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日生劇場 十二月大歌舞伎 [歌舞伎]

2010年12月13日(月) 日生劇場 11:00開演

歌舞伎座が建て替え工事のために閉場して約8カ月。東京では新橋演舞場・国立劇場を中心に歌舞伎の公演が続いていますが、12月は日生劇場と国立劇場で興行。今回は日生劇場へ参りました。

私にとってはおよそ5カ月ぶりの歌舞伎見物。熱気あふれる舞台で、「やっぱり、歌舞伎って良いなぁ~」としみじみ実感。

歌舞伎座が閉場して、約8カ月。現在、都内では新橋演舞場を中心に国立劇場や日生劇場で興行されています。

日生劇場はどちらかというとミュージカル向けの劇場で、『海神別荘』のセットを思わせる深海のような客席天井。舞台上に破風屋根(日生史上初めてのことだったそうです)が設置されてはいますけれど、やっぱり何だか落ち着きませんね~。

とは言いながら、いざお芝居が始まると、その熱い舞台にどんどん惹き込まれていきました。



通し狂言『摂州合邦辻』

序幕   住吉神社境内の場
二幕目  高安館の場/同 庭先の場
三幕目  天王寺万代池の場
大詰   合邦庵室の場

玉手御前/菊之助
羽曳野/時蔵
奴入平/松緑
次郎丸/亀三郎
俊徳丸/右近
浅香姫/梅枝
桟図書/権十郎
高安左衛門/團蔵
おとく/東蔵
合邦道心/菊五郎

2002年に『亀治郎の会』で「合邦庵室」の場だけ拝見した以来(かな?)の『摂州合邦辻』を通しで拝見。

通しで観ることによって、玉手御前~かつて名を「辻」と言ったひとりの若い女性の燃えるような想いが、痛いほどに伝わってくる時間でした。

継子である俊徳丸に恋する玉手御前。それは「真実の恋」なのか、「忠義のための恋」なのか…。玉手御前の演じ方には役者や家によっていろいろありますが、菊之助の玉手御前はひたすら俊徳丸を想い、彼の身にふりかかろうとした危難を命を捨ててでも払おうとした、ひたすらに一途な女性でした。

もしかしたら、玉手御前は「辻」という名で先妻(俊徳丸の生母)に侍女として仕えていた頃から、俊徳丸を密かに恋い慕っていたのかも知れない、とふと思いました。

嫡子と侍女という身分の違いに、静かに閉じ込めていた秘密の恋。ところが、思いがけず継母と継子というより複雑な関係になった時、そして俊徳丸に命の危機が迫っていると知った時、そっと胸にしまいこんでいたはずの恋心は想像以上に激しい炎となって、玉手御前を駆り立てたのかもしれません。

「恋路の闇に迷うたわが身 道も法も聞く耳持たぬ」。もう戻れないところまできているとわかっていて、それでもただひとり、覚悟を決めて恋に闘いを挑む玉手御前は、あまりにも哀しく痛々しいのに、えもいわれぬ艶と美しさを全身に湛えていました。

父・合邦に刺された後、ようやくその決意と真意を打ち明ける玉手御前。事切れる寸前、傍にいる俊徳丸へ視線を移し、その顔にむかって白い手を差し伸べようとします。愛する人の顔を目に、心に焼き付けるかのように見つめてから息を引き取る玉手御前。その時の眼差しの穏やかなこと。その瞬間が人生で最も幸福な時だったのかも知れません。

清純な美しい女方から、豊潤な色香がにじみ出る女方へ。菊之助の舞台を観るたびに、とどまることを知らない彼の成長と躍進ぶりには毎回驚かされます。常に彼の舞台を観ているわけではなく、飛び飛びで観劇しているために、その分、驚きも大きくなるのでしょうが、ひとつひとつの舞台を勤めるたびにその経験を糧として着実に芸の道を歩んでいるのだな、と感じさせられます。

