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壽 初春大歌舞伎 夜の部 [歌舞伎]

2012年1月7日(土) 新橋演舞場 16:30開演

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演舞場に掲げられた櫓を優しく照らす月。

今年のカンゲキ初めは新橋演舞場から。夜の部を観劇してまいりました。お正月らしく晴れやかさ、にぎやかさの中に、「芸の継承」を目の当たりにする感動的な時間にもめぐり会えた、幸せな夜でした。


歌舞伎十八番の内
矢の根

曽我五郎/坂東三津五郎
大薩摩主膳太夫/中村歌六
馬士畑右衛門/坂東秀調
曽我十郎/澤村田之助


お正月らしい晴れやかさ、祝祭感と曽我物らしい勇猛さが絶妙な一幕。これを観ると、「いやぁ、お正月だなー!」という気分に浸れますねー!

三津五郎の五郎は、期待通りの重厚感と安定感。荒事らしい稚気の中に強さもきちんとあります。声よし、姿よしで、ツラネにうっとりと聴き惚れて、ひとつひとつの動きに見惚れてしまいます。

三味線の音(ね)に合わせて、後見2人が五郎に仁王襷をかける場面があるのですが、こちらもテキパキとした仕事ぶりで、お見事!でした。

五郎の夢の中に現れて自らが囚われの身になっていることを告げる兄・十郎には田之助。儚げな風情の中に気品があって、短時間の出番の中でも余韻を残す好演でした。

そういえば、銀座界隈のお店で入手できるフリーペーパー(というには豪華な顔ぶれが並びますが)、『銀座百点』に、田之助さんが「銀座つれづれ」というタイトルでコラムを連載中です。今月号では、昨年亡くなられた中村富十郎丈と中村芝翫丈の思い出についてもふれられています。

銀座百点


五世中村富十郎一周忌追善狂言
連獅子

狂言師右近 後に 親獅子の精/中村吉右衛門
狂言師左近 後に 仔獅子の精/中村鷹之資
僧蓮念/中村錦之助
僧遍念/中村又五郎


昨年1月に亡くなられた中村富十郎丈追善の舞台。富十郎丈の長男・鷹之資と、富十郎丈の遺志によって彼の後ろ盾を勤める吉右衛門による『連獅子』です。

これほど心揺さぶられた獅子はない、これほど心を震わせて観た獅子はない。少なくとも私にとっては、感動的な舞台でした。『連獅子』を観て泣いたのは、今回が初めてかも。

この幕が終わった直後、1階ロビーへ駆け下りた私。1階客席正面入り口向かってすぐ左横に置かれた富十郎丈の遺影に向かって手を合わせ、「素晴らしい舞台を観させていただきました。ありがとうございました」と感謝の気持ちをお伝えしました。そうせずにはおられぬほど、胸がいっぱいでした。

実生活でも親子関係、血縁関係にある役者さん方で勤めることの多い『連獅子』。今回は、血縁関係やお家関係を飛び越えて実現した舞台です。

歌舞伎という芸能は、「血」だけで継承されていくものではなく、偉大なる人を思う「心」によっても受け継がれていくものなのだと実感し、「芸を継承する」ということに対するひとつの新しい「絆」のかたちを目の当たりにしたような。深い感動を覚えたひと幕でした。

まずは前シテの右近と左近。揚幕がサッと上がって吉右衛門と鷹之資が登場する瞬間から、場内を「播磨屋!」「天王寺屋!」という大向こうが埋め尽くします。

鷹之資は12歳。その年齢で、すでに「天王寺屋」という家の名をその身ひとつで背負わなくてはいけません。「天王寺屋!」「天王寺屋―ッ!」と大向こうがかかるたび、背負うものの大きさと重さが、まだまだ幼さの残る背中に積み重なっていくようで・・・。役者を盛り立て、舞台や客席を活気づけるはずの大向こうが、この時ほど重く胸に響いたことはありませんでした。「鷹之資!」とか「大ちゃん!」と大向こうをかけた方が、鷹之資も力むことなく勤められるんじゃないかな・・・でも大向こうさんも、鷹之資を励まそうとしての事だろうしなぁ・・・。

そんなこちらの気持ちなど吹き飛ばしたのが、当の鷹之資。12歳とは思えないしっかりとした踊り、安定感のある足腰の動きに早くもお父様の面影を感じさせて、たまらず号泣・・・。

後シテの仔獅子の精でも揺るぎのない力強さと勢いを感じさせる踊り。お父様に教わったこと、先輩方から教わったこと、お師匠さんから学んだこと、その身に吸収してきたことをきちんと舞台で発揮できるよう、ひとつひとつの動きを丁寧に、思い切りよく勤めていました。

その鷹之資を見守る吉右衛門。連れだって舞う時も、離れて舞う時も、互いに違う方向を向いている時も、常に「気」が鷹之資に向いているのが伝わってきました。その見えないはずの「まなざし」は、本当に温かくて、優しくて・・・ふたたび号泣。

父親という最大の師を早くに亡くし、どんなにか心細いことだろうかと思いますが、富十郎丈のように華も安定感もあり、吉右衛門丈のように堅実で真摯な役者さんになられますよう、応援しております。

