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大蔵流 第十回 雪薺の会 [伝統芸能]

2010年7月19日(月・祝) 杉並能楽堂 13:30開演

【番組】
狂言
『鱸包丁
(すずきぼうちょう)(山本東次郎)
『宗論(しゅうろん)(遠藤博義)※休演のため、山本東次郎代演
『鎌腹(かまばら)(山本則俊)


梅雨明けした途端、猛暑が続く東京。外をちょっと歩いただけで、全身の水分が蒸発して干からびそうな気分になります。

そんな暑い日差しの中、杉並能楽堂にて「雪薺(ゆきなずな)の会」を拝見してまいりました~。

「雪薺」とは、たんぽぽのこと。狂言方の装束の背中部分に必ずしつらえてある紋としても知られています。「雪薺の会」は、この時期に行われる、山本家の御弟子さん方による公演です。

主に遠藤博義と若松隆がシテを勤める番組立てなのですが、今回は遠藤が休演したため、若松が大奮闘。そして若松に力を与えるべく、山本家当主である東次郎師も大奮闘。真夏の日にふさわしい大熱演の舞台でした。

それにしても、本当に暑(熱)かった…(汗)

杉並能楽堂に御邪魔するのは、2月の青青会以来。4月の山本会へは、体調不良のために行くことが叶いませんでしたので、実に5カ月ぶりです。脇正面のいつものお席(座敷で座布団が並んでいます)に落ち着くと、ものすご~く安心感がありました(笑)。



『鱸包丁』
伯父/山本東次郎
甥/山本則重

伯父が甥に、仕官のお祝い用に鯉を捕ってくるように頼みますが、甥は忘れてしまいます。あれやこれやと言い訳をする甥ですが、その嘘を見抜いた伯父は屋敷に届いていた鱸をご馳走しようと甥を中へ通します。まずは甥に「打ち身」(刺身)の謂われを語り、魚を捌く様子を鮮やかな手つきで説明しますが…?

伯父の仕方話と包丁捌きを見せる鮮やかな動きが見どころの1番。東次郎師の艶のある声に、夢見心地なひとときでした。(……ええ、意識も時々夢の中でした
[たらーっ(汗)]

お腹に響くような語りの迫力はもちろん、手や指の動きの美しいこと!

則重さん@甥が「淀川で鯉をとって~」(だったと思うのですが)と言いながら網(釣り糸)をたぐり寄せる仕草をするのですが、手さばきの滑らかで柔らかい。折々にキュッ、キュッと力を込める様子も自然で無駄に力まず、それでいてちゃんと重さが見えるのはさすが。

東次郎師@伯父が鱸を調理する様子を語る場面では、扇を包丁に見立てるのですが、これもさすがの力強さと安定感、そして一連の動きが流れるように美しくて、ため息ものです。



『宗論』
浄土僧/山本東次郎(遠藤の代演)
法華僧/若松隆
宿主/山本凛太郎


それぞれの参詣の道中に居合わせた浄土宗の旅僧と法華宗の旅僧。それぞれの宗派がいちばんだと張り合い、口論をしているうちに…?

今回、いちばん拝見したかった曲。丁々発止のやりとりと踊り念仏が本当に楽しい一番です。

遠藤のシテ、若松のアドで、「ああ、お弟子のお二人で大きな曲に挑戦なさるんだなぁ」と感慨深く、楽しみにしておりましたので、遠藤さんの休演は本当に残念。この夏も大変な暑さのようなので、くれぐれも無理せず、回復に努めてくださったらと思います。

最初は良い旅の道連れができたと喜ぶ2人なのに、宗旨が違うと分かったとたん、掌を返すように対立を強める浄土僧と法華僧。熱しやすい法華僧の性格を見抜いて、やんわりと、でも確実にボディブローを効かせていく浄土僧。東次郎師…すっごく楽しそう…(微笑)。

東次郎師@浄土僧の挑発を受ける若松@法華僧は、とっても一途な印象。だからこそ、自分の宗派を小馬鹿にする浄土僧が許せず、カッと熱くなって言い返します。その迫力と、力一杯舞台を勤めようとする若松の気迫が重なって、とても素晴らしかったです。

また、浄土僧として法華僧の反論を、そして師匠として弟子の意気を悠然と受け止める東次郎師も、お見事と言うほかありません。

この舞台は、シテとアドの芸格や力量が拮抗していた方が、お互いに緊張感にあふれた舞台になるんじゃないかと思います。でも今回のように、弟子が力の限り、いや、それ以上を越えて師匠にぶつかっていく姿、そしてそれを受け止める師匠も遠慮なく相手に芸をぶつけ合う舞台にも、心から感動いたしました。

「南無阿弥陀仏」VS「南無妙法蓮華経」の対決は、夜明けの勤行の時間にラウンドが再開されます。互いに「ナモーダ」「レーンゲキョ」と声を張り上げてお互いを押し合いへし合い、能舞台を所狭しと舞う様子は、本当におかしくて!それでも軸一本ブレない東次郎師の動きの美しさ、エネルギッシュに舞台を駆け回る若松の姿に、またまた感動してしまいました。

最後の最後に、浄土僧が「レーンゲキョ」、法華僧が「ナモーダ」と、互いのかけ声を取り違えるところで、ハッとお互いの顔を見合わせるところも、好きだなぁ~。ここで、宗旨は違えども、仏の教えであることに変わりはないと言うことに気付くのですよね。その後の謡も東次郎師の艶やかな声と若松の力強い声が見事に重なっていて、本当に素晴らしかったです。

山の頂上はひとつしかなくても、そこへとつながる登山道はいくつもあるように、物事には様々な見方が必要だと言うことですよね。いつも一直線でしか物事を見られないワタシ、ちょっと反省・・・。



『鎌腹』
太郎/山本則俊
妻/山本則重
仲裁人/若松隆


ひときわ高く響く声とともに、橋がかりをすごい勢いで走り込んでくる則俊師@太郎と、則重@妻。

則俊師は鋤と鍬の意匠が入った肩衣、則重は美男鬘を着けて、鬱金色に野の草花の紋様があしらわれた縫箔。落ち着いた色合いの則俊師と、目にも鮮やかな美しい則重の対比がお見事。

泊まりがけの仕事が多い夫(太郎)に腹を立てた妻は、「たまには家の事もしなさいよっ!」と山に柴刈りに行くよう言い、それを断った夫を、鎌を持って追いかけ回しています。仲裁人のとりなしでようようおさまり、夫は渋々山へ出かけていきます。妻に散々に言われ、嫌気が差した夫は自ら命を絶とうと、持たされた鎌を使ってあれやこれやと方法を考えはじめますが…?

いや~、安心して楽しめる舞台でした。則俊師の端正な動きとバリトンの美声を堪能。則重もキビキビとした小気味よい仕草と張りのある声で、お父さんとよく渡り合っていました。

仲裁人の若松も、代演とは言えきっちりした出来。
「あなたのおかげで命が助かりました」と言う夫に向かって「危ないところでしたねぇ」(だったかな?)としみじみと言う科白の間と言い方が、とっても良かったです。

夫は持たされた鎌を使って、腹をかきわる、首の後ろに鎌を回して喉を掻き切る、土に鎌を突き立ててその上に覆い被さる、など色々な方法を思いつき、そのたびに「今からこの鎌で腹を掻き割って死にま~す!」(意訳)などと、わざわざ道中に触れ回ります。その様子が可笑しい~!人間、やっぱりどこかで見栄は忘れないものですね。

結局、痛いし怖いし勇気がない、ということで自殺をあきらめて山へ向かおうとする夫(最初からそうしようよ>笑)。そこへ、夫が自殺を触れ回っていると聞いた妻が必死の剣幕で追いかけてきて、「貴方が死ぬなら私も死ぬ」と涙ながらに夫の自殺を止めます。

ところが、大きな声で触れ回ったせいで、周囲にはたくさんの野次馬。引っ込みがつかなくなった夫は、「俺、とても死ねないから、代わりにお前が腹を切ってくれ」と言ってしまい、やっぱり夫は怒り狂った妻に追いかけられていくのでした(笑)。

真面目な芸風の則俊師が真面目に「じゃあ、お前が代わりに腹を切ってくれ」と言う姿は、本当に面白くて涙が出るくらいに笑ってしまいました。真面目に演じれば演じるほど、芸としてのおかしみと味わいがにじみ出てくる則俊師です。

世の中、毎日が幸せな事ばかりじゃありませんよね。嫌になること、腹の立つことはたくさんあるけれど、太郎のように「どうしよう、どうしよう」と迷いながら、考えながら、結局は時間が過ぎていき、人生を歩んでいくものですよね。そんな当たり前のことを感じた舞台でした。



やっぱり、杉並能楽堂の空気は大好きです。自然光が入り、窓の外には緑の葉がゆらめいて、本当に落ち着いた気分になります(くつろぎ過ぎ)。この日は猛暑でなかなかクーラーが利かなかったのですが、そんなところも杉並らしくてお気に入りです。

今年、ちょうど建築100年目を迎える歴史ある能舞台。これからも演者の皆さんを守り支え欲しい、そして訪れる人にはたくさんの感動を与え続ける場所であって欲しいですね。

最後になりますが、休演された遠藤さん、1日も早いご回復をお祈りしております!