玉手御前の行動を留める羽曳野を演じるのは時蔵。母のような大きな心で玉手を受け止め、真摯に説得しようする姿には武家に仕える女の気概が見えて好演。しんしんと降り積もる雪の中で玉手御前と羽曳野が押し問答を繰り広げる場面は、静かな空気の中にせめぎ合うふたりの女性の激しい息遣いだけが聞こえてくるようで、とても印象的でした。

玉手御前の父親、合邦を演じた菊五郎。初役だそうな。二枚目のイメージが強い菊五郎ですから、この合邦の役はなかなか苦戦しているように見受けられましたが、天王寺の場などで見せるユーモラスな演技はさすがです。

玉手の母、おとくを演じた東蔵はさすがの手堅さ。奴入平の松緑はキビキビと威勢が良くて忠義者らしい様子がとてもよく出ていました。梅枝の俊徳丸も若々しさと清々しさあふれる良い出来。右近の浅香姫は踊りで鍛えた身のこなしが優美。科白はまだまだ教えられた通りに、という感じですが、今は教えられたことを教えられた通りにきっちりとこなしていくことがとても大切な時期だと思います。玉手の夫で俊徳丸の父である高安左衛門を演じた團蔵、桟図書を演じた権十郎は、それぞれ自分の持ち場をきっちりと勤めて言うことなしです。

それにしても菊之助は、どこまで伸びていくのでしょう…。彼の将来が末恐ろしくもあり、非常に楽しみでもあります。



平城遷都1300年記念
春を呼ぶ二月堂お水取り
『達陀(だったん)』

僧集慶/松緑
堂童子/亀寿
練行集/亀三郎
同/松也
同/梅枝
同/萬太郎
同/巳之助
同/右近
青衣の女人/時蔵

東大寺の二月堂を舞台にした壮大な群舞劇。多くの方のブログで非常に高い評価を受けているので、拝見できるのをとても楽しみにしておりましたが…期待以上の素晴らしい舞台でした!

Wikipediaによりますと、修二会というのは精進潔斎したした行者(練行衆)が過去の罪障を懺悔し、その功徳を受けて天下泰安。万民豊楽、五穀豊穣などを祈る法要行事、なのだそうです。「達陀」はまさにその様子を舞踊化したように、激しい動きの続く舞台です。

中心となるのは集慶の松緑。同世代の役者さんの中では抜群の安定感と技量を持っていて、群舞でもぐいぐいと他の役者さん方を引っ張っています。一方で昔の恋人である青衣の女人の幻想と邂逅する場面では、若き日の恋への懐かしさと修業の道にあるわが身との葛藤に苦悩する姿を等身大で表現していたと思います。

集慶のかつての恋人である青衣の女人は、時蔵。儚げで優美な姿は、動くたびにふわりとひらめく衣のすそ、さらりと流れる黒髪に匂い立つような余韻を漂わせ、さすがです。このような女性がかつての恋人であれば、集慶が悩むのも納得。

静かな湖面にぽつりと落ちた一滴のしずくが波紋を生み、小波(さざなみ)となり、それらがぶつかり合ってやがては猛り狂う大きな荒波になるように、集慶の心に広がった青衣の女人との想い出は、やがて彼を修業へと駆り立てる大きなうねりとなっていきます。

彼のその心の波を表現するかのように、大人数の僧たちによって繰り広げられる激しい踊りの数々。その展開は人数構成や振付、隊形移動、照明などに工夫がこらされていて(これは商業演劇も手掛ける日生ならでは、ですね)、息つく間もありません!

私の中では、密かに宝塚のショーに脳内転換されてしまって困りました(苦笑)。宝塚のショーでも、必ずと言って良いほど幻想のデュエットダンスの場面とかありますし、少人数ずつ登場して踊るシーンの連続では、「あ、6人口(のダンス)」「お、8人口」とか思ってしまい、最後の大群舞では、黒燕尾の男役による総群舞を思い起こしていました(笑)。

クライマックスの大群舞でも、中心となる松緑の踊りの鮮やかなこと!センターがしっかりしていると、それだけで舞台全体が引き締まりますよね!

