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ハゲマス会 第十四回 狂言の会 大蔵流山本家とともに [伝統芸能]

2012年1月22日(日) 川崎市麻生文化センター 14:00開演

いよいよ来年で15回目を迎えるハゲマス会。今年は小舞もなかったので短めに終わるのかな~と思いきや、やはりそこは常に全力な山本家。どれも見ごたえのある曲ぞろいでした。



狂言 『膏薬煉(こうやくねり)

都の膏薬売/山本東次郎
鎌倉の膏薬売/山本則俊


【あらすじ】

鎌倉の膏薬売と、都の膏薬売が、旅の道中でばったりと出会います。実はこの二人、それぞれの膏薬の効果が大変にすぐれているという噂を聞きつけ、お互いに訊ねる途中でした。いろいろ話をしているうちにどちらの膏薬がすぐれているか競い合うことになり・・・!?

【反省文という名のカンゲキレポ】

1曲目から東次郎師と則俊師による競演!なのに・・・ワタシったら、ワタシったら・・・!ばかばか!ワタシの馬鹿!!

言い訳しますと、実はこの日はちょっと体調が良くなかったのです。それで、外出前にお薬を飲んだのですが、ジャストタイミングでこの時間帯に効果が出てしまったようで・・・。

まぁ、あの・・・一言で言うと・・・ぐっすりと寝込んでしまいましたー!!すみませんー!

でも、熟睡している間にも、東次郎師の艶のあるお声と則俊師のハリのあるお声がしっかり聞こえておりました。そのお声がまたとても美しいので、またまた気持ち良くなってしまい・・・す、すみませーん!!m(_ _;)m

「膏薬」とは、怪我の痛みや腫れものの膿を吸い出すための薬。悪いものを吸い出して自然に回復するように、というのが当時考えられていた膏薬の効能でした。ですから、「吸い出す力」が強ければ強いほど、その膏薬の効き目も抜群、というわけです。

この狂言では、膏薬を貼った短冊を顔の中心(鼻梁のいちばん上の、両目の間の部分、と言ったら良いのかな?)に張り付けて、お互いの吸引力を競うわけですが、この時、鬢づけ油を使用すると、どんなに汗をかいても短冊が滑って落ちたりすることはないそうです。

この曲で使用されていた肩衣は、東次郎師が鬼瓦、則俊師がダイナミックな波が描かれた意匠。鎌倉の膏薬売ということですから、七里ヶ浜の波をイメージされたのかもしれませんね。

えーん、こんなレポしかできない自分に反省・・・。


狂言 『縄綯(なわない)

太郎冠者/山本則重
主人/山本則孝
何某/山本則俊


【あらすじ】 

ばくち好きなご主人は、今日も知り合いのところで大負け。持っていたお金も使い果たしてしまった主人は、召使の太郎冠者をも抵当に入れる始末。それでも負け続け、とうとう知り合いに太郎冠者を譲り渡すことになります。

そうとは知らぬままに知り合いのもとへ使いに出された太郎冠者は、自分が主人の
ばくちのカタにされたことを知り、大激怒。何を命じられても「したことがない」「自分にはできない」と言い張って従いません。

役立たずの太郎冠者に腹を立てた知り合いは、あらためて主人に負けた金を払うよう催促します。そこで主人は一計を案じて、太郎冠者を連れ戻すことに。元の家に戻ることができたと思った太郎冠者は、良い気分で縄をないながら、主人に知り合いの悪口を散々言いますが・・・!?

【カンゲキレポ】

以前、泰太郎のシテで拝見したことがありますが、今回は則重がシテ。

泰太郎の演じる太郎冠者には、ご主人のことを心から大切に思っているお人よしで優しい風情がありましたが、則重の演じる太郎冠者には、下人としての格というか、その家にお仕えしていることに誇りを持っていて、「ご主人には私がいなければ」という強い責任感を感じさせるものでした。

同じ演目でも、演じる人が違えば、その数だけ太郎冠者の人柄や個性も異なってにじみ出るものだなぁ~としみじみ思いました。

曲名にもなっている「縄綯」の場面は、白い布を編み込んだものを縄に見立てて、実際に縄を編んでいく仕草を見せます。足の親指と左指の間ではさみこみ、軽快な手つきで縄を綯っていく仕草がとても自然でした。器用だなー!(←三つ編みすら満足にできないひと)

ところで、とてもとても興味深く見ていたのが、則重の身に着けていた肩衣。

濃紺の地に盃(さかずき)と、扇と、あとひとつ、何か道具が描かれていたのですが・・・あれは何だったのかな?茶釜か、臼と杵かな?と思ったのですが、能楽堂と違ってホールでの公演で、お席も舞台から離れていたため、オペラグラスで何度見ても確信が持てず・・・。何が描かれていたのかしらー!(←とろりんルール:ホール等、能楽堂でない会場で能狂言を拝見する時は、オペラグラス必携)


狂言 『花盗人(はなぬすびと)