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山本則直先生 [伝統芸能]

大蔵流狂言方、山本則直先生が、23日、肝不全のためにお亡くなりになりました。

最後に拝見したのは、今年1月のハゲマス会での『樋の酒』。三兄弟そろっての共演に、ひたすら感激の時間をいただいたばかりでしたのに…。

大地のように力強く安定感のある舞台と、陽だまりのような温かい笑顔が印象的な御方でした。

則直先生の舞台、優しい笑顔、忘れません。ありがとうございました。


御冥福を、心よりお祈り申し上げます。

合掌


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七拾七年会 第三回公演 [伝統芸能]

2010年2月14日(日) 十六世喜多六平太記念能楽堂 夜の部 17:30開演

仕舞

「笠之段」(山中雅志)
「蝉丸」(坂井音雅)
「女郎花」 (武田宗典)

狂言 「千鳥」(山本則重)

解説 (武田宗典)

仕舞 「野宮」(武田宗和)

能 「舎利」(武田文志)

早くも第3回となりました七拾七年会の公演。前回は2日2回公演でしたが、今回は1日2回公演という、お能の世界では型破りな公演スタイル。今でしかできない事に果敢に挑戦される七拾七年会の皆さんです。

今回は夜の部を鑑賞。またまた脇正面から拝見しましたが、今回は橋がかりにも近く、演者の息づかいがダイレクトに伝わってきて、とても良いお席でした。

開演前には、同人の皆さんがそろってご挨拶。終演後にも全員揃ってのご挨拶が入るので、どちらかを割愛しても良いのではないかしら・・・と思うのですが。能楽堂にやって来たらには、早くお能の世界に浸りた~い!!って思っちゃいますもので・・・。

全体的には、良くも悪くも若干舞い上がり気味だった(苦笑)、第一回、第二回に比べると、演者の皆さんもだいぶ落ち着いてこられたかな・・・という印象。意気込みよりも緊張感が勝っていたように思う前回、前々回に比べると、皆さんご自分のお仕事に集中されていたように思います。(上から目線)

今回も時間が足りませんので、簡単なカンゲキレポとさせてください・・・。

 



仕舞は、山中雅志さんが、前回拝見した時も動きが柔らかく、しなやかになられていて驚嘆いたしました。第二回公演からまだ7ヶ月ほどしか経っておりませんのに、すごい進歩だな~と心の中で拍手を送っておりました。



狂言『千鳥』

太郎冠者/山本則重
主人/山本則俊
酒屋/山本則秀


【あらすじ】

主人の言いつけで酒屋に酒樽を求めに行った太郎冠者。ところが主人には酒代のツケがだいぶたまっていて、酒屋は酒を売ろうとしてくれません。困り果てた太郎冠者は、酒屋が面白い話が好きな事を幸いに、津島祭や流鏑馬の話などを語って聞かせながら、酒樽奪取(笑)の機会をうかがいます。

【カンゲキレポ】


個人的に大好きな1曲。仕方話と祭の様子を表現する型がとても楽しい曲です。

今回で、はからずも則俊(父)、則重(長男)、則秀(次男)と親子3人の『千鳥』シテを拝見したことになりました。どんだけ山本家追っかけなのか、私・・・(笑)。

やっぱり、流鏑馬やお祭の様子を再現する場面は動きが大きくて華やかで、良いですね~☆

則重さんは動きもブレが無く、落ち着いてシテを務められていました。扇をパタパタとしながら、こそこそと酒屋の隙を狙っているところが、愛嬌があってキュート☆流鏑馬を模して飛び跳ねるところも軸がしっかりとしていて、いつもながらに安定感のある舞台です。

前回の青青会
では調子の悪いように見えた則秀も、すっかりいつもの調子に戻っていて安堵いたしました。

今回も脇正面で拝見しておりましたが、思いのほか橋がかりに近かったので、演者の皆さんが立ち去る時など、無駄にドキドキしてしまいました(笑)。



『舎利』


シテ(里人・足疾鬼)/武田文志
ツレ(韋駄天)/清水義也
ワキ(旅僧)/森常太郎
アイ(能力)/山本則重

大鼓/原岡一之
小鼓/住駒充彦
太鼓/小寺真佐人
笛/藤田貴寛


【あらすじ】

出雲の国から京の都に出てきた旅僧。せっかくの機会だからと、仏舎利(仏様の御骨)と十六羅漢が奉られている泉涌寺へ足を運びます。

そこへ里人が現れ、仏舎利の謂われや「昔、この仏舎利は足疾鬼という異界の者に奪われそうになったのです」などと語って聴かせます。すると突然、にわかに空が暗くなります。

実はこの里人こそが仏舎利を奪おうとした足疾鬼。姿を顕した足疾鬼は、やはり仏舎利への執心が消えず、奪い取って逃走します。

仏舎利が奪われたことを聞いた寺の能力は、韋駄天に取り返してもらおうと僧とお祈りを始めます。すると韋駄天がものすごい勢いで登場し、足疾鬼を追いかけていきます。

逃げる足疾鬼と追う韋駄天。すさまじい逃走劇が繰り広げられますが、やがて韋駄天は足疾鬼をとらえ、散々に打ちのめして仏舎利を奪い返すと、寺へ帰っていきます。またも仏舎利を奪えなかった足疾鬼は力尽き、逃げ去るのでした。

【カンゲキレポ】

上演前に解説に出られた武田宗典さんもおっしゃっていたように、とても動きの激しい曲。

お能の曲は、たいてい前シテと後シテがあり、後シテに激しい動きが入ることが多いのですが、この曲は前シテの後半から後シテにかけて、ずーっっと激しくてテンションの高い動きが続きます。

足疾鬼と韋駄天の追いかけっこは、ものすごい迫力!!ただでさえ狭い能舞台を駆け回り、足を床にドン!ドン!と打ち付け、後見が用意した台の上にすさまじい音と共に飛び乗り、そして最初に戻る、という感じです(笑)。そして、韋駄天に打ち据えられ、奪った仏舎利も取り替えされ、しょんぼりを橋がかりを去っていく姿は・・・哀愁ただよってました(笑)。

前回の公演で、舞台以外のところで同行者ととろりんのハートを激しく撃ち抜いてしまった太鼓方の小寺真佐人さん。本業(?)でも素敵でした!

私の拝見したお席からは、能舞台の後方に控えていらっしゃる姿が右斜め45度くらいの感じで見えていたのですが、前半はまったく出番がなく、静かに時間を待っていらっしゃいます。

ところが後半は、すべての思いを込めるかのような、魂の入った激しいお囃子!かけ声にも充分な気合いを感じました。そして、なぜかクロス打ち(左手に持ったバチを右肩の上へ持ってきてから振り下ろす打法)に、何故かものすごく萌えてしまいました(笑)。

小寺さん・・・これからも応援してます!!

 



伝統芸能でも、こうして若い世代の方、自分と同世代の方が活躍されている舞台を拝見すると、気持ちが熱くなりますね。これからも応援していきたいと思います。

そんな七拾七年会、早くも次回公演が決定!!

次回は・・・今年の12月25日(土)、観世能楽堂にて!!

って、またイベント日かいっっ!!(笑)。

ちなみに次回は記念公演(別会)という事で、重鎮も特別出演されるそうですよ~。誰がご出演されるのでしょうね☆

 
次回公演地。
 


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能舞 meets Collaboration~1st~ ~能楽師とピアニストの響宴~ [伝統芸能]

2010年2月20日(土)
高輪区民ホール 14:00開演

第1部 春
~春をテーマにした能とピアノの競演~

Scene1 能楽~百花繚乱~


祝言 高砂 山井綱雄
仕舞 嵐山 シテ:井上貴覚
仕舞 田村 シテ:山井綱雄
仕舞 東北 シテ:辻井八郎
仕舞 春日竜神 シテ:髙橋忍

Scene2 木原健太郎の世界

舞い落ちる桜のように
innocent time
be…

Scene3 山井綱雄・木原健太郎 トークセッション

第2部 絆

新作舞曲「絆~KIZUNA~」


作・演出:山井綱雄、木原健太郎
銀杯提供:上川宗照
美術:アラン・ウエスト

シテ:山井綱雄
地謡:高橋忍、辻井八郎、井上貴覚
ピアノ:木原健太郎


金春流のイケメン能楽師・山井綱雄プロデュースによる、能とクラシック、そして日本の伝統美術を融合させた新しい試み。能がクラシックとどのように融合し、新しい世界を生み出すのか、興味津々で訪れました。

会場に入ると、反響版のかかった舞台。目に飛び込んできたのは鏡板ではなく、1本の力強い松の木を芯に、日本の自然と四季が雄大に荘厳に描かれた、大きな日本画の描かれた掛軸。この掛軸が、舞台背景全面を覆っています。日本画家、アラン・ウエスト氏による作品、「絆」です。

本舞台は、上手寄りに大きくスペースがとられており、能舞台と同じ試用。下手側にグランドピアノ。早くも和と洋の新鮮な組み合わせながら、落ち着いた雰囲気を醸し出しています。

※2月23日追記
コチラで、当日の舞台背景を見ることができま~す。→山井綱雄公式ブログ

第1部は、それぞれの本業(?)とでも申しましょうか、能の仕舞とピアノソロ、そして山井さんと木原さんのトークセッション。

仕舞は、山井が中心となって活動している金春流能楽師グループ、座・SQUAREのメンバーが入れ替わり立ち替わり出演。詞章の中に春を感じさせる言葉が出てくる曲ばかりを集めてあるので、とても華やかで優美です。