最後は再び静寂が戻る中、松緑が1人舞台に残って幕が引かれます。大群舞によって最高潮に達した興奮が心地よい落ち着きを取り戻して、心がスーッとするような爽快感に包まれました。



今月の日生劇場は、本当に質の高い舞台でした。ホームグラウンド不在の今、歌舞伎の舞台は演目構成や配役に工夫をこらすだけでなく、クオリティの高い舞台を続けていかなくてはファンを引き付けておくことが難しいと思います。激変した環境の中で常にハイレベルの舞台を発信し続けるというのは本当に大変なことですが、逆に言えばたくさんの挑戦や実験ができる良い期間とも言えます。

そういった意味で、今月の日生劇場は従来のファンだけでなく新しい歌舞伎ファンを生みだす可能性を見せた、完成度の高い興行でした。

来年も、素晴らしい歌舞伎の舞台をたくさん観られると良いな。


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「独楽」と「独歩」~市川亀治郎 in 『男前列伝』~ [歌舞伎]

先日、日生劇場に歌舞伎を観てまいりました。久しぶりの歌舞伎、やっぱり良かったあ…。今月の日生は、熱いです!!

さて、十二月大歌舞伎@日生劇場レポは追ってご紹介するといたしまして(…ホントですか?)、今日は少し、違うお話を~。

偶然ですが、日生へ行った日の夜、何気なくテレビをつけたままにしていると、NHK-BS2チャンネルで「男前列伝」という番組の再放送が始まりました。

通常はBS-hiで放映されている番組のようです。
番組情報によると、「現代の男前」が「伝説の男前」を語る、というのがコンセプト。へええ、こんな番組があったんですねえ。

その夜に放映されたのは、「熊谷守一×市川亀治郎」。

97歳で亡くなるまでの約30年間は自宅の敷地から一歩も出ることなく、その庭の生物や風景だけを描き続けた画家・熊谷守一の生き方を、若い頃から型にはまることなく歌舞伎の世界を邁進し、まるで正反対の道を歩いてきたかのように思える亀治郎丈がたどります。

以下、頭の中の録画機能を再生しつつご紹介。(亀次郎丈の言葉は、「こんな感じのことを言っていたように思う」という程度のイメージでお読みくださいませ)

守一の作品と対峙したり、熊谷邸の庭をイメージさせるお家(溝口健二監督がお住まいになっていた家だとか。ちなみに本物の熊谷邸は、現在は美術館となっているそうです)の、鬱蒼とした木々に囲まれてうたたねしてみたり、あくまでも自分のペースで守一の足跡をじっくりと感じていく亀治郎丈。

庭の石に座ってみて、「時間がもったいないと思っちゃう。ここに30年はいられないなー」とか、自分の気持ちをそのまま言葉にする亀治郎丈。普段通りの率直さは、テレビでも変わりません。

庭の草の上に寝転んでみて、「葉っぱの裏が見えるー」と無邪気に言いながらも、「死んでいく時に見る景色って、こんな感じなのかなー…。昔の人って、お腹が空いて行き倒れて死んでいくこともあったんじゃないですか。その時、最後にこの景色を見たら、それで幸せを感じるのかなー」と、ハッとするような言葉を口にするのも、亀治郎丈らしい感覚ですよね。

守一が座右の銘とした言葉があります。「独楽―独りを楽しむ」。

対する亀治郎丈は、自室に「独歩」という書を掲げているのだそうです。まるで彼の生き方をそのまま表現しているようです。

本人は、「うーん、ずっと歩いてきて、気がついたらひとりだった、みたいな感じかな」と笑いながら仰るけれど、2001年からファンとして応援してきた者としては、その言葉はとっても深く感じます。

…と、ここまでダラダラと書いてきて、実は、この記事で言いたいことはただひとつ。



亀ちゃん…本当に、イイ男になったわ~っ[黒ハート][黒ハート][黒ハート]



