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没後25年 有元利夫展 天空の音楽 [展覧会]

2010年7月3日(日)~9月5日(日) 東京都庭園美術館
ホームページはコチラ


いつも読ませていただいてる
mamiさまのブログで開催されているのを知り、これは絶対に行きたい!行かねば!と思っていた有元利夫(1946~1985)の展覧会。

好きな画家を挙げよと言われたら、東山魁夷と有元の名前を必ず出すと思います。未来を嘱望されなから、38歳の若さで夭折した有元。不思議な静けさと穏やかさに包まれた彼の作品は、見る者の心を鎮め、内面を映し出すかのようです。

有元の絵を初めて見たのは、中学生の時。母に連れられて奈良そごうで開かれた展覧会でした。おそらく母が好きだったのだと思いますが、その時の第一印象は、「不思議だけど、なぜか心惹かれる絵」。そしてそれは、約20年ぶりに再会した今回もまったく変わっていませんでした。

(mamiさまへ:mamiさまの記事へのコメントには「小学校6年のとき」と書いたのですが、図録で展覧会歴を確認したところ、もう中学生になってました>汗。でも、場所は奈良のそごうで合ってました。記憶違いとは言え、サバ読んですみませんm(_ _;)m)

目黒駅から徒歩5分。都心とは思えない広大な敷地には、自然のままの森が広がり、夏の青空と鮮やかなコントラストを見せていました。

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毎日本当に暑いけれど、やっぱり夏の空の青さは格別ですね。

アール・デコ様式で彩られた館内には、有元の静謐な空気を漂わせる作品たちがしっくりと馴染みます。普通の美術館とは違い、もともとは貴人の住まいとして建てられた庭園美術館。柔らかで穏やかな空気が、並べられた作品により一層の温もりを与えているように感じます。

有元の作品は、モチーフとなるような主題がほとんどありません。どこか、見る者の心象に委ねられているようなところがあります。今回は作品タイトルとともに有元が生前残した言葉や文章の数々も紹介されており、より彼の作品の深いところを探っていく手助けになりました。

最初に出迎えてくれるのは、有元の代表作でもある「ロンド」(1982)と、「花降る日」(1977)。

※作品はすべて美術館ホームページより引用
ロンド1982.jpg
「ロンド」(1982)

この不思議な浮遊感は、彼の作品の大きな特徴です。

花降る日.jpg
「花降る日」(1977)

螺旋状の坂道を静かに上っていく、女性と思しき人物。直線的な金色の光線と、浮遊する花弁。どこの世界のどんな人物なのか、説明はまったくありません。

この「説明がない」というのが、私には心地良いのかも。思う存分、その作品の世界について想像を張りめぐらせることができますからね。

有元の作品はフレスコ画の技法を応用したような作品がとても多いのですが、この作品もそう。顔を近づけてよく見ると、ひび割れや剥離した部分がいくつもあります。

フレスコ画には欠損がいっぱいあって、そこが白い漆喰で埋めてあったり、剥離したのがその辺にボロボロ落ちていたり、時間の経った色の上にさらに埃がかかっていたり、いかにも時間そのものが食い込んでいる感じがして気持が安らぐ。
(有元利夫:展覧会図録より)


欠損・欠落というのも有元の作品にとって重要なキーワード。彼の作品では、人物の手と足が細かに描かれていません。また、腕や身体の一部が物体によって隠されていたり覆われていたりするのがほとんどです。

厳格なカノン.jpg
「厳格なカノン」(1980)

有元の言葉によると、手は顔の次に感情が豊かであること、そして足を書くとその絵が説明を帯びてしまう-歩く、座る、走る、など、「何をしているのか」が明確になってしまうから、だそうです。描かれるモチーフを暗示や象徴にとどめることによって、描き手の一方的な発信を抑えているところに、彼の作品の最大の魅力があります。

もうひとつの重要なキーワードは、作品に描かれる人物はほとんどが「ひとり」であるということ。いちばん最初にご紹介した「ロンド」は本当に珍しいくらいの人数構成で、後はほとんどと言って良いほど、登場人物は「ひとり」です。

大学の卒業制作の頃は1枚の絵に複数の人物を登場させていますが、それ以降はほぼ
全ての作品において、登場人物はひとりになっていきます。

テアトルの道.jpg
「テアトルの道」(1980)

なぜひとりなのか。簡単に言えば、関係が出てくるからです。

関係というのはその「場」とそこの居る人とのものだけでいいんじゃないか。居る者同志の関係はもういらないという気がします。
(有元)


ああ、だから私は有元の絵が好きなんだなぁと納得。聖書や歴史の出来事を主題にした絵画など、複数の登場人物が描かれる作品ですと、「この人物とこの人物の関係は…この人物が手にしている道具が意味するものは…」と、「絵」以外のことに頭を働かせがちですが、「ひとり」が描かれている作品だと、よりじっくり、その絵「自身」と対峙できます。

今回、私がとても心惹かれたのは「音楽」という作品(1982)。

ホームページやネット上では画像を見つけることができませんでしたので、図録に掲載されているものを撮影。うう~む、ちょっと暗くなっちゃった…。やっぱり、繊細な色合いが、まったくキャッチできていないなぁ…。

全体的には、もっと明るくて、空の青がやわらかく広がっています。

CA393975.JPG
(クリックで拡大表示されます)

作品の寸法は130.3×162.1センチ。今回ご紹介した作品の中では、いちばん大きなサイズです。

キャンバスの中央には、女性とおぼしき人物が何も身につけない姿で大きく描かれています。テーブルの上に腕を置き、顔だけを自分の右方向(鑑賞者から見ると絵の左側)に向けて何かを見つめ、その口元には淡い笑みをたたえています。背景には緑がところどころ生えたなだらかな丘陵と遠くにかすむ山々の稜線。そしてそれらすべてを覆い包むように広がるのは、霞がかったように淡く、透明な空。

