囃子方まで合わせると、能舞台上には30名以上の人間が登場します。

いつもの狂言で見られるような拵えをしているのは、日本人の相撲取りをを演じる則秀だけ。則俊@帝王は長~い白髭をたたえて、豪奢な装束を身につけています。他の唐人たちも、光沢のある生地を使った、唐風の装束をそれぞれ身につけています。

そしてこの狂言、日本語以外の言語が登場するのです!!とは言っても、「唐音(とういん)」と言って、中国語に似たような響きを持つ、でも全然意味がない「なんちゃって中国語」なのですが(かと言ってその場でデタラメな言葉をその場で思いついて言う訳でもなく、そきちんとした科白なのだそうです)。

舞台が中国の都なので、日本人以外は皆この「唐音」での科白です。通辞だけが日本語と唐音を解し、通訳の役目も請け負います。

この唐音での科白がね~、また面白くて!「ばんすいばんすい、じんぶるぼー!」とか(笑)。

日本人が帰国する名残に相撲が見たいという帝王の所望で、大相撲大会が繰り広げられます。通辞が従者達を土俵に呼ぶときの科白は、「○○、ライライ」。名前は多分、その演者の名前に似た響きで呼ばれるのだと思います。凛太郎が呼ばれた時は、「リンリン、ライライ」でした♪

通辞に呼ばれた唐人たちが日本人に挑むのですが、ことごとくあっけなく敗退。ついに帝王が自ら相撲を取ると言い始めます。

ここの取り組みも、バラエティー豊かで、本当に面白い!!

まずは1対1。張り手をくらって場外に吹っ飛びます。

次は1対4(あれ?)。1人1人、次々と張り飛ばされます。

3人目は、ねずみおどしをかけても簡単にあしらわれ、敗戦。

4人目は、がっぷり4つに組んで大相撲になったところで、通辞によって突如取り組みが中断されて休憩が入り、お互いにしばし休息(笑)。再開後は投げ飛ばされた勢いでぐるぐる側転(!)しながら敗退・・・。

5組目は、1対2で飛びかかったのに背中合わせにごっつんこされて撃沈。

6組目(リンリン)は、マンゴジェリーとランペルティーザ(@『キャッツ』)並みのアクロバットの空中回転をさせられて、敗退(←解るヒトにしか解らない説明ですみません・・・)。

7組目は2人がかりで突っ込んだのに、そのままお互いの手足がもつれてぐるんぐるん回転していって、ついに揚幕の向こうへと消え去ってしまいました・・・。

そして最後の取り組みは、半ばヤケクソになった(?)従者達が8人がかり(子ども含む)で押し合いへし合い。これも日本人に1人ずつ蹴散らされてしまいます。

いや~・・・山本家の舞台を拝見していて、『キャッツ』を想起する日が来るとは、夢にも思いませんでした・・・(笑)。

業を煮やした帝王が、自ら相撲を取ると宣言した後、厳かに着替え始めるのですが、ここはまた厳粛な空気に戻ります。・・・厳粛な空気の中での着替えなのに、肩の震えが止まらなくなると言うのはどうしたことでしょうか(笑)。何とも言えないおかしみが漂っておりました。皆さん大まじめなのにかえって笑いが止まらなくなるような・・・(すみません)。

帝王と日本人の取り組みも、すごく面白い!日本人が上手を取ろうをすると、通辞が激しく制して、「玉体に触れるとは何事か!」。・・・いやいや、身体をぶつけないと相撲になりませんからっ(突っ込み)。

最後も都の宮廷らしく、雅やかな空気で立ち去っていくのですが、抱腹絶倒の舞台を繰り広げたばかりなのに、大まじめに橋がかりから退場していく演者の皆さんの姿が楽しくて、大きな拍手を送りました。



最後はやはり東次郎師が登場され、お話を少ししてくださいました。カンゲキレポの間にちょこちょことお言葉を挟んでありますが、いつも師のお言葉「うん、うん、うんうん」とうなずかされる事ばかり。青青会の『佐渡狐』でもお話くださった「ないものを『ない』と言える勇気」についてのお話、やはり心に深く入ってきます。

今回も、想像以上に楽しませて頂きました!次の公演は、いったい何が上演されるのでしょうね~、わくわく[るんるん]
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mami

どれもとても面白そうですね~。
またいつか狂言観に行きたいです。

それにしても最後の「唐相撲」、あの能舞台に30人とは、良く乗りましたね。押し合いへし合いになりそう(笑)。
ところで「ラファエロ」さんって、狂言役者さんなんですか。。。?妙に気になります。
by mami (2010-02-05 00:43) 

★とろりん★

mamiさま、

nice!とコメント、ありがとうございます!!

『唐相撲』は一昨年、国立能楽堂25周年の折に山本家と茂山家の合同で上演されたのですが、この時も大にぎわいの舞台だったと聞いています。こちらも観たかったなぁ~(気がついたときには完売でした・・・)

ラファエロさんは、山本家の公式ホームページの一門紹介(http://www.kyogenyamamoto.com/actor.html)には紹介されていないので、おそらく山本家で学ばれているお弟子さんの1人だと思います。唐人を演じていらした皆さんのほとんどは、お弟子さん方のようでした。でも、皆さん長~いお髭をつけていらしたので、誰が誰だか解りませんでしたけれども(汗)。
by ★とろりん★ (2010-02-05 08:15) 

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