と、いうことです。(笑)

亀治郎丈は、ここ2~3年で本当に男っぷりが上がりましたよね~。番組サイトの
男前写真館に掲載されている写真を見ても、凛々しくて、それでいて笑顔は穏やかで、男性としての自信や落ち着きがすごく伝わってきますもの。

色々な経験や体験を、すべて自分の糧として吸収し、育ててきた結果が表情のひとつひとつに表れてきているように感じます。内面的にも充実期に入っているのでしょうね。本当の意味で「男前」になってきたな、ってすごく思いました。

そんな亀ちゃんが、来月の新春浅草歌舞伎の第1部で踊るのが、『猿翁十種の内 独楽(こま)』。
公演情報は、コチラへ☆

はからずも、亀ちゃんが今回の番組で出会った守一の座右の銘、「独楽」と同じ字なのですね。なんだか不思議な縁(えにし)を感じました。

そういえば、来年は亀ちゃんファンになって10周年を迎えます。その節目を前に、あらためて彼が歩いてきた道を思い、彼の魅力をあらためて実感したひとときでした。

亀ちゃん、これからもどんどん素敵になって、ファンをドキドキさせてくださいね!(最後はお約束のファンレター化)


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平成22年(社)全国公立文化施設協会主催 中央コース 松竹大歌舞伎 [歌舞伎]

2010年7月29日(木) サンシティ越谷市民ホール 14:00開演

3ヵ月ぶりの歌舞伎は、越谷での巡業公演。千秋楽間近とあってか、会場もほぼ満員のお客さんで熱気のあふれる舞台でした。

廓三番叟(くるわさんばそう)

時蔵の千歳太夫、梅枝の新造梅里、萬太郎の太鼓持藤中という、麗しくも晴れやかな親子共演。観ているだけで気持ちがウキウキ☆

時蔵丈の傾城姿は、品格と艶やかさのバランスが絶妙です。ああ、次の常磐御前も絶対に素敵に違いない!!と思わず確信してしまいました。黒地に鶴の絵柄がダイナミックに描かれた内掛も豪華~!!その内掛を羽織っても負けていない時蔵丈の存在感は、さすがです。

梅枝丈の新造は、爽やかな浅黄色に熨斗模様がとても鮮やかな、若々しい姿。お父様と舞台での共演も多いからでしょうか、なよやかな動きがしっかりと身についているのが頼もしい。期待の若女形、がんばれ~☆

萬太郎丈の太鼓持は、若々しく溌剌とした踊りでとても素敵でした。もう少し年を重ねれば、この役どころ特有の軽さ、みたいなものがもっと表現されていくことでしょうね。

一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり) 檜垣/奥殿

一條大蔵卿を演じる尾上菊五郎丈が、本当に素敵で!!作り阿呆を演じていてもやりすぎず、公家としての気品が失われず、愛嬌にあふれていて、絶品。

奥殿で真の姿を顕す時も、御殿の奥から颯爽と歩みだしてくる様子に凛々しさと大きさがあって、申し分のない出来。科白のひとつひとつがお腹の底に響くようで、源氏挙兵を願う強い思いがにじみ出てくるようでした。最後に作り阿呆に戻るときも、愛嬌を見せつつも決して芝居の流れを途絶えさせない軽妙さで、流石です。

常磐御前の時蔵丈。優美で気品があって、儚さと意志の強さも持っていて。男性ならば放っておけないような空気感を出すのが、時蔵丈は本当に素晴らしい!清盛公が敵の奥方を知っていながら常磐御前に惹かれたのも納得できる存在感でした。

松緑丈の吉岡鬼次郎と菊之助丈のお京。松緑丈のきびきびとした動きはいつ見ても惚れ惚れしますし、菊之助丈も妻らしい落ち着きと清冽な美しさ。若々しく意気の高い役どころが、2人にぴったりでした。

