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歌舞伎座さよなら公演 御名残四月大歌舞伎 第三部 [歌舞伎]

2010年4月6日(火) 歌舞伎座 18:20開演

私にとって、歌舞伎座ラストデイとなったこの日。別れを惜しむ常連さん、初めて歌舞伎座に足を踏み入れたであろう人、様々な熱気に包まれていました。

観劇前に、「これはいいな」と思ったのが、筋書の表紙。

CA393821.JPG
鏑木清方「さじき」

その作品名の通り、歌舞伎座の桟敷席で、心をときめかせながら名優の舞台を見つめているであろう親子を描いた作品です。

現・歌舞伎座で発行される最後の筋書の表紙として、これ以上に相応しい表紙はないと思いました。

幼い時から歌舞伎に親しみ、歌舞伎への愛を母親から受け継いでいくであろう娘さんの姿。きっと彼女も成長して子を持つ母親となった時、同じように歌舞伎座へわが子を連れていくであろうな…そんなことを想像させる温かな風景。

こうして歌舞伎は、歌舞伎座はたくさんの人々の思いを引き継ぎながら、その時代ごとに愛され続けてきたのだろうな、そうしみじみ感じました。

そして、この母娘の姿が、新しく生まれる歌舞伎座に、歌舞伎の未来を託して自らの役目を終えていく現・歌舞伎座の姿にも重なったのです。こうして歴史は繰り返され、歌舞伎への愛はもちろん、劇場が持つ魂も、次代へ連綿と引き継がれていくのですね。

本当にね、この表紙を見た時には心がじんとして涙があふれました。



実録先代萩

乳人 浅岡:芝翫
松前鉄之助:橋之助
一子 千代松:宜生
伊達亀千代:千之助
局 錦木:萬次郎
局 松島:孝太郎
局 呉竹:扇雀
局 沢田:芝雀
片倉小十郎:幸四郎

「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」と同じく、有名なお家騒動「伊達騒動」をモデルにして書かれた作品です。「伽羅-」と違って、当時の騒動に実際に関わった人間がほとんど実名で登場するので、「実録-」という外題がつけられているのでしょう。

現在82歳の芝翫が、「歌舞伎座」という劇場で立女方(たておやま)として芝居をすることができるのは、これが最後かも知れません。だからこそ、制作側としてはどうしても芝翫の芝居が際立つ作品を上演したいと考え、芝翫の体力や芸格、そして第三部全体のバランスを考慮した上での上演でしょう。制作側が役者へ抱く、深い敬愛を感じました。

芝翫と息子橋之助、そしてその子息の宜生と、成駒屋三代の共演に幸四郎が力を貸し、中堅の女方も手堅く舞台を支えていました。

芝翫の浅岡は、御殿女中としてのきりりとしたキャリアウーマンぶりと、生き別れになった我が子に見せる戸惑いを過不足なく演じ、仕事に生きる女性としての悩み、母親としての苦しみがダイレクトに伝わってくる舞台。いつの時代も、仕事と家庭の両立は難しいものですね・・・(そんな単純な感想ですか)

芝翫の存在感は、「歌舞伎」そのもの。通常の劇場よりも間口が少し広い歌舞伎座の舞台。その中で、ひとつひとつの科白、一瞬一瞬の動きがまるで錦絵のようにピタリ、ピタリとはまっていました。

そして、子役ちゃん大活躍!!特に千之助演じる亀千代が、幼い中にも、名家の世継ぎとしての気品と威厳がきちんと感じられて、浅岡でなくとも「この子の為なら」と思えるような何かを自然ににじませていました。役者として必要な品や緊張感もすでに備わっています。将来が楽しみだなぁ♪

 



歌舞伎十八番の内 助六由縁江戸桜

花川戸助六実は曽我五郎:團十郎
三浦屋 揚巻:玉三郎
通人 里暁:勘三郎
福山かつぎ 寿吉:三津五郎
三浦屋 白玉:福助
傾城 八重衣:松也
傾城 浮橋:梅枝
傾城 胡蝶:巳之助
傾城 愛染:新悟
傾城 誰ヶ袖:菊史郎
朝顔仙平:歌六
曽我満江:東蔵
三浦屋女房 お松:秀太郎
髭の意休実は伊賀平内左衛門:左團次
くわんぺら門兵衛:仁左衛門
白酒売新兵衛実は曽我十郎:菊五郎

今、このように書き出してみるだけでもこれ以上はないオールスター総出演。まさに、「綺羅星のごとく」とはまさにこのことです。歌舞伎座の最後を彩る打上げ花火のように絢爛豪華な舞台でした。

海老蔵丈の口上から、すでに客席は興奮。河東節が始まる前の、一瞬の緊張感から、演奏が始まった時にふわっとゆるむ劇場の空気。

大らかで愛嬌たっぷりの團十郎丈。大輪の牡丹の花のように艶やかで圧倒的な美しさを誇る玉三郎丈。やわらかでおっとりとした風情の中に弟への愛を感じさせる菊五郎丈。小気味の良い仕草が粋でいなせな三津五郎丈。おかしみのある役どころながら、スキッとしたオトコマエぶりは変わらない仁左衛門丈。てきぱきと動きながらもふと見せる微笑に「その世界の女」の色気を感じさせる秀太郎丈。ただ、そこにいるだけで存在感のある左團次丈。アドリブ専売特許なのを良いことに(笑)、役者の皆さんのが心に秘めている、観客の私たちが伝えたい思いを代わりに言葉にしてくださる勘三郎丈。そして、まだまだ固い蕾を思わせるけれど、清純な色気を漂わせて、すでに未来の片鱗を感じさせる傾城役の御曹司たち。

配役のバランス上、すべての歌舞伎役者さんがこの舞台に立てるわけではありません。でもこの時の「助六」には、この舞台には立てなかった他の役者さん、そしてこれまで歌舞伎座を支えてきて下さったスタッフ・職人の皆さん。そしてその歴史を積み重ねてきた数多の役者さんたちの思いが凝縮された舞台であったように思います。

ただ、ただひたすら、この場所に座り、この空間を感じられることの幸福を噛みしめていました。



この時は、色々な偶然と奇跡(と言うにはちっぽけなものですが)が重なって、本当に運良く観ることができたのです。そういうこともあって、この時の舞台には「幸せだった」という思い出しか浮かんでこないのですよね。

2ヶ月以上経ってからの感想ですから、役者さんの芝居などについての細かい描写もできず、情けないくらいに記憶が抜け落ちています。でも、思い出そうとすればするほど、言葉にできない「幸せだったという気持ち」が心を満たしてくるのです。それが、私にとってのいちばんの感想なんじゃないかな、と思います。

 


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mami

歌舞伎座の最後の月の最後の演目を観ることができて、本当に幸せでしたね。
閉場して2ヶ月近くたった今、余計にその幸せを感じるような気がします。
それにしてもあの「助六」は豪華絢爛でしたねえ‥‥。今思っても夢のような舞台でした。
by mami (2010-06-26 23:30) 

★とろりん★

mamiさま、

nice!とコメント、ありがとうございます!!

歌舞伎座が閉場して、2ヶ月ですね。もう2ヶ月と言うか、まだ2ヶ月と言うべきか…。

残念ながら、4月は結果的にこの時の第三部だけの見物となったのですが、今でもあの豪華な舞台の光芒が心に強く焼き付いているように思います。
by ★とろりん★ (2010-06-27 13:17) 

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