SSブログ

ハゲマス会 第15回狂言の会 大蔵流山本家とともに [伝統芸能]

2013年1月27日(日) 川崎市麻生文化センター 14:00開演

山本家にとって昨年は、東次郎師の人間国宝内定に加え、末弟である則俊師も旭日雙光章をご受章になり、これまで積み重ねてこられた努力と実績が一気に花開いたかのような大躍進の年でした。

その勢いは、新年を迎えても加速を増すばかり。まずは、則俊師の古稀を記念して「三番三」がかけられることとなったハゲマス会の舞台へ駆けつけました。

ハゲマス会自体も、今年で第15回目という記念の公演。郊外のホールで、しかも全て有志による手づくりの会で毎年9割の集客率を誇るこの公演は、今や新百合ヶ丘の新春の風物詩ですね。


『三番三(さんばそう)

三番三
/山本則俊
面箱/遠藤博義

笛/松田弘之
小鼓/古賀裕巳、鵜澤洋太郎、飯富孔明
大鼓/佃良勝

後見/山本則重、山本則秀


もともと『三番三』は、式楽『翁』の中の一部。「千歳(せんざい)→翁→三番三」と舞う事が基本とされているのですが、今回は『三番三』のみの単独上演。

公演プログラムの東次郎師の解説によると、「三番三」には、五穀豊穣を祈り国土安穏を祈る稲の精霊。前半の「揉ノ段」では、青々と力強く伸びて行く水田、そして後半は、黄金色の稲穂をたわわにつけ、心地よい秋風に揺れる稲田を表現しているとか。そしてそれは、日本人ならば誰もが頭に思い浮かべるであろう「豊かな実り」のイメージであり、誰もが願う人の一生の理想なのではないかと・・・。

このように解釈してみると、とても難しく思える『三番三』が、とても身近に感じられてくるから不思議です。

則俊の三番三は、前半は身のこなしが鋭くて、キレがあり、後半は伸びやかに舞われていました。

黄金色に輝く装束の袖を二つ折りにして手に持った後、あるタイミングでその裾をハラリと落とす・・・という振りがあるのですが(う~・・・説明するのが難しい・・・)、この時の裾の落ち方が本当に余韻があって美しくて、まるで舞台の香りがふわりと客席にまで伝わってくるかのようでした。

この、「折りたたんで持っていた裾を落とす」という仕草も、ただパッと手を離せばできるしぐさではなく、手を離すタイミングや速度などで受ける印象が全く変わってくると思うのですね。いつも月の光のようなキレと鋭さで魅せる則俊師が一瞬見せたふくよかな所作に、惚れ惚れしました。


狂言 『千鳥』

太郎冠者/山本則重
主人/山本泰太郎
酒屋の亭主/山本則秀

酒代のツケをきちんと払うまではお酒を渡したくない酒屋と、主人に命令された手前、どうしても酒を持って帰らなくてはいけない太郎冠者の攻防を描いた、気軽に楽しめる1番です。

昔、則秀の太郎冠者に則重の酒屋で拝見したことはありますが(その時の記事はコチラから☆←え!?もう5年も前なの!?ひえええ・・・)、今回は逆の配役。

やっぱりねぇ、若さと勢いで押していた(と本人たちが自覚しているかどうかは定かではありませんが)5年前とは違い、もう安心して見られるようになりました。慣れてしまったという意味ではなく、「曲が手の内に入った」という事なのでしょうね。

仲間を呼び集める千鳥の鳴きまねをする様子や津島神社の祭礼で山鉾を牽く様子を大きな仕草を交えつつ語る場面は、太郎冠者の大きな仕どころのひとつ。則重はきっちりとした動きの中に大きさと優美さを見せ、それを受ける則秀も柔らかく、突っ込むところは隙なく、申し分のない出来。

ベテランの完成された芸だけでなく、こうした中堅・若手の芸が完成されていくまでの長い道のりと成長の様子を見守る事ができるのも、ハゲマス会の魅力のひとつですね。


狂言一調  『おかしき天狗』

山本則俊

太鼓/梶谷英樹


はい出ました、山本則俊バリトンリサイタル!!

