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第45回 青青会 [伝統芸能]

2010年2月11日(木・祝) 杉並能楽堂 13:30開演

【番 組】

狂言
『今参
(いままいり)(山本則孝)
『名取川
(なとりがわ)(山本則秀)
『右近左近
(おこさこ)(遠藤博義)

小舞
『御田
(山本凛太郎)
『海道下り』
(山本東次郎)
『芝垣』
(山本則俊)


建国記念日名物となった大蔵流狂言方・山本家の若手による会『青青会』。寒くてお天気が悪い日にもかかわらず、見所(客席)はいっぱいでした。

ただ、今回は全体的には低調な舞台だったかな~と思います。山本家には珍しく(?)、どの曲でも細かいミスや気になる点があり、ちょっと残念でした。いじわるで言っているんじゃないんです、愛ゆえです、愛ゆえ。(Byマイケル@『THIS IS IT』)

今回は失礼なことも書いています。私としては辛口エールのつもりですが、激辛過ぎるかも。それでもお読みいただけるのであれば、「続きを読む」からお入り下さい。




『今参』
大名/山本則孝
太郎冠者/若松隆
今参/山本則重


【あらすじ】


大名は新しく人を召し抱えようと考え、太郎冠者をスカウトにやります。太郎冠者は奉公を志願する男を見つけて連れ帰ることにします。途中、太郎冠者は「主人 は秀句(ダジャレ)が好きだから、こう問われたらこう答えると良い」と、男にいろいろと知恵を付けます。さて、挨拶を済ませると、さっそく新参の者に秀句を投げかける大名。ところが、新参の者は緊張のあまり、上手く返すことができません。怒る大名に、新参の者は「自分拍子をとるのが得意だから、拍子をとってくれ」と頼みだ し・・・?

【カンゲキレポ】
「今参」とは、「今参った者」、つまり新参の者。秀句(ダジャレ)好きな大名と、召使いを増やすことによって自分がラクをしたい太郎冠者、何とか大名に気に入られて召し抱えられたいと頑張る新参の者の心の動きや仕草がコミカルな一幕です。

則孝は芯の通った堅実な出来。大名の持つ鷹揚さ、柔らかさなどはまだまだかな・・・と思いますが、見栄っ張りで居丈高な感じが大名らしくて良かったです。 でも則孝さんは、大名や主人を機転でやりこめちゃう太郎冠者の役どころが似合うかも・・・。連歌の応酬でご主人をやりこめてしまう第41回青青会の『富士松』なんて、個人的には則孝さんのキャラクターにピッタリだったなぁ~。

青青会は若手の会で、基本的にはシテを務める方がやってみたいと思う曲を上演するのだそうです。(私が拝見した頃から言えば、の話ですが)、則孝さんは、 連歌や秀句など「言葉あそび」がテーマになっている曲を一貫して選ばれていて、その筋が通った姿勢も素敵だな、と思います。



『名取川』
旅僧/山本則秀
名取の某/山本則俊

【あらすじ】

比叡山で修行を終えて、遠国の自分の寺へ帰る途中の旅僧。修行中、比叡山のとある山寺で美しい稚児2人に出会った僧は、せっかくの機会だからと2人に自分の 名前を考えて貰い、その名を両袖に書き付けてもらいました。ところが道中、大きな川を渡っていた旅僧は深みにはまって流されてしまい、袖に書いてもらった名前が消えてしまいます。折良く通りがかった男に川の名前を聞いたところ、川は名取川、男の名前は名取の何某と答えます。僧は「お前が名前を取ったんだな!」と、何某に名前を返せと迫りますが・・・?

【カンゲキレポ】

昨年まで、1曲演じる事に目を瞠るような成長を見せていた則秀。生意気な事を申しあげるようですが、今回は、私が拝見した彼の舞台の中で、最も完成度の低い舞台だったと思います。

おそらくですね、すごく期待していたばかりに、失望も大きかったというか・・・。芸の世界に生きる人間ならば誰もが通過しなくてはいけない、ぐぐーんとめざましく伸びきった後に必ずやってくる停滞の時期にさしかかったような。突然の失速に、残念というよりはむしろ「一体どうしたの?」と、心配してしまいました。体調が悪かったのかな・・・?

若くして名のある修行を比叡山で無事に終えて、遠国にある自分の寺に帰る旅を続ける僧。当時、比叡山は京の都に近いこともあって、貴族の子弟が行儀見習い も兼ねてお稚児さんとして比叡山の末寺に奉仕することもあったそうで、この僧はそういった事情でお寺に来ていた2人の稚児と仲良くなりたいと思い、「自分の名前を付けて欲しい」 と頼みます(今で言うきっかけ作り)。そして、名前を忘れないようにしたいから、と両袖にそれぞれ考えてもらった名前を書き付けてもらいます(今で言う 「Tシャツにサインをもらう」)。

ところが旅の途中で川の深みにはまってしまい、袖が濡れたために墨でが流れ、名前(サイン)も消えてしまいます。僧は川尽くしの謡をうたいながら、笠で川の水をすくって名前を取り返そうと躍起になります。

この場面、曲のヤマ場のひとつでもあるのですが、則秀はこの謡の途中で、息切れを起こしてしまったのです。

これまでも、曲の後半にかかる謡でちょっとスタミナ切れを起こしたりすることはあったのですが、今回はまだ曲が中盤で、誰の目にもわかるような息切れの仕方。声を伸ばすところも切れ切れで、苦しそうな呼吸が脇正面のいちばん後ろの席まで聞こえてきて、見ているのも辛くなる程でした。