棒しばり

自分の留守中に酒を勝手に飲む召使たちに業を煮やした主人(團蔵)は、召使の太郎冠者(松緑)に後ろ手に縄をかけ、次郎冠者(菊之助)は棒に両手を縛りつけてから外出。どうしても酒を飲みたい2人は、力を合わせて、まんまと酒を飲むことに成功します。2人の召使の陽気な歌と踊りが楽しい舞踊。

松緑丈の太郎冠者に、菊之助丈の次郎冠者。巡業公演中は、このお二人で役替わりだったんですよね。逆バージョンもすごく観たかったなぁ。

菊之助丈@次郎冠者は、まじめ~な勤め人風。舞台が始まった頃は、松緑丈@太郎冠者がそそのかしてんじゃないの?みたいな(笑)。

けれど、酒蔵侵入に見事成功して、胸いっぱいにお酒の匂いを吸い込むシーン。本当に嬉しそうで幸せそうな顔に、「あ、やっぱりお酒大好きなんだ」と思っちゃいました(笑)。

後は演者の陽気で楽しい酒盛りに、私たち観客もひととき酔わせられ、一緒に楽しむのみ!!

菊之助丈の棒使いも、とってもキレがあってぴたり、ぴたりと形が決まっていて、胸のすくような爽快感です。「船弁慶」のようにグルグルと回転する場面は、とっても早くて正確な回転で、円を描いているかのように美しかったです。

松緑丈は後ろ手に縛られているので菊之助丈ほどに派手な動きはできませんが、かえって足さばきの美しさとなめらかさがクローズアップされて、その素晴らしさをじっくり拝見することができました。所作台をドン!と鳴らすしぐさも音がキッパリとしていて、気持ちよかったです!

やはり打ち出しの演目は、理屈抜きに楽しめるものがいちばんですね!夏の暑さも吹き飛ぶ、幸せいっぱいの夏歌舞伎でした☆


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お知らせ [歌舞伎]

ようやく、歌舞伎座さよなら公演 御名残四月大歌舞伎第三部のレポをアップしました。コチラからお入り下さい

下の写真は、先日、友人達と行ってみた「wanofu.品川」でいただいたお食事。品川駅構内の「エキュート品川」内にあるので便利です。季節の食材や野菜をたくさん使ったお料理で、ヘルシーで美味しかったです☆

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歌舞伎座へ、愛を込めて。 [歌舞伎]

夢のような1日だったと、記憶しています。

私が歌舞伎座へ足を踏み入れたのは、2002年の1月でした。幕見で、中村勘三郎丈(当時:勘九郎)の「鏡獅子」を拝見しました。

不思議なもので、上京してからは主に歌舞伎座に通うようになるわけですが、幕見でなく、初めて劇場に足を踏み入れたその時は何を観たのか、記憶にないのです(汗)。歌舞伎座の上演記録と当時の記憶をたぐり寄せると、おそらく、
市川海老蔵襲名披露 五月大歌舞伎だったのではないかな・・・と思うのですが。

私にとっての「初めての歌舞伎座」というのは、やっぱり2002年1月の、この幕見の印象が本当に強いです。

歌舞伎を観るようになった頃はまだ大阪の実家住まいでしたので、歌舞伎は松竹座か南座、巡業で観ておりました。そして歌舞伎座は、歌舞伎ファンなら誰もが夢見るであろう、「憧れの場所」でした。

東銀座駅に降り立ち、胸をドキドキさせながら地下鉄からの狭い階段を上った瞬間、目の前に唐破風の大屋根が迫ってきた時の感動は、今でも忘れられません。

ライトアップされた壮麗な入口玄関。「寿初春大歌舞伎」と鮮やかに染め抜かれた幕。華やかに行き交う人々。「ここが歌舞伎の殿堂なんだ、聖地なんだ」と思うと、身も心も震える思いがいたしました。