詞章を聞きとるのは未だに苦手でまったく出来ないのですが(それもどうだろう)、ひたすら、ただひたすら、伸びやかで張りのある則俊師の心地よい低音に耳も心も委ねて、うっとり☆


狂言 『栗隈神明(くりくましんめい)

松の太郎/山本東次郎
妻/山本則孝
立衆/山本泰太郎、山本凛太郎、山本則秀、若松隆、山本則重

笛/栗林祐輔
小鼓/古賀裕巳
大鼓/佃良勝
太鼓/梶谷英樹

【あらすじ】

京都は宇治・栗隈山にある神明社。おめでたい祭礼の日に、伏見から茶屋の夫婦が出店を開きにやってきます。夫は松囃子の舞が得意なので、「松の太郎」と呼ばれています。

やがて、参詣を済ませた顔なじみの客たちが次々と店を訪れ、夫婦は忙しく茶を点てて出します。ひといきついた後、客の1人が神明社の由来を訊ね、いよいよ松の太郎による松囃子が始まります。

【カンゲキレポ】

東次郎師の芸尽くしを心ゆくまで堪能する1番。

まずは、水差や茶碗など、簡易式の茶道具セットを乗せた天秤を担いで東次郎師と則孝が登場。

先ほど、則俊師の芸風のことを「月の光」のようだと申し上げましたが、東次郎師のそれはまるで「春の風」のよう。舞台に登場されるだけで、何とも言えない馨しさとやわらかな温かさが舞台を、そして客席を包み込んでいきます。舞台に生きる者として究極の位置に近づきつつある人だけがまとうことの出来る、独特の空気感です。

お茶を点てる仕草も流れるように滑らかで美しいこと!

公演プログラムでもおことわりされていた通り、本格的な茶道のお点前ではなく、なるべく短時間で多くのお茶を点てなくてはいけない茶屋独特の簡易的なものですが、柄杓で湯をとって茶碗にさらりと流しいれ、茶筅を使ってさらさらと手早くお茶を点てる所作の連続は、見ているだけでため息が出る美しさです。

そして一番の見どころ、松囃子!胸に羯鼓を装着して打ち鳴らしながら舞うのですが、言うまでもなくお見事!

羯鼓に山本家の紋とか入っているのかしら、とオペラグラスで頑張ってチェックしてみましたが(←邪道すぎる観賞方法)、いかんせん、東次郎師の動きが俊敏過ぎて確認できませんでした・・・(笑)。

東次郎師が舞われる姿を拝見していると、心の底から幸福な気持ちになります。謡の意味がわからなくても(苦笑)、その研ぎ澄まされていながらも春風のように柔らかく温かい空気に満たされた空間を共にしていると思うだけで、自分の心までもが満ち足りていくように感じられるから不思議です。

東次郎師の舞台を拝見できる喜びと、そのめぐり逢わせに感謝せずにはおられません。

則孝もまた、女性らしいたおやかさ、嫋々たる風情が十分に感じられて、上出来。スレンダーな身体に白を基調とした小袖がすごくよく似合っていました。

実はワタシ、則孝の第一声を聞いた時に、思わずプログラムで配役を確認してしまいました。「本当に則孝さんが妻を演じてるの?」って。いや・・・実はその・・・遠目からですと、本当に女性のような雰囲気が出ていて・・・(爆)。

いや、それってむしろ、役柄を完全に把握して全うしていたと言う事ですからね。すごい!則孝さんレベルアップしてる!!って感動しちゃいました(←上から目線ですみません)。

* * * * *

終演後はおなじみ、東次郎師のおはなし。今回は特に、三番三で使用される面(おもて)についてお話をしてくださいました。数百年前に作られたという貴重なものまで見せてくださいましたよ~。こういう時の東次郎師ならびに山本家のサービス精神、大好きです☆

これを観ないと新年が始まった気にならない、ハゲマス会。これからも、ずっとずっと続いていきますように。


* * * * *


ハゲマス会の狂言公演は、上演当日には来年公演の開催概要がほぼ決まっていて、「臨時ニュース」が来場者に配布されます。

来年は、東次郎師屈指の名作「東西迷(どちはぐれ)」がついにハゲマス会に登場!!ワタシにとっては、この『東西迷』を観て山本家に、そして狂言にハマったと言っても過言ではない、思い出深い舞台です。

皆さま、ぜひともお見逃しなく!!


【ハゲマス会 第16回 狂言の会】

★日時★
2014年1月25日(土) 14:00開演(予定)

★会場★
川崎市麻生市民文化センター
(小田急線「新百合ヶ丘」駅)

★番組(予定)★
鎌腹 (かまばら)
東西迷 (どちはぐれ)
蜘盗人 (くもぬすびと)


nice!(5)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:演劇

nice! 5

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。