木原によるピアノソロは、本人作曲のオリジナルナンバーを3曲。穏やかで落ち着いた、それでいて桜の花の季節に誰もが感じるような優しさと切なさを感じさせる曲でした。

トークセッションでは、山井さんと木原さん、そして第2部の新作舞曲「絆」で使用される銀杯を製作された上川宗照氏も加わり、今回の公演が実現した経緯などを楽しくお話くださいました。

2人が出会ったのは約3年前。木原さんが出演していた東京・増上寺でのイベント「100万人のキャンドルナイト」に山井さんも出演したことがきっかけなのだとか。本道としての能を極めつつ、能の新しい可能性も追求したいと考えてた山井さんは、木原さんとの出会いによって、それが実現できるかも!と強い確信を持ったそうです。

自分にとって大切な出会い、その出会いによって生まれた絆を大切にしたい・・・との思いで誕生した新作舞曲「絆」。東京銀器の職人で「現代の名工」にも選ばれている上川宗照氏、外国人でありながら日本の伝統美術に心惹かれて日本画家となったアラン・ウエストさんとの出会いも大切にするべく、背景や小道具に彼らの作品を使用したのだとか。

山井さんの熱い思いが伝わってくるトークセッションでした。



新作舞曲「絆」。

木原のクラシックピアノの伴奏に合わせて能の地謡が謡い、能装束を着けたシテ・山井が舞う・・・。能の舞台ではありえない光景なのに、何だか心が洗われたような、魂が浄化されたような不思議な清々しさ、爽やかさにあふれた舞台でした。

曲はオリジナルのメロディーに、「浜辺の歌」「ふるさと」など郷愁を誘う日本歌曲のメロディーが自然に織り込まれており、穏やかな優しさの中に時として波打つ懐かしさ、切なさなどが美しく表現されています。

西洋の伝統文化・古典の融合した作品というのは、緻密かつ丁寧な詰めをしていかないと双方のエゴが目立ち、乱雑なものとなってしまいます。それをまったく感じさせず、客席をの心を震わせる舞台にまで引きあげた演者の力量と熱情は素晴らしいと思います。

地謡も、クラシックピアノの旋律に乗ると、まるで教会のオルガンに合わせて歌われる聖歌のような響き。

特に、木原のピアノとかけ合いで謡った地頭・髙橋忍の謡には、心が揺さぶられました。ピアノの伴奏に合わせてソロで謡をうたう場面があったのですが、決してピアノの音量に負けることなく、それでいてピアノの旋律の美しさを際立たせる為に、時に朗々と、時に密やかに、自在に謡を披露。素晴らしかったです。

髙橋は、今回の演者の中では最年長。こういう型破りの舞台を成功に導くためには、この方のようにきっちり舞台を引き締めて下さる存在が不可欠ですね。

シテの山井も、情感あふれる舞。ひとつひとつの型、動作を愛おしむような風情が、これまで出会った人々との記憶、それによって生まれた絆を大切に温めていこうという山井自身の思いと重なるようで、胸が熱くなりました。



これまで、同じ日本の中でも他分野の芸術と交流する機会のなかった能楽。時にはこのような企画も、良い刺激になりますね。「1st」とあるからには、次回もあるはずと期待しているのですが(笑)、また素敵な舞台を見せていただきたいな、と思います。


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第45回 青青会 [伝統芸能]

2010年2月11日(木・祝) 杉並能楽堂 13:30開演

【番 組】

狂言
『今参
(いままいり)(山本則孝)
『名取川
(なとりがわ)(山本則秀)
『右近左近
(おこさこ)(遠藤博義)

小舞
『御田
(山本凛太郎)
『海道下り』
(山本東次郎)
『芝垣』
(山本則俊)


建国記念日名物となった大蔵流狂言方・山本家の若手による会『青青会』。寒くてお天気が悪い日にもかかわらず、見所(客席)はいっぱいでした。

ただ、今回は全体的には低調な舞台だったかな~と思います。山本家には珍しく(?)、どの曲でも細かいミスや気になる点があり、ちょっと残念でした。いじわるで言っているんじゃないんです、愛ゆえです、愛ゆえ。(Byマイケル@『THIS IS IT』)

今回は失礼なことも書いています。私としては辛口エールのつもりですが、激辛過ぎるかも。それでもお読みいただけるのであれば、「続きを読む」からお入り下さい。

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第12回ハゲマス会 狂言の会 [伝統芸能]

2010年1月24日(日) 麻生文化センター 14:00開演

【番組】

狂言
『佐渡狐』
(山本泰太郎)
『樋の酒』
(山本東次郎)
『唐相撲』
(山本則俊)

素囃子 『神舞』
(大倉栄太郎、梶谷英樹、住駒充彦、八反田智子)


昨年は足を運べなかったハゲマス会。今年は「唐相撲」がかかると聞いて、これはどうしても!と、勇んで観て参りました。



『佐渡狐』
佐渡の百姓/山本泰太郎
奏者/山本則重
越後の百姓/山本則孝


あらすじは、コチラをご覧下さい(すみません、手抜きで・・・)→第44回青青会(この時のシテは若松隆)

【カンゲキレポ】

離島であるというコンプレックスから、ないものを「ある」と言ってしまったが為に起こる顛末を、明るい笑いに包んだ曲です。

泰太郎は、本当に厚みが出てきました。どの役を演じても、不安定なところが全くないし、安心して観ていられます。

印象的だったのは、越後のお百姓に「佐渡に狐はあるか」と問われて一瞬ひるんだ後に「ある!」と主張してしまう場面。泰太郎は足を一歩引いて少しの間うつむいた後、「ある!」と言い切ります。

泰太郎には、一瞬本当の事を言おうかどうしようか迷いながらも「御館の奏者を説得すれば何とかなるかもしれない」という事にピンときて「・・・ある!」と言い切る、機転がきくような印象。

若松のシテの時は、越後のお百姓との丁々発止のやり合いの末に思わず「ある!」とムキになって言い返してしまい、「しまった」という感じで口裏合わせに奔走する、という印象でした。同じ演目でも、演者が違うと一瞬の呼吸のとり方やしぐさで、こちらの受け止め方や印象も変わってくるものなのですね。

則孝演じる越後のお百姓は、余裕のある出来。何て言うんでしょう、「いや~、この人、(佐渡に狐はいないと)絶対に知ってて問いただしてるよね~」という感じ(笑)。確信があるからこそあれだけ問いつめて、最後の最後にあの質問を繰り出せると思うんですよね~。

則重の奏者も、いかにも小役人といった風情で「こういうヒト、きっとたくさんいただろうな~」と思わせられて、クスリ。

この奏者、佐渡の百姓から心付けを渡されて、狐の特徴を色々と教えてあげるのですが、越後のお百姓が佐渡のお百姓を質問攻めにしている時も、越後のお百姓にバレないように、コソコソと手振り身振りでヒントを出してあげています。で、何となく異変を察した越後のお百姓がふと奏者の方を振り返ると、そのたびにピョンと跳んで90度向きを変えて、そっぽを向いて知らんぷり。

その様子が何度も繰り返されるたび、可笑しくて可笑しくて。越後のお百姓がバッと振り返った瞬間に、座ったままピョン!と跳んで90度横を向く姿は、マゼール跳びに優るとも劣らない可笑しさでした。

前回に続き、今回も生着替え(というか早替わり?)がありました~。お百姓たちが奏者に目通りするために、肩衣から素袍に着替えるのを、そのまま舞台上で行います。

今回は、お百姓とも奏者ともに素袍を身につけています。前回拝見したときは、奏者は長裃を着けていました。ただし、奏者が素袍を上下で身につけているのに対して、お百姓たちは上衣のみ素袍を身につけています。

終演後、東次郎師による解説がありましたが、師曰く、「奏者はスーツ、お百姓はブレザーといったところでしょうか」。同じ装束でも、着付けを工夫することによって、身分や立場を表現できるのですね。

ちなみに泰太郎は裾に波模様が入った千鳥柄、則孝は深緑に蝶が飛び交う柄の素袍、則重は、濃い紺地に赤紫っぽい色で瓢箪のつなぎ柄。ああ、オペラグラスを持ってくればもっとじっくり柄や文様を観察できたのに・・・ちょっと反省。

お百姓の着替えを手伝う後見は東次郎師と則秀。手際よくキビキビと着替えを済ませていく姿は、美しい所作を見ているようです。

舞台上での着替えは、時間的なものや演出的なものもあって、今ではあまりしないのだそうです。「でもうちでは、本来の姿を残してやっていきたいと思っておりまして・・・」と東次郎師。

「(舞台上で着替えをすることによって)場が切れましたでしょ」とおっしゃっていましたが、私は素敵な演出だと思います。



『樋の酒』
太郎冠者/山本東次郎
主人/山本則直
次郎冠者/山本則俊


【あらすじ】

留守にするたびに酒蔵で酒を飲む太郎冠者をこらしめようと、主人は太郎冠者を軽物蔵(反物等を保管する蔵)へ、次郎冠者を酒蔵へ閉じこめてから出かけます。下戸の振りをしていますが、実は大の酒好きの次郎冠者はこれ幸いとばかりに酒を飲み始めます。美味そうな酒の匂いが隣の軽物蔵まで流れてきて、太郎冠者はたまりません。

そこで太郎冠者が見つけたのが、雨樋の木材(樋)。これを隣の酒蔵へかけて、次郎冠者に酒を流してもらおうというのです。雨樋を通して酒を酌み交わし、すっかり良い気分になった太郎冠者と次郎冠者は歌を謡い、踊り出す始末。そこへ主人が帰ってきて・・・!?

