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演劇集団 円 公演 『カシオペアの丘で』 [講座・現代演劇]

2011年4月22日(金) ステージ円 19:00開演

「出会ってくれて、ありがとう」。

重松清の同名小説を戯曲化した作品。

知人から案内をもらい、気楽な気持ちで劇場に向かったのですが、出演者も演出も想像以上に素晴らしくて、クオリティも満足度も高い舞台でした。冒頭の言葉は劇中の台詞ですが、舞台上の出演者たちに向かってそう伝えたくなりました。


【あらすじ】

かつて炭鉱で栄えた北海道の小さな町。シュン、トシ、ユウ、ミッチョの仲良し4人組はある夜、惑星探査機「ボイジャー」を見るために炭坑跡の小さな丘にやってきます。名もないその丘を「カシオペアの丘」と名付けた4人は、ここに遊園地ができたら良いのにと夢を描くのでした。

それから30数年後。大人になり、それぞれの人生を歩くシュン(石井英明)、ユウ(大竹周作)、トシ(上杉陽一)、ミッチョ(小松エミ)は、ある事件とある出来事が重なり、遊園地となった「カシオペアの丘」で再会します。無邪気に軽やかに思いを語り合った小学生の頃とは違って、それぞれに人生の重さ、深い思いを抱えて生きるようになったそれぞれの大人たち。やがて、彼らがその思いの先に見つけたものとは…?


【カンゲキレポ】

とても切ないのに、とても清々しい物語。

小説はフィクションですが、北海道でかつて実際に起きた炭鉱事故や、今でも実在する大観音などが巧みに、自然に物語の伏線に組み込まれています。

「ステージ円」は、本当に小さな劇場。200人くらい入るともういっぱいかな?という客席に、5メートル四方ほど(?)の舞台。ここになめらかな稜線を描く廻り舞台が設置されています。廻り舞台は傾斜がかかっていて八百屋舞台として使われることもあり、場面ごとにいろいろな表情を見せます。

大がかりな舞台装置はその廻り舞台(スタッフによる手押し)と、後半に2度ほど出てきたスクリーン映像。あとは時々机やベッドなど必要最低限の小道具が運び込まれて舞台が進行します。そのシンプルさが際立つ舞台が効果的で、出演者の演技に集中できました。

照明もシンプルですが、ここぞいう場面では時に美しい星空を、時には空を焼き尽くすような激しい炎を表現していて、感心。特に星空の演出は、客席まで丁寧な仕込みがされていて、まるで星の光が降り注ぐような、安らかで穏やかな気持ちになりました。この照明の演出だけでも癒されましたよ~。

密度の濃いこの舞台空間で、登場人物たちが真摯に、まっすぐに「生きる」という事を考え、その中でどうしても出てくる様々な感情と向き合い、一歩を踏み出していく…その過程が、とても静謐に、優しく描かれていきます。

メインキャストの4人に関わっていく様々な人々…妻の不倫相手に愛娘を殺害され、家庭をめちゃくちゃにされながらも、妻への愛と怒りの狭間で葛藤を続ける男(原田大輔)、シュンの人生に暗い影を落とし続けている祖父(野村昇史)の過去、シュンを支え続ける妻(細越みちこ)、シュンの祖父の過去と自分の過去を重ね合わせる女性編集者(千葉三春)…それぞれの過去を持つ人々は、「カシオペアの丘」での出会いをきっかけにその過去と向き合い、今の正直な思いと向き合っていきます。

「子供の時は前を向いて進む勇気さえあれば良かった。けれど大人になったら、過去を振り向く勇気も必要になるんだね」。

人が生きる上で必ずぶつかるのが、「人生はままならない」というひとつの現実。それでも生きていく人間たちを支えていくのは、とてもシンプルなただひとつの気持ち。怒りをぶつけること、赦すこと、赦されること、感謝すること…そういった全ての感情をひっくるめた、「人を思う」という事なんだな、と感じました。

終演後、劇場を出て夜空を見上げました。浅草に近くビルが建ち並ぶその場所からは星は見えませんでしたが、色々な思いは、きっと空を通じてつながっている。そんな事を思った春の夜でした。


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