石田衣良 『美丘』 [Books]
羽田空港の本屋さんで偶然目にとまり、購入。出張中の3日間で読み切るつもりが、たった1晩で一気に読み終えてしまいました。なんとも切ないラブストーリー。
大学3年生の太一は、ふとしたきっかけで奔放な女子学生、美丘(ミオカ)と出会います。惹かれあう二人ですが、実は美丘は特効薬も治療法もない不治の病を抱えていました。限りある時間を2人は懸命に生きようとしますが、無情にも「その時」がやってきます……。
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石田衣良の小説は、設定や役柄が結構パターン化されているので、ドラマのノベライズを見ているような感じになります。そうとわかってはいても、ついつい読み進めてしまうだけの引力が、この作品にはありました。
「美丘」と太一が彼女の名前を呼びかけ、2人の日々を回想するスタイルで物語は進んでいきます。
前半は美丘と太一、そして太一と付き合うことになった麻理との危うい三角関係の行方、そして後半は、病気を発症しても「自分らしく生きたい」と訴える美丘と、それを必死で支えようとする太一の姿を中心に描かれていきます。
前半では、若い男女らしい修羅場や恋が進行していく様子もきちんと描かれていて、リアリティがあります。そして後半では、命を削りながらも自分らしくありたいと願う美丘と、彼女を懸命に見守り、支える太一の姿が健気で切なくて、愛しくて……胸が詰まります。
彼らが過ごす大学生活も生き生きと描写されています。
おそらく、一生でいちばん自由と時間のある大学時代。でも、自分自身が何をしたいのかまだ見極めることはできなくて、みんなどこか、心の片隅に不安を抱えている。それゆえに友情や恋など、人とのつながりを常に求めようとする世代。そういう世代の心のありようを、たわいのない学生生活を描写しながら巧みに浮き彫りにしていくのは流石です。むしろ、そんな時期だったからこそ、太一と美丘はひたすらに共に生きる時間を燃焼させることができたのかもしれません。
人を愛し抜くということは時として大きな犠牲を必要をしますが、それ以上に大きなものを与え、残してくれるのだ、と素直に感じることができる1冊でした。
ちなみに、今日から日テレ系列でドラマ化されます(公式サイトはコチラ)。そうか、「嵐にしやがれ」の前なのか……。これは、思わず見てしまうかも……。
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