【カンゲキレポ】

太郎冠者と次郎冠者のはちゃめちゃに主人が振り回されるという、狂言らしい小品ですが、東次郎、則直、則俊と、山本家をまとめる3人がそろった大舞台です。・・・私の中で、今回最大のクライマックスでした(早)。

主人が太郎冠者と次郎冠者を呼びつける冒頭のシーンから萌え。(爆)

則直@主人が「太郎冠者、おるかやい」と呼びかけると、まず東次郎@太郎冠者が「はぁーっ」と控えます。この「はぁーっ」が、何とも言えない艶とハリがあって、素敵なテノール・・・[黒ハート]

そして、次に「次郎冠者、おるかやい」と呼ばれて同じく「はぁーっ」と控える則俊@次郎冠者。こちらは気持ちの良い低音が響いて、ナイスバリトン・・・[黒ハート]

その2人を蔵に押し込める則直@主人はちょうど中間の音域で、バスバリトンといったところ[黒ハート]

この3人の声が、ほんっとうに素敵でうっとりと聞き惚れてしまいます。ちょっと本気で「山本家男声リサイタル」とか夢想してしまいました(笑)。お三方が、謡とか素語りとか小舞とか、思う存分披露して下さるの~[ぴかぴか(新しい)] もちろん若手の皆さんも総出演なの~[ハートたち(複数ハート)] きゃあぁぁ~[グッド(上向き矢印)](しばし妄想におつき合いください)

さてさて、東次郎は若草に鬼瓦の意匠が入った肩衣、則俊は黄色に鬼瓦の肩衣と、お揃い。鮮やかで若々しくて、元気いっぱいの召使い2人組といった風情です。やんちゃすぎて、主人はさぞかし手を焼いているんだろうな~と思いました(笑)。

そんなこんなで軽物蔵に閉じこめられた太郎冠者と、酒蔵に閉じこめられた次郎冠者。舞台の上で、少しだけ距離を置いて隣り合って建っているのに、その間にはきちんと「壁」が感じられるのがさすがです。

東次郎@太郎冠者が、「いつもの留守も2人では寂しいのに、今日はこんな暗いところに閉じこめられて、いちだんと寂しいものじゃ」と言いつつ、身体の向きを変えながらぐるりと四方を見渡すのですが、この科白とこのしぐさだけで、蔵のちょっとよどんだ、しっとりとしたほの暗い空気が伝わってきました。

東次郎師はよくお話の中で、「狂言は想像しながらご覧いただくもの」とおっしゃるのですが、見所(観客)がその場面の空間や状況に想像するには、やはり演者の科白と型がきっちりと決まっていなくては伝わらないものだと思うのです。

運良く(?)雨樋を見つけて、それを酒蔵に立てかける太郎冠者と、嬉々として酒を流し込む次郎冠者のやりとりは、本当に楽しくて可笑しくて、ニヤニヤしちゃいます。

そして再び、リサイタル開始(?)。2つの蔵を隔てて、太郎冠者と次郎冠者の酒盛りが始まります。すっかり良い心持ちで謡や小舞を繰り出す2人。ならび合って舞ったり、謡をうたったりしているのに、わずかな目線の動きやしぐさで、きちんと2人の間には蔵の「壁」が見えるのです。す・・・すごいっっ!!

太郎冠者と次郎冠者による小舞と謡はいろいろとあったのですが、「七つになる子」はあったんじゃないかなぁと思います(自信ありません)。それにしても、毎回同じ事しか申しておりませんけど、東次郎師の小舞のふくよかな事!則俊師のお声のキレのあること!今回は小舞が番組に入っておりませんでしたので、その分、この曲で存分に楽しませていただきました。

それにしても、お三方のそろった舞台は、色々な意味で迫力があります。スピード感、千鳥足のリズム感、キレの鋭さ、芳醇な空気。ものすごいスピードでさーっと登場してピタッと止まる時の、ブレのない静止は、誰にも出来るものではないと思います。



素囃子『神舞』

大鼓/大倉栄太郎
小鼓/住駒充彦
太鼓/梶谷英樹
笛/八反田智子


三兄弟『樋の酒』での興奮を、心洗われるような清冽な響きのお囃子でクールダウン。しかし・・・大倉栄太郎さんの、端正な大鼓の響きを聴くと、大倉慶乃助さんの大鼓は、やっぱりすんごい激しいんだなぁ~と、しみじみと再確認・・・。



『唐相撲』

帝王/山本則俊
日本人/山本則秀
通辞/山本則重

唐人/山本凛太郎、荒井豪、渡邊直人、大高靖慈、齋藤宇宏、江橋翔太、水木武郎、深松尚文、山本泰太郎、山本則孝、若松隆、平澤亮太、内田尚登、内田敦士、平田悦生、得居泰司、鍋田和宣、山本修三郎、梓岳夫、内海周一郎、石井信也、鈴木茂正、大音智海、ラファエロ、遠藤博義

【あらすじ】

唐の国に仕える日本人の相撲取りは故郷が恋しくなってきたので、帝王に暇を下すようにお願いします。通辞(通訳)が申すには、名残にもう一度、相撲を見たいとの帝王のご所望。そこで、お仕えする唐人たちを相手に取り組みが始まりますが、誰も叶いません。ついに、帝王自らが相撲をとると言いだして・・・?

【カンゲキレポ】

唐の国が舞台の、珍しい狂言。しかも、囃子方と狂言方合わせて30人近くが登場し、装束も日本人以外は異国風の中国風のもの。作り物の天蓋もものすごく立派で高さがあって、何から何まで大がかりできらびやかな豪華。

まず、橋がかりからとても壮麗な天蓋が運ばれてきて、ビックリ。運ぶときは折りたたんで、本舞台に到着してから脚を組み立てます。

そして、厳かな空気の中、通辞を先頭にそろりそろりと目にも鮮やかな装束を着けた従者たちが登場し、きらびやかな出で立ちで登場するのが、則俊@帝王。や、山本家とは思えないはでやかさ・・・(笑)。

で、その従者達が、ぞろぞろ・・・ぞろぞろ・・・と橋がかりから本舞台をまわってくるのですが、その数、25名!大人から子ども、そして外国人まで(!)、ズラーッと立ち並ぶ姿は圧巻です。後見から囃子方まで合わせると、能舞台上には30名以上の人間が登場します。

いつもの狂言で見られるような拵えをしているのは、日本人の相撲取りをを演じる則秀だけ。則俊@帝王は長~い白髭をたたえて、豪奢な装束を身につけています。他の唐人たちも、光沢のある生地を使った、唐風の装束をそれぞれ身につけています。

そしてこの狂言、日本語以外の言語が登場するのです!!とは言っても、「唐音(とういん)」と言って、中国語に似たような響きを持つ、でも全然意味がない「なんちゃって中国語」なのですが(かと言ってその場でデタラメな言葉をその場で思いついて言う訳でもなく、そきちんとした科白なのだそうです)。

舞台が中国の都なので、日本人以外は皆この「唐音」での科白です。通辞だけが日本語と唐音を解し、通訳の役目も請け負います。

この唐音での科白がね~、また面白くて!「ばんすいばんすい、じんぶるぼー!」とか(笑)。

日本人が帰国する名残に相撲が見たいという帝王の所望で、大相撲大会が繰り広げられます。通辞が従者達を土俵に呼ぶときの科白は、「○○、ライライ」。名前は多分、その演者の名前に似た響きで呼ばれるのだと思います。凛太郎が呼ばれた時は、「リンリン、ライライ」でした♪

通辞に呼ばれた唐人たちが日本人に挑むのですが、ことごとくあっけなく敗退。ついに帝王が自ら相撲を取ると言い始めます。

ここの取り組みも、バラエティー豊かで、本当に面白い!!