三位/山本則秀
花見客/山本東次郎、山本泰太郎、山本則重、山本則孝、遠藤博義、若松隆、山本凛太郎


【あらすじ】

季節は桜満開の春。知り合いの屋敷の庭の桜も見ごろというので、みなで連れだって花見にやってきました。噂にたがわず美しく咲き誇る桜を愛でる一行ですが、その桜の枝が一本折られていることが判明します。

花を盗む人はきっと繰り返して来るだろうから、次に来たらこらしめてやろうと一行が待ち伏せていると、1人の若い僧侶がやってきます。実はこの僧侶こそが花を折った張本人。寺の稚児に花の枝をやったら、もっと大きな枝を欲しいとせがまれ、再びやってきたのでした。

一行に捕らえられ、縄で縛られた僧侶は、古歌にかこつけて自分の無実を主張しますが・・・!?

【カンゲキレポ】

美しい花々を咲かせた桜の木が能舞台中央に運ばれてくるだけで、心の中に春風が運ばれてくるようです。冬来たりなば春遠からじ。この日もとても寒い一日でしたが、ふとそんな言葉を思い出しました。冬の寒さが身に沁みれば沁みるほど、春の輝きにこの上ない喜びと希望を見出せるような気がします。

この曲では遍正法師や大伴黒主(←歌舞伎では『積恋雪関扉』でもおなじみ)など、桜にちなんだ古歌や漢詩がやりとりされて、風情があります。

白楽天の漢詩を思い出した僧侶は、桜を愛さずにはいられない昔の人々の歌をいくつも引いてきます。そして最後に詠んだ「この春は 花の下にて縄付きぬ(=名は尽きぬ) 烏帽子桜と人や見るらん」という歌が花見客一行の心を動かし、僧侶は縄を解かれ、一行と宴を楽しむことになります。

狂言には、このように罪を認める・認めないとか、貸した金を返せ・返さないとか、日常の言葉でのやり取りだとどうしても生々しくなってしまう場面を、昔ながらの古歌を詠み合う事でその対立やもめている様子を表現する曲がいくつかあります。狂言が創り上げられた時代の人々の奥ゆかしさ、教養の深さに感じ入ります。

それから、これは東次郎師と則俊師のご配慮なのでしょうが、出演者が持っている扇がすべて、「桜」の意匠で統一されていたのも素敵でした。(とは言うものの、遠くの席からオペラグラスで見たので、そのように見えたのかもしれませんが・・・)

例えば、凛太郎が手にしていた扇は、金地に薄紅の色がさっと塗られ、その上から桜の花びらを散らしたような意匠。東次郎師が手にしていたのは、金地の上にサッと流したような朱色が塗られ、その上に桜の文様のような意匠。シテの則秀が手にしていたのは、朱色や青など、カラフルな色の地に桜のような文様が描かれていたように思います。

無駄なものを一切そぎ落とした能舞台で、扇や装束は、その曲の季節感や演じている役の個性をにじませることのできるわずかなヒントだと思うのです。毎回、ひとつひとつの舞台でそういった細かい道具にまで気を配る東次郎師の濃やかさに感服させられてばかりです。

* * * * *

終演後はすっかりおなじみ、東次郎師によるお話がありました~。ご自身の出番の直後に短時間で装束から紋付袴に着替えられ、小走りでふたたび登場される東次郎師のバイタリティー、尊敬してしまいます。

今回は、何度かうかがった事のある「狂言」という言葉の由来(←興味のある方は、
コチラの記事をご覧ください)から始まりましたが、特に印象に残ったお話は、「狂言は新作が作れない」ということ。

狂言の曲は全部で約二百番(200作品)あります。その内容は、私たち人間がささいな日常生活の中で誰もが必ず体験する、人間の愚かな部分を見せる瞬間を切り取って曲にしたもの。

東次郎師いわく、その「誰もが体験し、例外なく持っているであろう人間の愚かな部分」全ての事象が、この狂言二百番の中に込められているのだそうです。ですから新作を作ろうと思っても、二百曲を見直してみると、「あ、やっぱりこの曲でこの部分が描きだされている」というのが見つかるそうです。

こういうお話を聴くと、昔の人はすごいなぁ、伝統ってすごいなぁ・・・とあらためて感じます。

* * * * *

え~、今回は、まさかの寝落ちという痛恨のミスをおかしてしまいましたが(涙)、こ、こんな日もあるある!(←いや、結構ある)

今日から2月。「東風解凍(はるかぜ こおりをとく)」立春まではあとわずかですが、まだまだ寒さの厳しい日が続きそうです。皆さま、どうか風邪やインフルエンザに気をつけてお過ごしくださいね。

* * * * *

「かわさきアート・ニュース」1月号に、山本則俊師のインタビューが掲載されています。師の親しみやすいお人柄や狂言に対する思いなどがにじみ出ていますので、興味のある方はぜひお読みになってみてください☆

かわさきアートニュースvol.188(2012年1月号)より 山本則俊さんインタビュー


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