カンゲキ仲間のご厚意で、幕見席の中でも最前列センターで観ることができました。この時かかっていた緞帳は、大山忠作「富士山」。金色の朝空に浮かび上がる富士山の姿をダイナミックに、華麗に描いたものです。

そして、「これから芝居を観るぞ!」という熱気に満ち溢れていた客席。とにかく、見るもの、聞くもの、感じるものすべてに感動し、興奮しておりました。

今日、役目を終える歌舞伎座。思い出は数多くあれど、今この時に、いちばんに思い出すのは、やはりこの日のことです。とにかく、ひたすらに感激していた、あの夜のこと。

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歌舞伎座へ。


ありがとう。

数え切れないほどの感動を、ありがとう。

ありがとう。

たくさんの夢を叶えてくれて、ありがとう。

ありがとう。

とめどもない涙を、ありがとう。

ありがとう。

ありがとう。ありがとう。

3年後、生まれ変わったあなたと出逢える事を、ひたすら夢に見ています。

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お知らせ [歌舞伎]

歌舞伎座三月大歌舞伎 第一部のレポをアップしました。コチラからお入りください。

今年の春は、不安定ですね。季節の変わり目は体調を崩しやすくなりますが、寒暖の差が激しいとなおさらです。皆様、くれぐれもご自愛くださいませね。かくいう私も今月に入ってから風邪をひいてしまい、咳が止まらないうえに熱が上がったり下がったりを繰り返しております。健康って、有り難いですね…(今更しみじみ)。


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歌舞伎座の天井 [歌舞伎]

3月、歌舞伎座へ行きました。席は、3等席の下手寄り。

きの音が鳴って、あと少しで開演…という時。ふと見上げた天井で、あることに気付きました。

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天井と梁が垂直に交わる部分。数多の傷がついているのが、おわかりいただけますでしょうか。

最初は、「なんであそこだけ、傷がたくさんついているんだろう」と不思議に思っていたのですが、しばらくしてハッと思い当りました。

この梁の真下は、ちょうど花道がはしっています。私がこの日座っていたのは、宙乗りのある舞台がかかった時に、鳥屋として使われていたスペース。 とすると、あの傷宙乗りする役者さんを支えるワイヤーロープや、それを操作する機械などを引っかけた際にできた傷なのではないか、と。

素晴らしい舞台にするために、役者さん、裏方さんはもちろん、劇場もがんばってきたんだなぁ…と思うと、言葉にならない愛しさがこみあげてきてしまって、思わず開演前からホロリ。最近、涙もろいですねぇ…(汗)。

歌舞伎座最後の興行も、あと1週間あまり。きっと劇場中が、クライマックスに向けて何とも言えない空気に満ちていることでしょうね。

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『写真集 歌舞伎座』 [歌舞伎]

大変遅くなってしまいましたが、歌舞伎座二月大歌舞伎夜の部のレポを更新しました。よろしければコチラをご覧くださいませ。 

歌舞伎座カバー.jpg

今月の興行でその使命を終える歌舞伎座。その劇場の存在と瞬間のすべてを写し撮った写真集です。

私が舞台鑑賞を好きな理由のひとつに、「劇場」という空間が大好き、ということがあるのですね。客席の椅子に身をゆだね、ロビーのざわめきに耳を傾けているだけで、言葉にならない幸福感に満たされるのです。

それは、これまでその舞台で光を放ち続けた役者さん、舞台を築き上げてきたスタッフさん、通い続けた観客の皆さん…そこに集うすべての人の様々な感情や思い、祈りを、劇場という空間が包みこみ、抱きしめ続けたからこそ、生まれ重なり合っていくものだと思うのです。

『写真集 歌舞伎座』には、舞台裏の光景や出番前の役者さんの表情だけでなく、観客の目線からの写真‐開場時のざわめき、休憩中のロビーのさざめき、終演後の高揚感なども一瞬にして切り取られています。

ページをめくるたびに、あの時、ここでこんなことを考えていたなぁ、この舞台を観た頃、こんなことがあったなぁ…と、いろいろな思い出がよみがえってきます。その思い出にひたるのも、また幸せだったりして…。