まずは1対1。張り手をくらって場外に吹っ飛びます。

次は1対4(あれ?)。1人1人、次々と張り飛ばされます。

3人目は、ねずみおどしをかけても簡単にあしらわれ、敗戦。

4人目は、がっぷり4つに組んで大相撲になったところで、通辞によって突如取り組みが中断されて休憩が入り、お互いにしばし休息(笑)。再開後は投げ飛ばされた勢いでぐるぐる側転(!)しながら敗退・・・。

5組目は、1対2で飛びかかったのに背中合わせにごっつんこされて撃沈。

6組目(リンリン)は、マンゴジェリーとランペルティーザ(@『キャッツ』)並みのアクロバットの空中回転をさせられて、敗退(←解るヒトにしか解らない説明ですみません・・・)。

7組目は2人がかりで突っ込んだのに、そのままお互いの手足がもつれてぐるんぐるん回転していって、ついに揚幕の向こうへと消え去ってしまいました・・・。

そして最後の取り組みは、半ばヤケクソになった(?)従者達が8人がかり(子ども含む)で押し合いへし合い。これも日本人に1人ずつ蹴散らされてしまいます。

いや~・・・山本家の舞台を拝見していて、『キャッツ』を想起する日が来るとは、夢にも思いませんでした・・・(笑)。

業を煮やした帝王が、自ら相撲を取ると宣言した後、厳かに着替え始めるのですが、ここはまた厳粛な空気に戻ります。・・・厳粛な空気の中での着替えなのに、肩の震えが止まらなくなると言うのはどうしたことでしょうか(笑)。何とも言えないおかしみが漂っておりました。皆さん大まじめなのにかえって笑いが止まらなくなるような・・・(すみません)。

帝王と日本人の取り組みも、すごく面白い!日本人が上手を取ろうをすると、通辞が激しく制して、「玉体に触れるとは何事か!」。・・・いやいや、身体をぶつけないと相撲になりませんからっ(突っ込み)。

最後も都の宮廷らしく、雅やかな空気で立ち去っていくのですが、抱腹絶倒の舞台を繰り広げたばかりなのに、大まじめに橋がかりから退場していく演者の皆さんの姿が楽しくて、大きな拍手を送りました。



最後はやはり東次郎師が登場され、お話を少ししてくださいました。カンゲキレポの間にちょこちょことお言葉を挟んでありますが、いつも師のお言葉「うん、うん、うんうん」とうなずかされる事ばかり。青青会の『佐渡狐』でもお話くださった「ないものを『ない』と言える勇気」についてのお話、やはり心に深く入ってきます。

今回も、想像以上に楽しませて頂きました!次の公演は、いったい何が上演されるのでしょうね~、わくわく[るんるん]
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【ご案内】 七拾七年会 第三回公演 [伝統芸能]

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2010年2月14日(日) 喜多六平太記念能楽堂
昼の部 13:00開演 (12:30開場)
夜の部 17:30開演 (17:00開場)


昼の部 13:00開演


ワークショップ~みんなで声を出そう~

舞囃子 「淡路」 坂井音晴

解説 武田宗典

仕舞 「実盛 キリ」 武田志房

能 「海土」 
シテ:武田宗典
子方:武田章志
ワキ:森 常好
ワキツレ:舘田善博、森常太郎
間 :山本則重



夜の部 17:30開演

仕舞
「笠之段」 山中雅志
「蝉丸」 坂井音雅
「女郎花」 武田宗典

狂言 「千鳥」
シテ:山本則重
アド:山本則俊
アド:山本則秀

解説 武田宗典

仕舞 「野宮」 武田宗和

能 「舎利」
シテ:武田文志
ツレ:清水義也
ワキ:森常太郎
間 :山本則重

【料 金】
正面指定席:5,500円
普通指定席:4,000円
特別座敷席:12,000円


【チケット予約】
電子チケットぴあ 0570-02-9999
公演情報はコチラ



なかなか情報が出ないなぁ・・・と思っていた七拾七年会の第三回公演。先日、国立能楽堂でチラシをゲットしてまいりました。

第一回以降、色々と公演形態を試行錯誤している様子のこの会。今年は1日2回公演という、能楽師の皆さんにとっては限界への挑戦みたいな番組になっております。皆さん・・・頑張って下さい・・・!!(熱く握り拳)

個人的には狂言とお能を両方観たいと思うタイプですので、拝見するとしたらおそらく夜の部でしょうね。

初心者にとって、お能の会における狂言というのはそれこそ一服の清涼剤的な存在でもありますから、昼夜ともにお能と狂言を合わせた番組だと良かったのになぁ~と思います。でも、そうなったら私はきっと、それこそ七拾七年会の思うツボにはまりまくりですね(苦笑)。

太鼓方の小寺真佐人さん、今度はどんなお茶目ぶりを見せて下さるのかな~♪(心待ちにしているポイントがちょっと違うんじゃありませんか)(そんな小寺さんの素敵なお茶目ぶりについてお知りになりたい方はコチラへ)

さぁ皆さん、来年のバレンタインデーはチョコを持って能楽堂へ参りましょう!!

喜多六平太記念能楽堂


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山本会 [伝統芸能]

2009年11月1日(日) 杉並能楽堂 13:30始

狂言
『入間川
(いるまがわ) (山本則重)
『呂蓮(ろれん)(山本泰太郎)
『米市(よねいち) (山本東次郎)

小舞
『祐善
(ゆうぜん) (山本則俊)
『鮒(ふな) (山本凛太郎)

出張から帰った翌日は、杉並能楽堂へ。山本家による狂言の会、山本会を拝見してまいりました。簡単なメモ程度ですが、感想を残しておきますね。



『入間川』
大名/山本則重
太郎冠者/山本則孝
入間の某/山本則俊


【あらすじ】

長年の訴訟がようやく解決し、新しい領地ももらえることになった大名と太郎冠者は、入間川のほとりにやってきます。

対岸にいた入間の某に渡りの案内を請うと、「上へ廻れ」と言われます。入間のあたりには言葉を逆にして使う「入間様(いるまよう)」という方言があることを知った大名は、上へ廻らずそのまま川を渡ろうとしておぼれかけます。

大名は恥をかかされた腹いせに入間の某を成敗しようとしますが、「成敗"する"は、入間様なら"成敗しない"という事ですね」と切り返されて・・・?

 
【カンゲキレポ】

「入間様」とは、言葉の順序を逆に言ったり、物事や感情を全く逆に言ったりする、入間川付近の方言として伝えられている言葉。例えば怒っていないのに「怒っている」と言ったり、お店で品物を購入するときに言う「これ、くれない」もそうです。昔、入間川が逆流したという伝説に由来するそうですが、はっきりとした根拠はないそうです。

その「入間様」を題材にした、科白のラリーが楽しい一番。

狂言では、特定の地名が出ることはあまりなく、その意味では、実在の地名がバーンと登場する「入間川」は珍しい曲ですね。

大名と太郎冠者が入間川にさしかかるまでの道中は、能舞台の上を往復して表現します。その途中、則重@大名が正面を振り仰いで、「ああ、ここから富士山が見える」と言い、則孝@太郎冠者も「ああ、さようでございますねえ」と言いつつ大名の指し示す方向を2人で見つめる場面があります。

その横顔(今回も脇正面にて観賞)が、長い長い訴訟生活を終えて、ようやく家族の待つ里へ戻れる…という大名と太郎冠者のホッとした様子、これからまた新しい生活が始まる、という希望に燃えている様子が伝わってきて、じんとしてしまいました。

揚幕から橋がかりへと飛び出す則重の若さと勢いが良いですね。先日の『青青会』で拝見した「二千石」の主人のように、若さゆえに癇が強く、一本気なお役を演じさせたらピカイチだと思います。今回も、逆ギレする若い大名役を、強く演じておられました。

青青会で気になった声もずいぶんとクリアになっていて、安心して科白を楽しませていただきました。

太郎冠者の則孝は、四季の花々を描いた優美な肩衣を身に着けて登場。血気に盛る若い主人をなだめながらも、影できっちりお仕えしている風情が、リアルに執事っぽくて萌えました(爆)。この方のスッとした端正なたたずまいは、貴重ですね~。

則俊師は、いや~、もう言わずもがなです。シテとの呼吸の合わせかたと言い、ひとつひとつの型の完成度と言い、全てがパズルのピースをはめこむようにピシッと決まるので、どの科白も、どの型をとっても惚れ惚れします。

特に、大名にあわや成敗されかける場面。片膝をついて頭の高さで扇をかざしてきっと顔を上げ、「これは何をなされまするか」と大名の理不尽なしように抗議するのですが、この型に寸分の隙もなく、さすがの存在感。素敵すぎます。



『呂蓮』
出家/山本泰太郎
男/山本則秀
女/遠藤博義


【あらすじ】

とある出家が、今まで見たことのない都をひと目見ようと旅に出ます。途中、一軒の家に宿を求め、家の男は快く出家を受け容れます。

食事の支度が調うまで、出家に仏教の教えを聴かせてもらった男はすっかり感じ入り、ぜひ自分を弟子にしてくれと頼み込みます。出家は男の髪を剃り落とし、「呂蓮」という法名まで授けます。すっかり意気投合して、一緒に旅に出ようとノリノリな2人。

さて、食事の支度が調ったことを知らせに来た妻は、夫のあらぬ姿に吃驚仰天して・・・?