とてもシンプルな構造、とてもシンプルな色合いなのに、その絵を押し包んでいる大らかさ、自然さに惹きつけられました。

むき出しの肌は一見柔らかくか弱そうに見えるのに、その身に受ける全ての出来事を受け止めることを恐れないしなやかさ、強さを感じます。そのことを気負うわけでもなく、ただ「それ」を受け止める。そして通り過ぎていくのを見つめている。

ただ、そこに居る。

あるがままでいるということ。自然のままでいるということ。ただ「居る」ということ。人間のあり方として、究極の理想かもしれません。

この作品は本当に心惹かれてしまって、何度も何度も展示されているお部屋に戻っては、ひたすら食い入るように見つめていました。

有元はバロックを音楽をとりわけ愛していて、アトリエにはいつもバロック音楽が流れていたそうです。自身もリコーダーを演奏したり作曲を行ったりしたそうですが(展覧会ホームページで彼の作曲した「RONDO」を聴くことができます)、彼の作品は、古楽の音色がとても似合う雰囲気ですよね。

有元の作品をこれだけしっかりと見ることができたのは、上述の中学生の時以来。彼の作品を、もう一度きちんと見たいなぁとずっと思っていたので、本当に嬉しい展覧会でした。知らない作品にも出会うことができましたし。あまりの嬉しさに、順路を2往復してしまいました(笑)。

ブログを通じて展覧会をご紹介くださったmamiさま、本当にありがとうございます!!

図録もしっかりと購入。単行本サイズをちょっとだけ大きくした感じで、ソフトカバーで軽いので迷わず購入しました。家に保管しがちになっちゃう図録ですが、このサイズでこの仕様だと、外出時のパートナーとして連れていけるのが良いです。しばらくは、バッグの中に入れておきそう。いつも有元の絵と一緒にお出かけできます♪

有元利夫の作品は「小川美術館」というところがたくさん所蔵しているようだったのでちょっと調べてみましたところ、何と半蔵門駅が最寄り駅だということが判明しました(ホームページはコチラ)。とろりんの出没エリアに肉薄しているじゃないですか!と、灯台もと暗し過ぎる…。

常設展示はないそうですが、毎年2月に有元の展覧会を開催しているとのこと。また有元の世界にふれる機会ができそうです。

懐かしい知人に出会ってたくさんおしゃべりを楽しんだような、そんな幸せなひとときでした。

東京都庭園美術館では、8月14日(土)~20日(金)にかけて夜間開館を実施するそうです(20:00まで延長。ただし、入館は19:30まで)

夏の夜の少し落ち着いた時間、そんな時間に鑑賞すると、また作品の新しい魅力を発見できそうですね。


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mami

とろりんさん、ご丁寧にリンクまでいただき、ありがとうございます。
有元さんの絵は、見ていて心がすうーっと静かになっていくような、それでいて何かときめくような、本当に不思議な魅力のある絵ですね。
絵につけられていたご本人のコメントも心に残るものばかりでした。
私も、久しぶりにゆっくり見ることが出来てうれしかったです。

余談ですが、奈良そごう、懐かしいですね。何度か展覧会に行った記憶がありますが、今は確か無くなってしまったかと。
by mami (2010-08-07 00:52) 

はなみずき

夏の絵画鑑賞。ステキな時間ですね。

東京都庭園美術館。私も好きな場所のひとつです。懐かしいな~…(回想中)。

思い出の作品に、時間を経過してまた出会えるのは、本当にステキな時間だと思います。時間を共有できた気持ちになりました。ありがとうござました!
by はなみずき (2010-08-07 09:20) 

★とろりん★

mamiさま、

nice!とコメント、ありがとうございます!!

今回の展覧会情報をご紹介くださって、本当に感謝しております。

mamiさまのおっしゃる通り、有元さんの絵は見つめていると心が落ち着いて、自分の内面との対話をしているかのような心地がします。私は図録を持っていなかったので、今回入手できて良かったです。

奈良そごう、10年くらい前に閉店してしまいましたよね…今はイトーヨーカドーが入っているとか。時代の流れを痛感しますね…。

TBもありがとうございました☆
by ★とろりん★ (2010-08-07 21:33) 

★とろりん★

はなみずきさま、

コメント、ありがとうございます!!

庭園美術館は緑も多くて、訪れるたびに心が癒されます。

有元の絵とは約20年ぶりの再会。あの時と変わらず、見る者の心を静かに受け止め、包みこんでくれました。

時を越えて思い出と再会する懐かしさ、幸福感は格別ですね。本当に良い1日でした。
by ★とろりん★ (2010-08-07 21:42) 

yk2

mamiさんのところへお伺いしたら、有元さんの展覧会のお話をされていらしたのでお邪魔させて頂きました。

小川美術館は有元さんの絵を扱っていた彌生画廊の美術館で、2月は有元さんの命日に合わせて毎年展覧会が催されているみたいですね。今年初めて行きましたが、入り口からして随分立派な構えの美術館なんで、ホントにタダで入っていいの?、と一瞬入場を躊躇ってしまいました(^^;。
by yk2 (2010-08-08 01:07) 

★とろりん★

yk2さま、

はじめまして、ようこそおいでくださいました!
nice!とコメント、ありがとうございます!!

>>小川美術館は有元さんの絵を扱っていた彌生画廊の美術館で、2月は有元さんの命日に合わせて毎年展覧会が催されているみたいですね。

小川美術館のことは、今回初めて知りました。いつか必ず行ってみたいと思います。外観にビビらず、頑張って入ってみます(笑)。情報ありがとうございました☆
by ★とろりん★ (2010-08-08 19:28) 

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