前回の『首引』では、面(おもて)と大きな装束をつけて激しく大きな動きを繰り返しながらも、最後まで声を張って謡をうたいきった則秀。今回の『名取川』は、川に流される体で舞台の上をゴロンゴロンと転がったり、謡をうたいながら笠で川の水をすくってはふるってみたりと、大きな動きがいくつかあるものの、『首引』のエネルギッシュでパワフルな舞台を思えば、それほど激しくはないと思うのですが・・・。中盤でそのような状態になってしまったという事がちょっとショックでした。

 
アドの則俊とのやりとりになってからは、落ち着いたのかいつもの調子をいくぶんか取り戻しましたが、それでもいつもよりは声のハリがちょっと落ちていたように思います。

この舞台の後に拝見した『七拾七年会』では、声の艶もハリもいつも通りだったので安心しました。やっぱり体調がすぐれなかった状態での出演だったのでしょうかね。

ただ、舞台というものは一瞬一瞬が人の心や記憶に焼きつく一期一会のものですから、もしそういう状態だったのであれば、今後、健康管理には充分に気を配って欲しいと思います。たった一度の舞台で、演者に対する評価はガラリと変わるものですから・・・。

というわけで、次回の「山本会」(4月11日、杉並能楽堂)の『縄綯(なわない)』にはものっすごく期待してますんで、頑張って則秀さんっっ!!(←なんだかんだ言ってやっぱり山本家ファン)

アドを務めた則俊師は、寸分の隙もない舞台。ひとつひとつの型の正確さと冷静さはさすがです。シテの則秀の調子が良くない中、相手役であるアドが若手ではなくて則俊師だったことは幸運でした。舞台全体の空気が動揺し乱れることなく、落ち着いて進んだのはこの方がいらしたからこそだと思います。さすがです。ありがとう、則俊師・・・。(←突如感謝状化)



『右近左近』
右近/遠藤博義
右近の妻/山本泰太郎


【あらすじ】
お百姓の右近は、隣家の左近が飼う牛に収穫前の自分の田んぼの2/3を食い尽くされてしまい、抗議したものの、取り合ってくれません。腹が立って仕方ない右近は、地頭に訴えて公事(訴訟)に持ち込もうと考え、妻にそう伝えます。妻は思いとどまるように説得しますが、右近は聞き入れません。そこで、妻が地頭になりすまし、右近と口上の稽古をすることになりますが・・・?

【カンゲキレポ】

この曲でも、若手筆頭格の泰太郎が科白に詰まってしまうというミスがありましたが、後見の東次郎師(・・・豪華すぎる後見ですね・・・)によって何とか切り抜けた後は、訳あって左近のひいきをしなくてはいけない右近の妻を力強く、ひょうひょうと演じきっておりました。夫である右近に、左近との関係(?)を問いただされて逆ギレしちゃう様子は、現代にも起こりうるような悲喜劇を見ているよう。笑わせて頂きました。

シテの右近を演じた遠藤は、堅実な出来。今回のシテの中で、いちばん安定感があったように思います。鼻息を荒くして「訴えてやる!」と憤ってはいても、まだ稽古の段階なのに身分の高い地頭(のなりをした妻)にお目見えした途端にビビってしまう小心者ぶりをしっかりと演じていました。



小舞についても、簡単に感想を~。

『御田』は、前回の青青会で舞う予定でしたが、休演したため今回に持ち越されたもの。

地謡の皆さんがすっごい高い音で謡を始めたのでビックリ。終演後の東次郎師のお話によりますと、謡は小舞を舞う人間の声の高さに合わせないと、後々バランスが悪くなってしまうのだそうで、今回も凛太郎の声の高さに合わせての謡だったのだそう。しかし凛太郎はまだ変声期が完全に終わっていないので、ちょっと声が高め。それに合わせるのは、皆さん結構大変だったみたいです。

凛太郎も途中の謡で少しつかえてしまったのですが(細かいミスの連鎖が続きましたね、今回は・・・)、特筆すべきは手首から指先にかけての、ピンと伸びきった美しさ。長くて細い指が綺麗に反っていて、時にしなやかに時に鋭敏に動く様子は、ため息が出ました。凛太郎君・・・末恐ろしい子・・・。


『海道下り』
はさすが東次郎師!扇を持つ手の動きがあまりにもなめらかで、扇が生きているのでは!?とまで思ってしまうほどの自在さ。いや~、うっとり。ひたすらうっとり。

『芝垣』は余計な動きをギリギリまで削ぎ落とし、最低限まで抑制された動き。鋭さを感じさせる則俊師の感覚が舞台全体に満ちあふれていて、緊張感のある素晴らしい小舞でした。



う~ん、山本会の公演でここまでローテンションなレポは珍しいかも・・・(でも長文には変わりなし)。愛のムチだと思っていただければ有り難いです。
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カオリ

狂言は守備範囲外なのですが、とろりんさんの「愛だよ、愛」が伝わってきましたよ(^ ^)

by カオリ (2010-02-20 00:10) 

★とろりん★

カオリさま、

nice!とコメント、ありがとうございます!!

いやはや、たくさん舞台を拝見していると、こんな日もあると思うのですが…(汗)。愛は伝わっていたようで、ホッといたしましたf^_^;
by ★とろりん★ (2010-02-20 01:25) 

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