【カンゲキレポ】

泰太郎@出家の、コミカルでお茶目な表情がとても良かったです。

宿を提供してくれた男に丁寧に説法する人の好さ、男に弟子入りを懇願されて戸惑いながらもちょっと嬉しい気持ち、仰々しい口ぶりと動作で男の髪を剃り落とす場面、妻に責め立てられて弁解する男の言い分を聞いて、「ちょ、ちょっと待ってよ!髪を落としたいって言い始めたのはそっちやんかー!」といった、心外で不服な様子を、くるくると瞳の表情を変えて、いきいきを演じておられました。

お父様(則直師)はもちろん、叔父上にあたる東次郎師の側でもっとも長く教えを受けてきた結果でしょうか、表情の豊かさは若手で一番だと思います。決して崩したり、過剰な表情演技をしている訳ではなく、自然に出てきた表情というのでしょうか、無邪気で自然な表情が素敵です。

出家が、男の言い訳に聞き耳を立てては、「これはいかなこと」と不服そうに言う場面が何度かあるのですが、これが個人的にツボでした(笑)。以来、仕事中やプライベートで驚いたり、モヤッとした事があると、心の中で「これはいかなこと」とつぶやいている自分がいます(笑)。

則秀@男は、能『砧』を意匠にした肩衣を身につけて登場。この男もきっと、妻には頭が上がらないんでしょうね~(笑)。芯のぶれない、ピシッとした舞台でした。

博義@女は、小柄な体躯ながらとてもパワフルで、でも品がきちんとあって好演。少ない出番ながらしっかりと場を盛り上げてくれました。



『米市』


男/山本東次郎
有徳人/山本則直
通行人/山本則秀、山本泰太郎、山本則孝、加藤孝典、山本凛太郎


【あらすじ】

年を越す余裕もない男は、いつもよくしてくれる有徳人(裕福な家の人)を訊ね、わずかながら米の入った俵と、妻へ土産にと古着をもらって帰ります。

俵を背負った上に小袖を着せ掛けたその姿は、まるで誰かをおぶっているかのよう。有徳人は「誰を背負っているのかと聞かれたら、"俵藤太殿の御娘御、米市御寮人"と答えると良いだろう」と洒落た冗談を言います。

有徳人の施しのお陰で、貧しくとも心に少し余裕が出来た男は、帰りに通りすがった若者達から「その背に背負っているのは誰か」と訊ねられ、有徳人に言われた通り、「米市御寮人」だと答えます。

ところがその答えを聞いた若者たちは、吃驚しながらも興味津々。本物の米市御寮人は、たいへんな美人だと噂されていたのです。若者達は「せっかくだから米市御寮人にひと目お会いして、酒のお酌をしてもらいたい」と言いだします・・・。

【カンゲキレポ】

山の影に沈んでゆく夕日を見上げるような、なんとも切ない、そして温かいものがあふれた舞台で、思わず涙ぐんでしまいました。恐るべし、東次郎マジック!!(←勝手に師のせいにしてみる)

歌舞伎や落語の人情噺では、年越しを舞台にしたお話がありますが(「文七元結」とか)、狂言にも、武家でも僧でもない、本当の庶民の生活を描いた曲があるのですね~。とても新鮮でした。

東次郎師の男は、なんとも人なつっこく、嫌みがありません。家系は相当に苦しく、有徳人のもとへ施しを乞いに行くわけですが、なんとも言えない飄々とした人柄で、ついつい面倒を見てしまいたくなるような風情。少ないながらも年を越すには充分の米と、妻への土産をもらって、心にゆとりができた様子が、本当に微笑ましくて細やかな表現。こちらまで、「ああ、本当に良かった」と思ってしまいます。

歳暮の挨拶回りをしている若者連中の様子を遠くから眺めて、ちょっと羨ましいなぁ…と思う表情(「私どもの時代には独身貴族なんて言葉がありましたし、家庭とか持たない若い連中のほうが羽振りは良いんですよ」 By東次郎師)の、切ないこと。その後、「ん。」と思い切った様子で、俵と古着をぎゅっと握りしめて家路を急ごうとする姿には、貧しいながらも懸命に生きる人たちの姿が重なり、ぐっときます。

男@東次郎の科白を受けて、橋がかりに登場するチームヤング(…そこはかとなく死語っぽいかほりがするのは…気のせいです)の皆さん。ハリのある声をあげて、それぞれに美しい裃をつけて橋がかりにずらりと並ぶ姿は、それだけで華やかで若々しくて、眼福です!!

特に今回は、則秀さんが!則秀さんがぁーっっ!!(サービスで2回叫んでみました)(何のサービス?)

則秀さんが、思わず目を瞠るような美丈夫ぶり。容姿は勿論ですが、押し出しの強くて、華やかな空気がその身に漂っていて、目を奪われました。若草と白の段熨斗目に、鬱金色(かな?)の裃という出で立ちで登場しただけで、若さに満ちあふれた、溌剌とした若者ぶり。仕事も遊びも全力で楽しむ若手商社マン(またも死語?)を思わせる、鮮烈な存在感でした。

有徳人から教えられた通りに答えたばっかりに、チームヤングと手合わせすることになる男。この男も気持ちに余裕ができたためか、肩から下ろした俵に古着を着せ掛けて、さもそこに女人が座っているかのように見せかけて対応するなど、からかいが過ぎます。でも東次郎師だから良いんです~(謎の断言)。

手合わせをしているうち、若者の1人(則秀)が「米市御寮人」の正体を見破ります。女人ではなく、わずかな食糧と古着と分かり、若者達は「なぁーんだ、ただの古着にちょっとの米だったのかよ~」という感じで、男を笑いながら立ち去ります。

若者達の後ろ姿を黙って見送った後、ふと間があって、「…それじゃによってな、これはわしにとっては大切な年取り物じゃ」と呟き、再び米俵を古着で優しく包み込んだ後、抱き上げて、慈しむかのように両腕でぎゅっと抱きしめた後、大事そうに、大事そうに米俵と古着を抱きかかえて去っていく男…。

その姿に、思わず涙がこぼれそうになりました。

哀れだとか、悲しいとか、そういう気持ちではなかったのですが…。夕暮れを見るときの、ちょっと寂しいけれど、でもちょっと温かい気持ちというか…切ないけれど、優しい気持ちというか…。心地よい涙でした。

貧しかったり、生きることに苦労しているけれど、それでも帰るべき場所がある。必ず、自分を待っていてくれる人がいる。その人の為なら、その人との場所を守るためなら、どんな苦労でもできる。

米俵と古着を抱えて真っ直ぐに前を見つめ、一歩一歩をかみしめるようにゆっくりと去っていく東次郎師の姿に、人生の苦さと優しさが伝わってくるようでした。

東次郎師…大好きですっっ!!(突如暴発)



小舞『祐善』(山本則俊)

月の光のように清冽で真っ直ぐな則俊師の小舞は、本当にキレがあってしなやかでカッコイイです。傘を小道具に使う曲なのですが、俊敏で無駄がなくて、呼吸をするのも忘れてうっとり。

小舞『鮒』(山本凛太郎)

先日の青青会では休演してしまった凛太郎くん。若干16歳とは思えない俊敏な足の運びと伸びやかな腕の動きは、何ですかあれは!(逆ギレ)

数年前に拝見した小舞『御田』では、上にかざした腕をスーッと広げただけで、白玉椿の花が能舞台一面にバッと咲き広がったような錯覚すら抱かせ、「末恐ろしい子!」(By月影先生)と驚嘆した凛太郎君の小舞。ますますバージョンアップしております。



今回も、もちろん終演後に東次郎師の解説がありました。

最後の演目でシテをお務めになった後、超早替わりで紋付きに着替えられ、汗をふきふき、パタパタと登場していらっしゃった東次郎師のお茶目なお姿はとても心に残っているのですが…。

旅疲れでしょうか、どんなお話をしてくださったのか、ありえない程に記憶が抜け落ちてしまっておりますので、今回は割愛させていただきます…。(「独身貴族」の件だけはきっちり記憶に残っておりました。)ごめんなさい、東次郎先生!

そんな山本会、年明けにはこんな公演があります。

11thハゲマス会.jpg

『ハゲマス会 第11回狂言の会 大蔵流山本家三兄弟とともに』
2010年1月24日(日) 14:00開演 
川崎市麻生文化センター
(小田急線「新百合ヶ丘」駅)

【番組】

・佐渡狐 
(泰太郎)
・樋の酒 
(東次郎)
・舞囃子 神舞
・唐相撲 
(則俊、則重、則秀)

なんと、(とろりん的に)あの伝説の「唐相撲」が、ついに!!ついに登場です!!30人近い出演者が能舞台を駆け回り、動き回るというたいへんに賑やかで豪快な曲ときいています。

今回の「唐相撲」は、山本会だけではなく、山本家がワークショップや稽古などで指導しているお弟子さんなどもたくさん参加されるのでしょうね。

今からすごく楽しみです!
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大蔵流山本会 第44回青青会 [伝統芸能]

2009年9月27日(日) 杉並能楽堂 13:30開演

【番 組】
狂 言
『二千石(じせんせき) (山本則重)
『因幡堂(いなばどう)』 (山本泰太郎)
『佐渡狐(さどぎつね) (若松 隆)

小 舞
『放下僧(ほうかぞう)』 (遠藤博義)
『蛸(たこ) (山本則秀)
『海人(あま) (山本則孝)
『法師ヶ母(ほうしがはは) (山本東次郎)
『御田(おんだ)』 (山本凛太郎) ※休演のため次回に延期


この季節に開催される山本家の若手の会「青青会(せいせいかい)」を拝見してまいりました。小舞『御田』を舞う予定だった山本凛太郎君(花の高校生)が、新型インフルエンザに罹患したそうで、休演。流行病の影響が、じわじわと広がっておりますね。

今回も、狂言3番に小舞5曲(結果的に4曲)とフルコース全開な番組です。終演後はもちろん、山本家当主・東次郎師のお話付き。

実は明日から旅に出ますので、今回は申し訳ないのですが簡単なカンゲキメモとさせてください。あらすじは会で配布されるパンフレットを参考にさせていただきました。



『二千石』
主人/山本則重
太郎冠者/山本則俊


【あらすじ】

都へ行った太郎冠者は、土産話として主人に都の流行歌という「二千石の松にこそ 千歳を祝うのちまでも その名は朽ちせざりけれ」という謡を披露します。ところがそれを聞いた主人は大激怒。