皆さんにも、きっと様々な歌舞伎座の思い出がおありだと思います。この写真集があれば、いつでも歌舞伎座に、そしてあの頃の自分に出会えるような気がします。

詳しくは、コチラへ♪ → 歌舞伎座インターネットショップ「かおみせ」


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歌舞伎座さよなら公演 御名残四月大歌舞伎 第三部 [歌舞伎]

2010年4月6日(火) 歌舞伎座 18:20開演

私にとって、歌舞伎座ラストデイとなったこの日。別れを惜しむ常連さん、初めて歌舞伎座に足を踏み入れたであろう人、様々な熱気に包まれていました。

観劇前に、「これはいいな」と思ったのが、筋書の表紙。

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鏑木清方「さじき」

その作品名の通り、歌舞伎座の桟敷席で、心をときめかせながら名優の舞台を見つめているであろう親子を描いた作品です。

現・歌舞伎座で発行される最後の筋書の表紙として、これ以上に相応しい表紙はないと思いました。

幼い時から歌舞伎に親しみ、歌舞伎への愛を母親から受け継いでいくであろう娘さんの姿。きっと彼女も成長して子を持つ母親となった時、同じように歌舞伎座へわが子を連れていくであろうな…そんなことを想像させる温かな風景。

こうして歌舞伎は、歌舞伎座はたくさんの人々の思いを引き継ぎながら、その時代ごとに愛され続けてきたのだろうな、そうしみじみ感じました。

そして、この母娘の姿が、新しく生まれる歌舞伎座に、歌舞伎の未来を託して自らの役目を終えていく現・歌舞伎座の姿にも重なったのです。こうして歴史は繰り返され、歌舞伎への愛はもちろん、劇場が持つ魂も、次代へ連綿と引き継がれていくのですね。

本当にね、この表紙を見た時には心がじんとして涙があふれました。



実録先代萩

乳人 浅岡:芝翫
松前鉄之助:橋之助
一子 千代松:宜生
伊達亀千代:千之助
局 錦木:萬次郎
局 松島:孝太郎
局 呉竹:扇雀
局 沢田:芝雀
片倉小十郎:幸四郎

「伽羅先代萩(めいぼくせんだいはぎ)」と同じく、有名なお家騒動「伊達騒動」をモデルにして書かれた作品です。「伽羅-」と違って、当時の騒動に実際に関わった人間がほとんど実名で登場するので、「実録-」という外題がつけられているのでしょう。

現在82歳の芝翫が、「歌舞伎座」という劇場で立女方(たておやま)として芝居をすることができるのは、これが最後かも知れません。だからこそ、制作側としてはどうしても芝翫の芝居が際立つ作品を上演したいと考え、芝翫の体力や芸格、そして第三部全体のバランスを考慮した上での上演でしょう。制作側が役者へ抱く、深い敬愛を感じました。

芝翫と息子橋之助、そしてその子息の宜生と、成駒屋三代の共演に幸四郎が力を貸し、中堅の女方も手堅く舞台を支えていました。

芝翫の浅岡は、御殿女中としてのきりりとしたキャリアウーマンぶりと、生き別れになった我が子に見せる戸惑いを過不足なく演じ、仕事に生きる女性としての悩み、母親としての苦しみがダイレクトに伝わってくる舞台。いつの時代も、仕事と家庭の両立は難しいものですね・・・(そんな単純な感想ですか)

芝翫の存在感は、「歌舞伎」そのもの。通常の劇場よりも間口が少し広い歌舞伎座の舞台。その中で、ひとつひとつの科白、一瞬一瞬の動きがまるで錦絵のようにピタリ、ピタリとはまっていました。

そして、子役ちゃん大活躍!!特に千之助演じる亀千代が、幼い中にも、名家の世継ぎとしての気品と威厳がきちんと感じられて、浅岡でなくとも「この子の為なら」と思えるような何かを自然ににじませていました。役者として必要な品や緊張感もすでに備わっています。将来が楽しみだなぁ♪