『宗論』をもとにした間狂言は、錦之助と又五郎。軽妙かつ明るく場を盛り上げてくださいました。


神明恵和合取組 め組の喧嘩

め組辰五郎/菊五郎
お仲/中村時蔵
尾花屋女房おくら/中村芝雀
九竜山浪右衛門/中村又五郎
染井町藤松/中村菊之助
伊皿子の安三/中村松江
背高の竹/坂東亀三郎
三ツ星半次/坂東亀寿
おもちゃの文次/尾上松也
御成門の鶴吉/市村光
山門の仙太/市川男寅
倅又八/藤間大河
芝浦の銀蔵/大谷桂三
神路山花五郎/澤村由次郎
宇田川町長次郎/河原崎権十郎
島崎楼女房おなみ/市村萬次郎
霜月町亀右衛門/市川團蔵
江戸座喜太郎/坂東彦三郎
四ツ車大八/市川左團次
焚出し喜三郎/中村梅玉


「火事と喧嘩は江戸の華」!!威勢よくイキの良いおあにいさま方の躍動と、角力たちのユーモラスでダイナミックな立ち廻りが楽しい一幕です!

「め組の喧嘩」を観るのは、2007年の團菊祭以来。あの時は「大技をキメる高砂屋」をどうしても観たくて、幕見をしたのでした。(→その時の記事はコチラ

今回も大技をキメる梅玉さんに会えるー[るんるん]

鳶と角力というのは江戸時代の花形職業。その彼らが業種あげての大喧嘩を展開するのものですから、そりゃあ圧倒的迫力です!

圧巻は、なんと言っても「飛びつき」!はしごを使うことなく、壁を駆けのぼって屋根に上るという技です。花道から勢いよく走り込んで、絶妙のタイミングで踏切り、壁を駆けあがるという大技。

屋根の上で仲間が腕を引き上げますが、助走の勢いと踏み込みのタイミングなどが合わなければできない技です。これを、大人数の鳶さんで行うのですよー!もう息をするのも、瞬きするのも忘れて見入ってしまいます。全員上がればパーフェクト!拍手喝さいです!!

菊五郎さんも鳶の頭らしい大きさとイナセぶりが超絶ステキ!!女房お仲役の時蔵との呼吸もピッタリで、別れの場面では思わずウルウル。その前の痴話喧嘩風情の場面も、意地を張り合う2人の間にきちんと愛が感じられて、ちょっとニマニマしちゃいます。

辰五郎とお仲の倅・又八役に藤間大河。尾上松緑の長男です。もうね~、超カワイイ!カワイイだけじゃなくて科白の抑揚や大きさも既にただものじゃない巧さを感じさせて、将来がすごく楽しみです☆

藤松を演じる菊之助は、(私にとっては)久しぶりの立役。あんな素敵な男子、世の中にいないかしらぁ~[黒ハート] って虚実の境を失くすくらいのイケメンでした☆(あ~、でもけんかっ早いところは直して欲しいかも)(←妄想続行中)。いよいよ鳶仲間たちが喧嘩に繰り出す場面では、先陣として纏を振りかざしながら花道を去っていきます。ここが本当にカッコよかった!

そして梅玉。鳶と角力の喧嘩の仲裁に入る焚出し喜三郎役。梅玉にとっては2度目のお役ということで、大技も今回は安心して観られました~☆興奮して危険な状態にある両者に割って入るだけの大きさもバッチリです。

殺気立っている連中の気を和らげるだけのおっとりさと、両者の頭が納得の上で喧嘩を留められるだけの揺るぎなさも感じられて、うっとり。ただ、筋書(公演プログラム)に掲載されているインタビューでは、「(初役で勤めた時)梯子を上ろうとしたら手足が左右にもつれた」とかおっしゃっているものだから、梯子を上る時は若干、手に汗握ってました(笑)。

* * * * *

上演時間はちょうど4時間くらい。初芝居にはちょうど良いバランスと時間ではないでしょうか。

お正月から素晴らしいカンゲキに出会う事ができて、こいつぁ春から縁起よし!!


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mami

私も昨日拝見して、「連獅子」で号泣しました。
鷹之資くんの健気な、でもとてもしっかりした踊りに感動し、吉右衛門さんの暖かく厳しい眼差しに震えました。
こんなに濃密で緊迫感のある連獅子ははじめてでした。
天国の天王寺屋さんも嬉しく思って下さっていることでしょうね。
by mami (2012-01-11 00:06) 

★とろりん★

mamiさま、

nice!とコメント、ありがとうございます!!

今から、mamiさまのレポが待ち遠しくてなりません。
一生懸命に踊る鷹之資くん、見守る吉右衛門丈の眼差し・・・
今思い出すだけでも涙が出てきます。
これからの鷹之資くんの成長が楽しみです。
by ★とろりん★ (2012-01-11 06:34) 

カオリ

連獅子、そんなによかったんですね〜。とろりんさまのレポからその様子が伝わってきました。観られなくて残念です(涙)
NHKでそのうちやらないかしら。
by カオリ (2012-01-12 13:05) 

★とろりん★

カオリさま、

nice!とコメント、ありがとうございます!!

お身体の具合はいかがですか?急に寒さが厳しくなってきましたから、お風邪など召されぬよう、ご自愛くださいませね。

思いが熱すぎて何が言いたいのかよくわからないレポになってしまいましたけれども(汗)、連獅子、本当に素晴らしかったです。多くの人に見ていただきたい舞台です。NHKさん、お願いします!
by ★とろりん★ (2012-01-13 09:03) 

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