実はその謡は当家で大事にされてきた謡だったのです。家の大事な謡を軽々しく許さぬと、主人は太郎冠者を責め、手討ちにしてやると太刀を振りかぶります。太郎冠者はその姿に、自分がお仕えしてきた先代の面影を感じます・・・。

【カンゲキレポ】

 
血気盛んな若い主人と、先代(主人の父)からお仕えしている太郎冠者との、ほのぼのとした心の交流が温かい1番です。

主人と太郎冠者の年齢がかなり離れているという設定なので、配役でも主人の役は若い演者が、太郎冠者はベテランの演者が務める事が多いとか。今回は、主人の則重に太郎冠者は実父・則俊が務めます。

則重の主人は、まだまだ家を継いだばかりの青年で、若々しい責任感のかたまり、といった感じが最初の出からよく伝わってきました。発声が妙にひっかかるような感じを受けたのですが、気のせいでしょうか・・・。

「家を継ぐ」という事は昔は本当に大事な事で、今よりももっともっと重い意味を持っていたと思います。則重には、その重さをしっかり理解した上で、立場上しっかりしなくては、家来にも威厳を示さなくては、という気負いも感じます。紺地に青緑のラインで網目(だと思うのですが)の文様がくっきりと描き込まれた長裃は、若主人らしい瑞々しさと同時に、彼の背負うものの大きさを暗示しているようにも思えます。

自分の知らぬ間に、お家の大事な謡が都で流行していることを知り、激怒してして太刀を振りかぶるところ。いつもの如く脇正面から拝見していましたら、ちょうど主人を正面から見るかたちになるのですが、型が綺麗に決まっていて、ものすごい気迫でした。こういうのは、型がしっかりできていないと、緊迫感の密度が違ってきますよね。こちらが思わず息を呑むくらいの迫力でした。

***

太刀のように鋭敏な感覚を持つ若き主人をほんわりと包み込むのが、太郎冠者。則俊師のアドは、やっぱり素晴らしいです!この方の無駄のない動きと科白は、シテの演者をいちばん魅力的に引き立てると思います。

先ほども申しあげた、主人が太郎冠者を成敗しようと太刀をふりかぶる場面。脇正面からですと、舞台の手前に座って主人を見上げる太郎冠者の後ろ姿が、その奥に太刀を振り上げた型の主人の正面姿を見るようなかたちになります。

主人が太刀を振り上げたその時、「・・・・・・・・・・・」としばらく間があってから、太郎冠者が泣き出します。聞けば、その主人の姿が、自分が若い頃からお仕えしてきた先代の面影に重なるのだと言います。その言葉を聞いて、思わず泣きむせぶ主人。

テニスのラリーのようにテンポ良い科白の応酬が魅力的な山本家にしては珍しい間の長さだな、と最初は思ったのですが、その言葉を聞くと、先ほどの「・・・・・・・・・・・」の間と、主人を見上げる太郎冠者の背中が印象的です。

自分の命がまさに危機にある瞬間と言うのに、長くお仕えしたであろう先代の事を思い出す太郎冠者。そして、幼い頃からお側で見守ってきた当代の若い主人が、立派に家の主であろうとする真摯な態度に心を打たれて、思わず胸が詰まったのでしょうね。そこに忠勤者で実直な太郎冠者の人柄が浮き彫りになります。

太郎冠者の言葉に、堰を切ったように泣き出す主人も、家を守ろうと気を張りすぎていたところが父に似ていると言われて、思わず心が緩むのでしょうね。きっと、今まですごいプレッシャーだったのだろうな、と感じました。

今でも、則重を見上げる則俊師の華奢な、でも温かい背中を思い出すと、ちょっとうるるっときます。

いつか、則重さんで狂言『武悪』に出てくる主人役を拝見したい、と思いました。出の瞬間から尋常でない緊張感と厳しさで能楽堂を覆い尽くす『武悪』の主人、則重さんならきっと良い舞台を見せて下さると思います。



『因幡堂』

男/山本泰太郎
女/山本則孝

【あらすじ】

大酒飲みの妻をやっとのことで離縁した男は、次こそ良い妻をめとれるようにと因幡堂(京都市に実在する平等寺の異称)に妻乞いの祈願をします。かたや一方的に離縁されておさまらない妻は、一計を案じます。

さて、「西門の一の階に立つ女を妻と定めよ」との夢のお告げを信じた男が西門へ行ってみると、被衣(かつぎ)をまとった女がいるではありませんか。喜んだ男は女を連れ帰り、祝言の杯を酌み交わしますが・・・?

【カンゲキレポ】

泰太郎さん、表情豊かで茶目っ気たっぷりの素敵な舞台でした!!良い意味で色気がにじみ出てきたように思います。

西門に立つ女(自分は離縁した妻)に、もみ手をしながら「あ、あ、あのう、あなたは私の妻となってくださる方でしょうか」と訪ねようとしては恥ずかしさのあまり何度も躊躇する、という場面があります。

「あ、あ、あの、あなた、私のつ、つ、うおおお!!妻なんて恥ずかしくて言えねぇよ!(照)」みたいに、1人で盛り上がってるところの上気した顔が、もう可愛くて!

踊り出したいくらいに嬉しいんだけど、落ち着かないと、という時ありますよね。そういう、ウキウキし過ぎて自分では抑えきれない!という様子が表情にも出ていました。観ているこちらまで、何だかくすぐったいくらいのキュートな喜びっぷり。

本舞台と橋がかりを行ったり来たりして何度も繰り返しては、やっと「妻になってくださる方ですか」と訪ねることが出来て、それに女がうなずくと、軽やかな足どりで本舞台をずいーーーっと前に出てきて「妻になってくれるって!やったあぁぁ!」という時の嬉しさ爆発の上気した笑顔が、本当に嬉しそうで、キュート。

女の正体を知っているコチラ(観客側)としては何とも言えない気持ちなのですが(笑)、それでも、手放しで喜ぶ泰太郎@男の姿に、ついついニッコリしてしまいます。

***

妻を演じたのは、則孝。美男鬘(びなんかづら)を被って女性の出で立ちをしています。菜の花色の地に網干と栄螺の文様(かな?)が入った装束が、やわらかくて美しい。

大酒飲みで男に煙たがられながらも賢くて強い、したたかだけどしなやかに生きる女性、といった風情です。現代に通用するイメージ。でも確かに、すんごい大酒飲みでした(笑)。一気に杯を飲み干して、絶対に男に渡そうとしないんですもの。そんな気の強さも、チャーミングに見えてしまう不思議。

後見は両人の実父・則直師。切戸口からトコトコと出てこられた時は、「何て贅沢な後見なのっ!」と驚きましたが、夏の間、体調を崩されていたご様子の則直師のお元気な姿を拝見出来て、本当に嬉しかったです。

ちなみに、『二千石』の後見は東次郎師でした。・・・後見まで見どころ満載の山本家。でも、演者の皆さんは緊張するでしょうね~。




『佐渡狐』

佐渡の百姓/若松 隆
奏者/山本則直
越後の百姓/山本則秀


【あらすじ】

越後と佐渡のお百姓が、年貢を納めに連れ立って都へ上ります。道中、佐渡島に狐はいないだろうと言われた佐渡のお百姓はそれを認めることができず、思わず「佐渡にも狐はいる」と言い張ってしまいます。いるいない、いるいないの問答を繰り返し、それならばと都の館の奏者(取り次ぎ役)に判定を願う事になります。

佐渡のお百姓はこっそりと奏者に頼み込み、狐の姿や大きさを教えてもらいます。さて、越後のお百姓に狐について問いただされ、何とか答える佐渡のお百姓。奏者へ頼んだ甲斐もあって、佐渡にも狐はいるという判定が出ます。ところが、越後のお百姓が繰り出した最後の質問は・・・?