 



歌舞伎十八番の内 助六由縁江戸桜

花川戸助六実は曽我五郎:團十郎
三浦屋 揚巻:玉三郎
通人 里暁:勘三郎
福山かつぎ 寿吉:三津五郎
三浦屋 白玉:福助
傾城 八重衣:松也
傾城 浮橋:梅枝
傾城 胡蝶:巳之助
傾城 愛染:新悟
傾城 誰ヶ袖:菊史郎
朝顔仙平:歌六
曽我満江:東蔵
三浦屋女房 お松:秀太郎
髭の意休実は伊賀平内左衛門:左團次
くわんぺら門兵衛:仁左衛門
白酒売新兵衛実は曽我十郎:菊五郎

今、このように書き出してみるだけでもこれ以上はないオールスター総出演。まさに、「綺羅星のごとく」とはまさにこのことです。歌舞伎座の最後を彩る打上げ花火のように絢爛豪華な舞台でした。

海老蔵丈の口上から、すでに客席は興奮。河東節が始まる前の、一瞬の緊張感から、演奏が始まった時にふわっとゆるむ劇場の空気。

大らかで愛嬌たっぷりの團十郎丈。大輪の牡丹の花のように艶やかで圧倒的な美しさを誇る玉三郎丈。やわらかでおっとりとした風情の中に弟への愛を感じさせる菊五郎丈。小気味の良い仕草が粋でいなせな三津五郎丈。おかしみのある役どころながら、スキッとしたオトコマエぶりは変わらない仁左衛門丈。てきぱきと動きながらもふと見せる微笑に「その世界の女」の色気を感じさせる秀太郎丈。ただ、そこにいるだけで存在感のある左團次丈。アドリブ専売特許なのを良いことに(笑)、役者の皆さんのが心に秘めている、観客の私たちが伝えたい思いを代わりに言葉にしてくださる勘三郎丈。そして、まだまだ固い蕾を思わせるけれど、清純な色気を漂わせて、すでに未来の片鱗を感じさせる傾城役の御曹司たち。

配役のバランス上、すべての歌舞伎役者さんがこの舞台に立てるわけではありません。でもこの時の「助六」には、この舞台には立てなかった他の役者さん、そしてこれまで歌舞伎座を支えてきて下さったスタッフ・職人の皆さん。そしてその歴史を積み重ねてきた数多の役者さんたちの思いが凝縮された舞台であったように思います。

ただ、ただひたすら、この場所に座り、この空間を感じられることの幸福を噛みしめていました。



この時は、色々な偶然と奇跡(と言うにはちっぽけなものですが)が重なって、本当に運良く観ることができたのです。そういうこともあって、この時の舞台には「幸せだった」という思い出しか浮かんでこないのですよね。

2ヶ月以上経ってからの感想ですから、役者さんの芝居などについての細かい描写もできず、情けないくらいに記憶が抜け落ちています。でも、思い出そうとすればするほど、言葉にできない「幸せだったという気持ち」が心を満たしてくるのです。それが、私にとってのいちばんの感想なんじゃないかな、と思います。

 


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名残の春 [歌舞伎]

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「この歌舞伎座がなくなるのは、やっぱり寂しいね~。でも、ここに夢や思い出がいっぱいある分、新しい歌舞伎座でもっとたくさんの夢を見せてもらうといたしましょう。」

歌舞伎座さよなら公演 御名残四月大歌舞伎『助六』で通人を務める中村勘三郎丈が、花道を去り際にアドリブでおっしゃった言葉です。

ああ、本当にそうだなーと思いました。別れは、新しい夢へと向かう第一歩、なのですよね。

寂しいけれど、未来へ向けて旅立つ歌舞伎座を笑顔で見送り、そして3年後、新しい歌舞伎座に笑顔で出会いたい、と強く思った夜でした。
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