【カンゲキレポ】

若松の生真面目な芸風が、よくフィットした1番だったと思います。いないものを「いる」と言い張って引っ込みがつかなくなってしまう佐渡のお百姓の頑固な性格と、ひとつひとつのお役をとことん真面目に演じる若松の芸のベクトルがピッタリでした。

一緒に都に上る道連れが出来たと喜ぶのも束の間、自分の故郷を馬鹿にされたような気がして、思わずついてしまった小さな嘘。その嘘を守るためにどんどん大がかりになっていって、最後は結局、すべてがばれてしまう。そこまでのお百姓の心理をきっちり表現できていたと思います。

***

佐渡のお百姓をどんどん追いつめていく越後のお百姓は、則秀。薄紫と白地の段熨斗目の装束がとてもよく似合っていました。若松@佐渡のお百姓が熱くなればなるほど、冷静になっていく越後のお百姓。最後まで落ち着いた出来でした。

それにしても則秀さん・・・めっちゃ痩せはりましたよね?(突如京都弁)

8月の国立博物館教育イベントでも思ったのですが、身体もぎゅぎゅ~っと引き締まって、顔かたちもシャープになられたように思います。あんなに急激にお痩せになって、かえって大丈夫なのかな・・・とちょっと心配になったり。

だからでしょうか、声が通りにくくなってないかな?と思いました。(風通りをよくするために、能楽堂の窓を開けていたからかも知れませんが)

数年前、歌舞伎役者の市川海老蔵丈が大河ドラマで主演した際に驚異的に身体を絞り込んだのが話題になりました。ところが、その為に歌舞伎の舞台では声が全く通らなくなってしまったんですよね。若衆を演じている時など、3階席には蚊の鳴くような声しか届いてこない時もあって・・・。役者さんにとって 「身体づくり」って、本当に難しいものなんだな、と実感したものでした。

則秀さんも、同じようなことにならなければ良いのですが。独特の艶がある、のびやかでハリのある声は若手随一ですから、その声を大切にして欲しいです。山本家だし、大丈夫だと思うのですが(謎)。

***

奏者を演じたのは、則直。この方の鷹揚とした持ち味の芸風は、こういうおっとりとしたお役に合いますね。佐渡のお百姓から「心付け」を手渡され、一応断るものの、「じゃあ、今回だけだよ~」と受け取ってしまうところとか、思わず笑ってしまいました。

この曲では、何と生着替え(?)の場面があります。最初の出は旅装であるお百姓たちが、館に上るにあたって正装するのですが、そのために佐渡のお百姓は後座で、越後のお百姓は橋がかりで、後見の力を借りてその準備をします。

なかなか見られるものではないので、とても興味深く拝見しました。2人がかりで着替えを手伝っておられましたが、手際の良さにうっとりしておりました。


小 舞

『放下僧』
(遠藤博義)


ひとつひとつの型が美しく、きっちりと決まるのはやっぱり気持ちが良いものですよね~。

遠藤さんの小柄な身体が本舞台を所狭しと俊敏に動く姿は、小気味が良くて心浮き立ちました。 


『蛸』
(山本則秀)


捕らえられた大蛸が俎(まないた)の上で料理される苦しみ、僧の回向によって成仏する様子を舞う・・・というちょっと変わった感じの小舞。

則秀さん、装飾のない紋付をお召しになると、やっぱり身体の激変(?)ぶりがどうしても気になります・・・。健康的にお痩せになったのなら全然構わないのですが。(むしろ、その方法を小一時間うかがいたいです)

足の動きがとてもユニークでした。身体は正面を向けたまま足をクロスさせ、そのまま横に移動するという振りは洋舞みたいだな~と。この小舞は正面から見たかったな~。

跳び返りも何度かあるのですが、これは迫力満点。逆に身体が軽くなったからか、床に着地した際の「ドン!」という音が一層クリアーになったように思います。


『海人』

(山本則孝)


扇が!!!扇の扱いが、も~~~う、本当に美しかった!!ため息がでました。

ある場面(入場時に小舞詞章をいただいているのに、どこの場面か分からないのはご愛敬)で、顔の横で扇をくるりと返す振りがあったのですが、その手のなんとなめらかな事!その流麗さに目を奪われました。

この小舞は能『海人』からの一節らしく、主役は女性。だからでしょうか、則孝の小舞にはふくよかな香りのようなものが立ちこめていました。端正な動きなのですが、その一端には柔らかさが残されているような。素敵な小舞でした。


『法師ヶ母』
(山本東次郎)


いやいや、東次郎師ですから。(謎の断言) 言葉は要りません!!

小舞は、舞手(と、言うのでしょうか・・・)がまず最初の出だしを謡い、その後を地謡が謡い継いでいく、という形式で始まります。

若手の方が最初に謡い始める場合は少し緊張感や力みを感じますが、東次郎師は最初の謡いだしから見所の我々を別世界へと誘っていかれます。まったく力が入っていないのに、すごく惹きつけられて、まろやかで優美な気が空間に立ちこめます。

後は、ゆったりうっとり、東次郎師の遊ばれる世界に我々も遊ぶのみ、です。




終演後は、おなじみ東次郎師のお話コーナー。最近、「公開ダメ出し会」のような感じにもなってきております(微笑)。やっぱり、若手の方達の舞台や、見所の反応が心配なのでしょうね~。

今回は、先代が亡くなる前に共演するはずだったという『二千石』の思い出や、小舞の足の運びについて、そして肩衣についてお話くださいました。

特に肩衣についての解説では、肩衣フェチ(爆)の私は、もう大興奮!色々な意匠の肩衣が登場するたびに、「うわぁ、うわあぁ~、うわあぁぁぁ[黒ハート]」と、1人でテンションうなぎ上ってました(←正しくない日本語)。

今回、『因幡堂』では見たことのない肩衣を泰太郎さんが着用されていて、「ん?さらし?」と思っておりましたら、能『砧(きぬた)』をイメージして作られた意匠なのだとか。蒔絵などの伝統工芸では、平家物語や能などのモチーフを意匠に用いたりしますが、狂言装束でもそういう試みがされていたのですね!新鮮な驚きでした。

砧というのは、布をたたいて艶や柔らかさをだす道具です。能『砧』は、都へ上ったきり返って来ない夫の帰りを、砧をあたきながら待ち続ける妻を描いた曲。砧をたたく場面で、妻の情念を表現する場面があります。

そんな女の情念が込められた『砧』の意匠をあしらった肩衣。・・・そりゃ、男が大酒飲みの妻から逃れられないのも納得ですよねぇ(笑)。

『因幡堂』で『砧』をイメージした肩衣は色が付いておりますが、『二千石』で則俊師@太郎冠者が着用した肩衣(萩の図柄があしらわれた、この季節にピッタリの意匠です)は、単色で色がほとんど使われておりません。

東次郎師によりますと、太郎冠者がシテを務める狂言では、色の付いた肩衣を着用するのですが、アドなど主役ではない場合は単色の肩衣を使うのが決まりなのだそうです。なるほど~。またひとつ勉強になりました!

最後に、『佐渡狐』を解説してくださった東次郎師の、穏やかながらも核心を突く問いかけをひとつご紹介します。

「コンプレックスを刺激されて、あるはずのないものを『ある』と言ってしまって、引っ込みが付かなくなってしまった佐渡の百姓を皆さんお笑いになりますけれど、小さなコンプレックスを肯定できる、ないものを『ない』と言うことのできる"小さな勇気"を、果たして皆さんはお持ちでしょうか。そういうことも、この狂言は提示しているんですね。」


・・・確かにっ。出直してきます、東次郎先生ーーーーっっ!!(無駄にダッシュ)(いや、そういうことを東次郎師は望んでないと思いますよ)

そんなとろりんさんが密かに欲しい一冊が、コレ。↓

狂言装束と杉並能楽堂.jpg
『狂言装束と杉並能楽堂』(杉並区刊行物)。詳細はコチラ

どこまでマニアックなんでしょうか、とろりん・・・。杉並区役所に行けば手に入るのかな?(というか、在庫はあるのかしら?)



・・・・・・・・。

「簡単なカンゲキメモ」って言ってましたよね?気が付けば大長編になっておりますけれども(汗)。

今回も、前向きな気持ちをたくさんいただいた「青青会」でした。

杉並能楽堂


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【ご案内】 横浜狂言堂 [伝統芸能]

09横浜狂言堂チラシ表.jpg 09横浜狂言堂チラシ裏.jpg
(画像をクリックすると、拡大表示されます)

ブログでのコメントや個人メールなどで「能狂言の情報があれば教えて下さい」 とメッセージをくださった一部読者の皆様のために、調子に乗ってまたまたご案内です。

意欲的な能楽公演の企画に力を入れている横浜能楽堂。その中でも、レパートリーとして定着してきたのが、「横浜狂言堂」

「毎月第二日曜日は『狂言の日』」と定め、当該の日は解説つきで狂言2本を2,000円で観られるという、何ともリーズナブルな企画です。出演者は毎月変更し、日本を代表する狂言のお家がとっかえひっかえ総出演。よくよく見ると人気のある演者さんはもちろん、ご当主や重鎮の皆さんもさりげなく出演。

チラシ表にある「勝手に決めました」というコピーですが、どうやらこれは本当の話らしいです。某お家の回を鑑賞したブログ記事をチラッと読んだのですが、その時の解説の中で、「ある日突然、横浜能楽堂から『来年からこんなんしますんで、よろしく~』というFAXが送られてきた」というお話があったそうです(笑)。

解説もきちんとあって、名のある演者さんがご出演になって、本格的な狂言を2本観られて2,000円は、とっても嬉しい!!各家が得意としている演目や、その家だけに特別な演出が伝わっている演目がかかることもあり、かなりお値打ちものの企画だと思います。

次回は9月13日(日)、山本東次郎家の出演です。脇正面席で、「ぬほ~ん[揺れるハート]」などと奇声を発している人がいたら、間違いなくとろりんさんでしょう(笑)。(とろりんさんが正面席よりも脇正面を好む理由は、コチラに詳しく?書かれています)

横浜能楽堂は桜木町駅が最寄り駅。少し歩くとみなとみらいにも行けます。

横浜能楽堂

公式HP:横浜能楽堂

★★★

これより下は、とろりんさんの経験談を踏まえた「能楽堂かけだしファンへの道」(←めちゃくちゃ偏ってますけど>笑)をつらつらと書き留めています。ご覧いただける方は、「さればそのことでござる」からお入りください。

さればそのことでござる


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